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第75話 スノーム4日目、ぼっちのダンジョン① 

 


「お兄ちゃん! 朝だー!」


「ナーナ!」


 シア&ナーナの

 ツープラトンダイビングプレスが見事に決まった。


「げぼ」


 箪笥の中で、漆黒の魔物(穢れソルジャー)をなんとか倒した陽二。そのおかげで、少しだけ法則が分かった。


 部屋に居るセナとレヴィ以外の人物。その中から一番強い人を基準にして漆黒の魔物が出て来るみたいだ。


 変身前と変身あとで、出て来た魔物の強さが全く違ったから分かった事。


 もう一つ、以前、唯さんが言っていた


「陽二(ごと)きに倒せるはずがない」


 つまり、その時は唯さんの基準で魔物が出て来ていたのだ。


 本当にやばかった。レヴィが手助けしてくれなかったら、マジで死んでた。


 必死に部屋へ逃げ込み、魔砲を準備してスキをついたけど――スマホの助言がないと、あれを倒すのは無理だ。


「おはよう。二人とも早いね、起こしてくれてありがとう」


 シアとナーナの頭を()でて、笑顔でほほ笑む。


 怒っては駄目だ! こんな起こし方――兄の部屋に妹が起こしに来る。


 素晴らしい!


 ぜひとも続けてほしいと、切に願う。


 なんなら王宮で暮らそうまである。

 はっ! もしかして今なら『おはようのチュー』をしても、問題はないのでは?


 シアとナーナをまとめて抱きしめる。


 陽二を見つめる二人の体は柔らかい。けど、線は細くて折れてしまいそうな感じもする。


 でも、二人とも間違いなく俺より強いんだよなぁ


 と思っていたら、シアは腕をスルリと抜けてしまった。


「お兄ちゃん、ナーナと契約したんでしょ? いいなぁ」


「別になにかが変わったって事はないけどね。ただ、ナーナが進化するのに必要なんだって」


「そうなんだ」


「そういえば、ナーナが脱皮してさぁ――」


「ナーナ?」


 本人に自覚はないようだ。


 *


 着替えてから顔をふく。この生活にも、だいぶ慣れてきた。


 食堂に朝食を食べに行く。

 そこは、王宮で働いてる人が食事をとる場所。

 実は、訪れるのが初めての陽二。


 パトリシアとナーナ、それにカリン、一つのテーブルに集まっていた。


「カリンおはよう」


「あら陽二、おはよう。ねえ聞いた? パトリック様たちが、ゴブリンの巣から女性を救出して来たんですって」


「そういえば昨日、救助に行くって唯さんが言ってたよ。すっかり忘れてた」


 テーブルのイスは四つ。空いているカリンの隣に座りながら話した


「知っていたのなら、何かしらの手伝いをするべきじゃないかしら?」


「一緒に行きましょうかって伝えたんだけど、邪魔だから来るなって言われたんだよ」


「同感だわ」


 なら最初から言うなよ!


「相変わらず、俺に対して冷たくない?」


 カリンの話だと、夜遅くに救出した女性や子どもを連れて、兵士たちが帰った来た。王様も朝早くから対応にあたっているようで姿を見ていない。


 まあ、プロに任せて余計な邪魔はしない方がいいだろう。


 みんなで朝食を食べながら、今日の予定を聞いてみる


 カリンは


「私は学校に退学届を出しに行って用事を済ませたら、練習用ダンジョンに行こうかしら。

 もう少しで、レベルが10に上がるのよ。そしたらソラマンに戻って火のダンジョンを攻略しようかしら。

 王妃様に『いつまででも居ていいのよ』って言われたのよ、婚約を断った手前、逆に居づらいのよね」


 ナーナと二人で階段を探すついでに、相当頑張って魔物を倒したカリン。見習いが取れるのも時間の問題だ。

 王妃に気がねして、出ていくみたいな言い方だけど――火のダンジョンか、一緒にダンジョンの攻略も悪くないかも



 パトリシアは


「今日はお母様とお墓に行くんだぁ。その後は、王宮に戻って――ナーナも一緒だよ。お兄ちゃん、いいでしょ?」


 シアは、王妃と丸一日過ごす予定を獲得したようだ。


 シアの頭の中での計画だが、朝から晩まで予定がびっしり。

 まあ、予定は未定。どれだけの計画が、実行できるのかは分からない。

 ナーナも一緒にというが、親子水いらずにいいのだろうか?


「シアが望むのであれば、俺は全然いいよ。契約したからってナーナはナーナで、俺の物じゃないし。ナーナの好きな様にすればいいよ」


「やったー!」


「ナーナ、ナーナ!」


「分かったから、好きにすればいいって」


 ナーナは、昨日買った服を着ている。

 かわいらしいブラウスに、ピンクのスカート。

 スカートから尻尾が出ていても、全く違和感はなく似合っていて、とてもかわいい。


 ちなみに、ナーナが身に着けた物も見えなくなるご都合主義。


「陽二は、今日どうするのかしら?」


 と、本当に興味があるのか怪しげなカリンが聞いてきた


「そうだね、取りあえずリンメルの耳を触りに行って……もとい、店に寄ってほしいって言ってたから、リンメルの店によって

 それから練習用ダンジョンの地下五階を攻略かな。

 ちょうど、リンメルに渡したい物もあるしね」


 今朝、レヴィに勧められて食べた草だ。

 ガンネに混ぜると、緑が良い色あいになると思ったので持って来た。ちょっとしたお土産にもなるし。


 それと、せっかくなのでレヴィの服と浴槽になりそうな物を探してもらおうかなと考えている。


「それなら時間を合わせてダンジョンに入らない? 十三時頃には行けると思うわ」


「了解。一緒に入ってくれるのなら心強いよ。その時間にダンジョンの入り口で待ち合わせね」


 *


 パトリシア達と分かれ、スノームに転移してきた。

 なにかあったら連絡を、ホウレンソウも忘れていない。


 さて、少し前から腕輪の転移について変更された点がある。


 仲間の腕輪(ゼラブレスレット)を使って転移できる先は、別の仲間の腕輪とそれぞれの町にある転移門。


 腕輪への転移は特に問題はないが、転移門に転移する場合はいろいろと問題が発生する。


 通常、転移門の転移は

 送り側が認証を発信して、受け元が承認しないと転移できないようになっている。さまざまなトラブルを回避するためだ。


 しかし、腕輪を使って転移門へ転移すると、承認もなしに強制的に転移できてしまう。


 突然、正規の方法以外で現れた人物が、桜やアスモさんなら顔も知れているので問題にはならない、だが、俺や唯さんだと話は別。


 それならいっその事

 腕輪の転移先を転移門ではなく、町の入口になるように変えてはどうか? 

 の案が出され、瞬く間に『簡易の転移門』が各町の入口近くに設置された。

(腕輪の位置発信機能を利用した技術で、その場所に腕輪をもつ仲間がいると誤認させている)


 というわけで、今まで気がねしていた町へ転移する敷居が下がったのだ。というか、間違いなく唯さんのために改良されたのだ。俺はその恩恵にあずかっているにすぎない。

 

 そんなことを考えていたら目的地に到着だ。


 カランカラン


『黒狼の星屑』を訪れた陽二。


 ここは、いわゆる(・・・・)なんでも屋。

 お客さんの要望を聞いて、店に置いていない品物まで周囲の店から集めてくれる、かわいい犬耳の店員さんがいる店。


 店員の名前はリンメル。オーバーオールを着た看板娘だ。


 店の二階で生活しているリンメル、昼は黒狼の星屑、夜は食堂をやっている。働きすぎな気もするが、充実した毎日を送っているみたいだ。


 店の中に入ってもリンメルは声をかけてこなかった。


 てっきり『いらっしゃいまっせー!』と元気な声が飛んでくると思っていたのに


 カウンターに目を向けると、こっくりこっくりと座りながら眠りこけているリンメルを発見した。


 手元には、夜の仕込みだろうか切りかけの野菜が転がっていた。


 そこでピーンと(ひら)いた陽二。

 こそっと近づき、慎重にゆっくりと片側の耳を持ち上げて


「ふ」


 と息を吹きかけた


「キャーー!」


 ものすごいビックリしたのか、逆に陽二が驚くほどの悲鳴をあげた。


 息を吹きかけた耳の後ろ側から足先まで、ゾゾゾっとしたなにかがリンメルの体内を走った。その後を追うように全身の毛が立っていく。


「よ、リンメル。こんな所で寝ちゃうと風邪ひくぞ?」


 しばらくの間、口をぱくぱくさせると


「よ、陽二さん。なんばしょっとね!」


 なんばしょっとね?


「いま、何かしたっすよね?」


「ううん。なにもしていないけど」


「うそを言っちゃだめっすよ!」


 ぷんぷんと怒りながら、野菜を片付け始めるリンメル。

 と思ったら動きが止まった。


「もしかして、いま耳を触ったっすか?」


 キッと鋭い目を陽二に向けるリンメル。その右手には、キラッと光る包丁が。


「まさかぁ、触るわけないじゃん。気のせいだよ」


 目つきの鋭いリンメルをなんとか(なだ)める。


 調子に乗りすぎた。耳は地雷だ、マジでヤバイ。話題を変えよう


「昨日持たせてくれた(弁当のお返し)、おいしかったよ。ありがとう」


 そう言いつつ、持参したお土産という名の草。

 いや、野菜を取り出す。


「なんすか? その雑草は」


 当然の答えだ。見た目はただの草。


 薬草とか丸みを帯びた葉っぱの草は、調合に使える植物が多く緑草とまとめて呼ばれているが、そのジャンルにも当てはまらない、ツンツンとした草は調合にも使えない普通の雑草が多い


「ガンネに入れたら色め的にいいかなぁと、ちなみに食べてみたけど悪くなかったよ。少しだけど、魔力も回復する優れ食材よ?」


「ただの草にしか見えないっすよ」


「まあ、毒はないから試しに使ってみてよ。ニラ? ネギ? あるか分からないけどそんな感じ」


 おずおずと口に入れて確かめるリンメル。


「そうですね。毒もないみたいですし、脇役にはちょうどいい控え気味な甘味もいいっす」


 なかなかの好感触だ


「いくらでも手に入るから、欲しいときは言ってよ」


「分かったっす」


 ちなみに、現在の陽二は魔力が自然に回復しない。回復分の全てをセナドゥースに渡しているから。

 それで勘違いをしているのだが、陽二が食べた草に限らず全ての食べ物は、わずかながら魔力が回復する。

 当然、MP回復薬とは雲泥の差はある。


 *


 どうもリンメルの顔色が優れない。目の下に、くまらしき物が見える。


「その顔どうしたん、睡眠不足?」


「昨日、陽二さんが帰ったあと、食道でガナシャのお祝い会があったんすよ」


「その感じだと、朝まで?」


「時間は覚えてないっすけど――ラルドルフ兄妹が帰ったあとも、他のお客さんが大盛り上がりで……お店の片付けを終わったとき、外は明るかったっす。眠いっす」


 ふぁぁぁと人目をはばからず大きな口を開けて、はっとわれに返り、あわてて口に手を当てるリンメル。

 目じりにはキラッときらめく涙の粒が


「そんなに眠いんだったら、お店は閉めて昼頃まで寝たら? その様子だと耳を触り放題、イタズラし放題。それに野菜を切らずに指を切る可能性もなきにしもあらず」


「むむ、それは乙女の危機っす、緊急事態っす。とっとと閉めるっす」


「なにか手伝うことある?」


「ないっす。早く出ていくっすよ」


 *


 リンメルに店を追い出された陽二。向かう先はダンジョンではなく、馬車の乗り合い場。


「夜、食堂に来て下さい。ご飯をごちそうするっす」


 と言われたときに、ラルドルフ兄妹が実家に戻ることを教えられた。どうせならと陽二は、見送りすることを決めて雑草を片手に訪れた。

(ちなみにレヴィ草と名付けた)


 スノームから出る馬車は王都まで、他の町に行くときは王都で乗り換えなければならない。

 セナドゥースまで直通の馬車がないわけではないが、それは個人の馬車。多分、車が出始めた当初と同じくらい高価な物だと思われる。

 しかし、馬と荷台さえあれば立派な馬車。安い馬車もあるかもしれない。


 当然、陽二は馬車の価値など分からない。ただ、手の届かない高嶺の花だと思っていた。


「おーい、ガナット、ガナシャ」


 荷台についた客席に座っている二人を首尾良く見つけた陽二は、声をかけながら走りだした。


「陽二さん」「あ、陽二さ~ん」


 ガナットはペコリと頭を下げ、ガナシャは手をふって陽二をむかえる。


 出発まで、まだ時間があるそうなので、お土産を渡し話をする。二人の顔は、とても清々しく凛々しかった。


「今度、村に遊びに来て下さい」


 とガナシャ


「えっいいの? 遠慮がないから本当に行っちゃうよ?」


「もちろんです。特に観光する場所はありませんが……」


 そう言うガナシャ。マントで尻尾は隠しているが、フードは外していて大きな銀灰色(ぎんかいしょく)の耳は隠していない。

 これは、魔法を使えるようになった自信の現れなのだろう。


「セナドゥースの店にも来て下さい。安くしますよ」


 とガナット


「それじゃあ、調合の事を教わりに行こうかな」


 調合はできる。だが、スキルとしては持っていない。チャンスがあれば教わって、スキルとして手に入れておくのも妙案だ。


「いえいえ、まだまだ見習いなんで教えるなんて……」


 とガナットの言葉に陽二は思った。


 あれ? ガナット君って年単位で見習いやってなかったか? 調合を取得するのって、そんなにかかるの? そう簡単にスキルは覚えられないのか


「そっか、じゃあ近くによった時には顔をだすよ」


 お店の名前を聞いてメモしておく


「そういえば、もう、冒険者の装備って必要ないよね?」


 どれだけかは分からないが、相当な金額のお金を使ったであろうラルドルフ兄妹。必要ないのなら、少しでもたしに(・・・)なるように買い取ろうと思い立ったのだ


 と思ったのだが、陽二を待っている間にリンメルのお店で出会った、見習い冒険者のパーティーに譲ったと語った。


 どうせ自分が持っていても役に立たないし、陽二やカリンを見ていたら間違いなくレベルアップして帰ってくる。

 そして『ガナシャなら魔法を覚えて帰ってくるはず』と願掛けみたいな気持ちで、その見習い冒険者に無償で渡したらしい。


 まあ、結局そのあとのお祝い会のお金は、見習い冒険者パーティーが全て出してくれたので良かったのだろう。


 なんやかんや話しているうちに出発の時間だ


「それでは陽二さん」

「遊びに来てくださいね」


「じゃあね、ガナット君。ガナシャも魔法の練習がんばって」


「「はい!」」


 兄のガナットはセナドゥースの店に戻り、調合師を目指して再出発するそうだ。冒険者になった期間が短かったので、特に問題なくリスタート出来る。


 長い期間、違う職業に就いてしまうと、レベルが下がることはないけど、感か鈍って支障が出るらしい。


 普通の人では確認する事はできないけど、熟練度が下がってしまうからなのだろう、と陽二は思った。


 妹のガナシャは実家のある村に戻り、両親を助けながら魔法の練習と兄の斡旋(あっせん)で、魔弾に魔法を込める仕事を始めるらしい。

 一定の威力がないと商品にはならないが、ガナシャなら大丈夫だと陽二は思った。がんばり屋さんだもの


 近い将来、アバンヴィレジの村に、兄妹が経営するお店が誕生するかもしれない。


 再会を約束して、大きく手をふり兄妹を見送った。


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