第85話 ゴブリンダンジョン2
体のすぐ近くを、もの凄い速さで飛んでいった砲弾に冷や汗をかきながら、ゴブリン将軍に走りゆくカリンとパトリシア。
カリンの武器は、いつも通りスマイルソード。パトリシアは、クルクルと回転する正十二面体が特徴のピュアスター
お揃いで色違いの魔法少女衣装を身に纏い、髪の毛の色まで変わっている女の子たちだ。
ゴブリン将軍ゼブラと戦った頃に比べると、二人とも格段にパワーアップしている。苦戦はするだろうが、負ける気なんて、さらさらナッシング!
「とおおりりゃゃあ!」
力強く大地を蹴り、ゴブリン将軍に飛びかかるカリン
「ピュアスター!」
カリンのジャンプにあわせて、ピュアスターを振るパトリシア
まずは、ゴブリン将軍の隣に設置してある装置をどうにかしなければならない。
この装置、一人で攻撃ができるように改造された筒。弱点としては、狙いを定めたら変更が難しく、動く敵には弱い。
「馬鹿め! わざわざ捕まりにやって来るとは!」
ガキン! バーン!
ゴブリン将軍は、カリンが上段から振り下ろした剣をハンマーで受け止める。が、その間にピュアスターの正十二面体が装置を貫いた!
装置はバラバラに分解され、仕事を終えた正十二面体はパトリシアの元へと帰っていく。
「しまった。おまえらよくも……ジェネジャンピング!」
カリンの攻撃に気を取られ、あっという間に装置をバラバラにされてしまったゴブリン将軍。
カリンの剣を巻き込むようにカチ上げながらジャンプ。その勢いで、カリンは弾き飛ばされてしまう
それをパトリシアは見事にキャッチする
「カリン大丈夫?」
「ええ、ありがとうシア」
だがそこへ、カチ上げジャンプしたゴブリン将軍が勢いよく急降下
「死にさらせ! ジェネインパクト」
高々と振り上げた大きなハンマー。
ゴブリン将軍の落下速度と体重が合わさった攻撃。
当たってしまえば華奢な女の子二人など、グチャグチャのペッチャンコになってしまうだろう。
「風氷の攻撃!」
リンメルのお店で覚えたばかりの、氷を作る魔法と風魔法を組み合わせた魔法。直径は一メートルと小さいながらも、竜巻を杖の先から発生させ、急降下してくるゴブリン将軍を空中でストップさせる。
「いて! いてててて」
ブリザードの中には、氷の礫が混ざっている。風で威力を増した氷の礫が、ゴブリン将軍の顔面や体を襲う。
ゴブリン将軍は少しバランスを崩し、ブリザードの力によって空中で足止めをくらう。
「チャンスだわ!」
スマイルソードを横向きに変えたカリン。大地を蹴り、ゴブリン将軍に向かい、さらに空中を蹴ってスピードを加速する。
「真法剣!」
スマイルソードの刀身が緑の膜に包まれる。風の剣だ。風の効果は俊敏性向上。
魔法剣の効果には劣るだろうが、スマイルセーラーへと変身しているカリンが使えば、その効果は大きい。
そして、カリンが装備している靴はウイングブーツ。空を飛べる訳ではなく、一度のジャンプで空中を三回まで蹴る事ができる。この靴は、カリンの母親の楓が若い頃にダンジョンで見つけた特殊なブーツ。その全貌はいまだに分かっていない。
「ガチムチ横凪!」
ガチムチとは、母親に教わった言葉。
筋肉質の相手を攻撃するとき、言葉にするとなにかしらの効果がある。と教わった……
ゴブリン将軍のおなかを狙って、一刀両断するつもりのカリン。
だが、ゴブリン将軍だって馬鹿じゃない。
今まで手にしていた発破用のハンマーを頭上に投げると、どこからか自分専用の将軍ハンマーを盾になるように、体の前に取り出した。
ガキン!
「防がれたわ!」
武器を放り投げ、新たな武器を出して防がれた事に驚くカリン。
「甘いわ!」
ハンマーの部分でパトリシアの魔法を受けつつ、柄の部分でカリンの剣を防いだゴブリン将軍。
すぐさまハンマーを足場にジャンプして、頭上のハンマーをキャッチ! すぐ下には、攻撃を防がれ無防備のカリン。
「まずは、おまえからだ。死ね!」
カリンの頭部に向かって振り下ろされる発破用のハンマー
「シア」
が、カリンは特に慌てた様子もなく、パトリシアの名前を口ずさむ。すると、カリンの姿は一瞬のうちに消え去り、ゴブリン将軍のハンマーは空を斬った。
カリンは、パトリシアの元に転移して逃げたのだ。
*
「弓矢隊、撃て!」
「引きつけてから刺せ、近づく者には容赦をするな!」
的確に状況を把握して、兵士たちに指示を出す王様とライブス。
王城要塞の後ろでは瓦礫を乗り越えたゴブリンたちが、カリンとパトリシアに後方から近付こうとしていた。
それにいち早く気づいた王様は、パトリシアへと向かうゴブリンを牽制して、こちらに注意を引きつけようとしていた。
ライブスは王城要塞に近付かせ壁の内部から槍で攻撃する戦法に切り替え、うまく王宮要塞へ近づくように誘導している。
それが功を奏し、ゴブリンの流れはパトリシアやカリンよりも王城要塞へと向かっていた
そして、パトリシアとカリンの後方を守っているのは、火の精霊ナーナ。精霊の加護を持っている者でないと、姿を確認することはできない。しかしゴブリンたち魔物は、見えなくても魔力の匂いで精霊の居場所をキャッチする。
ファイヤーテールや魔法で、近付くゴブリンを屠り続けていたのだ、バレて当然だろう。
*
王城要塞の上から周囲の状況を見回すパトリック。
王城要塞で進んだ距離は、おおよそ百五十メートル。後ろの地面にできた跡が、その距離を物語る。
前方には進軍を続けるゴブリンたち。
これには落壁で対応しているので、そこまで脅威ではない。近付かれたとしても、強固な王城要塞に手も足も出ないだろう。
ただ、王城要塞を前に進ませるためには邪魔だ。
押し返しながら進んでもいいが、パトリックの心情としてその行為はためらわれる。
落壁は次の落壁を作ると、その前の落壁は消えてしまうという特性があるため、前方に壁を作ることができない。
そして、王城要塞の出撃門や伝達系を維持しているパトリックは、落壁以外の技を使うことができないので、城の壁などで壁を作り出す事もできない。
右側を見ると、ゴブリン将軍の砲撃は止んでいる。パトリックには唯の姿を確認する事はできないが、うまいこと砲撃を阻止する事に成功したのだろう。
そして壁が崩れた瓦礫の向こう側では、ゼラレッドへと変身した桜が戦っている。桜の身長は低く姿を確認することはできないが、その周辺のゴブリンたちがある一点に集まっている流れができている。そこに桜がいるのだろう。
左側を見ると同じくゴブリン将軍の砲撃は止んでいる。
こちらの担当はアスモデウス。
ゴブリン将軍がいたであろう場所では、十メートル以上の高さの火柱がうねりを上げていた。
そして、崩れた足場の向こうにはゼライェローへと変身したランスロット。大きな剣を振りまわし、近づくゴブリンを弾き飛ばしているのが確認できる。
左右の戦況を確認すると、砲撃を仕掛けてきたゴブリン将軍との戦闘は続いていると思われる。しかし、数が多く大変そうなのは桜とランスロットの二人だろう。
パトリックは後方を確認する。
王城要塞の周囲にはゴブリンが群がり、パトリックを狙ってなのか壁にハシゴをかけようとしている。
だが、壁の中から飛び出す兵士の槍や矢の餌食となっていて、戦況は有利。ここは放置していても問題はなさそうだ。
その少し先では、パトリシアとカリンが戦っている。その戦っている場所と王宮要塞の間にある通路の近くでは、崩れた壁や足場を乗り越え、たくさんのゴブリンやゴブリンナイトが集まりつつあった。
王様やライブスが、王宮要塞へと注意を引き付けているが、いつパトリシアたちに目を向けるか分からない
昨日、王宮でパトリシアとカリンに『可憐ウィッチ』の力を見せられ、唯の後押しもあり隊に加えたが、実妹である。
心配で堪らないパトリックであった。
*
崩れて塞がった通路の前に、パトリシアのブリザードで押し切られたゴブリン将軍は、ハンマーを拾い上げると不敵に笑って構えた。
左右を確認すると、ゴブリンやゴブリンナイトが姿を現し瓦礫の山を越えようとしているところだった。さすがに、これはまずい。
「ナーナ、王城要塞に戻って退路の確保をお願い」
転移を使っての撤退を思いついたカリンは、万が一のために、ナーナに王城要塞への撤退を指示した。
ゴブリン将軍の隣にあるバラバラになった装置。あれを完全に破壊したのかまだ分かっていないので、全員で逃げ帰る訳にはいかない。
「ナーナ――」
心配な顔になるナーナにパトリシアもお願いをする
「大丈夫だよ。危ないと思ったらすぐに逃げるから」
逆にナーナが危ないと判断したときは『転移して助けに来てくれればいいんだよ』と告げる。
実際の所、この三人の中で誰が一番強いのか分からないが、魔力の匂いで気配を悟られているとはいえ、姿の見えないナーナが王城要塞へ戻り退路を確保するのが一番の適役だろう。
ナーナはパトリシアに頷くと、王宮要塞へと走り出した。これで、危なくなってもすぐに逃げ帰る事ができる
「シア、あの装置を完全に破壊するわよ」
とナーナを送り出したカリンはパトリシアに告げる
「あの筒だけ奪って、転移で逃げればよさそうじゃない?」
とパトリシア
「どっちでもいいわ。でも、これだけ数が多いと超変身は怖くて使えないわね」
超変身を使うと一分間大幅にパワーアップできるが、ハートモードが終了すると、スマイルセーラーのエネルギー源である炎賜珠の魔力がゼロになってしまうのだ。
「でも真法剣があるわ!」
イノゾミラに剣を教わり、わずかながら上達している剣の技。そして、冒険者のレベルも上がり見習いを卒業しているカリン、あの頃とは、ひと味もふた味も違う。
そして、パトリシアも魔法の鍛錬を怠っていなかった。貪欲に新しい物にチャレンジして、新たな魔法も修得した。
「行くわよ、シア! スマイルロッド」
スマイルソードが消えて、先端がハートの形になっている杖が現れる。
「行くよ、カリン! ピュアスター」
お互いが、そうすると理解していたかの様に、ゴブリンの侵入を防ぐための壁を作り出した。
「炎の防壁!」
「嵐の防壁!」
応援に駆け付けようと、瓦礫を乗り越えたゴブリンの前に壁が現れ侵入を防ぐ。その壁はこれから始まる戦いの邪魔はさせないとばかりに、カリンとパトリシア、ゴブリン将軍の三者を包み込んだ。
「将軍!」
だが、無謀にもその嵐の防壁に突入するゴブリンたち
「ぎゃあ!」
触れた部分は切り刻まれ、肉片や血飛沫が舞う、中に勢いよく飛び込んでしまったゴブリンはバラバラになってしまった。
「ひい、熱い! 熱い!」
その反対側では、火だるまになって転げ回るゴブリン。
カリンの作り出した炎の防壁は、不思議と熱を発生させず熱くない。しかし、壁から三十センチほど近けば、瞬く間に火だるまへと変える牙を剥く。
「近づけねえぞ!」
両方の壁の高さは五メートル以上あるので、上からも侵入はできない。だが、この壁もいつまで持つのかは分からないので、早めに決着をつける必要がある。
杖を剣に変えて走り出すカリン。
「真法剣!」
刀身がうす茶の膜に包まれる。土の剣だ。
土の剣ならば、少し剣速が遅くなるが重いハンマーの攻撃にも耐える事ができて防御力も上がる。
そのカリンの後ろに隠れて杖を振るパトリシア、正十二面体がゴブリン将軍を襲う
「てぇぇい!」
軽くジャンプして、空中を蹴り上段からの重い一撃をふり下ろすカリン。
ガキン!
それをハンマーの柄で受け止めるゴブリン将軍。
「くっ! いでぇぇ!」
思いのほか重い一撃にびっくりしたゴブリン将軍の脛に、パトリシアの放った正十二面体が直撃した。
「このまま押し切るわ! 攻め斬り!」
片膝を付いてカリンの剣を受ける形になったゴブリン将軍の背後に、空中を蹴って剣を柄に押し当てたままクルッと回転する。もう一度空中を蹴って体勢を変えると、振り向きざまにゴブリン将軍の首へ向けて剣を薙ぎ払った
「甘いわ!」
スピードはゴブリン将軍の方が上。すっと後ろに倒れ込みカリンの剣を躱した。
「惜しい、外したわ!」
だが、次の瞬間、カリンの目の前にはゴブリン将軍のハンマーが迫っていた。倒れ込むのと同時に、カリンの頭部めがけてハンマーを振り上げていたのだ。
すでに三回空中を蹴っているので、躱す事ができないカリン。これが戦闘経験の差なのか、完全に手の内をよまれてしまった。
「スマイルシールド」
ハンマーが当たる寸前に盾を呼び出して防ぐが、空中で体勢の悪かったカリンは、通路側の壁に弾き飛ばされて激突した。
「カリン! 火土の攻撃!」
パトリシアは、魔法でゴブリン将軍を攻撃。そしてカリンの元へ転移した。
「カリン、大丈夫?」
壁に激突して、地面に叩きつけられたカリン。普通なら全身がバラバラになっていてもおかしくない。
「意外と、平気みたいね……」
カリン自身も驚いているような声だが、その言葉に安堵するパトリシア。土の剣で防御力の上がったカリンは、すり傷などはあるものの、大したダメージは受けていなかった。
ガガガキン!
後方で音がした。ゴブリン将軍がパトリシアの放った火土の攻撃をハンマーで防いだのだ。
突然消えたパトリシアに驚くも、脛の痛みに耐えながら体勢を整えハンマーを構えると、ゴルフのスイングで地面を抉った。
「将軍散弾!」
そのゴブリン将軍の声と共に、拳大はある大量の土と石がパトリシアとカリンに襲いかかった。
「嵐の防壁!」
目の前に現れた三メートル四方の壁で、将軍散弾を防ぐパトリシア。咄嗟の事だったのでこの規模の壁しか作れなかった。
嵐の防壁で防ぎ切れなかった範囲の将軍散弾は、後ろの壁に抉り込んでいる。凄まじい威力だ。
「からの――将軍強襲プレス!」
将軍散弾を放ったゴブリン将軍は、防がれる事などお見通し! とばかりに、すぐさまカリンとパトリシアに向かってジャンプして、上空からの攻撃に繋げていた
「舐めないでよね。真法剣!」
その攻撃を返り討ちにすべくジャンプしたカリン。刀身は緑色の膜に包まれている。
加速を付けるように空中を蹴る
ゴブリン将軍がジャンプの頂点に達するよりも先に、さらにその上空に到着したカリン。制空権を支配したような形になる。
「炎の大攻撃!」
ジャンプして上昇中のゴブリン将軍に、カリンが放った炎の大攻撃の塊が直撃する。
「ぐわっ これしきのことで ハッ!」
頂点まで到着して、空中に止まったかの様に見えたゴブリン将軍。体に当たり、炎の攻撃を放出しながら纏わり付く塊を弾き飛ばした。
ゴブリン将軍の体は、カリンの魔法で重度の火傷まみれだ
「よくもやってくれたな!」
上空を見上げ叫ぶゴブリン将軍。だが、そこにカリンの姿はなかった。
「ありがとうカリン。時間を稼いでくれて――そして最高のチャンスを!」
「大した事ないわ!」
ピュアスターを上空に掲げて準備をしていたパトリシアの目は、ゴブリン将軍をしっかりと見据えていた。その横には、転移して上空から戻って来たカリン。
「純粋なる慈悲!」
その言葉が合図となり、パトリシアの掲げる杖の正十二面体が輝いたと思ったら、一本の緑の光が発射されてゴブリン将軍の体を瞬時に貫いた。
その緑の光は、的確に魔石を貫通して破壊していた。
ピュアセーラーの必殺技のひとつ。
いい塩梅の状況でしか使うことはできないが、的確に魔石を撃ち抜き破壊する一撃必殺の技。
ちなみに『死刑』という言葉を楓に教えてもらい、桜が気に入って作った必殺技になる。派手ではあるが、物足りなさを感じたため数回しか使われなかった技。桜が放つときは『死刑ぢゃ!』と言いながら使っていたらしい。
ゴブリン将軍が絶命したのを確認した二人は、筒を回収してナーナの元へと転移した。
×ゴブリン将軍 VS カリン&パトリシア〇




