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第8話 町へ出る

 


 とりあえず職業を調べるのは止めにして今後の課題を考える。


 まずは調合と錬金、それと鍛冶も覚えたい。


 魔法は見せてもらえればイメージを(つか)んで、まね(呼称発動)できる可能性が高い…

 それに異世界と言えば冒険者! まずは町に出て情報集めかな?


 時間を確認すると8時。おなかがすいたなぁと思っていると


 コンコン


「陽二様」


「はい」


 返事をして扉を開ける。タオルのメイドさんだ。


 この王宮には100人近くのメイドさんや王宮の手入れをする人族が居る。

 8割は住み込みで、その中の1割が『家族枠』と呼ばれる18歳未満で未婚の女性。


『家族枠』とは弱い立場の女性を守る法律があって


『家族と同じ様に接しなければならない』

 と言う法律だ。


 つまり王宮で働いている限り18歳未満で未婚の女性は、王様の娘という事になるのだ。


「おはようございます。今よろしいでしょうか? 王様から朝食のお誘いです」


「はい。ちょうど、おなかの虫が騒いでいました」


「まあ、それは大変ですね。ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」


 *


「それで陽二、疲れは取れたか?」


 王と2人で朝食をいただいている。


 パトリックの姿は見えない。

 朝早く勇者のレベルを上げるため王宮を出たそうだ。


 メニューはご飯にみそ汁、目玉焼きとハム。

 ご飯は元世界と同じくらいの品質でうまい。みそ汁はちょっと濃い、目玉焼きも普通にうまい。


「このハム! すごいおいしいです」


 そう絶品なのだ


「それは『オーブタ』と言う魔物の肉だ。うまいだろう」


「おいしいですね。何も付けてないのに塩っけと甘味が絶妙です」


「それは良かった」


「この世界にも米やみそ(・・)があるんですね。元の世界とほぼ一緒です」


「米とみそは異世人から伝わった物だ。みそはだいぶ作れるようになったが…米は難しいな」


 確かに。俺の実家でもみそ(・・)や米も作っていた。みそは材料さえあれば1日で仕込める。

 作りたての(わか)い白みそもうまいし1年も寝かせれば色も味も変化して、これまたうまい。


 米は、ほぼ毎日面倒をみないといけないから大変だ。


「実は謝らなければならないことがある」


 と唐突(とうとつ)に言うダグリオス


「何をですか? 俺は何かをされた覚えはありませんけど」


 むしろ得した気分だ。


「玉を使って死人が出たと言ったが、あれはウソだ。

 せいぜい魔力を吸われて気絶する程度だったが、使い方は本当に知らなかった。


 そして『異世界の勇者はこの世界に残ることはできない』と言ったのは本当の事なのだが……

 それを利用して『勇者』を手に入れようと計画した。われわれには力が必要だったのだ……本当に申し訳ない」


 ダグリオスが陽二に向かって頭を下げた。


「いえいえ、全く気にしていないです。むしろ面白くなって来たので結果オーライです」


 そう、おかげで職業もスキルもゲットできたのだ!


「さすが元勇者。器がでかいわ! 褒美だ。何でも言って良いぞ?」


 ダグリオスは、そう告げると勢いよく飯を食らいみそ汁を飲み始めた。


 どうやらその事を気にしてあまり食事がのどを通らなかったようだ。


「ダグ、いえ王様。褒美とは違うのですが、俺からも謝らなければならない事があります」


「謝らなければならないこと?」


「あの玉ですが…いろいろと調べていたら手違いで壊してしまいました。申し訳ありません」


 陽二も深々と頭を下げ、玉を取り出しダグリオスに渡す。


「見た目では分からぬが……まあこれでお相子様(あいこさま)だな。

 どちらにせよ人族に勇者が生まれたのだ! その事を考えれば些細(ささい)な事だ」


「かるぅ! でもそう言ってもらえると正直ありがたいです。あと、できればここを出て町で暮らしてみたいのですが……」


「そうか……昨晩の話からすると、陽二からは役に立つ話も聞けないだろうしなぁ……良かろう。好きなときに出て行くが良い」


「ありがとうございます」


「『勇者』の礼ではないが、身分証明カードと1年分の生活費も出そう。1年たっても生活に慣れなければ元の世界に帰るのも良かろう」


「ご配慮ありがとうございます。早速、今日の昼にでも町に出てみます。宿が取れたらそのまま町で暮らしてみたいと思います」


「そうか。いつでも訪ねてきてくれ、遠慮はいらんぞ」


「分かりました」


 陽二は部屋に戻りワクワクしながら準備をしていた。


 荷物もないので準備も何もないけどね……


 くつろぎながら何を見て回ろうか考えていると、陽二が王宮を出て行く事が伝わったのだろう。たくさんの人物が訪れ何か役に立つ情報はないか質問攻めにあった。

 

 面倒に感じた陽二は予定を早め出ることにした。


*


 外に出ると振り返り建物を見る。


 中心に5階ほどある円柱状の建物、その左右に3階ほどのアパートが合体しているような建物だった。

 入口は左右の建物と中心の建物の1階に1つずつ。陽二の泊まった部屋は右側にあったみたいだ。


 中心の4階に見送るダグリオスの姿が見えた。


 中からは分からなかったけれど城には見えない。よく漫画とかである、王様の前にひざまずき謁見(えっけん)する様な部屋はなかった可能性が高い。ほとんどの人はここを王宮と呼んでいる。


 振り返り花壇や植木の道を抜け門まで向かう。門から建物までは100メートルほど。

 花壇の向こうはグラウンドになっていて兵士が練習をしていた。門までたどり着くとそこにはカリンの姿。


「おはようカリン。もしかして見送りに来てくれたの?」


 カリンは昨日と同じ様なデザインの服を着ていた。色が黒と白2色になっていてマントを羽織(はお)っている。とても落ちついた感じだ。


「何を言っているのかしら、町に出るのでしょう? 私も一緒に行くに決まってるじゃない。常識のない陽二を1人で行かせる訳ないでしょう?」


 ふう、やれやれって感じで首を振る


「もう王宮に戻って来る気はないんだけど…それでもいい?」


「知っているわ、王様にお願いされたからついて行くのよ。2、3日は陽二の面倒を見ることになるわね」


貞操(ていそう)観念(かんねん)が低い!?」


「あなた馬鹿じゃないの? 私は魔法が使えるし剣術もすごいのよ? もしヘンなまねをしたら……アンタなんて秒よ! 秒!」


なぜ2回も言った……


「カリン、キャラかわってるよ? それともう少しお嬢様っぼかった気がするけど……あとアンタって」


「ふう、やれやれだわ。これでも王子の婚約者候補の1人なの。それでそれなりに(・・・・・)行動しないといけないのよ」


おっと重大発言。何だと? リックのやつめ! うらやましいぞ


「別に私は王子と結婚したい訳じゃないのよ? 家に言われて来てるだけで……魔法の勉強もいわば方便ね。私の夢が(かな)うなら王子でも異世界人でも誰でも構わないわ」


「誰でもって…投げやりだな」


「言い方が悪かったわね。私は冒険者になりたいのよ。でも領主の娘だし……いろいろとあるのよ。だから冒険者になれないなら誰でも一緒かなって」


「王子と結婚したらゆくゆくは王女様じゃんね?」


「興味ないわ」


 そう言うカリンはカードと袋を投げてきた。


 受け取って見ると読めない文字が書いてある。

 おそらく身分証明書なのだろう。袋には金貨2枚と銀貨が40枚も入っていた。


 日本円にして240万円。

(陽二の感覚で物価と照らし合わせた金額)


「えっ…何これ? 大金じゃん金貨だよね?」


「1年分の生活費よ。でも多いわね? 陽二……あなた、何かしたの?」


「何もしていないし、無罪放免だよ」


「まあいいわ、取りあえず行きましょうか。そう言えば…お昼まだなのよね。あら? 小金虫さんが居るじゃない。良いお店を教えてあげるわ! 当然、陽二のおごりよ?」


 そう言うとカリンは手を(つな)いで(しぶ)る陽二をひっぱって行った。


 グラウンドの向こう側では何人もの兵士が何かを叫んでいた。


 *


 王宮の敷地は高さ2メートルの壁で囲まれている。

 正面には横幅3メートルの門扉(もんぴ)が2つ、昼間は門扉が開放されていて誰でも入る事ができる。

 裏門もある。そちらは正面より小さいが荷馬車が通れるくらいの大きさはある。


 王都は王宮を中心として東西南北に大きな道が町の外まで続いている、そのまま道なりに進むと他の町に行く事ができる。


 北に行けば、北の(とりで)サラマン


 南に行けば、港町サラデインと大森林シノフィール


 東に行けば、鉱山都市スノーム


 西に行けば、セナドゥース


 ちなみにダグリオスの話でも出た(とりで)と言うのはサラマンの事ではなく、王都から1000キロ以上も離れた場所にある北の(とりで)の事だ。

 

 (まぎ)らわしいので、普通はサラマンと呼んでいる。


 マツサもそうだが、北の(とりで)も勇者が呼ばれた時代に滅んだ町の跡らしく、そこを拠点として開拓を進めている。


 北の(とりで)からセナドゥースまでの間にも小さな町がある。しかし王都周辺に比べると魔物も多く危険な場所だ。

 ちなみに、マツサや小さな町の存在を知っている人は少ない。


 魔物と言えば魔獣と呼んでいる獣もいる。違いは魔石を持っているか持っていないか。

 ただ、同じ獣がダンジョンにも出現して魔石を持っているため一括(ひとくく)りにして魔物と呼ぶ人も多い。


 一番身近な魔獣がオーブタ。

 王都周辺の人族が暮らす場所、遠くはマツサや北の砦付近でも見られるオーブタは、魔石(・・)を持っていないので結界路を自由に行き来する。

 しかし、ダンジョン内のオーブタは魔石を持っているのだ


 話を王都に戻すと、その大通りには王都にしかないお店や娯楽施設が集中している。

 王都の基本産業は農業と観光、最大の目玉が娯楽になる。


 そして、陽二とカリンが向かったお店も大通にある


 カリンおすすめの店の経営者は異世界人。

 お店は元世界のファミレスに作りが似ている。


 値段も手頃で店員の対応も良くとてもおいしいと評判なのだ。ただ、店に入る時に店員が大量の塩をまいていた。


 嫌な客でも来たのかな? と陽二はその姿を見て思った。


*


「いらっしゃいませ。2名様ですね、こちらへどうぞ」


 フロアスタッフに案内され席に着く。フロアスタッフの制服もカリンの服装に似ている。


 王都はセーラー服ブームなのだろうか?


 文字が読めないので、カリンに教えてもらいながらから揚げ定食(・・・・・・)みたいな物を注文した。


 メニューには粗いながらも写真が付いていた。


 かわいいフロアスタッフに運ばれて注文したメニューが届く。

 中には見たこともない野菜も入っているが鳥肉のから揚げにキャベツの千切り、レタスにトマトやマッシュポテト、ご飯におみそ汁……違和感が全くない。


 味も醤油(しょうゆ)ベースにニンニクがきいてサクサクジューシーでおいしい。

 おいしいけど…何か納得できない。


 異世界っぽさが、感じられない!

 そして量が多い! 2人前くらい平気でありそうだ。


 カリンは単品で頼んだため1つ1つの量は少ない、だが全部合わせれば陽二より間違いなく量が多い。

 こちらの人はエネルギー消費が多いのかもしれない。周囲の人も結構な量を食べている。


「あ~幸せ。ふっふっふっふ ふふふふ~ん」


 カリンはパフェみたいな物を食べながら鼻歌を歌っている。

 パフェを食べる前にカリンが食べた物は、オムレツが乗ったスパゲッティと鳥肉の照り焼きに……


「カリンって結構食べるんだね……」


「何言ってるの失礼ね、私は小食って言われているのよ? このくらい常識(ツネシキ)よ!」


 ツネシキ? じょうしきの事だろうか? 突っ込んだ方がいいのか? 


「ねえ陽二!」


 ちょっと食べ過ぎた……それに周囲の人たちの食いっぷりを見ているとリバースリサイタルしそうだ。 

 

 陽二は()き気を我慢してこたえる


「うぶ。な、何?」


「今から映画に行かない?」


 今まで大人びた態度だったカリンが、無邪気な子供の様にキラキラとした表情に変わった瞬間だった。


 不覚ながらもかわいい(・・・・)と思ってドキッとしてしまった。

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