金持ちは勝手すぎて困る
「ただいま〜っと」
誰もいない玄関に向かって小さく呟く
親がいないとかそういう訳じゃなく、まだ仕事から帰ってきてないだけ、まだ11時だし
夏休み前日
午前中で家に帰る事が出来、そして宿題の恐怖に襲われることのない素晴らしい日
ルンルン気分で靴を脱ぎ、端っこに揃えて階段を上り、一番奥の部屋に入る
すると必ず…
「あ、おかえり杏奈ー!」
開け放たれた窓とこいつ__ベッドで少女漫画を読んでいる幼馴染の本郷剣人がいる
いつも幸せな時に限って、こいつはいる
「おかえりじゃないし、何でいつもいるの」
剣人に向かってバッグを投げつける、見事腹に命中
「いってぇ…いやだってさ、この窓外から鍵開くじゃん、合鍵作っちゃった♡」
と、ポケットから金色の合鍵を取り出して私に見せつける剣人、いちいち腹立つ
そして何で勝手に作っているの
「…鍵を取り替えるか、それともいっそもう開かないようにしようか」
「やめて!そしたらもう俺漫画読めないじゃん!」
「買えばいいじゃん」
「友達が家に来た時…」
「隠せばいいじゃん」
「俺が部屋出ると宝探しが始まんの!」
「宝になるような物を買わなければ、その問題は解決されるよね」
「うっ…」
「論破」
速攻で論破しちゃうから、剣人とは口喧嘩になった事がない、頭弱いし
自己紹介が遅れたが、私の名前は唐橋杏奈、地元のそこそこ偏差値の高い女子校に通う高校一年生
特に秀でた事は無し、でもとりあえず生徒会の副会長と科学部の副部長をやっている
そしてこいつ、隣に住む大金持ちの幼馴染、本郷剣人
馬鹿だけど、国際コンクールで何回も優勝するほどのピアノの天才で、音楽科がある私立の高校に推薦入学
私の部屋と剣人の部屋の間がたったの1メートルしか無いから、よく侵入してくる
不法侵入だからね?犯罪だよ?
「…それで、今日は随分と大荷物だけど何事?」
今まで気付かないフリをしていた大きなスーツケースの話題を出してみると、剣人は漫画を放って嬉しそうに飛び起きた
おいそれ私の漫画なんだけど
折れたら弁償してくれるんだろうな
「あ、これ?ほら明日から夏休みじゃん、旅行行こうって思って!」
「へー、いってらっしゃい」
それを自慢しに来ただけか、くそ、リア充め
「いや、杏奈も行くんだって!」
は?
何馬鹿な事言って…?
すると剣人はベッドに正座して、話し始めた
「杏奈さん…あなたは前世を信じますか?」
「信じません」
「即答っ⁉︎」
「そんな非科学的なもの信じるかっての」
オカルトなんて信じていたら、お前のその頭、もっと悪くなるぞ
「まぁまぁまぁ、えっと、前世の自分の墓に行くと、前世の記憶が戻るんだって!」
前世の記憶が戻る?またまた馬鹿な事を…
「それで、有名人の墓めぐりしようぜって事になったわけですよ!」
「嫌だよ?もし本当だったとして、有名人の生まれ変わりなんてそんな偶然あり得ないし
ってかそもそも明日部活あるし、お金無いし」
「部活なんて1日くらい休んだって平気だろ⁉︎金はうちが全部出すから!
それにおばさんにももう言っちゃった」
「はぁ⁉︎母さんにも言ったの⁉︎」
母さんオッケー出したの⁉︎
「リビングにスーツケース用意してあるっておばさん言ってたし」
うっ…もう用意ができてるの…?
それは…行かないと悪い気がする
「…分かったよ、行けばいいんでしょ
明日?何時にどこ集合?あ、お昼もう食べた?食べてく?」
「あ、食べる!あと今日出発!」
は?
「着くのは明日だからさ、14時のフライトで」
「ちょっとまって、前日出発とかどこに行くつもr」
「昼飯なにー?俺ラーメン食いたい」
「ちょっと聞いてる⁉︎」