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第76話 スノーム4日目、ぼっちのダンジョン②

 


 時刻は十時過ぎ、練習用ダンジョンに出向き、アイテムを使って地下四階からスタートする。

 戦闘装備に変えて、ヘルメットの隙間にスマホをセット。


「あーあーテステス、準備OK?」


『いつでもOKっしょ!』


 この練習用ダンジョン地下四階から、魔物が同時に四体出て来る。

 背丈の高い木が生い茂り、太陽の光が届く場所は少ないが、そこまでは暗くない。


 地面に目を向ける。


 邪魔になりそうな小さい植物は、ほとんど生えていなくて視界もいい。だが、太い木の根が歩行の邪魔をしている。

 転倒には注意しなければならない。


 前回訪れた事があるとはいえ、今日は一人ぼっち。

 スマホを一人と考えるのならば、二人といえるのだが


 ヘルメットの隙間に入れているので、スマホの視界は陽二の見ている物を共有している。二つの目しかない訳なので、一人と同じと言えるだろう。


 陽二は両手に短剣を装備して、後方には闇壁(ダークシールド)を展開している。


 一度発動すれば、自分で消すか壊れるまでダメージを受けない限り、消えることはない。

 発動時に使う魔力によって強度は異なり、残念ながら吸収能力(ドレイン)はまだない。


 物理的な防御はゼロに近いが、視界を(さえぎ)る効果はある。

 後ろから陽二を見ると、黒い壁が移動しているように見えるはずだ。


『魔法は駄目じゃなかったっけ?』


 今はあーしさんが表に出ている。

 戦闘なら、あーしさんの指示がありがたい。というか、変わられると困惑するので、ずっとあーしさんでいいかなと思い始めている。


「既に昨日、魔法を使っているし、セナに闇魔法の強化を言われてるしね。駄目ならまた来ればいいだけだしさ、とにかく強くならなきゃ」


『陽二がそれでいいなら、あーしは手助けするだけだし――なら変身しちゃえば良くね?』


「変身か――」


 今は、桜の魔法に頼らなくても変身できる。腕輪にはまっている鉱石のおかげだ。

 この鉱石には、魔力が約五万入っている。使った分の補充も当然できるし便利な代物だ。


 さらに、今までゼラスーツの維持にしか使えなかった魔力を、それ以外でも使うことができるようになった。

 腕輪を着けている限りMPが五万も増えたことになる。


 これは大きい


 今のところ一番MPを使うのは、変身時の五〇〇。

 今朝の戦闘で一〇〇〇消費しただけで、ほぼ満タンと言っても差し支えはない。


 だが、陽二も男の子。


 素の自分も強くなりたいし、なにより明確な目的以外でスーパーヒーローが変身してもいいのか?


 否である。


 陽二もチームゼラニオンに感化されつつあった。


 なるべく身を隠しながら、次の階への階段を探す。


 何度か戦闘になり、闇壁の便利さに感謝しつつ、あーしさんの助言を受け、(かわ)しつつ短剣で倒していく。


 さすがに全部は避けきれない、後方の魔法攻撃は闇壁でなんとかなるが、後方からの体当たりや側面からの体当たりや魔法には、助言を受けていても被弾する事が多々ある。


 一撃のダメージは、ハッキリ言って微々たるものだが、一回の戦闘で軽く五十は受けてしまう。


 原因は分かっている。


 あーしさんの助言に足がついていかないのだ。それに、ダメージには痛みも伴い、集中力が散漫になってしまう。


 こればっかりは慣れていくしかないだろう。多少の痛みでも動じない精神力を、身に付けなければならない。


「休憩しようか」


『休むし』


 一段落着いたところで、木の上に登り休憩する。


 MP回復薬(桜印)とドロップで手に入れた緑草(薬草)と緑茸を調合して作った回復薬でHPとMPを全回復させる。


 HP 820/MP 3602


 少し増えている。


 カンストしていない職業のレベルが一つずつ上がっていた。

 冒険者10➡11

 魔法術師11➡12 

 錬金調合術師11➡12


 残念ながら熟練度に変化はなかった。


 カンストといっても、現在はレベルキャップ制限でレベル15までしか上がらないだけ。『異世界人』のレベルを上げていけば、解除されると思う。


 それと、面白い魔物のルールも発見した。


 一つの魔物グループと戦闘しているとすると、その戦闘に他のグループは介入して来ないというルールだ。


 何回かあった。


 ヤバイと思ったが、戦闘を見ても、あからさまにそそくさと離れて行ったのだ。実験もした、魔物を連れて他のグループに探して近づくと、明らかに離れて行くのを見て確信したのだ。


「しかし『異世界人』のレベルは上がらなくなったね」


『地道に行くしかないし、てか遅いし、もっと速く動けし!』


「精一杯っすよ……」


『その防具を準備してくれた人に、感謝しろし』


 現在陽二が身に着けている防具は、桜が支給してくれた物。


 魔物の素材でできた防具で、どの様な付与があるのかは分からないが、魔物のダメージをほぼ一桁にまで減らしてくれている。

 乙女戦闘服(ゼラスーツ)には敵わないだろうけど、相当いい防具なのだろう


 今さらながら、桜の優しさに感謝する陽二であった。


 もし、この防具を着けていなければ、痛みに我慢できずフルボッコ即死亡まである。

 例えば骨がボキッと、耐えられるだろうか? 無理です。

 折れた足を引きずって逃げられるだろうか? 無理です。


「でもさぁ、この練習用ダンジョンって本当にありがたいよね。だって、本当に死ぬ事なんてないんだからさぁ」


 本気でそんな事を言ったのではないだろう、つい気が緩んでしまい口走ってしまったのだろう……


 苦戦続きだったが、闇壁とあーしさんのサポートで地下五階に降りる階段を発見した。


 階段の途中でドロップ品の確認。階をつなぐ階段は安全地帯!

 四階でのドロップ率は、N・R・SR全部で六十%


 もし、この階を余裕で周回できるのであれば、そこそこの暮らしができるだろう。


 入場料を差っ引いても、一日で一万越えを狙える。月収三十万だ。

 事実、陽二もSRの銀貨を二度も引き当てた。

 素材も調合して、回復薬として売却すればいい稼ぎになる。


 *


 練習用ダンジョン地下五階、この階を攻略した冒険者見習いは皆無。

 なぜならば、この階に到達できるような冒険者は、その前に見習いを卒業してしまうから。


 ――この階を攻略できた冒険者の数は? 

 挑戦した冒険者パーティーのわずか十%

 なぜならば、この地下五階は殺すための階だから。


 他にも理由はある。

 地下六階から下の階は魔石も出ないし、倒した魔物の素材も持って帰れない。


 うま味がないので、挑戦者が少ない。故に十%


 地下五階は、今までと変わって人工的な作りになっている。


 まず階段を降りると、断崖絶壁の途中みたいな壁際の狭い道にでる。

 上を望めば遙か高く、下を覗くと三十メートル下に足元と同じような道が見える。

 その三十メートルほど下にも、その先にも……


 足元も壁も光沢のある岩、足元の道幅はわずか一メートル。

 その道が壁沿いにぐるっと一周していて、降りられる場所はない。

 一周九百メートル。壁には十メートル間隔で三十センチ四方の白い絵が描かれているスイッチがある。


 一つだけ赤い絵のスイッチがある。それが正解。

 絵の模様は、全て同じ様に見えてどこかが違う


 違うスイッチを押すと、さまざまな罠が冒険者を襲うようになっているので、むやみに触ってはならない。


 正解のスイッチを押すと三十メートル下の通路に転移する。どんなに離れていようとも全員が同じ通路に転移する。


 次の通路は一周八百メートル、道幅も同じ。

 ただし、正解のスイッチの絵も間違いのスイッチの絵も同じ色で、最初の絵柄を事細かく覚えていないと、正解は難しい。


 百メートルずつ円が小さくなっていくが、スイッチの数は逆に増えていく。


 正解を続けて一番下まで降りることができれば、地下六階の階段が待っている。


 当然、飛び降りる事はできない。


 魔物(スライム四体、オーブタ一体)

 一周に十のグループが、固定場所に出現して動かない。全滅すると新たなグループが補充される。

 100メートル以内に入ると、死ぬまで襲いかかる。


 ドロップ品 なし。階段到達時にまとめてもらえる。


「何だここ?」


 突然、様変わりした人工物の様子に驚き、思わず声をあげる。


『ほー』


 さすがのあーしさんも、びっくりしている


「道幅狭いなぁ――下に通路が見えるけど、どっかに降りる階段とかあるのかな?」


 周囲を見回すと、等間隔で魔物が集まっているのを確認。


「反対側の壁際、なんであそこだけ魔物の数が多いんだろう?」


『怪しいし、なにかあるし』


 右から行っても左から行っても魔物が待ち構えている。良く見ると、どの魔物グループもスライム四体とオーブタ一体


「魔物ルールも分かっているし、一グループずつ倒していけばいいよね?」


『じゃあ、行くし』


 右に一歩踏み出した時だった。


 カチンと突然スイッチが入ったように、オーブタを先頭に魔物が動き出した。


 間違いなくロックオンされている。


 ちょっとびっくりして、二歩ほど後ずさりをした


 すると左側の魔物もスイッチオンで、こちらに向かって動き出した。


「あれ? 両側から狙われてる? 魔物のルールは?」


 すでにオーブタが距離を半分近く詰めてきていた。


『まずオーブタを始末するし、短剣持って突っ込めし!』


「えっえっ?」


 あわてながらも短剣を構え走り出した。


 すんでのところで、あーしさんの指示で壁にくっつきオーブタを躱すと、方向転換で戸惑っているオーブタの背後から短剣を突き刺して倒す。


 闇壁を全面に展開して、スライムに駆け出し距離を詰める、が後ろに左側のオーブタが迫っていた


 大きくジャンプして躱すと、オーブタは真下で急ブレーキ

 上から二本の短剣で刺してとどめを差す


 前からくる連続の魔法攻撃を闇壁で防ぎ、ダッシュ!

 先頭のスライムに短剣を突き刺すと、残りの三体から集中砲火を受けて闇壁が壊された。


 壁に持たれながら、二体目のスライムに短剣を突き刺し、闇壁を張り直す。

 そこに背後からの魔法攻撃を受けてしまう


 右に左に前に後ろに、目まぐるしく攻撃がくる


 あーしさんの声が聞こえるが、正直聞いている暇も、考える暇もない。


 と思ったら、さらに奥の魔物も動き始めた。


「無理ゲーかよ!」


 正直、魔砲を準備する暇も魔法を唱えるスキもない。


 集中砲火、魔法の雨あられ


 逃げるしかない! 


 降りてきた階段へ向かおうとするも、闇壁も壊れてしまって、魔法の攻撃をバシバシ受けるサンドバッグ状態


「痛! いたたた!」


 HPが猛烈な速さで減り始め、それと平行して体の痛みが増してくる。


 痛いってもんじゃない


 玉砕覚悟で階段へ走る。


 回復薬を飲もうにも無理。痛すぎて、集中もできずに魔法も使えない。耳元では、あーしさんがうるさいし――


「うげぇ」


 背後から、オーブタの突進を受けて吹き飛ばされる。


 必死に立とうとしたとき、意識が飛んだ。スライムの土魔法が陽二の右目を貫いたのだ。


 数秒後、意識が覚醒する。


 妙な感覚だったが、さっきまでの痛みが消えて魔物の攻撃も止まった。


「あれ? なんだったんだ?」


 とにかく、逃げたくて必死だった。すぐに立ち上がり走った。


 階段までは三十メートル。だが、スライムが四体立ちふさがっている。


 だが、魔物は動かない。


「うおおお! 闇壁!」


 闇壁を展開して、一体、二体と串刺しにする。魔物は霧散するように消えていく


 次の瞬間、また魔物たちの攻撃が始まった。


 ?? 意味が分からないどうなっているんだ?


 ガシュ


「痛ってーー!」


 痛みの方向を振り向くと、足にオーブタが()み付いていた。

 ちょうど防具のない袋はぎの部分で、オーブタはうねりながら首を振る

 大量の血とともに、袋はぎが食い千切られた


「いっーーーーーー!」


 説明できないほどの激痛に


 ブチ


 陽二の中で、なにかが切れた音がした


「てめえ、なにしやがんだよこの豚野郎が!」


 痛みを怒りが上回った。獲得したばかりの新鮮な陽二の肉、それを夢中に噛みしめるオーブタ


 グサ グサ グサ……


 オーブタの首筋に左手の短剣を突き刺し、血をまき散らしながら暴れるオーブタを押さえつけ、右手の短剣で腹を何度も何度も突き刺す


 バシン、バシン


 後方からの魔法を防いでいた闇壁が破壊され、連続で放たれた魔法が陽二の背中を襲う。


「くっ!」


 噛み千切られた袋はぎの激痛と、魔法の痛みが再度襲いかかる

 立とうとしても足に力が入らず、止めどなくあふれ出す血のせいなのか、HPがみるみる減っていく。


 HPが少なくなると、受けるダメージと痛みも倍増


「ちょっと、タンマ、タンマ!」


 顔をガードしながら、スライムに向かって意味のない言葉を繰り返す陽二。


 魔物が、待ってくれるはずなどないのに――


 また一発、また一発


 腹を(えぐ)られ、ガードしている血まみれの腕は炎に包まれ、それが全身を包む前に何十発もの魔法を浴びて死んだ。


 魔物の攻撃が止まる。


 ダンジョン専用蘇生薬の自動使用によって、ダンジョンの外に出されずにその場で復活する陽二。


 直前の痛みや怪我がウソの様に消え去り、形容しがたい感覚とともにその場に意識が戻る。


 右目を貫かれた事も、足を食い千切られた事も、あまたの魔法攻撃を受けた事も覚えている。


 しかし、死んでしまった事はあやふやだ。よく分からない。


 後から考える余裕があれば、あれが死という物で、蘇生薬の効果だったのか、と思えるのかもしれない。


 が、今はそんな場合ではない。


 なにが自分の身に起こっているのかさえ、全く考えられる状況ではない。


 とにもかくにも脱出が先、階段まで辿(たど)り着く事こそが最優先事項なのは理解している。


 走り出した陽二は、前方の動かないスライム二体に短剣を突き刺し、階段に飛び込んだ。


 次の瞬間、あちらこちらから魔法が飛んでくるが、すぐに止まって静寂に包まれた。


 ため息を一つ。


 やっと思考が追いついて、自分に何が起きたのかを理解して全身が震える。

 次に痛みの記憶で、完治したはずの右目の奥、袋はぎ、魔法で抉られたヵ所、受けた傷で激痛と恐怖に襲われる


 その陽二に、優しく投げかけられるあーしさんの言葉


『この練習用ダンジョンって本当にありがたいよね。だって、本当に死ぬ事なんてないんだからさぁ』


 さらに豪速球で投げられたかのような言葉


『なんて言っていた罰だし、舐めんなし』


「――」


 階段の端っこで恐怖と激痛に苦しみ(うずくま)る陽二。


 そこに、容赦なく浴びせられたあーしさんの言葉


 その言葉を聞いて、次第に『生きている』という実感が、恐怖と激痛を過去の物にしていって、落ち着きを取り戻す


 ポツリとあーしさんに語りかける


「一人じゃ無理だね。どこかでなめてたよ俺、ごめん」


『まあ悪くなかったし。見直したし』


「こんな経験、二度とごめんだよ。冒険者の人たちってすごいね――」


『死』を今までより身近に感じた陽二。


 正確に『死』を説明できる訳ではないが、実体験として何かを得たのは確か。


 地下五階の攻略をあきらめ、アイテムを使ってダンジョンの外に出た。



 この地下五階には二つの意味がある。

『これがあなたの結末。本当に冒険者になりますか?』という問いかけと


 スカウトだ。


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