第74話 スノーム4日目、床とか固い場所で眠ると体が痛くなりませんか?
「うげっ」
鳩尾に、強い衝撃を受けて目を覚ました陽二。
「陽二が居る。なんでー?」
おなかの上には、真魔王レヴィアタン=メルビレイの分裂した一つ、通称レヴィ。
小学校低学年にしか見えない身長と、幼い顔立ちに黒い瞳。
髪の毛は肩に届くほどでボサボサの黒色、肌は日焼けをしたような褐色。
白のランニングシャツに、水色の半ズボンで裸足。
唯やセナドゥースの話では、出現当初のレヴィは黒マントに醜い顔だったが、陽二が『曇りなき眼で――』と指摘すると今のような姿に変わってしまった。
レヴィアタン本来の姿は、二十代前半の女性だ。
レヴィのお願いでもある分裂した体を集めれば、姿が変わっていくのかもしれない。
ちなみに、服装は自分の意思で変えることができるらしい。
「あれ? どうしてレヴィがいるの?」
レヴィを支えながら腰を上げて、見回すとセナドゥースの部屋。
「セナの部屋? なんで? ねぇセナ、俺のこと呼んだの?」
眠っているのか、セナドゥースからの返事はない。
といってもセナドゥースの体はもともと眠っている。
理屈は分からないが、体は穢れのせいで眠っていても、部屋自体に意識があり、会話をする事ができる。
しかし、陽二の問いかけには返事がなかった。
陽二が部屋にいないときは、休んでいると言っていた。なので、おそらく眠っていると認識すれば良いのだろう。
「まあ、いいや。何時? って朝の五時か……コツコツと、か」
桜の屋敷では、アスモデウスに起こしてもらい朝練をしていた。今日は王宮に泊まっているので、誰も起こしに来ない。
魔技は、一日休むと三日後退するという。
ジャージはないけど、別に見られて困る人がいるわけでもないので、Tシャツと短パン。
つまり、起きたままの格好で部屋の外に出た。
部屋の外は足首くらいの低い草原が広がっている。
そして、この島の周囲は湖か海に囲まれている。
水面は、地平線の彼方まで広がっていて、この島の他に陸らしきもは見あたらない。
島の端まで行って下を望むと、相当高い。落ちてしまったら戻ってくるのは困難だろう。
願わくは、水の中を調査して魚でもいたらいいなぁと陽二は思う。
食料的に。
島の外周を調査しながらランニングを始める。
島の中心に部屋がある、直径一キロの丸い形の島。
ランニングコースはだいたい三キロちょっとだ。
島の外側と海の間は全て絶壁で、降りられる場所は一つもない。
草むらに目を向ける。
生えている植物は、見落としがなければ一種類のみ。
芝生として売られている、あんな感じの草。鑑定で調べた結果『草』以外、なにも表示されない。
レヴィが食べていた事から、食べることはできるみたいだ。
食べないけど……ちなみに、虫などの生き物もいない模様。
島の中心に目を向ける
中心には正面からしか見えない部屋。
後や横からだと、黒い板にしか見えない。後ろから黒い部分に手を触れると、通り抜けて部屋の正面に行く事ができる。
触ることはできないのだ。
あとは、手作りのかまどに日の出前の紫色の空。
本当に不思議な空間だ。
「レヴィも一緒に走る!」
元気なお子様が笑いながら走ってきた。
レヴィと一緒に、話をしながらのんびりと走る。
「この水の向こうって、なにがあるんだろうね?」
「陽二、気になる? 行ってみたい?」
「いつかは行かないと、そんな気がするんだよね」
「死亡フラグってやつ?」
「そうそうって、違うけど――どこで覚えたの?」
*
レヴィに手伝ってもらい、柔軟体操。
魔技の基礎練習から始まり、教わった事の復習をする。
短剣と魔法の練習も忘れはしない。
いい感じで一通りの練習をこなして時間を確認してみる。
「六時?」
体感的には二、三時間くらい練習をしたと思ったが……なるほど、セナが時間を伸ばしてくれているのか
この部屋にいる限り、セナドゥースの力と時間の力で、三倍もの時間を過ごすことができる。
時間もあるので、手作りのかまどでレヴィの朝食を作ってあげようと思った。
クッキング陽二出動だ!
「テッケテッケテー」
と口ずさみながら調理をする陽二。
「残念だ、オリーブオイルがあれば秘技を披露できたのに!」
口からデマカセだ。テレビのまねをして言ってみただけだ
「ジャジャーン! 目玉焼き&焼いた肉!」
「やった、おいしそう!」
目玉焼きを三つと、なにかのお肉を焼いたやつ。
誰でも作れます。
レヴィは、ウソかホントかおおげさに喜んでくれる。
作ったかいがありました。
「さあ、さあ。お客さん食いねぇ」
江戸っ子のまねをしながら、テーブルの上にフライパンのまま差し出す。
フライパンの下がこげ臭いが、男は小さな事を気にしてはいけない
「はふ、はふ、おいしい! にくもうまし!」
レヴィはスプーンと箸を上手にぶっ刺し、黄身をベタベタと落としながら、おいしそうに食べる。
「じゃあ帰るから、あとは適当に作って食べてよ」
「えー! にく、にく! 目玉、目玉!」
「目玉焼きね、言い方が怖いよ」
口の周りを黄身でベトベトにしたレヴィ、絞ったタオルで拭いてあげる。
「また今度ね、そろそろ起きないと」
「むー。わかった」
レヴィは自分でお肉を焼いて食べるみたいだ。
部屋に走って行くと、大きな肉の塊を持って来て、かまどの網に乗せた。
エンゲル係数が、ものすごくなりそうだ。
部屋に入り、念のためセナドゥースにも声をかける。
「セナ、そろそろ起きるから帰るね。まだ寝てる?」
「起きているよ。ちょっと考え事をしていたんだ」
「時間を使ってくれたんだ」
「うん。まだ起きなくてもいいよね? 闇魔法を教えたいんだけどさ」
ベッドに寝ているセナドゥースの隣に座って、漆黒の髪の毛を撫でながら話を聞くことにした。
闇の聖霊セナドゥース、通称セナ
司と契約した五聖霊の一人。年齢不詳、年を聞いたらだめだ。
漆黒の長い髪を持った美しい少女。黒いシックなドレスを身にまとっている。
豊の攻撃で、体に穢れ? と呼ばれる呪いを受けていて、体を動かすことができない。
レヴィが穢れの根元で、レヴィやセナを喜ばしたり、マッサージをすると部屋の外に漆黒の魔物が現れる。
今のレヴィに、害はない。
レヴィも魔王マモンに騙されて、利用されていたのだ。
レヴィで思い出したけど、他の四聖霊もセナと同じく穢れに犯されている。
大賢者が穢れを取り除くために、神殿を作って奉った。
だが、いつの間にか神殿はダンジョン化。
聖霊が奉ってある部屋と思われる扉には、封印がしてあって中に入れない。
レヴィの分裂した体を取り戻すためにも、ダンジョン攻略は必須。桜やアスモさんの事だ、おそらく行った事はあると思う。なので情報はあるはずだ
そういえば――唯さんは会ったことがある、と言っていたが、大賢者は、どこにいるのだろうか? なにか知っているのなら、出て来て助けてくれてもいいんじゃないの?
司たち四人の勇者を、この世界に呼んだのは大賢者と聞いたことがある。
呼ぶだけ呼んでおいて、ほったらかしかよ!
大賢者への不審度が一〇〇上がった。
そういえば本当に忘れていたけど、俺も勇者だったっけ。誰かに呼ばれて来たのだろうか?
それっぽいアクションは、何もない。
王の話では、たびたび元世界の人が訪れていると言っていた。誰かが呼んでいるのか、何かワームホールみたいな物があるのか――
どうして、どんな理由で? とかいろいろな謎や疑問はあるけど結局、なにも分からないしこの世界が気に入っているので、俺的には全然問題はない。
ただし、元世界に戻ってケジメは付けなければならない。
嫁に言わせると、至極自分本位で身勝手なのは重々承知。謝って済む問題ではないが、関係は破綻していた。
なので離婚は容易だと思うけど、女性側の考えは俺には分からない。間違っているとは思うけど、戻って話をしなければならないだろう。
最低な話だが、正直なところ未練なんて何一つない。
家のローンは完済してるし借金もない。土地も貯金も全てを差し出しもいい、嫁の納得のいく形に持っていければいいのだけど――
「マスター! マスター!」
ひょんな事から考え込んでしまった陽二を、現実に引き戻すセナドゥース
「聞いているのかい?」
「ごめんセナ、考え事をしていたよ。それで魔法だっけ? 闇魔法?」
とりあえず、眠っているセナに向かって手を合わせる。決して仏壇に向かって拝んでいるわけではない。謝りのポーズだ。
「てか、考え事、全部筒抜けだったんだけどね」
「マジすか――ちょうどいい、今度、相談相手になってくれよ」
「ボクでいいのかい? 分かったよ。それじゃあ話を進めるよ? 教える魔法は闇影」
「闇影? それらしい痛い名前の魔法が来たねぇ」
「馬鹿にしないでよ。この闇影は操り洗脳系の魔法。人に対して何かをするよりも、覚えることによって得られる対洗脳を養うために覚えてもらうよ。
熟練度が上がれば、対象の影に潜ったり収納スペースをのぞけたり、転ばせたりできるよ」
「最後の闇影関係ある?」
「もっと熟練度が上がれば、思考を読み取ったり、意のままに操ったり、影の中を移動したり、転ばせたりできるよ」
「天丼かよ、最後のいらないよね? そんなに転ばすの好きなの?」
「大事だよ!」
大事なのだそうだ……
「転ばす利点はおいおい納得してもらうとして、使い方はね、対象の影を踏んで唱えるだけ。生き物だけじゃなくて、建物とか植物とか全ての影に使えるよ」
「そして、壁や植物を転ばすの?」
「そうそう……むう。教えるの止めようかな……」
拗ねたような声質に変わる。あまりちゃかすのは止めよう
「ごめんって、それで? 闇影って唱えればいいの?」
「そう。前にも言ったけど、闇魔法は熟練度だけじゃなくて、魔法その物を使い続けて、強くするしか方法はないからね」
「了解っす!」
「それから、デメリットじゃないんだけど、その魔法には特性があって、使った対象にお礼として魔力を分けるんだ」
「つまり――味方の魔力回復に使えるって事?」
「その通り! 別名、魔力あげるから赤裸々な君の心をのぞかしてもらうよ!」
「なげーよ、闇影とかで良くない?」
「採用! マスター天才?」
「恥ずかしいな、やめて」
「じゃあ、ついでに闇魔法三大基礎、最後の一つ闇壁!
この魔法は対魔法の盾だよ。基本理念は魔力吸収
闇影の反対、簡単にいえば吸収魔法だね」
「使えそうなの来た-! 吸収はいいね。これで魔力の心配をしなくて済むよ」
「しかしながら、明智君」
「明智君?」
「それが禁断の果実だとしても、マスターは食べられるのかい? 甘い言葉には裏がある。すいも甘いもかき分けて、行ってみようぞ『副作用があるってことだね』夢――」
少し、しょんぼりとしている気がする
悪いことしたかな?
「ああ、そうだよ。副作用ありまくり、正解してよかったね。
魔力の性質は人それぞれ、あまり吸収すると魔力にバラツキが出始めちゃうから気をつけて。
闇影も同じだよ? 同じ人に長時間使うと危険だからね」
「都合のいい話はないか」
「当分、先の話だから気にしなくてもいいよ。あと、闇影は優先して強くしてね。危ない話も聞くし」
「誰に聞いたの? レヴィ?」
「ごめんマスター。それ以上聞かないで。ボクはマスターに対して、ごまかす事はできても嘘はつけないんだ。お願い」
言っている意味が良く分からないけど、何か隠したいことがあるって事か?
「分かったよ。話したくない事ってあるもんね」
「ありがとうマスター。でも、いずれ分かるから」
「全然気にしてないよ、覚える事が多すぎるくらいだし。セナのことは信用してるし頼りにもしてる。俺に対して黙っているって事は、今はその時じゃないから心配かけたくないだけ、だってね」
それに、一時的に箪笥を預かっているだけであって、本当の待ち主は司なので、むやみに詮索してはならない。
セナがどの様に思っているのかは分からないが、一定の線引きは必要だろう。
「マスターお願いがあるんだけど……」
「なんでも言ってくれ、セナから受けた恩はなるべく返したい」
「そんな言い方――うん、分かった。マスター! 早くボクを解放して」
陽二はキョトンとなってしまった。
そんなに俺と一緒にいるのが嫌だったのかと……
「違うから、穢れから解放してって意味!」
読まれたらしい
少し恥ずかしくなった陽二であった。だからこそ、ふざけてしまう。
「ガッテン承知の助よ!」
陽二は外に走り出す。
肉を焼いていたレヴィが『?』と見送る。
島の端まで走ると、水平線の彼方に向かって叫ぶ
「漆黒の魔物出て来いや! やったろうやんけ!」
陽二は心の冒険の書にクエストを受注して、刻銘に記録する。
安易な名前だが『セナドゥース救出作戦』
*
意気揚々と飛びしてみたものの、そう都合良く漆黒の魔物が現れる訳もなく……
「出す方法あるじゃん!」
部屋に戻り黄金指圧でセナドゥースにマッサージをしようと思って、急いで部屋に走る。
まだ、話の途中だったらしく、セナドゥースにこっぴどく怒られてしまった。
「優先して闇魔法を強くしてね、って話だけど魔力操作でこうやってこうやるとね……」
「なるほど。やっぱり同じ魔法だったんだ。以前エルフが使っているの見たんだよ」
「それに名前を付けて、必殺技っぽく使い続けていくと、簡単に発動できて他人から見ると違う魔法に見えるよ。固有魔法の基礎だね」
*
習ったばかりの方法で魔法の練習をしていると
「陽二、にく食べる?」
テーブルの椅子に腰掛け、焼けた肉を包丁で切り分けながら聞いてくるレヴィ。
包丁に皿、あって良かった。買って正解!
レヴィの隣に座り頭を撫でる。最初はストレートのきれいな髪だったが、今はボサボサ。
次はお風呂を作ってみるか!
「ありがとうレヴィ。でも起きたら、朝ごはんがあると思うからレヴィが食べてよ」
「分かった。それなら草、食べる?」
レヴィが食べていた草かぁ、食べたいとは思わないけど……
レヴィの目が何かを訴えている。
せっかく焼いた肉を断られションボリ、売られていく子牛の様なまなざしだ。
『陽二、幼気な女の子の優しさをむげにするのか? 肉を断ったんだ、草いっとけ』
と心の声がした。
「食べようかな、いただきます」
レヴィが準備した皿の上には、肉の横に草が添えられていた。
色目? 野菜の代わり?
野菜あるから、買ってあるから! そっち使って、レヴィアタン!
草を一つまみして、リスのように少しずつガジガジ……苦いと思いきや、ちょっと甘い。
食べられなくは、ない。
調理次第といったところか、それにわずかだが魔力も回復する。
「悪くない。卵とじにすれば合いそう」
レヴィにお礼を言って、草むしり。
洗って細かく切って、卵と草と適当に調味料を入れて、普段はしないけど空気を含ませガンガンかき混ぜる。
するとフワフワの卵焼きができると、風のうわさで聞いたことがある
フライパンに卵を全て投入してかき混ぜながら焼く。そうスクランブルエッグってやつだ。
できたスクランブルエッグ、ぐちゃぐちゃでへにょっとしてて微妙だった。だが、レヴィは『草、うまし!』と喜んで食べてくれた。
混ぜ方が悪かったのかもしれない。
そういえばレヴィって、最初の頃はもっとくだけた話し方だったのに、たまに変な片言になるのはどうしてなんだろう? 穢れの減少で影響があるのかな?
「レヴィってさ、真魔王レヴィアタンなんだよね?」
「そうだよ、そして悪魔でもある」
「たまに話し方が変だけど、穢れの影響?」
「違う、意識すると緊張する」
「悪魔? サラッと流しちゃったけど……」
「レヴィは良い悪魔。レヴィアタンは悪い悪魔」
どっちもレヴィじゃないの? それに悪魔に善悪ってあるの?
「合体しちゃったらさぁ、レヴィは悪い悪魔になっちゃうの?」
「負けない!」
ふん! と気合を入れ、口に肉を放り込むレヴィ。
そういえば――
「リヴァイアサンのダンジョンに入れるんだって。頼めば会えそうだけど……会いたい?」
「会いたい、けど……ここ、出られない。だから合体、ぶっ壊す」
「出る方法を探すから、壊すのは止めてね」
ふと、視線を感じた。
やつか! 漆黒の魔物がヌボーとこちら側を見ていた。
「ふっ、待たせたなセナ! 俺のクエストが始まったゼ!」
スマホを取り出そうとするが……
「あれ、入ってないぞ? そういえば話をしながら眠った覚えがある。身に着けていないと持ち込めないって事か!」
仕方がない、緊急事態だ。怒られたら謝ればOK。
「乙女戦闘服召喚!」
箪笥の中で七時になるまで戦闘を繰り返した陽二。
合計三体の漆黒の魔物を退治した。




