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部活動ですから!

二葉が入学式を終え、高校生活が始まって3日が経った。

授業も中学からの延長のようで、新しい感動とかもなく、淡々と終わりののチャイムまで机に向かっている。

クラスメートの顔も、徐々に覚えてきたが、まだ仲良くなるというほどでもなく、出席番号の近い前後の生徒と少し話し出したところだ。


ここ数日は授業終了のチャイムを聞くと、そのまま部室へと向かっている。


そんなわけで、今日も部室には魔術クラブの部長の進藤を含め、6人が集まっていた。


部長でプロのマジシャン志望の進藤明、その悪友らしい格闘技愛好家の徳野正春、内気でシャイで口数の少ない村田信二、大人びた雰囲気の望月はるか、そして小学校まで一緒によく遊んでいた顔馴染みの神埼美冬。そして二葉。ほぼ毎日、同じ顔ぶれのようだ。


部長いわく、今居るのが主要メンバーなので、ほかは殆ど顔を見せない幽霊部員とのことだった。


こうして3回部室に来てみて、ここの部活動というのも、だいたい分かってきた。

部室にメンバーが集まるまでは、先に来た部員は各々、漫画や雑誌、たまに魔術書などを広げ、寛いでいるような感じで、メンバーが集まったら、今日一日に何があったか、とか、小テストの出来具合がどうだったかなど、雑談を始め、紙コップにジュースを入れたり、お菓子の袋を開けたりして、笑い話に花を咲かせたりしている。


つまり・・・


本当に雑談したりしてるだけの、部活動?と首をかしげたくなるような感じなのだ。


今日は、部長が「トランプしようぜ~!」という一言から始まり、部員たちの「またかよ~1回だけだぞ?」というブーイングの中、さっさとトランプを配る部長にしぶしぶ付き合うという形で、ババ抜きが始まっていた。


二葉は部員たちでトランプをするのが初めてなので、むしろ楽しみで、部員たちのようにブーイングすることもなかった。


トランプをしながら、雑談は続く。


「そういや、うちの生徒でさ、学校にあんまり来てない奴で、暴走族っぽいことしてた・・たしか神宮寺・・って男子だったか。あいつ、なんか今度学校で表彰されるらしいな」と徳野が話し始めた。


「ん?なんで?」艶のあるよく通る声で、はるかが聞きなおす。その間もババ抜きが続けられている。


「なんでも、野犬かなんかに襲われて、瀕死の重傷を負ったどこかの中学生を助けたらしい」


「へぇ~~。そんな子が学校に居たんだ?2年なの?」


「ああ、そうらしい」詳しくは知らないけどな、と話しながら、徳野は揃った2枚のカードを机にポイっと放り投げた。


「カッコイイのかなあ?」美冬も話題に参加する。その横で美冬からカードを1枚取った村田が顔を一瞬こわばらせた。たぶんジョーカーが来たのだろう。分かりやすい性格だ。



「きっと、俺よりはかっこ良くないはずだ」部長が言いながら村田からカードを一枚引く。


「部長よりカッコイイに100円」はるかが涼しげな顔で言う。


他の部員たちも、次々に賛同し、俺も100円。僕も100円と話に乗っていく。

美冬はそのやり取りがツボにハマったのか、机を叩きながら笑って苦しそうにしている。

笑い終わったあとで、私も100円・・と賭けに乗った。


二葉を除いて全員から言われて、部長は少々落ち込んだ素振りを見せ、不平を口にしながら口を尖らせた。


二葉は隣の部長の持つ5枚くらいのカードの中から一枚抜き取った。


揃わないな~、でもジョーカー来てないし、まだ村田さんか、部長が持ってるのね。と思った。


左隣のはるかが二葉から1枚抜き取った。


部長が急に指をパチン!と鳴らした。


「げっ!!」はるかが顔を曇らせる。そしてババ来た~!と悔しそうに嘆いた。


(えっ??なんで?)二葉は首を傾げた。さっきまで村田さん・・が持ってた・・はずのジョーカー・・

たぶん間違いないリアクションだったし。


それで、次にひいた部長がジョーカーを引いていたとしても、次にジョーカーが回ってくるのは、私の番のはず・・・でも私はジョーカーを引いてない。


二葉は部長の顔を覗き込むようにしてマジマジと見つめた。


部長は、何?と、とぼけた顔で聞き返してくる。


(もしやマジック??)


猫の目のようなコロコロとした丸い目で、とぼけ顔をする部長を見て、二葉は確信した。

マジックを間近で見るのも、マジックが悪用されるのを見るのも初めてで、何と言っていいか・・・


すごいと思うちょっとした感動と驚きの気持ちと、部員たちがトランプゲームを嫌がる意味が分かった気がした。


とにかく、部長が有利に決まっているようなもので・・マジシャンにとってトランプは十八番のようなもんだと、今更ながら気がついた。


「ところで、その男子な、例の表彰されるやつ、なんでも中学では剣道の達人って有名だったらしくてな。でも高校に上がってからは、剣道も辞めちまって、バイクを乗り回して学校にも来なくなったらしいんだよな」徳野が、たぶん表彰式みたいなことにも顔は出さないだろうな、と続ける。


「もったいないね~」と、はるか。

うんうん、と頷く村田。

徳野がはるかからカードを引く。

うわ!・・と徳野が頭を抱える。どうやらジョーカーは徳野に行ったようだ。分かりやすい人たちだ。


二葉は、くくく・・と、喉を鳴らしながら笑った。おもしろいかも。この部室。



そのあとも、1回だけのはずのババ抜きは2回戦、3回戦を迎え、負けず嫌いらしい徳野が3連敗という不名誉な終わり方で終了してしまった。


徳野はどうやら、本気で悔しがっているようで、口を真一文字に閉ざして顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。


部長がそんな徳野をわざとらしく大げさに慰め、きっと明日は良い事あるよ、元気だせ~?な?

と肩を叩いていた。

徳野はプイっと横を向いたまま無反応だ。


二葉は、あきらかに部長の仕業だと思いながら、ここは黙っておこうとだんまりを決めた。

だって、徳野の悔しがりかたとか、ふくれた顔が、なんか面白くて・・それを見て笑いが止まらなくなってしまったからだった。


外の部員たちも楽しそうに、徳野と部長のことを眺めて笑っていた。


そのあと、部員たちみんなから励まされるたびに、徳野はさらに落ち込んでいるようだった。

みんな、仲が良いんだな~と二葉は思った。


それにしても、魔術の勉強とか、いつするんだろう?

そんなやり取りを、笑いながら見つめつつ、二葉が思っていた時、部長がみんなに声をかけた。


「なぁ、今日はもう部活を切り上げて、ハンバーガーでも食べに行かないかい?」


一同が、そうだね~、とか、いいね、とか言いながら、それに賛成した。


「私、新発売の激辛のやつ、食べてみたい!」はるかが顔を輝かせて言った。

どうやら辛いものが好きらしい。


二葉も、これといって早く家に帰らないといけない理由もないし、晩御飯も食べられるように軽く食べるだけにしとけば、まぁいいか、と思い、部員たちと初めての放課後の寄り道に、少し楽しくなっていた。


冬と違い、日の長くなってきたこのごろ、外はまだまだ明るかった。

時計の針は5時半を回ったところだった。



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