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心中描写:ケンジャ(コミュ症)

 生まれたときから光が見えた。綺麗なものには、その綺麗さのぶんだけの光が。


 わたしはさっそくその光に夢中になった。


 たとえば、ピアノのこの音とこの音とこの音を同時に鳴らすと綺麗になる。


 絵本は、同年代のように内容には興味を示さず、むしろ本だなでの並び順に興味をもった。本を入れかえるとそれだけで光が強くなり、最適な光をなんどもなんどもなんどもなんども検証して、そのたびごとにきゃっきゃとわらった。


 人が集まるところにも光はたしかにあった。だが、わたしは進んでそこに関わろうとはしなかった。

 人が集まるところの光はいろいろな色をしていてなんだかキモチワルかったというのが一つ、そしてピアノで一つ何百年前の曲を弾いた時の光のほうが圧倒的に美しい光量をほこっているように思ったのがもう一つ。

 ばっちいものに触る趣味もないし、わざわざ劣った光を追い求める必要もない。


 そうやって何も考えずに日々を生きていて、ある時わたしはひとりの同級生とであった。


「えーん、えーん」


 いつものように、本来先生のもちものであるピアノを奪い取って、適当に音を鳴らしてあそんでいたわたしのもとに、駆け寄ってきた女の子がいた。


 名前はきりちゃん。本名は知らない。


 後ろを抜き出したのか、前を抜き出したのか、あるいはきりというのはそのまま本名だったのか。わたしは全く興味がわかなかったが、わざとらしい子供の泣き声がピアノの美しい光を邪魔するので苛立ち紛れに声をかけた。


「どうしたの?(半ギレ)」


「あーくんがね、あーくんが……」


 よく話を聞くと、同級生の男の子にいじめられているのだという。苦手な虫をひっつけてきたり、ぶってきたり。わたしにはすぐに解決策が見えた。


「やり返せばいい。んじゃない」


「そ、そんな、無理だよ」


 苛ついた。目の前に解決策があるのに、なぜやらないのだろう?


 ただ、わたしはここで、「じゃあ知らない」とはやらなかった。


 今でもふしぎになる。あそこで、じゃあ知らない、で知らんふりをしていたら、どんな自分になっていたのか。


「じゃあ、せめて、いいかえすくらいは。……すれば」


「そ……そうなのかな。やっぱりやられっぱなしだからだめなのかな。でも、どういうふうにすればいいかわからない」


「りゅーちゃんのマネを、すれば」


「……まね……」


「うん。まね。いまのじぶんでかてないのなら、かてそうなひとのまねをする。いちおうちゃんとまわりにオトナがいるときにしておけ」


 りゅーちゃんというのは男の子顔負けに活発な同級生の一人だ。


 一日後、いじめはあっさりと止まったそうだ。きりちゃんが報告しにきた。


「そう、よかったね」


「らんちゃんのおかげだよ」


「どおでもいい」


 わたしのおかげって言われても、ただひたすら不快なだけだ。しゅん時に、わたしはパニックになりかけた。うるさい。うるさいうるさいうるさい……。同年代のコドモの音はヘドロみたいに濁った色の光がする耳がおかしくなる!! 早く黙って、どこかに消えてほしい。消えろ。消えろ!!


 けれど、きりちゃんが一歩踏み出してわたしの手を握った。


「よくないよ。どうでもよくない。わたし、うるとらすーぱーすごいっておもう。きっと、らんちゃんは、ひとをたすけるために生まれてきたんだよ」


「……!」


 驚いた。笑顔になってそういった瞬間のきりちゃんが、どんな原初の音楽にも負けないくらいきれいにみえたから。


 その日以来、わたしは音楽の純粋な光と同じくらい、みんなが見せる玉石混交の宝ばこみたいな光もあいするようになった。

 どちらも、大切になった。

 ただ、それは何もしないでいて引き出せるようなものではない。わたしは、人から最高の光をひきだすため、努力するようになった。そして、外敵から守る。


 一つ残らず取りこぼさない。歪んだ並び順は、正しくなるまで考える。その過程で、一般的な人間のように振る舞う必要性も生じた。わたしは集団生活に向いていない。強い光や大きな音はひどいストレスになるし、美しくないものを見ると不快の感情が止まらなくなる。周りと同じようにおとなしく座っていて、それだけでストレスで脳が焼けそうだ。だが、大切なものを守るために、自分を無視した。


 でーたを集めるんだ。一つ一つが大切なかけら。一つ一つを、ジグソーパズルを集めるみたいに組み立てればきっと。完全に人間と変わらない挙動を示せば、人間と変わらないものになれるはず。そうしたら溶け込める。溶け込んだ宝箱の中で見つけるんだ。大切なものを。一つでも多く。大切なものがたくさんあれば、もっと人間らしくなる。


 そして……わたしは、誰かのために生きるんだ。


 きりちゃんが、たったひとことだけで、わたしとはなにかを私に教えてくれたみたいに。

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