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幕間

 覧は、主治医(自称)の指示に従って集めたものを、わざわざ彼女の金で新しく購入したタブレットの中で閲覧した。


 すっすっすっとスワイプするたびに画面が動き、新しい情報を覧に伝える。同時に、スマホをぽちぽちやって、ランにメッセージを飛ばす。


(俺は興味ない分野だが、ここまで揃えると壮観だな。少し自分でも勉強したくなるくらいだ)


 夕飯のカ○リーメイトをぽりぽりと齧る。最近のお気に入りは、鉄分配合を謳う飲むヨーグルトと、カロ○ーメイトを一緒に食べることだ。あんぱんと牛乳みたいな感じで、生地に染みて美味い。


(で、それはいいんだが、ほんとにこんなもん意味あるのか?)


(間違いありません)ランからのメッセージによる返事が、しばらくするとかえってくる。(私を信じて下さい)


(信じてと言われてもな。まあいいけど)


 この筋書きは、はじめからブランシェ・夕野の発案で始まった筋書きであり、たとえ何か失敗したとして、覧に一切の被害はない。もちろんこの後学校で動きづらくなるくらいはあるだろうが、友達が一人もおらず、話す相手が一人もいないので、集団で無視とかされてもなんともならない。今よりひどくなることはないのだから。


 嫌がらせが始まったら、首謀者を凶器でボコボコにして、そのまま学校をやめてやればいい。

 少年法の盾は、今の覧を守ってくれる。


(大丈夫です。失敗しても、誰も悪くありません)


(確かに)


(たとえ上手く行かなくても、覧は悪くない。上手くいかない場合は、全部コミュ症が悪いんです)


(確かに!)


(ソシオパス相手にはこの文句は逆効果かぁ……)


(なんで? 効果抜群だぞ)


(だからですよ。早く病気を治して下さい)


 何を言ってるかよくわからない。「私は悪くない」。いい言葉だ、勇気が湧いてくる。ところで勇気って何?


 そろそろ風呂に入らなければいけない時間だ。スマホをスリープ状態にして立ち上がった。十分で歩いていける最寄りの駅前にネットカフェがあって、いつもそこでシャワーを浴びる。三十分二百円、ついでに漫画を一冊ぱらぱらとめくって帰る。入浴セットは三百円で売られているので、タオルだけ持っていく。家の豪華な風呂は入りたくない。入ると、むしろ汚くなる気がする。


 考える。


 具体的な症状名とかは知らない。「ソシオパス」みたいな名前が、坂谷あかりが発症しているコミュ症にも付けられているんだろうが、そこは覧にはわからないし、興味もない。


 ただ、坂谷あかりが現在どういう病理を抱えているのかなら、考えればわかるかもしれない。どういう理由で萩原と仲が悪くなったのか? それは何がきっかけなのか? なぜ、現在の彼女は、萩原との仲を積極的に戻そうとしないのか?


 一つ一つ、坂谷の話を思い出す。


「ダメだ、」


 十分くらい考えてから、覧は呟いた。


「全然わからん(笑)」


 他人の悩みを藤堂覧が理解・共感できることは未来永劫なさそうだ。健康な精神ならば可能なのかもしれないが。


 その夜、覧は布団の中で、目を閉じながらコミュ症が治った自分を想像した。人が泣いていると自分も悲しくなって、人が笑っていると自分も笑いたくなっていて、なかなかおもしろかった。だが、妙なことに、それを考えれば考えるほど心が苦しくなって、今すぐに首を吊って死にたくなった。そしてほとんど眠りかけると、そこから少し離れた場所で、今のコミュ症のままの覧が立っている感覚になった。

 自分が自分を「なにやってんだこいつ」って冷笑していて、もっとおもしろかった。

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