第88話 黒マント VS 可憐ウィッチ
ゴブリン将軍は見たこともない黒ローブたちが、ゴブリンキングの協力者として現れたこと、それと、カクですら初めて見た小鬼爆弾を使って、同胞を巻き込んだ攻撃をしたゴブリンキングへ疑心暗鬼になっていた。
もしかして――俺たちは『すて駒』なのか? と……
「スケ。仲間を集めて要塞の中に隠れていろ。それと、ちりぢりになってしまった仲間を救出する部隊を編成しろ」
カクは、序列二位のゴブリン将軍に指揮を任せると、ゴブリンキングに説明を願うべく、天井に向かって話を始めた。
「ゴブキン様。あの者たちは、何者なのですか?」
その問いに、天井から返答が返ってきた
「おまえたちが気にする必要はない。ただの、ダンジョン経営コンサルタントだ」
コンサルタント?
その言葉の意味が、理解できないカク
「後は彼らに任せて、そこで陣形を整えて待っていろ」
「あのゴブリンの顔をした、爆発する魔物は何なのですか? なぜ、我々まで巻き添えに――」
「実験だ。まだ制御が上手くできなかっただけだ、もう使わん。しかし、仲間はいくらでも増やすことはできる……気にするな」
「わ、分かりました」
渋々と納得したカク。陣形を整えるべく、スケの後を追って要塞の中に入っていった。
*
あれよ、あれよと話が進み、ゴブリンとの対決は一時中断になって、桜を取り戻すため黒マントたちと戦うことになった可憐ウィッチの二人。
王城要塞の最上段では、桜を人質にしている黒ローブの少年、気絶したナーナを抱いているランスロットとパトリックの三人が、カリンとパトリシアの戦いを見守っていた。
一メートルの円の中心に立っている黒マント一号と戦っているのは、スマイルセーラーことカリン。その円から外に出すか、一撃でも攻撃を当てるのが勝利条件になる。
しかも、相手は攻撃を一切しないという好条件のハンデ付き。この条件はパトリシアも同じだ。
「風の剣!」
風の真法剣で俊敏性をアップしたカリンの剣が、黒マント一号を襲う。
シュッ! シュッ! シュッ!
とあらゆる角度から剣で攻撃するが、全く当たってくれない。黒マント一号は、わずかな動きだけで、なんなく躱す。完全にカリンの剣は、見切られているのだ。
「余裕ね。何か言ったらどうなのよ!」
「――」
全く攻撃が当たらない事に焦るカリン。誉めるつもりではないが、極わずかの尊敬とも取れる念を込めて黒マントに声をかけた。
――無言。黒マントはカリンを完全に無視している。相手をするだけ無駄! とでも言いたいのか……
カリンは、スピードを維持したまま空中を蹴り、立体的な攻撃を組み合わせる――それでもあっさりと躱されてしまう。
残り五分。この勝負には、十分間の時間制限が設けてあるのだ。
剣での攻撃は全く通用しない。それなら別の手を使うだけ
「円から出られない相手に卑怯だけど、使うわよ! 炎の防壁!」
黒マント一号が立っている円を取り囲むように、炎の防壁を作り出した。
近付いただけで、ゴブリンを火だるまにするほどの防壁。それが三百六十℃、囲んでいるのだ。その中は灼熱の地獄といってもいいだろう。
さらに、その炎の防壁の輪は、黒マントとの距離を縮めるべ小さくなっていく
「早く逃げなさい。あなた、死にたいの?」
カリンの声が届いていないのか、全く動く気配がない黒マント一号。
だが、これは勝負。
例え相手を殺してしまう事になろうとも、魔法を解除する気は、これっぽっちもない! 炎の防壁は、瞬く間に一つの炎の塊へと変わり、黒マント一号の姿を飲み込んだ。
しかし、炎に飲み込まれた黒マント一号は微動だにしていなかった。この程度の炎、脅威にもならないと言うかのように――しかし、この炎がアスモデウスの作り出した煉獄灼熱であれば、話は別だっただろう。
時間切れまで悠々と、たき火にでも当たっているかの様に立ち尽くしていた黒マント一号。
これでは攻撃が当たったとは、口が裂けても言えない。
この勝負、カリンの負けが決定した。
同じ様に反対側では、黒マント二号とパトリシアの戦いが行われていた。
始まってすぐに黒マント二号は、聞こえない声で魔法を使った。それは、立っている黒マント二号を包むように出現した黒い壁。
「ピュアスター!」
杖の先に付いている正十二面体で攻撃するパトリシア
だが、正十二面体は壁に弾かれ全く効果がない。
「火土の攻撃!」
「嵐の攻撃!」
「風氷の攻撃!」
どの魔法も、黒い壁に吸い込まれるように消えてしまう。
「あの壁――魔法を吸収、する? ――」
しかし、物理攻撃といえばピュアスター。すでに弾かれ通用しないのは明白。
「これならどう?」
ならばと、角度を変えて攻撃する作戦に切り替えた
足元の土を盛り上がらせて、円の外に押しだそうとしても、魔法は発動すらしない。壁を作り出して、押し潰そうとしても吸いこまれてしまった。
ピュアスターで『えいっ』と叩いてみた。
→吸い込まれる事はなかったけど、弾かれた
拾った石を、『えいっ』と投げつけてみた
→跳ね返って、おでこに当たった。涙目になった。
水、火、土、風、氷の属性魔法は、全て吸収されてしまった。
いろいろと試している内に打つ手なしの状態のまま十分が経過。
パトリシアの負けも決定した。
*
「話にならないよ。弱すぎ」
全くの無傷で、カリンの魔法でも焦げ一つない一号
パトリシアを、魔法一つで完封した二号。
「次は私の番だ!」
「私も妹の敵を取らせて貰おう」
とランスロットとパトリックが再戦を申しでるが……
「時間切れかな」
と黒ローブの少年が呟いたのと、同時だった。
「本条流弐段。紅蓮・魔神昇!」
「立花流弐段。地獄闇雷光拳!」
確かに聞こえた、唯とアスモデウスの声。
ピシッと大きなヒビが結界の表面に現れたと思ったら、ヒビは全体に走り始め、ガラスが割れるように結界は崩れ落ち、二つの影が飛び出した。
「くだらぬ罠なぞ仕掛けおって!」
とアッパーカットみたいな体勢で飛び出して来たのは、唯。
天井まで届くほどの勢いで上昇。
その上昇中に、周囲の状況を確認する唯。
天井の手前で水泳のターンのようにくるっと回転すると、天井を蹴り反動をつけて黒ローブの少年へと急降下!
「己は、誰に手をかけておるんじゃ!」
まさに鬼!
その形相にチビリそうになった、とのちにカリンは語る。
「この魔法陣は知っています! あなたはマモンですね!」
フジヤマで、ランスロットが倒れていた周囲を入念に調査していたアスモデウス『闇の牢獄』の魔法陣の跡を発見していたのだ。
拳を突き出したままの体勢で、結界の側面から飛び出して来たのは、アスモデウス。瞬時に状況を確認すると、目の色が変わった!
「誰に刃物を、向けているのですかぁ!」
地面を蹴り、マモンと同じ高さまでジャンプすると、くるっと回転して、ライダーキックみたいな姿勢でマモンに突っ込んだ。
唯とアスモデウスのスピードは、ランスロットでさえ目で追えないほどだった。
二人の大切な宝物が、傷つけられているのだ!
唯は産みの親として、アスモデウスは育ての親として
その行為を許すわけにはいかない。全殺しだ!
「同志時間!」
アスモデウスに正体を見破られた黒ローブの少年、マモンは素早くスキルを使った。
同志時間
スキルの使用者と、仲間の時間を一瞬だけ引き伸ばす。
その間にも、マモンへと猛烈な速度で近づく唯とアスモデウス。
しかしその時、信じられない現象が起こった。
攻撃の間合いに入った瞬間、二人の体がウソのようにピタッと停止したのだ。
これは、マモンの攻撃なのか? いや違う。
ピタッと停止したかと思われたが、唯の右手とアスモデウスの右足は、今までよりも速く強く動き続けていた。
これぞ魔技の真骨頂とも言える、普通ではありえない方法。ニュートン先生も運動の法則さんも全力でツッコミを入れてくるだろう。
普通ならば体ごとマモンに突っ込むところだが、その体全体を動かしていた力を、攻撃する力に加算したのだ。
この方法。残念ながら初段にすら届いていない桜やランスロットに使う事はできない。
「本条流初段 紅蓮!」
唯の鋭い手刀がマモンの頭部を貫く
「立花流弐段 地獄闇雷光蹴!」
アスモデウスの黒い雷を纏った蹴りが、マモンの脇腹に突き刺さる。
が、マモンの姿は二人の攻撃を受けたのにも関わらず、何でもない様子で、二人を嘲笑うかの様に消え去ってしまった。
「「!?」」
驚くその二人に、攻撃を仕掛けるべく接近していた黒マントたち。
「死ね! 暗黒魔剣!」
唯の背中を、黒マント一号の剣が襲った。
「甘いのじゃ! 迷迭香!」
左肘を後ろに振りかぶる力を利用して体を反転、両腕に巻き付くように出現した、迷迭香で黒マント一号の剣を受け止めた。
迷迭香
唯の具現化武器。本来は鞭として使う。
腕に巻けば女帝魔甲と命名した手甲になる。
今回は女帝魔甲として呼び出した。
「からの蹴りじゃ!」
ズシュ!
反転させた反動で、回し蹴りへとつなげた唯。
黒マント一号の脇腹に、ピンヒールの先端が突き刺さった。
「ぐがっ――マジかよ。こっちは同志時間を使っているんだぜっ――」
その言葉を残して、スウッと黒マント一号の姿が消えた
そして、もう片方の黒マント二号
「あなたが一番の危険人物。だそうです」
アスモデウスを真上から襲った黒マント二号。左手には瓶を持っている。
「暗黒魔術!」
パトリシアの魔法を吸い尽くした黒い壁。いや闇か? それが超至近距離、黒マント二号の手のひらから放たれた
「魔技 勇鏡」
勇鏡
魔法を反射する
アスモデウスは、超至近距離からの魔法攻撃に焦ることなく手のひらから出した、勇鏡で見事に暗黒魔術を反射させた。
だが、黒マント二号の体に跳ね返した魔法は、ダメージを与えることはできず同化する様に消えてしまった。
「同志時間に対応できるのですか?」
そう言いながら、左手の瓶をアスモデウスに投げつけようとするが
「闇雷光!」
それよりも先にアスモデウスの放った黒い雷が、瓶を持つ手を貫いた!
「化け物め!」
捨てゼリフを残し、黒マント二号も姿を消した。
この攻防、わずか一秒の出来事だった。
*
突然目の前からマモンが消え去り、変わるように現れた唯とアスモデウス。
それに驚くパトリックとランスロット。
当然ながら、何が起こったのか分かっていない。
消え去ったマモンの行方を探る唯。女帝手甲は消えている。
「ランスちゃん。黒ローブの少年は、マモンです。カリンさんもパトリシアさんも、すぐにこちらへ戻ってきてください!」
アスモデウスの声を聞いたカリンとパトリシアは、急いで戻ろうと走り出した。
「あいつがマモンか――なぜ、私の事を知っていたのだ?」
考え込むランスロットに、アスモデウスは急がせる様に指示を出す
「ランスちゃん! 桜ちゃんが捕まっているのです。そして、マモンや黒マントの実力は未知数です。弱体化は解除して、できる限りの強化をしてください」
「わ、分かった」
「おったのじゃ」
その時唯は、通路の前に姿を現したマモンを発見した。しかし黒マントたち、そして捕まっているはずの桜の姿はなかった。
「桜はどこじゃあ!」
王城要塞が陥没するかと思うほどの脚力で飛び出した唯、そのすぐ後を追うアスモデウス。
「ま、待て、アスモ」
と声をかけるも、飛び出したアスモデウスを止めることはできなかった。
ランスロットからもマモンの姿は確認できているが、黒マント達の姿は確認できない。ランスロットは、ナーナを下に寝かせて最大の警戒体制でカリンとパトリシアの到着を待つ
「動くな! あの赤い髪の女の子が、どうなってもいいのかい?」
と迫りくる唯に向って言葉を投げかけた。当然、アスモデウスにも聞こえていた。二人は、その場で緊急停止。
桜の行方が分からない以上、マモンの言葉を無視する訳にはいかない。
マモンが言葉を発したのと同時に、カリンとパトリシアのすぐ背後から黒マントが現れた。それは二人が、最上段に登りきった直後だった。
「暗黒魔術!」
「暗黒魔剣!」
黒マントたちは本気だ! 殺す気で襲ってきている。危うし可憐ウィッチ
だが、ランスロットは警戒を怠ってはいなかった。
乙女大剣を下向きに構えたまま飛び出し、カリンと黒マント一号の間に乙女大剣を振り上げ、暗黒魔剣を防いだ。
キィン、と金属の弾ける音がした。
「私の名はランスロット。私の目が黒いうちは好きにはさせん!」
もし、陽二がこの場所に居たとしたら『おまえの瞳は青!』と空気も読まずにツッコンでいたかもしれない。
黒マント一号は、弾かれた剣の勢いを利用して、そのまま後ろに回転しながら捻りを入れ、ランスロット目がけて横凪斬りを繰り出してきた。
ランスロットも負けてはいない。柄を持ち上げ、乙女大剣を縦に構えて足でおさえ、剣の腹で受け止めた。
ギィィーン!
と先ほどより鈍い金属音がした。
黒マント一号は剣に力を込めて、乙女大剣ごと斬る勢いで押し込んだからだ。そのまま鍔迫り合いみたいな形になると、黒マント一号が話しかけてきた。
「我が黒眼が黒いうちは、好きにさせないだと?」
「私は、そのような言い方はしていない!」
体勢を整えスマイルソードを構えたカリン。心の中で『どっちでもいいわ!』とツッコンでいた。
「城の壁!」
その反対側、パトリシアを守ったのは正真正銘、お兄様のパトリック。咄嗟の判断で、黒マント二号を城の壁で囲んだ。
その間に、パトリシアはパトリックの隣に辿り着く。
「落壁!」
さらに、囲った城の壁を落壁で挟みつぶした。
だが、挟まれるその前に、囲んだ壁に暗黒魔術が通用しないと理解した黒マント二号は、城の壁に瓶を投げつけた。
中の液体は城の壁を溶かし穴を開けた。その穴から瞬間移動で、見事に脱出した。
だが、無傷で穴から脱出した黒マント二号は、腑に落ちない表情だ
「なぜ、暗黒魔術が通用しない? あの化け物なら理解できますが……おまえは何者だ?」
パトリシアを背中に庇いながら、前に出るパトリック
「私の名はパトリック=クルシュナイン。勇者だ!」
「勇者? ばかばかしい」
鼻で笑いながら瓶を投げつけようとした。
「ならば見せよう。出でよ、迷宮地帯!」
*
アスモデウスは、ジリジリとマモンに近づいていた。当然、その動きなど分かっているマモンは
「あちらの戦いに、手出しをしては駄目だよ?」
と唯にその場で留まるようにジェスチャーをしながら、アスモデウスを唯の隣に呼び寄せる。
「マモン。桜をどこにやったのじゃ? タダで済むと思うなよ?」
今にも噛みつきそうな唯。二人ともマモンと直接、面と向かうのはこれが初めてだ。しかしながら、豊の中で見ていたマモンは、二人のことをよく知っている。
「魔王ユリシーズ如きが、吠えないでくれるかな?」
マモンにとっての唯とは、かつて、簡単に一撃をあびせたことのある相手なので、負ける気など、さらさらない。
そのあと、どこかで朽ち果てたのかと思って、忘れていたほどの存在なのだ。長い年月をへて再び目の前に現れた事に、少しの疑問を感じない事もないが、それだけのこと。
勝てない相手は、アスモデウスだけと考えて警戒していたが、先ほどの攻撃で見えたアスモデウスの実力。
限界突破で、レベルを上げまくった自分と比べてみると――『この程度の強さに、何を怯えていたのか』と思えてしまう。いつの間にか、追い越して突き放してしまったらしい。
「クックックッ。僕は、強く、なりすぎたようだ!」
ゼラゴールドの事が一瞬だけ頭によぎるが、あの時は不覚を取っただけで、たまたまだ! 次戦えば、確実に勝てる!
と思っていた。
昔の名前を気安く呼ばれて、ぶつぶつ呟くマモンにイラッときた唯。
「桜と司はどこじゃ。司が生きておることは、分かっておる。キリキリと吐かんか!」
と、いまにも掴み掛かりそうな唯の手をおさえながら、時間や未知なる能力を警戒して、アスモデウスも問い詰める。
「桜ちゃんはどこですか? 返しなさい」
マモンは、二人の必死さに笑いが込み上げる。
だが、なぜだ? どうして、あの少女にここまで必死になる? 何かあるな……
マモンは、桜が唯の実娘ということを知らないのだ。司と唯が結婚したことは知っていたが、唯が妊娠していることを、司は誰にも話していなかったし、唯もアスモデウスと常に身近に居た、五聖霊にしか打ち明けていなかったからだ。
「確かに……ユリシーズの言う通り、司君は生きている――かもしれない。教えて欲しいかい?」
「あたり前じゃ」
マモンには、他にも聞かなければならない事がてんこ盛りなのだ。が、やっぱり一番最初に知りたいのは、司の事。
唯は、前のめりになりそうな自分を抑えながら、あくまで淡々とマモンに言葉を返した。
「それじゃあ……教えてあげるから、君たち二人で戦ってみてよ」
マモンは笑いながらそう言った
「そんなことは、できない――」
とアスモデウス。だが唯は違った。
「なるほど、本条と立花。どちらの魔技が上なのか、ハッキリとさせておくのも悪くない。まあ、本条流じゃがのぉ」
と、あえてアスモデウスを煽る
「唯。こんな時に何を言っているのですか! 桜ちゃんが捕まっているのですよ? ですが……立花が上に決まっています!」
コクッと頷く唯
「マモン。妾たちの戦いを、特等席で見せてやってもいい――じゃが、桜にも観戦させるのが条件じゃ」
「ふーん。いいよー、まあ、僕より弱い物同士、頑張って」
ひょんな事から始まってしまった流派の争い?
果たして勝つのはどっちなのか




