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暴走バイク

片側3車線ずつの一方通行、広く整備された国道を一台の暴走バイクが逆走していた。

車の列は、慌てて急ブレーキを踏んだり、突進してくるバイクを避けたりして、慌てふためいていた。

赤信号を空吹かしの爆音で車を止まらせ、我が物顔で通過していく。


「おらおら!ちょっと通してくれよ~!!」


派手な改造バイクを運転する若者は声を限りに叫んでいた。

瞼に届くか届かないくらいの、茶髪を通り越した赤い髪。

釣り目に近い鋭い目つきにシャープに整えられた眉。


ノーヘルで風になびく髪、特攻服と呼ばれる真っ黒な服。

背中には当て字で何やら読み取れないような歪んだ文字が赤い糸でみごとに刺繍されている。


暴走族だといっても、誰も違和感を抱かない外見。



しかし、その目は少し潤んでいた。


若者は思っていた。

おれが、転んで膝を擦りむいて泣いてたガキの時、おれのばぁちゃんが優しく背中を抱いてくれたっけ・・

ばぁちゃん、今も元気にしてっかな?おれ・・・なんかわかんねえけど・・親とうまく行ってなくてよ・・

でも、なんか、わかんねえけど、道で倒れてた知らねぇ中坊拾って、なんか・・助けてやりてぇんだ・・


ごめんな、ばぁちゃん・・元気にしてっかなあ・・

おれ・・何やってんだろ・・・おれ、わけわかんねえ。不良になっちまってよぉ・・ちくしょう!


轟音と共に車の流れを遮り、大きな交差点を無理やり右に曲がっていく。


サイレンの音が遠くから聞こえ出した。

騒ぎを聞きつけたパトカーが集まってきてるのだろう。


交差点を2,3過ぎた辺りで、1台のパトカーが車線に割り込んできた。


「前のバイク!止まりなさい!脇に寄せなさい!!」


止まれるかよ!病院まで付き合えや!今日はお前らと遊んでる暇ねえんだ!


若者はアクセルをさらに吹かす。


パトカーも速度を上げ、横に並走してきた。

異変に気づく。

ぐったりした血まみれの中学生を男女が挟んで、3人乗りで爆走している。

なにかの事件に違いない。


「今すぐ止まりなさい!」


若者は内心つぶやいた。

お前ら、間に合わねえ!こいつ、息が止まりそうなんだ!救急車呼んでる暇なんてねぇんだ!!


もう一台のパトカーが合流してきた。

サイレンがうるさく響く。


くそ、わけわかんねえ!お前ら、邪魔なんだよ!


前に回りこみ、ブレーキを踏んで行く手を遮ってくるパトカーをかわし、アクセルを緩めない。


「隼人!!危ないよ!あいつら、まだ来る!」

怪我をした少年を挟み込むように最後尾の座席にまたがる茶髪の少女が叫んだ。


「おう、抜け道に行くぜ!しっかり掴まれ!」


左に急旋回し、細道を通る。商店街の裏通りだ。


パトカーは急旋回に着いてこれず、そのまま通り過ぎてしまった。


よし、もうちょっとだ!裏道の角を曲がり、また右に・・左に・・あわただしく曲がっていく。


「よし!着いたぞ!」

急ブレーキをかけ、バイクを止めた。


・・・・


建物の看板には「畑中歯科」とあった。


・・・


「隼人!違うよこれ!歯医者だよ!なにやってんのよ!」


「おい!ちょっとまて!なんだよ!なんなんだよ!ちきしょう!おれにも間違いはあるんだよ!!うるせえな!!」

「こんな時に間違わなくてもいいでしょ!!こいつ死んじまうよ!」

ヒステリーに叫ぶ少女の言葉を最後まで聞かずに、またアクセルを吹かす。


「なんか記憶が混乱してるけどよ!次は!ぜってーいける!大きな病院だった!」


右へ左へ、また大通りへと出た。


先回りしていたパトカーが追いつき、3台に増えていた。


「うぜえ!」

そう叫ぶとバイクをさらに加速させる。


「病院まで着いたら大人しく掴まってやるよ!今度また追いかけっこして遊んでやるし!今日はそんな気分じゃねぇ!」


車の流れのなかを、蛇行しながらスイスイと避けていく。


サイレンの音が遠のいていく。着いてこれないのだ。


よし!


視界の端に、ネオンの看板で浮かぶ、病院の文字が見えた。


待ってろよ!今すぐ着く!


風を切る音だけが、爆音より耳に大きく届いてくる。


・・・


「着いた!着いたぞ!」


バイクを急停止させ、スタンドを起こす。


そのまま飛び降りるように急いでバイクから降り、少女と少年をバイクから降ろしてやる。


「両肩からかつぐぞ!救急の自動ドアはこっちだ!」

「うん!」


少年を両肩からかつぎ、自動ドアをくぐりぬけ、足早に病棟のなかに入っていく。


それを看守が大声で静止する。

「君たち!どうした!怪我人はその子だけか!」


振り返らずに、医者を呼んでくれ!と叫ぶ赤髪の若者。


「いま手配をする、そこの受付の前のソファーで寝かせてやってくれ!」


少年をソファーに横にさせる間、若者は目に熱いものを感じていた。

無意識に伝い落ちる涙に、戸惑っていた。


外に遅れてやってきたパトカーが集結しだした。

サイレンの音が近づいたかと思うと、急にサイレンの音が止み、赤いランプの明滅する光だけが、暗い照明の1Fの広間を照らしている。


看護師が数人、慌てた様子で寝台車を運んできた。

少年をゆっくりと抱え、寝台に乗せる。


「君たちは友人かい?しばらくここで待機してて!まず、この子を処置室へ運ぶ!」


赤い髪の少年と、茶髪の少女は無言でうなずいた。


看護師たちは、フロアの廊下の角を曲がり、急いで処置室へと向かった。



直後、入り口の自動ドアが開き、早足でドカドカと警察官が5人、広間に入ってきた。


「暴走行為と逆走運転!信号無視!道路交通法違反と迷惑運転!!きさまら何を考えとるんじゃあ!!」


暴れる素振りもみせず、脇を掴まれて病院を連れ出される二人。

次々に手錠をかけられていく。


警察無線で、状況を説明する警官たち。

「暴走運転の容疑者確保。身柄を署に連行する。容疑者の身元を確認中」


腕を掴む力が強すぎたのか、少年は身をよじって「痛えんだよ!おい!」

とだけ叫んだ。

背中を強くおされ、腕をねじり上げられる。

少年は苦痛に顔を歪めまいと無表情を装ってその手を力任せに振りほどいた。

「抵抗してねえだろが!」



玄関を過ぎ、パトカーの前まで来たところで、全身の力が抜け、脱力感で力が入らず、頭が、ボーっとしてきた。


そんな働かない思考回路のなかで、少年は悪態をついた。ちきしょう!おめえらぶっ殺す!


少女の体も浮くぐらいに、引きずられるように連行されている。小さく悲鳴をあげている様子を見て、少年は激高した。

「ふざけんな!おめぇら!女相手に!放せ!!!」


パトカーのドアが開き、頭を掴んで無理やり押し込まれる。


運転席と助手席に待機していた警察官が、バインダーの書類とボールペンを持って質問してきた。


「君たち、名前は?何をしてたんだ?」



少年は、口元がちょっと切れて血が滲んでいることに気づきながら、ため息まじりに答えた。

さっき揉み合いになってしまった時に、ひじでも当たったか・・・


「神宮寺・・隼人・・」


「君は?」少女のほうをペンで指差し、助手席の年配の警官が促す。


「高田さゆき・・」


変わった名前だねぇ・・と感心したように話す。


けっ・・それがどうしたんだよ。バカじゃねぇの?

と、隼人は思った。


それから、あの中坊・・・助かったかなあ・・

と、窓の外の幾つもの赤いサイレンの光をまぶしく思いながら。



無力感を感じながら・・・


隼人は両腕の手錠を焦点の定まらない目で眺めていた・・・

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