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第86話 ゴブリンダンジョン3 

 

 右側へと飛び出した唯。


 空中でニ丁拳銃(ダブルニードル)を準備すると両腕を伸ばして照準を合わせる、そして、右腕だけを目の前まで引いた。


 右手と左手の間には圧縮された魔力。それは、まるで一本の矢の様にも見えた。


狙い撃ち(アサルトニードル)!」


 ビュッ! と空気が弾けた音がしたかと思った瞬間

 王城要塞を狙っていたゴブリン将軍の体を何かが貫いた。


「ぐべっ」


 それがゴブリン将軍最後の言葉になってしまった。貫かれたゴブリン将軍は、攻撃の衝撃で後ろに吹っ飛ばされて見えなくなった。


 実はこのゴブリン将軍の後ろはそこそこ急な勾配になっていて、普段はゴミを捨てる場所になっている。そのゴミはダンジョンに吸収されてエネルギーに変換される。


 吹っ飛ばされたゴブリン将軍は勾配をゴロゴロと転がって落ちていったのだ。


「くそぉ、今のは何だ?」


 王城要塞の後方にあった物と同じ装置で攻撃をしていたゴブリン将軍。一方的に攻撃ができると思っていたのに、突然の強襲で驚いていた。

 装置の影に隠れて、何かが飛んできたと思われる音がした方向を確認する。


「あれか!」


 ゴブリン将軍の目に、赤いドレス姿の唯が見えた。


 距離にするとおおよそ百八十メール。この程度の距離、見えてあたりまえ。ゴブリンの視力はとてもいいのだ。


 すぐに装置の照準を真っすぐこちらに向かってくる唯に合わせる。だが、ゴブリンの頭を踏み潰しては、ピョンピョンと飛び跳ねてくるので照準を合わす事ができない。


「駄目だ、当たる気がしねぇ。ゴブリンナイト、そこで足止めをしろ。ボブゴブリンは結界を張って侵入を阻止だ!」


 ゴブリン将軍が指示を出したのは、五十メートル先にある場所に作ってあった休憩場。そこにはゴブリンナイト三十体にボブゴブリン五体の後衛部隊がいた。

 そこで足を止めさせて、狙い撃つ作戦だ


 その休憩場の目と鼻の先まで、そんな事など知らない唯が近づいてきた。


 ゴブリン将軍は当てる気まんまんで、装置の照準を休憩場に合わせた。


 *


 アスモデウスと阿吽(あうん)の呼吸で飛び出した唯。先制パンチングならぬ狙い撃ちで、王宮要塞を攻撃したゴブリン将軍をいとも簡単に遠方から撃ち抜いた。


 いつもの指鉄砲から繰り出す風の攻撃(ウィンドニードル)でも届くが、距離があるため威力は落ちる。一発で仕留められらか不明だったので狙い撃ちに切り替えた。

 ただ、それもあるが、こちらに注意を引き付ける意味合いも大きかった。


 その正確無比な射撃の腕前をいったい、どこで身につけたのか? 


 むやみに唯の背中を取ろう物なら『(わらわ)の後ろに立つな』と撃ち抜かれてしまうかもしれない。

 また『どうすれば正確に射貫く事ができるのですか?』と質問すれば『運が四十%じゃ!』と答えるのかもしれない――どこかのスナイパーみたいに


 とにかくゴブリン将軍の情報で、筒を使えるのはゴブリン将軍とゴブリンキングだけ、と知っている唯は、その使い手を先に潰したのだ。


 コブリンの頭を足場にピョンピョンと飛びながらゴブリン将軍の元へ近付いて行く唯。あわてて照準を自分に合わせていることを見抜いていたので、回収がてら近付くことにしたのだ。


 当然、その前にゴブリンナイトたちが待ち構えている事も承知している。『やる気なら()る』パトリックの意思も尊重している唯だが、ハズキのおとしまえ(・・・・・)には、前回倒した数では全然足りえないのだ。


 ダンジョンに入る前から宣言しているが、牙を剥く者には容赦はしない。自分からケンカを売りに行ってる様にも見えるのは置いといて……


 スタッ


 華麗に月面宙返り(ムーンサルト)を披露して、ゴブリンナイトたちが集まっている目の前に着地。もう一度ジャンプして、次は前方宙返り三回ひねり(シライ2)でゴブリンナイトたちの中央に着地した。


「おおおお!」


 拍手喝采! 素晴らしい技の前には、敵も味方もないのだ!


 しかし――ザザ、ザザっと距離をあけ、槍を向けて唯を取り囲んだ。

 

 さっきの拍手喝采はどこに行ったのやら……


 ドヤ顔で拍手を受けていた唯は、落胆の表情に変わった。


 ――やはり、やり合わねば(・・・・・・)ならぬのか――と


 開戦の合図は、一発の砲弾だった! 


 見事な着地を決めた唯を見たゴブリン将軍は、今だ! と思い筒のお尻にハンマーを振り下ろした。


 唯を狙って斜め下へ発射された砲弾は、唯の掌打で軌道を変えられ三体のゴブリンナイトを貫いた。


「ショットガン・フォーメーション!」


 ナイト弾丸(パレット)で次々と突っ込んでくるゴブリンナイトを残らず蹴り上げ、二丁拳銃で蜂の巣にして瞬く間に半数以上のゴブリンナイトを始末した。


 この間、唯は一歩も動いていなかった!


「まだやる気なら、手加減はせぬ!」


 『ふ』っと指先に息を吹きかけ、間を作る唯


(わらわ)の相手は、筒を扱うゴブリン将軍のみ、おとなしくしておれば、見逃してやるのじゃがのう?」


 と言ってみた。本気で言ったわけではない。


「う、うわあああ!」


 とゴブリンナイトたちは、一目散に勾配の向こう側へと逃げて行ってしまった。


「「あ、ちょっ」」


 その姿に思わず出した声。見事に唯とゴブリン将軍はハモってしまった。


 微妙な空気に包まれた唯とゴブリン将軍。


 空気を入れ替えようと『キッ』と結界を張っていたボブゴブリンを(にら)みつけた唯


「さーせん!」


 頭を垂れ、ゴブリンナイトのあとを追うように走っていくボブゴブリン


「やる気もうせてしもうた――」


 と唯は呟きながら『どうするのじゃ?』とゴブリン将軍に目で語る


 冷や汗をダラダラと流しながら、発射装置を二つとも分解して唯の近くに筒を投げ渡したゴブリン将軍。『ごめんなさい』と一言だけ残して、ボブゴブリンのあとを追って走っていった。


 *


 右側のギャグパートはさておき、左側のアスモデウスには一切の躊躇(ちゅうちょ)と温情はなかった。

 トパンの村で、女性を救助したときの現状を刻銘に覚えているのもあるが、こんな面倒事はさっさと終わらせて次に進みたいのだ。


煉獄灼熱(ヘルフレイム)!」


 一瞬で王城要塞からゴブリンの大群を抜け、ゴブリン将軍の目の前までやって来たアスモデウスは、上級の魔法で一瞬にしてゴブリン将軍を火だるまにしてしまった。


「あぎょー」


 高さ十メートルを超える火柱はニ体のゴブリン将軍を丸呑みにして大満足。

 あっけなさすぎる――桜が知れば、間違いなく残念がる事だろう。


 王城要塞を攻撃するのに使っていた発射装置もドロドロに溶けてしまい、火柱の中でイグナスから出たフンの結晶なのか小規模な爆発が起こっている。それよりも威力のある火柱に飲み込まれ、光っては消えを繰り返していた。


「よくも将軍を!」


 突然現れた火柱に驚いて、集まってきた後衛で出待ちをしていたゴブリンナイトたち、その数は百をこえる


 火だるまになったゴブリン将軍の姿は見ていないが、殺されてしまった、という事はなんとなく理解している。そして、その犯人も! 


 アスモデウスは『やり過ぎてしまいました……』と思っていた。注意をひくのは構わない。だが、ゴブリン将軍の見せ場が全くなかった事に今さらながらに気が付いた。


 普段のアスモデウスなら起こさない失敗である。


 まだまだ挽回のチャンスはあります! やり過ぎずに適度に手を抜いて、相手のいいところを引き出して――


死神鎌(デスサイズ)!」


 アスモデウスは、刃先が一メートル以上もある大きな鎌を取り出した。この鎌の名前は死神鎌(デスサイズ)アスモデウス専用の魔技で具現化された武器だ。


 ついでにゼラブルーへの変身と魔法(ヒーロータイム)での撮影も忘れていない。この魔法も、元はアスモデウスが桜のために作った魔法なので使えるのは当然。


「行きます!」


 アスモデウスは、片手で軽くビュッと死神鎌で空を斬り駆け出した。


「将軍のかたきだ!」


 ゴブリンナイト達も槍と盾を持ち、アスモデウスに向かって行った


 *


 変身しながら乙女指弾(ゼラバスター)! 着地地点のゴブリンを撃ち抜き華麗に着地を決める桜


乙女戦闘棒(ゼラステッキ)!」


 と、いつ拾った物なのか忘れた棒を取り出した。


 この棒、木の枝に似ているが気のせいだ。魔物にも通用する立派な武器だ! だが、さすがに酷使しすぎたみたいで、物持ちのいい桜ちゃんでも限界に近かった。


「うむ、今までよく耐えた! おぬしには桜丸の名前を贈ろう!」


 木の枝にも見えなくもない武器。今までどれだけ桜の危機を救ってくれたのか――桜なりに感謝の気持ちを込めて名前を贈った。


 そして……


 てい! と命名したばかりの桜丸を『用済み』とばかりにゴブリンに向かって投げ捨てた!


 なんて(ひど)い奴だ!


 いや、そうではない。そうではないのだ! 最期の攻撃に使ってあげたのだ! 最期の晴れ舞台。見事に散らせてやろうじゃないか、という桜の心意気だ。


 泣けるぜ!


 桜丸は猛スピードでゴブリンの体に激突して、貫いたか? と思ったが、見事に砕け散ってしまった。桜丸に纏っていた魔砲を解除して投げたから、当然といえば当然なのだが――


「よくも桜丸を! 敵討ちぢゃ!」


 わなわなと震え、怒りをあらわにする桜


「おまえが言うな!」


 ゴブリンの言う通りだ。おまえが言うな!


 走り出した桜を捕まえようと追いかけるゴブリン、桜はわざと群れに突っ込み、攪乱しながら逃げて考えていた。


 倒してしまってもよいが、母親の言葉『手を結べるかもしれない相手まで(あや)めるのか?』が頭のすみに引っかかる。スーパーヒーローとしてどうすればいいか――


 その逃げ回る途中で、良さげな槍を拾った。ゴブリンナイトが落とした槍だろう。


「うむ、二代目桜丸の誕生ぢゃ!」


 初代桜丸の命名は最期の最後だったのに、二代目は手にいれた直後とか――初代桜丸が、かわいそうすぎる……


 良さげな武器も手に入り考えは決まった! 命までは取らぬ、半殺しで!


 桜はしゃがみ込むと二代目桜丸を横向きにして、低空飛行でジャンプ! 


 桜の考えでは、バッタバッタと転ばして進むつもりだったのだろう。だが、実際はゴブリンの足を切断しながら進んでしまった。


 二代目に魔砲を纏わせたからだ!


「やってしもうたのぢゃ」


 が、切り替えの早いのが桜の良いところ。


 大きくジャンプをして、悲鳴と怒号を叫ぶゴブリンから距離をとると、槍の刀身を手刀で切り落とし、纏わせている魔砲を少し弱めてブオンブオンと振り始めた。


「よい感じぢゃ! 魔技の棍法捌き(クンポー)を見せてやるのぢゃ」


 くいくいっと、手のひらで『かかってこい!』とゴブリンを挑発する。


 赤い髪の女の子は、少林寺かと思うほどの棒捌きで、ゴブリン達を殺さない程度に棒打していったのだった。


 *


 変身しながら左側に飛び出したランスロット。空中で乙女大剣(エシャロット)を呼び出し、ゴブリンの大群の中に飛びこんで行った。


「纏え! 風の壁(ウィンドシールド)!」


 乙女大剣を振り回し、ゴブリンを弾き飛ばす。


「当たり所が悪ければ死んでしまうな!」


 最近起こっている面倒ごとを払拭(ふっしょく)するかの様に、乙女大剣の腹でゴブリンをホームラン!


「パールも」


 ブオン! 「あー」


「ヴァイオレットも」


 ブオン 「うぎゃー」


「残りの人魚どもも」


 ブオンブオン 「ひー」「ぐぼへー」


「まとめて、飛んでいけー!」


 ブオンブオンブオン! 


 近付くゴブリンは、次から次に火柱の後ろにある壁に向かってふっ飛ばされていく。飛距離でいえば軽く百五十メートル以上、間違いなく大ホームラン。飛ばされたゴブリンがうまく着地出来ているのを願おう


 が、このホームラン製造機ランスロットの勢いは止まらない


「あの、リンメルとかいう犬耳っ()に」


 ブオン!


「イノゾミラという、美しい金髪女性に」


 ブオン!


「カリンといったな、あの黒髪の娘に」


 ブオン!


「陽二の周囲は、どうして?」


 ブオン!


「どうして、女ばかりなーのーだぁー!」


 ブオーンと乙女大剣を持ったまま回転するランスロット。その姿は、開けても止まる事を忘れた二層式の脱水槽のようだ。

 ランスロットの回転によって、竜巻が発生しそうな勢いだ


 王城要塞の上から様子を見守っていたパトリックの表情は、見てはいけない物でも見たかの様な顔。


 ――私は何も聞いていない。聞こえていない


 そっと顔を反らし、正面を見据えた


 *


「お兄様。ただいま!」


「さすがに手強わかったわね」


 ゴブリン将軍を倒して、筒を回収してきたパトリシアとカリンが、王城要塞の頂上に帰ってきた。


 ナーナは下から二段目付近で、ゴブリンに対応している。


「シア、見事だった。ワシも父親として鼻が高い!」


「お父様――」


「カリン、本当に強くなりましたね。魔法も剣の腕も――そして強い心。あなたの先生だった事は私の誇りです。卒業おめでとうございます」


「先生――ありがとうございます」


 初めて見る娘と生徒の勇姿。

 特にカリンは師に認めてもらい、自主退学した身でありながら『卒業』の言葉を贈られ『誇り』とまで言われた。

 どれほど嬉しかった事か……


 カリンの目から、キラキラとした何かがこぼれ落ちていた。


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