第69話 救出作戦
ハズキは西の森で生まれ森で育った。
父親はコボルトと人のハーフ
母親は異世界人の鷹山卯月
家族構成は父、卯月、兄が二人、姉と妹の四番目
母親の卯月は、由緒正しき神社の娘で巫女、神楽を舞ったり神職の補佐をしていた。
二十二歳の誕生日、母親に『そろそろ結婚でもどうですか?』と、お見合いの話をすすめられたりもしていた。
翌日、神社の庭を掃除をしながら
それでも良いかなぁ
と思い耽っていると、いつの間にか、見た事もない場所にいる事に気が付いた。
怪訝に思い彷徨っていると、魔物に遭遇。
襲われているところを、見ず知らずの男に助けられた。
命は助かったものの魔物に襲われた時に右足を失い、細菌が入り込み視界も失った。
これが、両親の出会いになる。
視界と右足を失い絶望していた卯月のために、父親は身の回りの世話や怪我の回復、心のケアなどに尽力してくれた。
その後、二人は自然に愛し合う様になり、五人の子供を授る事になる。
子供たちの中でハズキの成長だけが、格段に早かった。二カ月で歩き出し、半年後には両親と会話までできるようになった。
当然のごとく卯月は驚いていたが、父親は、自分もそうだったので当たり前だと思っていた。
コボルトの寿命は平均一〇年、だが、生まれてから三年間は人の七倍の速度で成長する。
成熟すると、その後は寿命の年まで衰える事はない。
ハズキは唯一、コボルト式の成長を受け継いだ子供になる
とある洞窟の中で家族仲良く暮らしていたのだが、当時のハズキは、近くに人が住んでいるとは思ってもいなかったので、この生活が普通だと思っていた。
それに洞窟の中は常に明るく風もあり、生活している下の階に降りれば、食べられる動植物や生活必需品の材料も潤沢で、困ることはなかった。
一年目から父と行動をともにして、狩猟の仕方や植物の見分け方、いろいろな事を学んで家族を助けた。
二年目、運良く風魔法に目覚めて、両親が舌を巻くほどの働きぶりを見せるようになる。
この頃から父と交代して、食料の調達などはハズキ、家族の面倒を見るのが父になった。
おそらく父の寿命は、そう長くない、少しでも家族と一緒に居させてあげたい
と、ハズキが願っていたからでもある。
三年目に入り、初めて父の口から町の事を聞かされる。
「私はもう長くない、老化が始まりつつある。
だから今のうちに移住の準備をしたい。
セナドゥースの領主に会って、コレを見せなさい」
一枚のメダルを手渡された。
メダルの表に領主の印。裏には夫婦の名前と、その子供だと証明する印
(身分を証明するもの。録音機能がついていて、万一の時に遺言などを残せる)
父に詳しい道筋や危険な場所を教わり、何度も予行練習を重ねてから出発した。
そのかいあって、セナドゥースへ何事もなく到着できた。
セナドゥースの町は、とてもハズキを高揚させた。
見たこともない大勢の人なみ。
鼻をくすぐる、おいしそうな匂いに立ち並ぶ建物。
体が動きだす音楽
体全体に伝わる情報、全てが刺激的だった。
うしろ髪をひかれつつも、父に言われた協会を探し出し、親切な職員の手助もあって、持って来た素材を換金するのに成功。
服屋の場所を尋ねると田舎者にでも見えたのか、わざわざ案内までしてくれた。
服屋にて
「領主に会う、失礼のない格好を頼む」
で服を選んでもらうが、その服の着衣方法がわからない
素直に質問すると、笑顔で店の奥に通され風呂に入れられた。
ハズキは、訳もわからず困惑していると
「お姉さんに任せて!」
と頼もしい言葉をかけられた。
きっと町では、これが普通なのだろうとハズキは思った。
良い香りのする石鹸に気を取られながら話をする。
この町の事や他の町の事
王様という偉い人が居る町があること
領主の事、その二人の娘の事。
一人は何年も前に他界していて、もう一人は冒険者で、めったに帰ってこないこと
おいしい食べ物
かっこいい男の子
下着や化粧水
石鹸は食べてもおいしくない事
*
服屋で太鼓判を押された服装で、領主の館を訪れた。入口の人物にメダルを見せて、父に頼まれ会いに来たことを告げる。
あっさり屋敷の中に通され、飲み物とおかしを出され、待つことになった。
ハズキは、飲み物のおいしいさに驚いた。
一緒に出されたおかしに手を伸ばし、口に運んだ
な! 何だコレは……おいしい。こんな食べ物があったとは
ハズキは家族にも食べさせたいと思い、残りのおかしを収納スペースに入れた。
しばらくすると、あせった表情の男性が部屋に駆け込んできた。
名前は、イノ=エスペナイン。この町の領主で、父に頼まれ会いに来た人物。
「メダルを見せて欲しい」
と言われたので手渡すと、メダルを確めるように見つめて、同じ様なメダルを取り出し机に並べて手を翳した。
メダルから父の声が聞こえる。
領主への謝罪から始まり、セナドゥースを飛び出して卯月と出会って子供ができたこと
目の前のハズキは自分の娘ということ
コボルトの血をいろ濃く受け継ぎ、見た目は大人の女性だが人年齢は三歳だということ
そして最後に寿命が短い事を告げると、家族の保護を頼んだ
この領主、見た目は四〇歳くらいだが、ハズキのひいお爺さんに当たる。
*
領主の決断は早かった。
すぐに協会へ緊急の人集めを頼むと、ハズキに根掘り葉掘り話を聞き、必要な準備を整える
翌朝には、三十人をこえる冒険者が集まり、ハズキの案内で西の森へ出発した。
到着した領主とハズキが目にしたのは、洞窟の前で倒れていた父親と家の外で冷たくなっていた兄と姉。
それと、兄姉の悲鳴で危険を察知した卯月が、隠れるように指示を出した兄と妹。
家を離れていた父親は、子供の悲鳴を聞きつけて急いで戻ったが遅かった。
二人の姿に涙し、兄と妹に卯月が攫われた事を聞いた。
急いで後を追ったが、洞窟の外でやられてしまったのだ。
すぐに父親の手当てをして、二人の亡骸と家族をセナドゥースへと運んだ。
ハズキは、領主が止めるのも聞かず、母親を探すために西の森へと舞い戻った。
*
陽二と別れた唯はグラウンドへ向かう
そこには準備万端で、今すぐ出発できる状態のパトリックとハズキが待っていた。
パトリックの話だと、捕まえたゴブリンから四ヵ所の場所が判明。すでに結界路の前に、兵士を一〇〇人規模で派遣済みだと言う
「と言うことは」
「人族の女性を捕まえている、と言っていました」
この三人なら、パトリックの城の壁で森の上に道を作るより、森の中を突っ切った方が早い。
話もそこそこに出発した。
兵士が集まっている場所に到着。
詳しい話と作戦を練っていると、陽二から連絡が入り同行の打診を受けるが、邪魔なので断る。
案内役のゴブリンを入れ、遠い洞窟から救助を開始することが決まった。
洞窟に向かう道中、積極的に魔物を討伐していく。
といっても先頭は唯。
襲ってくる魔物は瞬殺、邪魔な木々も魔法一つで消し飛ばし呆気にとられるばかり
殿はハズキ。
だが、唯が通った後の道に、魔物が現れることはなかった。
洞窟を次々に攻略していく。
幸いなことに、ハズキと出会ったみたいな大きい洞窟は一つもなく、全て一本道の小さい洞窟だけだった。
女性と子供を救出して、魔物やゴブリンは容赦なく始末していく。
兵士も無傷とはいかず、それなりの被害を出してしまったが、死亡者はゼロ
救助できたのは女性七人と子供一〇人。
倒したゴブリンや魔物は数十体におよんだ。
*
救助した女性や子供、兵士を運ぶ馬車を見送り続けて、気が付けば日も落ち始めている。
作戦が無事、終了したことに安堵の表情を浮かべひと息入れると、ライブスひきいる最後の馬車が王都に向けて出発した。
唯とハズキは、作戦が終了した後も森の探索を続けている。
唯殿の実力は本当にすごい。
下手をすれば、森の魔物を刈り尽くすのではないか? と思うほどだ。
自分とハズキのわがままで、着いて行くことになったのはいいが、おそらく足枷になっているのだろう。
そう考えてしまうと、本当に着いていくのが正解なのか分からなくなる。
「リック!」
ハズキの呼ぶ声、帰ってきたようだ。
暗くなって来たし、今日はこれで終わりにして帰るのだろう。
声の方に振り返ると、唯とその後ろに男性を背負ったハズキ
結界路の手前で止まると、背負っていた男性を降ろした
「どうやら、ゴブリンも一つではないようじゃ」
降ろした男性に目を向け、そう呟く唯
「母の居場所が判明した。私はこれから助けに行く。すまないが一緒には戻れない、その事を伝えに来た」
「なにを言う、それなら私も一緒に行こう。その前に唯殿、ゴブリンが一つに、とはどういう事なのでしょうか?」
唯とハズキが森を探索しながら魔物を討伐していると、魔物に襲われている男性を発見した。
なぜこんな森の中で?
襲われていた男性は肌が緑色、顔の形というか、見た目は普通の人間なのだが、耳の形が明らかに違う。
唯とハズキは間に割って入り、その男性を助けた。
その男性は「ありがとうございます」と感謝を述べた
そして、気を失って倒れてしまった。
保護する目的と詳しい話を聞くため、野営地に向かっていた。
その途中で男性の意識が戻った。
そして、ハズキの背中で、ゴブリンは二つの勢力に分裂したと語った。
一つは、今まで通り人族と敵対するゴブリンキングのグループ
もう一つは、人族と仲良くしたいグループ
なぜ分裂したかというと、原因は卯月だ。
最初は苗床として連れて来られた卯月。
だが、ゴブリンは卯月に手を出すことはなかった。正確にいうと、手出しをする事ができなかった。
それは、ゴブリンのダンジョンに連れて来た直後から始まった。
ゴブリンキングやゴブリン将軍くらい強い個体なら大丈夫なのだが、それより下位の個体が、卯月の一メートル以内に近付くと、力が抜けて立っていられなくなってしまう
しはらくすれば立ち上がれるようになるが、そのゴブリンは、温和な性格に変わって、言葉通り人族臭くなってしまい、卯月に襲いかかる事もなくなったのである
さらに時間が経過すると、卯月に近づけない範囲が、広がりをみせた
ゴブリンキングは、卯月を危険に感じて始末しようと思ったが、一目見ただけで分かっていた。
卯月は、エルフに勝る最高級品質の苗床。
自分の子供を産ませても良かったのだが、コブリンエンペラーの元に、品質の良い女性を運ぶ計画もあったので、卯月も献上リストに加えることを即座に決めたのだった。
卯月の世話は、ゴブリンダンジョンから少し離れた洞窟に囚われている、献上用の女性たちに任された。
みはり番は、影響を受けていないゴブリン将軍に指揮官を任せた。その部下には温和な性格に変わってしまったゴブリンを三十体。
ゴブリン将軍の指揮で、卯月たち女性は丁重に扱われていた。
しかしその集まりは、ゴブリンキングの知らないうちに、卯月を中心として次第に大きくなっていった。
ゴブリンキングには知らされていないが、卯月の影響を受けたハーフのゴブリンが、人に戻り始めていたのだ。
指揮官のゴブリン将軍も長いこと卯月の側にいたため、だんだんと温和な性格に変わってしまい、今では良き理解者。
人族と仲良くしたいと思い始めていた。
表向きはゴブリンキングに従いつつ、着々と仲間を増やしていった。
ところが、将軍の異変に気付いたゴブリンキングにバレてしまったのが、つい先日
「とゆうわけじゃ」
そこに、元ゴブリンの男性が補足を入れる
「キングは今、ダンジョンの外に出ることはないと思います。なぜか他のゴブリン部隊と連絡が取れず、ダンジョン内も混乱しているようです。それで今のうちに抜け出して、隠れ場所を探そうと思ったのですが……魔物に見つかりまして」
この男性みたいに卯月の影響を受けた者は、産まれなど関係なく弱くなってしまった。
ただ、ここら辺の魔物はランクG、影響を受けていなくてもランクHの頂点とはいえ、ゴブリン一体では危険な相手
ちなみに、練習ダンジョン地下一階のスライムが、ランクHの最底辺。それより下位の魔物も当然いる。
「私は母の元へ急ぐ、危険が近付いているのなら、なおさらだ」
「ハズキの母殿の能力……どういった力なのでしょうか?」
「分からぬが、魔物になってしまった者を人の姿に戻すか」
ハズキは、せかすように言葉をはさむ
「行きながらでいいのではないでしょうか、道案内を頼めるか?」
「はい」
ゴブリンとハズキを先頭に、母親のいる洞窟に向けて走り出した。完全に日も落ちたからなのか、夜行性の魔物がわらわらと現れる。
一体、どこに隠れていたというのか
先程と違って、洞窟に向かう目的があるため、なるべく戦闘は避けて静かに移動したい
そこで、一行は木のてっぺんまで上り、パトリックの城の壁を使い移動した。
「これでは見つからないわけだ」
と呟くハズキ
母親のいる洞窟は、存在を知らないと『まず見つけることはできない』ようにカモフラージュされていた
洞窟の中に案内される。
洞窟の中にいたゴブリン達は、突然の訪問者に戸惑い怪しんでいたが、ハズキが『卯月は私の母親だ』と告げると、その態度は一変した。
この洞窟は地下三階まである。
ゴブリンの話では、玉を取られたダンジョンで主はおらず、魔物の発生も止まっていて死んだダンジョン
「どうりで、中は明るいのですね」
とパトリックの言葉。
洞窟の中は、豆電球程の明るさがある。
そこで、前回入ったゴブリンの洞窟を思い出し、あそこも元ダンジョンだったのだと納得する。
地下二階へ降りた階段の下に隠し部屋があり、その中に卯月を含む女性が匿われていた。
人に戻ってしまったゴブリンは一〇名ほど、違う生き物と間違うほど、顔の表情も変わっている。
「卯月じゃったか? これが、ぬしの力なのか?」
ハズキと再会の喜びを分かち合う卯月に問いかける。
目が見えないとハズキから聞いていたが、唯の問いかけにすぐ振り向く。
先程から、周囲の状況がまるで見えているかの様に振る舞っている。
「最初は良く分からなかったのですが、今は分かります。私の力です」
「どういった能力なのじゃ?」
「説明しづらいのですが、私は目が見えません。
でも、どこに誰が居るのか、連れ去られている途中から見える様になったんです。
少し離れてしまうと見えなくなるのですが、人なら青色。人以外だと赤色、という感じで
それで、力と言いましたが……私は何もやっていないのです。ただ、見える範囲にいると、赤色の中に青色がどんどん増えていくのは見えます」
「範囲内に居る者の色が見える?」
卯月のスキルは範囲内に居る者の、魔力の回復を手助けする能力。ただし、作り出される魔力はC魔力で、色が見えるのはスキルの影響。
そのため、範囲内に入った魔物の魔石が影響を受けてしまい、一時的に行動不能になってしまった
そして、ゴブリンの狂暴性がおさえられたり、人の姿に戻ったりした原因として考えられるのは魔菌。
魔物の体内には、BとCの魔力を作り出す魔菌もわずかだが存在する。そして、C魔菌が卯月の能力で数が増え、第一勢力の魔菌になったためゴブリンに変化が起きた、と推測される。
逆に人族の体内にもAやBの魔力を作る魔菌が存在する。侵入経路は魔物の肉や野菜、MP回復薬など
ただ魔物も人も、食べ物として摂取した場合は、消化するので問題はない。
MP回復薬や一部の薬は、原材料の魔菌が濃縮されていて、消化に強く吸収されやすい作りなので、摂取量に制限が設けられている。
「父も兄と妹もセナドゥースで保護されています。すぐにでも向かいましょう」
唯と卯月の会話を遮り母親に進言するハズキ
「ですが……結界路があってゴブリンさんは通れないと聞きました。私は皆さんを置いては行けません」
それを聞いていたゴブリン将軍、全員に聞こえるように卯月に話しかける
「俺たちは魔物だ、どうとでもなる。それにいつ踏み込まれるか分からねぇし、今の力ではゴブリンナイトにも勝てるかどうか分からねぇ。卯月さん頼むよ、皆を連れて逃げてくれ」
「母さん!」
「では、せめて私達が暮らしていた洞窟に避難して下さい」
「そうか、家のあった下の階ならば隠れる場所も多いし、食料に困ることもない」
ハズキはその洞窟に詳しい。良い案だと頷いていた。
ゴブリンに見つかった洞窟ではあるが、本来ならば簡単には見つからないように父親が細工を施した洞窟だった。
だが、ハズキがセナドゥースへ向かったため、入り口が分かり易いように、細工をゆるくしたのが裏目に出たのだ
セナドゥースから森に戻ったハズキは、入り口の細工を戻しその洞窟で寝起きをしていたが、一度も見付かったことはない。
つまり、実証済みだ!
「私が案内しよう」
唯とパトリックの卯月たちをセナドゥースへ送り届ける隊と、ハズキ率いる洞窟を目指す隊の二手に別れる事になった。




