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月の狐は遠く遥か2-7

「ぶ――ぇほ、ごっほっ!」


 坂谷あかりはたった今口に含んでいたミネラルウォーターをほとんど全部吐き出した。ぼどぼどと目の前の地面に液体がぶちまけられ、抑えた手と口から顎にかけてしゃびしゃびに濡れる。

 あわてて手を押さえつつ顎を前にやったから制服にはほとんどかかっていないが、やってしまった。


「……大丈夫か?」


「ご、ごめん……大丈夫」


 あまりに派手に吹き出したためか、引いているというよりは心配そうな表情の自分の恋人に感謝して、ティッシュを分けてもらって、口を拭う。押さえて水気を取るだけにしたが、化粧直ししないといけないかもしれない。


「み、見間違えかな……いま」


「……どうした?」


「いや……」


 今、自分の目が正しければ、この前世話になった藤堂くんが、それ系のホテルに消えていったように見えた。


 「小学生くらいの背丈の連れと」。


 ……ヤベエ、逮捕だ。


 よく顔つきとかは見えなかったし、ぶっちゃけ髪の色が黒か茶かすら見えてなかったため、ひょっとしたら身長が低いだけの大人なのかもしれないが。


「なんでもない、ほんとに大丈夫。見間違えだと思うし。うん。それよりデートの続きやろう、うん」


 萩原のほうは、口を濁されたので、(中学辺りで作った元彼かな……)とちょっとだけ切ない気持ちになった。



 間接照明に照らされる薄暗い廊下を歩く。

 受付は無人で、タッチパネルを適当に操作し、自分たちも部屋を借りたことにしておいた。


「本当にここに? 空振りだったら俺がただで済まないんだけど。淫行高校生じゃん」


「間違いないです。あと、淫行ではなく、刑事犯容疑です、私は12歳なので。えー部屋番号は、位置的には02号室です。動きのログを見るに階段は上がっていないため、102号室が彼女の居場所だと思います」


「そうなんだ」


 ゆっくり、音を立てないようゆっくりと扉を引き寄せると、開かない。102号室の扉には鍵がかかっていた。


「そりゃそうだな、どうするラ、って何してるの」


 ランがかちゃちゃちゃちゃ、と専用のツールらしいものを鍵穴に入れて操作すると、鍵は簡単に開いた。ただし、再アタックは空振りに終わった。「ラブホテルに、チェーンロック……?」チェーンがかかっているし、ご丁寧にU字ロック(マンションなんかの金具型ロック)まで使われている。三重の施錠。


「……ピッキングか。なんでもありだな。でもこれはどうするの」


 問いかけると、猫のキャラクターが書かれた財布からクレジットカードを取り出し、半端に開けた扉の中にすーっと差し込む。カードを使って一番上までチェーンを持ち上げると、小さな手を隙間に差し込んで、ひねってチェーンを開けた。


 U字ロックの方には、ロープを使った。ロリの紐。自分のリュックの中から細いロープを取り出して、くるくると手に巻き、軽くキスをする。そののち、半端に扉を開けて、ヒモをU字ロックに通して輪にしてから上に投げ、その輪が扉を跨ぐかたちで室内のU字ロックに差し込まれるようにする。あとは一度扉を閉めてから、引っ張りつつ横にずらす。がこっ。扉は開いた。突破を阻むものはなにもない。


「医者に限界はありません。綺麗な光を取り戻す。治さないことだけが医者の罪。全てを治すため、全てを暴く!」


「そうなんだすごい」


 中からは話し声が聞こえる。誰かが誰かと話しているのだろうか。その割には、一人の女性の話し声しか聞こえない。……いや、この囁き声のような無数の声は、何だ?


「――行きましょう」

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