雨のあと
せわしなく窓を叩く雨粒が不愉快なリズムを奏でる。
私の嫌いな雨だ。
雨の日は外に出るのも億劫になり、室内にいれども湿気や雨音からのイジメを受ける。髪もまとまらないしもう最悪だ。
そんな忌々しき雨が、私の住んでいる地域では三日間、昨日の夜まで続いていた。
久しぶりに静かな朝を向かえる。雨音のしない朝に感動を覚えつつ、しばらく閉ざされていたカーテンと窓を開ける。四日ぶりの日光を浴び、気分はさながら吸血鬼のようだった。開けた窓から、キノコの生えていそうな私の部屋をまぶしく照らし、新鮮な空気がカビた私の肺に流れ込み、なんとも言えない幸福感に包まれる。
今この瞬間だけが、雨が降ることに対しての、私の中の唯一の利点である。
ふと時計を見ると、短針と長針がご機嫌に頂点を指していた。夏休みだからと言って、少々寝すぎたようだ。この喪失感を払拭するべく、今日は気合を入れて一日、もとい半日を楽しまなければならない。
せっせかと朝の支度をしている途中、庭の方でなにかが光った気がした。普段ならそんなことは気にもとめないが、今朝は余程機嫌がいいのか、はたまた私の好奇心が旺盛なのか、少し見に行ってみることにする。
私の家の庭は絵に書いたような普通の庭だ。ワゴン車一台が余裕を持って入れるくらいの大きさで、一面に芝生が生えている。一本の木、と言っても大きさは私より少し高い程度、が植わっている。それと、親が管理しているのかわからないが、適当な草が植わっている。
だが、それだけだったはずの庭が今日は違う。庭の全体に水たまりができていて、木の葉っぱも雫の重さで頭を垂れている。
光っていたのはこの水たまりのようだった。そして何よりも驚いたのは、その水たまり一つ一つが、青空を映していることだ。
そういえば。よくアニメや漫画で、水たまりに反射してスカートの中、パンツが見えるというのがあるが、あれは実際、スカートの中に光が入らなくて到底見えやしない。という話をこの間読んだ漫画に描かれていた。それこそ、パンツが見えるくらいスカートの中に太陽の光を取り込んでいたら話は別だが、恐らくその時点で水たまりなんぞ覗かなくてもパンツが見えているだろう。と、その漫画では言っていた。私もその時納得していたが、さっきのように太陽の光を反射してスカートの中を照らすなら、パンツは見えるのではないだろうか。
くだらない考察をしつつ、一面の水たまりを見る。
大きさこそないものの、数で庭を侵略している。今の天気は一面の青空、と言うほどでもなく、ちらほら雲が見えるのだが、それが良いアクセントとなっている。空を映した水たまりのおかげで、平凡だったはずの家の庭が、とても幻想的に輝いている。
まるで、この水たまりの中にこことそっくりな平行世界があって繋がってるのではないかと思う。そしてその水たまりをゲートに平行世界へと移動し、向こうの世界での私と出会い、二人で二つの世界を行き来して、私達だけの秘密の物語が…と、妄想が暴走する。
そんなことを考えながら庭を眺めていると、何故だか、どこか違和感を覚える。よく目を凝らして探してみると、木下にある水たまりだけ、雲が反射していないのだ。その水たまりだけが、雲を映すことなく青空が見える。
仮にその水たまりの上だけ雲のない青空が広がっていても、木下にある訳なのだから、反射して映るのは木の一部か、木が影になっているから何も映らないかだ。不思議に思った私は庭に降りて確認してみることにする。
庭先に置いてあるサンダルに足を通すと、つま先を冷たい感触がおそう。どうやら私は迂闊だったようだ。雨上がりのサンダルと言ったら水を貯めているに決まっている。普段ならこんなヘマはしないのに、水たまりに気を取られすぎてしまったのか。幸い、靴下を履き忘れていたので精神的なダメージは少ない。
少し萎えた気持ちで例の水たまりへと歩を進める。庭に広がった水たまりを踏むと、踏んだところから波紋が発生し、映した世界を歪にする。私が支配者となり世界を壊しているような気分になり、謎の愉悦感と罪悪感を覚えながらも木の下へとやってきた。ちなみにパンツは見えなかった。
もしかしたら本当に平行世界や異世界に繋がってるのではという期待と少しの恐怖で、引け腰で覗き込む。すると、覗き込んだ私の顔は無く、見知らぬ男が私のことを覗いていた。
男は若いように見える。少なくとも私と同じか、それより下か。
状況がいまいち飲み込めない中、私と男は両目を見開き、しばらく見つめ合った。
つかの間の硬直で考える。
そもそも、覗き込んだからと言って私の顔が見えるとは限らないのではないかと考える。覗き込むと言うことは、私が水たまりに覆いかぶさるようになる訳で、さっきのパンツ理論からいけば、恐らく私の顔は映らないのではないかと。
しかし実際、映っているのだ。知らない男の顔が
もしかしたら、この映っている男は、私が男性化した時の姿で、水たまりを通して異性になれる、みたいな感じだろうか。よくよく見れば、私に似てなくもないような気がする。そんな妄想が始まった矢先、男が口を開き、その妄想は妄想で終わりを迎える。
「だ、誰だ…お前」
この水たまりは、姿を映すだけでなく、声も通るようだ。仕組みはわからないが、この際、追求するだけ無駄な気がしてきた。
男の声は少し低めだ。声変わりは終わったように思われる。だとしたら私と同じくらいの歳だろうか。童顔で、そのせいか若く見える。格好いいというより、可愛いと言った顔をしている。
「貴方こそ誰よ」
その後、しばらく沈黙が続いた。二人共、目を伏せ、口を結び、気まずい雰囲気が漂う。少し態度が強すぎたもかもしれない。相手の機嫌を損ねてしまったかもしれない。コミュニケーションをあまり得意としない私は、初対面の相手との距離がいまいち掴めない。仕方ないがこのキャラで行くしかない。すると、男が再度私に話しかける。
「俺はアユムだ。お前は?」
男はアユムと名乗った。次は私の番だ。
「私は、リンよ」
嘘をついた。本当はミズキだ。初対面の男に本名を教えるのは抵抗と謎のプライドが邪魔をした。というか、そもそも初対面の知らないやつ、しかも意味の解らない状況でいきなり本名を名乗るのもどうかと思う。ましてや、相手も本名だとは限らない。自意識過剰というものだろうか。またしても私に面倒な設定
が付いてしまった。
「それにしても、変な夢だよな」
アユムが私に話しかける。よくこの状況で話せるものだと素直に感心する。確かに、普通に考えればこれは夢かもしれない。だが、妙にリアルだ。リアルすぎる。これはおそらく現実だろう直感が騒ぐ。
さっきの、サンダルを履いた時の水の感触。窓を開けた時の開放感や高揚感。それら全てが夢だと言うのには、いささか無理がある。これが夢ならば、進化のしすぎもいいところだ。きっと大型アップデートでもあったのだろう。
とにかく、私はこの出来事を夢だとは思えない。ではなんなのか、と問われれば困ってしまう。この考えをアユムに伝えるべきか否か。下手に混乱されるより、このまま夢と思っていたほうがいいかもしれない。
とりあえずは伝えずに、悟らせないように会話を続けることにする。
「確かにそうね。水たまりを覗き込んだら知らない人が自分を覗き込んでるなんて、実際に現実で起これば間違いなくパニックになるわね」
事実、今の私の頭の中はパニック状態だ。妄想のしすぎでついに頭がおかしくなったかと最初は思った。
だが、私はこんなことを聞いたことがある。
夢とは、自分の脳内の記憶を整理する際に見るものらしい。だから、ディスマンでもない限り、夢に出てくる人物や場所は、自分が行ったことや、見たことのある場所や人だけだという。私の記憶上、アユムという人物は今が初対面のはずだ。それでも稀に、知らないものが出てくる夢を見るときがあるが、それはまた別の話だ。
なんせ、恐らくこれは夢ではないのだから。
そんな考えを巡らせていると、アユムの言葉で思考が遮られる。
「そりゃそうだよな。これが現実だと思ってた俺が馬鹿みたいだ」
失笑してから続ける。
「いやさ、ここに来るためにサンダルを履いたんだけど、その時まだサ
ンダルの中には水が残っててさ。それを踏んだ感触がとても夢とは思えなかったんだよな」
驚いた。まさか私と同じことをしていたとは。親近感が湧いてしまう。
「最近の夢は進化してるのかね」
夢が進化するという新しい言葉を聞いた。聞いたのは初めてで、考えたことはある。それもついさっき。もしかしたら、アユムとは気が合うかもしれない。
そして一連の話から、私は一つの仮説、もとい妄想を立てた。
もしかしたら、さっき私が思っていた、平行世界へと繋がっているという水たまりなのではないだろうか。
だが、私が妄想した内容とは少し違う。
向こうは、「私」ではなく「俺」の世界なのだ。
平行世界とは言わば、可能性によって分岐した無数の世界、と聞いたことがある。故に、何人もの私が生きている世界だ。その中に、私が男として生まれてきた世界があっても、なんらおかしくはないだろう。男か女かなんて、染色体のXだかYだかの違いだと、数年前に習った記憶がある。
だが、そうと決めつけるのは早計だ。もう少し様子を聞くべく、アユムに話しかける。
「ねぇ。貴方も水たまりを覗いているの?」
「貴方も、ってことはリンもなのか。ここのところ凄い雨と風が降っててさ。それで、庭の木が倒れてたから見に来たんだ。」
それからもアユムは雨の様子や、木が倒れたときの状況などを語ってくれた。それにしても、そっちの世界でもこの木が植えられていたことに驚きだ。
この木は記念樹と言って、私が生まれた日と同じ日に、この庭に両親が埋めたものらしい。要するに、この木と私はほとんど同い年。同じ時を十数年共にしてきた幼馴染とも言えよう。そんな幼馴染が、向こうの世界では先に逝ってしまったようで、なんだか複雑な気持ちだ。
それはそうと、この話で共通したのはそれだけではない。雨についてだ。
当然、水たまりが出来ているのだから雨が降ったのは当たり前のことだが、注目すべくは2つの世界で大雨が降ったということだ。アユムから様子を聞く限り、向こうの世界でも、木が倒れるほど天気が荒れていたようだった。こちらの世界での雨は、私の知る範囲で木こそ倒れなかったものの、結構な被害がでた記録的豪雨と、さっき見たニュースでは報道されていた。
これで、向こうとこちらの共通点はいくつかあることがわかった。ここまで揃えば、私の立てた仮説が証明されてたと言ってもいいだろう。
私が考え込んでいると、アユムが私に問いかける。
「リンはさ。雨って好きか?」
「いいえ、嫌いよ。」
きっぱりと言い切る。
「そうかー。俺はさ、結構好きなんだよ。
なんかさ、雨音で雑音が遮られて、自分以外は誰もいないんじゃないかって感じがして、なんか不思議な気分になるんだ。実際は大した範囲に降ってるわけじゃないんだけど、世界が雨に包まれたようにも思えてさ」
何故か語り出した。ずいぶんと詩的な事を思っているようだ。負けじと私も答える。
「私はね。確かに、自分以外いないのでは、って感覚があるんだけど。その感覚は、ひとりぼっちに、世界に置いてけぼりにされた感じがして嫌いなのよ。それと、私にとっては雨音こそ雑音よ」
「なるほどなー。」
アユムは苦笑気味でそう言う。
それにしてもよく喋る。向こうは夢だと思っている分、気楽に話せるのかもしれない。それとも、向こうの私はコミュニケーションが得意なのだろうか。
そんな話をしていると突然、気持ちのいい音を立てて、覗いていた水たまりの上の方から波紋が発生した。どうやら、上の葉っぱから雫が落ちてきたようだ。
そして、私は目を見開いた。雫の落ちたところを中心に、波紋の跡が黒くなっていた。中心から発生した波紋程濃く、外にいくに連れてグラデーションの様に、徐々に薄くなっていく。よくよく見ると、その黒い部分には芝生が見える。そこだけ元の水たまりに戻っているようだ。アユムを見やると、彼も驚いている。こっちの出来事が向こうでも反映されているのか。
「お、おい。急に黒いのが出てきたけど、そっちには見えるか?」
「えぇ、むしろこっちが原因よ。葉っぱの雫が落ちてきてこうなったの。どうやらこの黒い所だけ、元の水たまりに戻ってるみたい」
「なるほどな。こっちはさっきも言ったとおり木がないからその心配はないな」
アユムも水たまりを確認しながらそう言う。
そして、水たまり全体を見直して、私は気づいた。
最初より、水たまりのサイズが小さくなっていることに。
水たまりが無くなればこの会話もできなくなる。私達にあまり時間が残されていないようだ。
「それと、私たちがこうして話してられるのも、そう長くないみたいね。水たまりの大きさを見てみて」
アユムが再度、驚きの表情を浮かべた後、切なさの混じった声で言う。
「そうか。もう、この夢も終わるのか」
「えぇ」
アユムがそう言うと、なんだか私まで切なくなってきてしまうものだ。だが、これは夢ではない。このあと待っているのは、目覚めではなく現実なのだ。
「夢といえば。この夢は、自分で体を動かすことができるんだよな」
哀愁漂う空気を払拭するように、アユムが軽快に喋りだす。ただの能天気なのか、他人思いなのかはわからない。
「ほら、普通の夢って自分の思いどおりに動かせないだろ?」
「確かに、言われてみればそうね」
それもそのはずだ。これは夢ではないのだから。
逆にこれで夢オチだったら笑ってしまう。今までの考察は何だったのか。これが漫画なら、おそらく駄作のレッテルを張られるだろう。
「それでさ、聞いたことがあるんだ。こう言うのを、明晰夢って言うらしいよ」
「あー。聞いたことあるわね」
なんとも都合のいい解釈をしてくれた。ご都合主義というやつだろうか。
「その明晰夢は、見る確率が低いらしくて。その低い確率の中で、こんな不思議体験をして、リンと会えて。覚めないでほしいもんだな」
自分の言ったセリフが恥ずかしいことを悟ったのか、少し黙った後、頬が若干紅潮してくる。なにを言ってるんだと、冷たい視線を送るも、そう思ってくれるのはなんだか嬉しいものだ。これが恋愛物語なら、このあと恋にでも発展するのだろうか。だが残念。彼は私だ。
その時、私の顔の横を通り、雫が水面に落ちる。その雫の起こした波紋は、またしても向こうの世界を削り取る。もう向こうを映す水たまりはそう広くない。おかげでアユムの顔が半分ほど霞んでいる。向こうでは私の顔も霞んで見えるのだろうか。アユムが少し顔をずらし、私に話しかける
「また落ちたのか」
「そうよ。そういえば、ア…アユムの方では雫は落ちないのね」
何故かアユムの名前を言うのにつっかえてしまった。初めて名前を呼ぶのに恥ずかしがってしまったのだろうか。だが生憎、そんな純情乙女な心を持ち合わせてはいない。
理由は明白だ。私は、彼の名前を忘れかけていたのだ。
「こっちには雫を落とすような木が無いからな。ってさっきもこんな話、したような気がするな」
そういえばそうだった。何故私は忘れていたのか。いや、アユムも同じ話を二度したということは、忘れていたのは私だけではないということだ。
上にかかっている木の枝を見上げ、思考を巡らす。最初見たときに比べて、霜の乗った葉っぱは少なくなっていた。それでもいつ、また水たまりに降り注ぐかはわからない。
そして再度、水たまりを覗き込むと私は気づいた。
さっき、水たまりの縮小を確認したときよりもさらに小さくなっている。日が本格的に出てきたせいか。確かに、うちの庭の水はけはかなり良いほうだ。今回みたいな大雨でもない限り、水たまりができること自体珍しい。最初に出来た波紋の跡も、半分ほど無くなっている。全体の大きさも、当初の三分の二程度まで小さくなっていた。庭を見渡してみると、他の水たまりも同様に縮小を始めている。
そうか。もしかしたら、水たまりの大きさが、私達の記憶に影響しているのかもしれない。要するに、映している水たまりの面積が小さくなればなるほど、私達の記憶、正確にはこの水たまりを通してできた記憶、が無くなっていくのだ。だとすれば、水たまりの大きさからして、私達に残された時間は少ないだろう。
「ねぇ」
「どうした」
アユムが首を傾げる
「私達の、今ここで起こったことの記憶と、この水たまりの大きさが同期しているみたい。要は、徐々に、お互いのこと、ここでのことを忘れてしまうみたいよ」
「なるほど。どおりでなにか忘れっぽくなったと思ったんだよな」
と、笑って言う。アユムの方もその実感はあったようだが、向こうはこの出来事を夢だと思っているので、さして問題にも思わなかったのだろう。本当に夢なら、私もこんな軽く受け止められただろうに。
こんな不思議体験、また体験しようと思ってできるものではない。せめて、記憶には残しておきたかったが。もしかしたら、今までこういう体験があったのかもしれない。覚えていないだけで。
「それじゃあリン。水たまりが無くなるまで話さないか?」
「ええ。いいわよ」
私たちの会話は、まるで台本でもあるかのように。その後の会話が途切れることはなかった。お互いの友人の事や学校の事、日頃の愚痴や趣味のことまで。時間の、水たまり許す限り、私達は言葉を交わし続けた。
結局忘れるであろうこの会話は、他人からすれば不毛な会話に見えるだろう。もしかしたら、同じことを何回も話題にしているかもしれない。だが、そんなことは関係無い。お互いに喋りたいから喋る。この会話に意味なんてないのかもしれない。だが、自然と口から言葉が溢れ出す。
きっと、こっちの世界にアユムがいれば、親友くらいにはなっていたんだろうか。いや、確かどっちも私か。
楽しい時間というのは、過ぎるのが早いものだ。
次第に水たまりは狭まってゆき、今や彼の顔半分しか映っていない。もうお互いの声だけが頼りだ。ここまでくれば、この出来事の記憶なんてほとんど覚えてはいない。平行世界がどうとか考えていた気もするが、もうどうでもいい。
だが彼の名前はわかる。それだけはもう忘れまいと、何度も心の中で復唱していた。
「そろそろおしまいだな」
半分の顔で言う彼は、優しくほほえんでいた。
もっと話していたい気持ちもあるが、その別れをすんなりと受け入れることができる。まるで、明日も明後日も、いつでも会える、家族や親友と話していたような感覚だ。いちいち尾を引き悲しむようなやつはいないだろう。どれもこれも、ほとんど覚えてないが故だと思うが。
最後に、アユムにお別れを言おう。不意な別れがくる前に。
そしたら、こっちから水たまりを消そう。これは決別だ。
「そうね。あんま覚えてないけど、楽しか..」
雫が顔の横をかすめ、水たまりに波紋を広げる。
そこには、自分の落とした影で暗くなっている水たまりの残骸が一つある。
何故、私は水たまりを覗いていたのだろうか。
何を言いかけていた気もする。そう思いながら空を見上げると、強い日差しが庭と私を照りつけている。
木の露も大方無くなり、葉っぱ達はやる気を出し太陽を仰いでいる。
そんな景色を見ていたら、私のちっぽけな疑問なんて、どうでもよく思えてきた。どうせ私のことだ。きっとくだらない理由に違いない。
それよりも、さっさと支度をして午後を満喫するという任務を遂行しなければ。
晴れ渡る空を再度見上げ、深く息をする。もう雲もない。
「たまには雨もいいものね」
誰に言ったのか、ひとり呟く。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
昨日まで凄い雨風だった。雨上がりの庭を見下ろし、感慨にふける。
そう大きくない庭を占拠していた木が倒れているのを見る。
昨夜、雨音と一緒にデカい音をたてて倒れたのだ。家のほうに。
そのせいで息子の部屋が半壊し、今は私の部屋で寝ている。そんな私はリビングのソファーで一夜を過ごした。思春期の男はめんどくさい生き物だ。
そんな息子くんの部屋を襲ったのは、私が生まれたときに植えられた記念樹というものだ。言わば、同じ時を数十年も共にしてきた家族とも言えるだろう。そんな家族が、私より先に逝ってしまったので、なんだか複雑な気持ちになる。
とりあえず庭の様子見に行きたいが、朝食の準備やら壊された部屋の片付けをしたいので、庭は息子に任せるとしよう。
階段を登り、私の部屋の扉をノックする
「アユムー。庭の様子、見て来てちょうだい」
初めて投稿、執筆した作品です。
誤字、脱字あったら申し訳ないです。