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第10話 気持ちを強く持て

戦闘が終わり、村へと戻ろうか…。

そんな場面からです。

 フォルスは巨大猪の返り血を全身に浴びて辟易していた。

 ステラを守り抜くことが出来た事に対しては、未だかつてない戦いだったことを考えると、充実感で胸がいっぱいだ。


 ただ、その後が厳しい。

 戦いから時間が経ち、全身に浴びてしまった返り血が凝固を始めてしまった。髪の先から指の先までどす黒く変色を始め、更に獣特有の悪臭が追い打ちをかけてくる。

 固まってきた血が動きを阻害するし、そもそも臭いに耐えられなくなってきた。


 青年ながらもいよいよ泣き出しそうな顔を浮かべてしまった時、苦笑いをその美しい顔に浮かべ、ステラがゆっくりと右手を差し向け、


「フォルスさん、そのままだと大変です。浄化をかけますね」


 困惑顔のフォルスへ声を掛ける。


 向けられた手の平へ、優しい光の集まる様子がはっきりと見えた。魔法を発動したのだろう。

 正に、純然たる白というのだろうか。

 すべての穢れを取り除くような純白の光が、フォルスへ向けて放たれる。

 目を開けていられないくらいの光が全身を包み込んだ。やがてそれも時間と共に弱くなり薄れていく。


「はい、終わりました。すっかり綺麗になりましたね」


 満足そうな笑顔でステラ。

 その声に目を開けると、光はすっかりと収まり、肌や服に付着していた汚れが、嘘のように綺麗に消え去っていた。血生臭い臭いも消えている。むしろ、山へ入る前よりも綺麗になったかもしれない。


 すごい、と心の底から思う。

 ステラが居なかったら、今頃は全身から異臭を放っていて、家に帰る事が憚れる所だった。

 一連の状況から、流石に父親へ何も言わず静かに出ていくつもりではあった。しかし、家の中にあの悪臭を漂わせるのには抵抗があった。


 ありがとう、と言ってステラを促し、村へ向かって山を下り始めた。

 その道中、ぽつりぽつりと狐型の魔物に襲れるが、本来1人でも問題のない相手だ。ステラの希望で命を取らない様に考慮しつつ撃退する。


 そうして村が目と鼻の先という所で、フォルスは遥か遠くに人影が動くのを視た。

 ステラよりも夜目が利くのか、フォルスが先へ進むのを手で制止し、彼女は小首を傾げながら彼を見る。


「村の人に知られてしまったのかも知れない。誰か来る」


 フォルスは小声で囁く様にステラへ告げ、手近な大木の陰へ誘導する。

 2人が身を隠したと同時に、聞き間違えようの無い良く耳に馴染んだ低い声が響いてきた。


「フォルス。そのままで待ちなさい」


 フォルスの父親が暗闇の中1人で現れた。



「父さん、どうしてここへ?」


 フォルスが警戒の姿勢を崩さず、木の陰から父親へ質問を投げ掛ける。それと同時に、後方に人の気配が無いかを探る。

 警戒心で声が少し震えてしまって、自分でも驚いてしまった。


「フォルスは闘いへ行くのか? それとも逃げるのか?」


 フォルスの質問に対して、思いがけない質問で返ってきた。

 その言葉に、思わず反射的に木の陰から飛び出してしまった。


「このままだと、姉さんは治らないんだ。だから、俺は手掛かりを探しに行く! それが闘いなのかはわからないけど…」


 ふむ、と言いながら、感情が読めない仏頂面で父親は何か思考の沼に漬かってしまっている様に動かない。


「テラさんとも約束したんだ。俺は絶対に諦めない」


 反射的に言った後、「あ…」と小さく呟く。ついついテラの名前を出してしまった。


「必ずやり遂げる意志があるんだな」


 フォルスの反応に気付いているのかいないのか、余計な詮索や追及がなく父親は話を続ける。


「わかった、フォルス。気を付けて行ってこい。必ず勝て」


 とても真剣な眼差しで父親からの後押しを貰った。

 フォルスがほっとしたのも束の間、


「ところで、テラさんとは?」


 やはり流してくれる人ではなかった。

 下手に話を造ろうとしたら、父親には見抜かれてしまうだろう。ありのまま話す覚悟を決める。


「信じて貰えるかわからないけど、山の守り神に会ったんだ」


 そう前置きして、山の守り神であるテラとの話を細かく説明した。

 姉は呪いなどではなく、頭の中に悪い塊が出来てしまったこと。

 このままであれば状態が悪化の一途を辿ってしまうこと。

 テラの力によって病状の進行を留めていること。

 そして、治療をすることの出来る人間が世界の何処かにいること。

 父親は、真剣なフォルスの言葉に何度も相槌を打って耳を傾けていた。



「…その人の手掛かりは何も無くて、正直どうやって捜せば良いのかもわからない」


 やり遂げる意志はある。

 それでも、やはり不安が無いわけではない。その為、ついつい最後は弱気な言葉になってしまった。


「あぁ、どんなに厳しい状況でも、フォルスならばやり遂げられる。常に顔を上げていけ」


 弱気は許さない、という父親は常に厳しいとフォルスは思う。

 ただそれでも、今まで育てて貰って、間違ったことを言われた自覚はない。

 そして最後には必ず「フォルスならば出来る」と言うのだ。


 小さい頃はそれが重圧にもなっていた。

 どんな事でも簡単にこなしてしまう姉が、常に目の前にいたからだ。

 周囲の人間からは、否が応でも比較されてしまう。

 それが堪らなく苦しかったし、同時に姉の事を尊敬もした。純粋な尊敬が、敬愛かそれ以上になったのは、フォルスがまだ10歳の頃にある事件があったからなのだ。

 その一件以来、フォルスは実の姉に並々ならぬ愛情を向けている。



「…そうすると、あの光はそういうことか」


 父親が思い出した様な声を出す。


「…と、言うと?」

「突然、ティアの元へ金色の光が降り注いできたんだ。あれには驚いた」


 父親が驚いたと言った事に、フォルスは驚いてしまった。

 冷静沈着を全身に着ているような人物だからだ。


「夜中とは言え、村の中は俄に騒がしくなった。山へ行こうと言う者も出てきている」


 このままだと村の者と道中で鉢合わせしてしまうかもしれない。

 いつも通りに淡々と父親は話す。


「それじゃあ…」

「フォルスの荷物は持ってきている」


 荷物を取りに行けないと、フォルスが言おうとした所を遮り、父親は事も無げに言った。


「路銀も多めに預ける。これでアーリアの街へ向かえ」


 頭が上がらない訳だ。

 先々を見越して用意されているのだ。


「ただ行く前に、せめてそのお嬢さんを紹介してから行きなさい」


 親子の会話をずっと木の陰で聴いていたステラは、その言葉に父親の前へ優雅に姿を現した。

ステラはずーっと木の陰にいて、興味津々で話を聴きまくっていました(笑)


次は、ステラの護衛を拾ったりします。ステラは年頃の娘なので、流石に一人旅は危険です。

新キャラ登場になるかと。

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