音楽は世界を創る
「…誰?」
今、頭の中でなんか…男の人の声がした気がする
__自分の音楽を信じて
なんだろう、この声
初めて聞いた声じゃない気がする…
どっかで聞いた事があった…?
「…どしたの」
「あ、いや、何でも…ない」
剣人が涙目で私に聞く
ただでさえ精神不安定なのに私が変になったら本格的に剣人が壊れる
…自分の音楽を信じて、か
バイオリンを弾いてみて、なんだかしっくりきた気がして、久しぶりにとても楽しかった
私の中の、音楽に対する気持ちを大切にしろ、って事かな
私はバイオリンを構える
「あ、杏奈…?」
驚いたような目で私を見る
何を血迷ったんだ、みたいな目
でもそんな目をしたって何にも変わらないよ
「剣人、幻想即興曲なんて有名曲、知らないわけ無いよね?」
「そりゃ知ってるけど…知ってると弾けるは別…」
「少しぐらい弾けるでしょ、何年ピアノやってるの
別に完璧じゃ無くたって良いじゃん
私頑張るからさ、剣人、サポートしてよ」
剣人の不安を吹き飛ばすくらいの笑顔で、私は言った
「うん…!」
俺がピアノを始めたキッカケは杏奈だった
3歳くらいの時、杏奈の家からピアノの音が聴こえて、俺もやりたくて始めたんだっけ
でも5歳くらいの時、何でも弾けてしまってつまらなくなったのか、それからピアノを弾かなくなった
この旅行に誘ったのも、また弾いてほしい…っていう思いがあったから
そのおかげで、ピアノじゃなかったけど、音楽を奏でる事の楽しさを思い出してもらえたと思う
いつだって俺は杏奈に支えられていた
今度は俺が支える番
いつまでも弱くちゃダメだよな
…でも幻想即興曲はピアノ曲
杏奈が持っているのはバイオリン
…何を考えているんだ…?
剣人はこんな性格でも天才ピアニスト
私のバイオリンを上手くカバーしてくれるだろう
自分で言うのもアレだけど、さっき初めて弾いて、ここまで弾けるようになったんだから、私にはバイオリンの才能がある
幻想即興曲のメロディーくらいなら分かるし、多分弾ける