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第6話 取引

 


 食事も終わり王様とパトリックの3人で話をしている陽二。妹のパトリシアはパトリックにべったりと抱きつきお休み中。


「他人にどなられたのは(ひさ)しいな。しかし悪い気はしなかったぞ」


 王様は食後のお茶を飲みながら笑う


「テンポが良かったので思わず突っ込んでしまいました。元の世界でのこの行動は 『愛』 でむしろ感謝されるべきものなのです」


 陽二もお茶を飲む。あたりまえだが日本のお茶とは少し違う


「そうであったか、だから悪い気はしなかったのだな」


「その通りでございます」


 フェリーから降りたと思ったら草原にいた事や、元世界では42歳で若返ってしまった事。

 せっかくなので、こちらの世界でやり直したいと思っている考えや、元世界でどの様な生活を送っていたかを応えられる範囲で話した。


 王様は


「ゲーム? が何か分からんが陽二は面白がっていて、この世界を甘く見ているのを感じた。正直に話したと言うことは、本気と思って良いのだろう……たが」


 王様は、そこでいったん話を切ると


「この世界は甘くないぞ? 簡単に命をおとす。それでもと言うのであれば好きにするが良い。中身は大人なのだ(たた)き直せばこの世界でも…生きて行けるかもしれない」


 王様は真剣な顔で話を続ける


「気がねなく話せる友が欲しかった。歳も近いのだし陽二が良ければ友と呼ばせて欲しい」


「それはくだけた話し方でいいって事でしょうか?」


「そうしてもらうとありがたい。王は窮屈(きゅうくつ)での。プライベートの時だけだかな、ダグでよい。」


「私もリックでよいぞ」


 と王様とパトリック


「分かりました。ありがたく了解しましょう」


 *


「実は、陽二がこの世界に残る方法なんだが……ある」


「本当ですか?」


「問題なのは、陽二が異世界(・・・)の勇者だからと言う事だ。

 この世界の勇者ならば問題はないのだ……ならば勇者をこの世界の者に渡せば良いのだ。

 ちなみに戦って人族を救った場合も残れない。申し訳ないが無理にでも帰ってもらう事になる」


 戦ったらダメ、でも勇者を譲れば残っても良い、つまり勇者(・・)が残れない条件なのだろう。


「なぜ勇者だと残れないのですか?」


「異世界人の勇者はな、諸刃の剣なのだ」


「諸刃の剣?」


「そうだ。(はる)か昔、勇者たちは人族の祖先を救ってくれたのだが、少し道がそれていれば人族が滅ぼされていた

 それにだ、勇者は魔王でも手に負えないほど強かった。

 勇者は成長も早く戦えばその分だけ強くなったらしい。すぐに魔王でも止められない程強くなったとある。」


「勇者たち?」


「残っている記録では、召喚された勇者は4人いたらしい。力、技、魔、治、の4名だ」


 力の勇者や技の勇者と呼ばれていたらしい。


「勇者が残れない理由は、力と技の勇者が起こした事件があるからだ」


「その2人が何か悪さをしたのですか?」


「陽二ならどうする? 目的を達成したが、元の世界に帰りたくても帰れない! となったら」


「俺は戻る気はないので別に……世界でも見て回る旅とか? その勇者達はどうしたのですか?」


「ほう、魔の勇者と同じだな。

 魔の勇者は世界を見るため旅に出たらしい

 治の勇者は人々を(いや)す治療の旅に出たとある

 残った力と技の勇者は、今の王都の北と西に当時は亜人と呼ばれていた者たちを集めて国を作った。現在のソラマンとセナドゥースのもととなった国だ」


「それで、亜人とは何ですか?」


「エルフ族や獣人族、ドワーフ族とかだな。見た目は人に近く知性があり互いに協力できる者たちだ。今はまとめて人族と呼んでいる。」


 記録として残っている話を王様から聞いた陽二は自分なりに(まと)めてみた。


 ⚫ことの始まりは魔王同士の争い。


 ちなみに魔王と言えば悪い大ボスのイメージが強いのだが、王様の話だと魔物から人族を守っている味方。

 そして見たことはないらしいが、魔王は複数いる。


 ⚫どの様な理由で争いになったのか分からないらしいが、それが原因となり、地上にはいなかった魔物が出てきて町を襲い始めた。


 それ以前にも、ごく(まれ)に確認できる程度はいたが、ダンジョンから出てきた魔物はケタ違いに強く数も多かった。


 ⚫そして、人の窮地(きゅうち)を救うべく『大賢者』が勇者をこの世界に呼んだ。


 大賢者が何者なのか資料には残っていない。


 呼ばれたのは

 力の勇者 技の勇者 治の勇者 魔の勇者の4名


 ⚫勇者たちは魔王を仲直りさせ、この地域にあるダンジョンを攻略して人々を救った。


 これが大体の流れ。そして


 ⚫力と技の勇者が関与していると記録に残っている事件


 1つずつ亜人の(町じゃね?)を作った2人の勇者は旅に出るフリをして姿を消した。

 その目的は、人の国と亜人の国を戦争に導くため


 亜人に変装し人の国で(いさか)いを起こし亜人に対する不信感を(あお)った。

 北と西の国でも同じように人間不信を(あお)った。 


 その方法は、女性や子供をさらい魔物に襲わせたり……とにかく目も当てられない悪事を数えきれない程やったと記録にあると王様は言った。


 そしてとうとう戦争が始まってしまった。


 力と技の勇者は、戦争中にもどちらかが有利になると裏で介入(かいにゅう)して実力者を(さら)い、相手国に送り公開処刑させ敵対心を(あお)り続けたらしい。


 これだけでは勇者がやったとは言えないが


 戦争を止めようとした魔王が殺されたこと

 相手国に送られた人物たちは束になっても敵わない実力者だったこと

 そして、決定的なのは戦争が終わった後に出てきた、力と技の勇者が関与した証拠の数々


 戦争を終わらせたのは魔の勇者だそうだ


 ちなみに魔物はダンジョンから生まれてくるらしく、勇者たちも全てのダンジョンを攻略した訳ではないのだそうだ。


 *


「なぜそんなことをしたんですかね?」


「今となっては分からんが、首謀者が勇者でなければ、魔王の手で戦争は回避できたはずなのは事実。だからこそ、成長すれば魔王すら凌駕(りょうが)するであろう異世界の勇者は元の世界に送り返さねばならない」


 なる程、勇者は強くて魔王でもヤバイ。それならさっさと送り返してしまえ! と言うことなのだろう。


「当時は

『異世界人は力を持つ前に処刑すべし』

 との言葉もあったぐらいだ。

 だが魔の勇者には救ってもらったし恩があるのも事実。

 そこで、この世界に残るか帰るかを選択する権利を与えることにしたらしいな。勇者以外(・・)はな」


「だいたい理解できたんですけど…余りしっくりこないです、魔の勇者の恩ってやつは何ですか? あと勇者以外でも強い職業ってあるんじゃないですか?」


「恩は2度救ってくれたので十分だと思うが、ギフトに帰還魔方陣、数々の魔道具など数え切れん。

 それと勇者以外なら魔王で対処できる。勇者は規格外の力らしいが、その他の職業なら問題にもならないだろう。それに異世界人の知識と技術からは得る物も大きいのでな……」


「そうかですか……ちなみに4人の勇者たちはどうなったんですか? あと俺の他に勇者って来たことあります?」


「4人の勇者は元の世界に帰ったとある。それから勇者は現れてはいない。陽二が初めてだ」


 初めてか……レア職業でも余計な心配がなくなるのであれば、渡した方がいいよな…このままトンボ帰りするのもアレだし…


「職業を渡すにはどうすれば良いのですか?」


「ほかの人物に職とスキルを譲渡(じょうと)するためのアイテムがある」


「そんな簡単な方法があるならもっと早く言って欲しかった…」


「そうだな、だしおしみして済まなかったな。もっと早く提案していれば牢屋(ろうや)に入ることもなかったな、ワッハッハ」


 そんな簡単に渡す方法があるなら早く言えよ


「死ぬかも知れんが、それでも使うか?」


 な、なんだと? それは困ります……


「……」


「実はこのアイテム、今まで誰も使えた者がいない。魔力を流した途端(とたん)に半数は死んでしまったらしい。だが勇者の陽二ならば……と思ったのだ」


 ふと思った。多分、大丈夫だと


「王は試した事はないのですよね? 取りあえず見せてくれませんか? なぜか大丈夫な気がするんです」


「分かった。持ってこよう」


 これでも勇者‥‥‥なせば大抵なんとかなる!


 *


「これがそうだ」


 直径10センチ。うす黒い透明な玉。使い方は玉に魔力を送るだけらしい。


 玉を手にした瞬間、2人で魔力を送っている様な映像が頭に浮かんだ


「王様、今まで失敗した人は1人で使ってなかったですか?」


「その様な気もするがわからんな」


「多分ですけど…この玉は2人で使うんだと思います」


「なんと……そうか! 渡す相手が必要なのか」


 不親切だな……こんな危ない代物、マニュアル付けといてくれよ


「では1度試してみましょう。勇者を渡しても大丈夫な人は? あ、王様2人でやってみましょうか」


「ワシか? しかしもう歳「あ、パスで、リック頼む」なのでな……」


 なんとなく勇者は若い人物が良いと思ったのだ。きっと王様もそう言おうとしたのだ


「それじゃあリック、俺と同じように玉に手のひらをのせて、早く早く」


「本当に大丈夫なんだろうか……」


 向かいあい玉の上に2人で手をそえる。


「次に玉へ魔力を送るだけだけど、俺は魔力がよく分からない。だから玉に向けて(ギフト)を使う。リックも同じようにしてくれ」


「……分かった」


 大丈夫なはずだ。


「では、(ギフト)


(イガネオ)


 ブーン、ブン、ブン、ブン、ブン ピカーン


 手のひらから何かが吸われている感覚。光と共に魔方陣が広がり16インチ程のスクリーンが出てくる


 ●起動確認

 ●ステータス読み込み中‥完了。

 ●ステータス読み込み中‥‥‥完了。

 ●データベース読み込み中‥‥‥‥完了。

 ●登録無し。新規登録します。

 ●登録中‥完了。

 ●登録中‥‥‥完了。


 ●譲渡記録があります。読み込みますか?

 ●(ハイ/イイエ)


 ハイ? イイエ?


 ●ハイ確認、読み込みします。


 思っただけで認識するみたいだ


 ●読み込み中‥‥‥‥‥‥完了。

 ●本条 司→本条 キャロル 唯

 ●ステータス確認中‥‥‥‥‥エラー

 ●確認できませんでした


 本条? 日本人?


 そう言えば画面の文字は日本語だ。


 ●起動確認します。

 ●読み込み中‥‥‥‥完了。開始します。


 ●(譲渡/交換/貸与/設定/終了) 選んでください。


「じょ、譲渡」


 選ぶ欄に設定があったぞ。


 ●(中山 陽二→パトリック=クルシュナイン) よろしいですか?

 ●(ハイ/イイエ)


 ハイ


 ●(職業/スキル) どちらですか?


 職業だ


 ●(勇者) でよろしいですか?

 ●(ハイ/イイエ)


 ハイ


 ●譲渡中‥‥‥‥‥完了。

 ●パトリック=クルシュナイン変更中……完了。

 ●中山 陽二確認中‥‥‥‥職業確認

 ●中山 陽二変更中‥‥‥完了。

 ●譲渡記録中‥‥‥‥‥エラー記録失敗。

 ●パトリック=クルシュナイン職業固定中‥‥完了。

 ●パトリック=クルシュナイン終了。

 ●中山 陽二終了。

 ●再起動します。

 ●(譲渡/交換/貸与/設定/終了) 選んでください。


 もちろん設定だ。


 ●起動 (現在:日本人含む2名以上魔力注入) 変更しますか?

(ハイ/イイエ)


 ハイ


 ●起動条件確認中です‥3‥2‥1‥条件無し。


 ??


 ●起動 (現在:魔力注入) 変更しますか?

(ハイ/イイエ)


 ああ、なるほど理解した。イイエだ。


 終了させるとブーンとスクリーンが消えた。緊張した…無事終わったのか確認してみる。


 中山 陽二

 異世界人 LV.0


 スキル

 愚者


 スキルの異世界人が職業になりました!


「成功だ。リック、ステータス確認してみて」


 パトリックはステータスを確認して驚いていた


「勇者…勇者、私が勇者……」


 ほおっておこう、こんな面白そうな物。まずは玉を確保せねばならない。


「王様!」


「な、なんだ? 勇者は譲渡(じょうと)できたのか? 体に異常はないのか?」


 王様の言葉でハッとした。王子相手に実験みたいなまねを……


「リックも俺も大丈夫なので心配はないです。この玉の使い方も理解しました。ですが大変危険な代物です。少し調べたいので預からせてもらえませんか?」


「しかし、それは昔からある大切な物‥‥‥」


「王様! 危険な代物なのです! 俺が責任を持って調べますので。お願いします」


「まあ今まで使えた者もおらんし……持って行くがよい」


「ありがとうございます」


 よし、ゲットだぜ!


「それよりもリックが勇者になったはずです。俺は勇者に未練なんてないから好きに使ってください。あとの事は王にお任せします。実はすごい疲れちゃって…少し休みたいのですが…」


「そうだな陽二は休んでくれ、ワシはリックと話がある」


「ありがとうございます。いろいろとあったので疲れました。近いうちに必ず返却しますので」


 王様が兵士を呼び陽二を部屋に連れて行った。


 *


 陽二が玉を起動する少しまえ


「これは一体なんなのぢゃ?」


「何でしょうね?」


「なんであろうな?」


 とある山の山頂。3人が正体の分からない塔を見ながら会話をしている。その周囲には魔物の死体(・・)


「どうせろくでもない物ぢゃ、破壊してしまうのぢゃ」


「もう、桜ちゃんたら過激ですね」


「誰が作ったのか怪しいが、物を簡単に壊すのはどうかと思うぞ? 相手の意見も聞かねばなるまい」


(わらわ)ではちと骨が折れる。アスモ、頼めるか?」


「はい! 桜ちゃん。かしこまりました」


「私の意見は無視なのか!?」


 メイド姿のアスモと呼ばれた少女が(つぶや)


地獄の闇雷光(ヘル・スパーク)


 その瞬間、空から黒い雷が落ち塔は跡形もなく消え去り、周囲の死体も消え去っていた。


「ついでにお掃除しました」


 すると突然、桜が苦しみ出す


「ぐっ、うがっ」


「桜ちゃん!?」


「桜!」


「何かがスキルに干渉(かんしょう)してきたのぢゃ……何だったのぢゃ……ん? 感じる……王都か?」


「桜ちゃん、もしかして……帰ってきた……」


「何かは分からん、王都に向かうのぢゃ」


「「はい!」」


 3人は音もなく消え去って行った


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