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伊月二葉(いづき ふたば)

私は伊月二葉という名前だ。


美しい草花が種から芽を出すときに、可愛くて力強い双葉を開かせるところからとって、この名前を付けたらしい。


スポーツ万能というわけでもなく、頭がとても良いとは言えない、平凡な人間の、どこにでも居るような一般人だと思う。


今朝は高校の入学式に出席してきた。

校長のスピーチを聞き、貧血で倒れる数名の学生を横目で眺めながら入学式を終え。


ちょうど今、下校しているところだ。


普通の高校に入ったつもりだったが、どうやらちょっと違ったようだった。

そう思ったのはなぜかといえば、入学式での先生方の顔ぶれが、非常に個性的ぞろい・・という事がまず一番の理由になるのではないだろうか。


そもそも、自由な校風というのがモットーなようで、先生たちにも個性豊かな人材が揃っているというのも、納得はできる。


あまり難しいことは考えず、高校生活を楽しもうと思っている。


入学を決めたきっかけは、この学校のクラブ活動の多彩さにもあった。

運動部、文化部、その他サークル活動など、多種多様な活動が活発なのだ。


自分はその中から興味のある部活に入るつもりでいる。


ただし、興味のあるものといえば、少々変わっていて、オカルトと呼ばれる分野なのだが・・


書店に月刊の専門誌が発売されると、ついつい立ち読みしてしまい、立ち読みしているうちに家でゆっくり読みたくなり・・そして気がついたらレジに並んでしまう。

立ち読みをしてはいけないという書店もあるが、立ち読みすれば買いたくなる人も沢山居るのだし、それはそれで立派な戦略だと思ってしまう。


オカルトが好きというのは、それを信じているというワケでもなく、ただ日常から非日常へと連れ出してくれるような、そういうワクワク感というか。

つまりはちょっとした現実逃避させてくれて、日ごろのストレスを発散してくれるのが単純に嬉しいから、ということのほうが強い。


たとえば私はUFOの信者でもなく、居たら面白いな、くらいに感じている。居てもいいよね、という感じだ。


高校の部活でオカルト、というと一般の人は眉根をひそめるかもしれない。

でも、個人でこっそりと楽しむだけなら、人に迷惑をかけることもないのだから、別にいいじゃない、と思う。


まぁ確かに、明るい趣味じゃないとは思うが、面白いと思う気持ちのほうが勝っている。


そんなわけで、頭の中でいろいろと考えながら下校していると、通称、桜坂という少し緩い傾斜の長めの坂を下り終えるところで、もうすぐ街中の外れに移動しようとしている所だった。


考え事をしていたせいで、周りの景色に目がいかなかったが、綺麗に桜が咲いている。

桜坂という名前のとおり、桜並木が見事で、太い木、細い木、枝の多い木、背の高い木から低い木まで、いろんな桜がその坂道を挟んで長く続いている。


満開を通りこし、少し散り始めている。

ひとつの桜の木が落とす花びらの数は知れているが、沢山の桜が並ぶこの道は、花びらの落ちる数も自然と多くなる。


ひらひらと常に舞い落ちる花びらに目をやりながら、ああ、春だなと今更ながら実感した。


風が吹けば、桜吹雪という言葉が似合う情景で、穏やかな陽光が桜並木の影絵を作る中、見事な桃色のシャワーを大地に注いでいる。


その中を歩くのは気分が良いもので、鼻歌でも歌いたくなるのだが、それは恥ずかしいのでやめておくことにしておいた。


桜並木の横には小さな小川も流れていて、都会では珍しくコンクリートで舗装されていない自然の状態の小川だった。


ホタルの季節になれば、もしかしたらホタルなんかも飛ぶのだろうか?

地元の復興とかいう感じで、街起こしの一環として、そういう運動もしていてもおかしくない。


考えごとをしながら歩く、というと賢そうに思えるが、単なる雑念が次から次へ沸いてくるだけといえばそれまでなのだが・・


そうこうしているうちに、街の外れへとやってきた。


閑静な住宅街でもなく、繁栄している街の中心地とはちがい、チラホラと店があり、閉店して貸しテナントの看板がガラス窓に張ってある物件も結構あって、お世辞にも賑やかとはいえない。


ここから歩いてほんの10分、15分ほどで街の中心地の繁華街に辿り着くというのに、この落差は何なのか?そう思ってしまう。


ただ私はこういう、ちょっとした寂れた町並み、昭和の匂いのするような、どこか懐かしさを覚えるような、くたびれた感じが好きだった。


人も多すぎないし、古い商店街には美味しいパン屋さんや、パフェの美味しい古い喫茶店なんかもある。クレープが美味しいという評判の店は女子高生たちの間では人気だったりもする。

量もある、安い美味しいという学生が喜ぶ要素がたっぷり詰まった穴場的な店が多いのも魅力のひとつだった。


街の外れの小さな駅に向かうため、あと10分ほど、この寂れた町並みを歩いていくことになる。


そんな日常の風景の中に、まさかあんな異常な出来事が紛れているとは思いもつかなかったのだが・・・

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