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第66話 スノーム3日目、ずるい? いいえ効率です

 


 ここは練習ダンジョンの地下一階。地上と変わりなくとても明るい。

 上を見ると雲一つない青空が広がり、ここがダンジョンの中とはとても思えない。

 ダンジョンとは洞窟、洞窟とは日の光が届かない暗闇だと思っていた。そういう意味では、いい方向に裏切られた形といえる。


 ここには、ガナシャのレベルを上げて見習いを卒業して魔法(スキル)を得る手伝いをするためにやって来た。魔法師(まほうつかい)がレベル10になると、スキルとして属性魔法を得るチャンスがあるからだ。


 そこへ冒険者に転職したカリンも合流して、さあ出発! と思っていたらガナットはリタイアを宣言。


 ガナットは妹とYシャツと私を残して、この部屋を出て行ってしまった。


 *


 回復薬のおかげて怪我から復帰した陽二。

 痛いツッコミをしたカリンを(にら)みつけるが、本人はどこ吹く風


 身長一六〇センチ体重??㎏、腰に届く程の長い黒髪に黒い瞳、容姿端麗という言葉が似合いすぎるくらいの美しい少女


 パトリックとの婚約もしがらみもなくなり、猫を被る必要もなくなって、新たなる夢に向かって走りだしたカリン。

 幼い頃から水魔法を操り、同時に冒険者から剣の指導を受け、魔法と同じくらい剣の腕も磨いてきた。


 そこらの冒険者見習いより、間違いなく強いだろう


 そして、二代目スマイルセーラーとして力を受け継いだ。その力は未知数ながら、大いなる期待をかけずにはいられない。


 さて、一番の目的はガナシャのレベル上げだが、カリンの目的もレベル上げなので一石二鳥。


 ガナシャを守りつつ、スライムやオーブタを狩っていく簡単なお仕事。要は寄生プレイ。姫プレイと呼ばれるやり方をやればいいのだ。


 陽二にナーナ、カリンにパトリシアと明らかにオーバーキルのメンバーが(そろ)っていて、簡単なお仕事だと思っていたのだが……


 見習いになったばかりのカリンは、ステータスが下がってしまい、明らかに魔法師の頃より弱くなっていた。


 パトリシアは、魔法は使えるがステータスは低い。スライムによけられてしまう事も多くあまり役に立たない。


 もし攻撃を受けてしまったら――二人とも大怪我は避けられない


 そして、歩くスピードも遅いので、魔物の討伐数も稼げないからレベルも上がらない


 これは今日中には無理だな……


 と思っていた。


 ランスロットと三人で来たときは、とにかく走り回って次から次に倒したので、効率が全然違うのだ。


 休憩の時間にカリンとパトリシアに相談してみる


「めっちゃ効率悪いよね? まだ三体しか倒してないんだけど」


 ガナットと別れてから、一時間は経過している。


 魔物と遭遇した回数はたったの三回。前回と比べると雲泥の差だ。

 それでもガナシャのレベルが上がっていれば問題はないのだが……当然、そう、うまくはいかない


「そんなものじゃないの?」


 とカリンが言えば


「そうなんだ」


 とパトリシアがこたえる


 陽二は、おいしいやり方を経験しているので、我慢ができない。


「効率重視で行こうよ! そこで、相談なんだけど……」


 カリンとパトリシアに考えを伝える


「そうね。なぜ思いつかなかったのかしら……」


「でも、いいのかな?」


「大丈夫。地下四階まで行くと人もいないし、魔物もザックザク出てくるし」


 この練習ダンジョン、階ごとに魔物の最大パーティー数が決まっていて、倒されるごとに新たな魔物が補充されるようになっている。


 敷地面積は、地上の結界路に囲まれている部分の半分はあるので相当広い。

 地下一階の魔物は、一匹ずつしか出ないので安全だが効率は悪い


 さて、提案したものの問題はMPだ。


 カリンに聞いてみると


 ダメージさえ受けなければ、変身と魔法しか消費部分がないので、剣で戦うのなら問題はないとの事、おそらくシアも同じだろう


 脱出用のアイテムを使い外に出てしまうと、前回の記録が上書きされて、次は地下四階から始める事ができない。


 戻った方がいいのか、このまま進んだ方がいいのか……


 陽二は進むことを選択した。


 いったんダンジョンから出て、アイテムを使い地下四階へ向かった方が、明らかに早くて効率はいいとは思う。


 しかし、変身すればHP/MPの変化はないが、ステータスは大幅にアップして進むスピードは上がる。

 そして、徐々に強くなる魔物に慣らしながら進めば、低いHPでも危険度は少ないと考えたのだ。


 ガナシャには可憐ウィッチの事は教えていないが、特別な装備を使って実験するからと他言無用を約束させる。


 土の壁(アースシールド)で二人を囲み、中で変身してもらう。


 変身したカリンとパトリシアにガナシャは大興奮!『かわいい』を連呼していた。

 たぶん、ゼラニオンと重ねているのだろう。


 大体の場所を覚えているので、ナーナを先頭に陽二は、ステータスの低いガナシャをおんぶして走ることにした。


 魔物はカリンとパトリシアで瞬殺する事にする


 経験値は、おそらく分配制。

 だが、経験を積むためにも積極的に狙っていこうと話した。


 こそっとスマホで撮影して聞いてみると、スライムはランクHの5


 弱い! 


 だが冒険者見習いは、それよりも弱いという事実を忘れてはならない


 ついでに、カリンとパトリシアも見てもらった。

 二人とも100ちょっと……陽二より強いので、少しだけショックを受けたのは秘密だ。


 先頭を走るナーナはスライムを発見すると、すぐ後を走っているカリンとパトリシアの二人に合図を送る。


 カリンの武器は、スマイルハート(ソード)ではなく自前の剣。『真法剣』と呼ばれる技を使ってスライムを一刀両断


 見て思ったが、魔砲を剣に(まと)わせているのと同じ感じがする。一度、真法剣を発動すると、纏わせている魔力が尽きるまで効果が続くのだという


 カリンの母親が、昔のメンバーの使っていたスキルを真似(まね)して作った技。

 推測するに、おそらく魔法剣なのだろう。そして『真似(まね)した魔法剣』を略して『真法剣』と呼んでいるのだと思う。


 てか、すでに魔法剣士……と思ったが

 カリンの目標なのだ。黙っておこう


 カリンは真法剣を練習しがてら走る。


 パトリシアの武器は『ピュアスター』という杖。

 杖の先には正十二面体の物体が付いていて……? 


 良く見ると空中に浮いて、杖の先でクルクルと回転している。

 どの様な構造なのか分からないが、魔法を使うための武器なのだろう……


 と思ったら


 ナーナの合図を受けて杖を振ると、先に付いていた十二面体は、クルクル回転しながら弾丸のように飛んでいきスライムを貫いた。


 と思ったら杖の先に戻っている。


「すげぇ……」


 このピンクと緑の髪の毛の女の子たち、間違いなくゼラブラックより強い。スマホで測定した数字は正確だった!


 さてさて、ガナシャをおんぶして運んでいる陽二、決して運んでいるだけではない。


 アスモデウスとの約束は破っているが、後ろに向かって魔法を放っている。

 そう熟練度を上げるためだ! 


 小さな事からコッツコツ。スマホの力で魔力補助を得ているので使わないと損、地道な努力が明日を作る。


 地下二階の階段を見つけても止まることはない。そのまま突き進むのみ! 地下一階でカリンのレベルが一つ上がる

 全部のドロップ品を拾えたわけではないが

 成果、緑草5 緑茸1


 ここからは少し強くなった魔物が二体ずつ出現する。

 ナーナはまだ手を出さず、カリンとパトリシアに任せている


 陽二の背中に居るガナシャは「ほえぇぇぇ~ひぇぇぇえ~」くらいしか口にしていない。

 振動がものすごいのだ。だが、我慢してもらわないといけない


 カリンが剣で倒し、パトリシアが杖を振るいどんどん突き進む。


 地下三階に降りる階段を発見したので、階段の途中で小休止する事になった。


 さすがに変身した二人に合わせるのはきつい、ナーナは余裕綽々(しゃくしゃく)


 一番強いのはナーナなのかもしれないな……


 カリンもパトリシアもさすがに疲れたのか、肩で息をしている

 成果、緑草20 緑茸10


「ふ~疲れたわね。ガナシャ、レベルは上がったかしら――」


「疲れたね、シアこんなに走ったの初めてだよ――」


「ナーナ!?」


 カリン達は陽二の背中を見て絶句した。

 見られている陽二は不思議に思い、ガナシャに声をかけるが返事がない。


「陽二、しゃがんで!」


 カリンとパトリシアが駆け寄り陽二の後方へと回る


 ? と思いながらガナシャの方を振り向くと


 酸っぱい臭いが……ガナシャはリバースしていた。


 白目をむき、口には吐物があふれ、耳がへにょーんとなり、尻尾が痙攣(けいれん)していた。


「早く降ろして!」


 言われて降ろすと、カリンはガナシャを横向きに寝かせ、口の中に指を突っ込み吐物を()き出す

 パトリシアは、ガナシャの背中に回りトントンと叩きながら擦っている。


「ガナシャ、起きなさい!」


「ガナシャちゃん!」


「ナーナ!」


 どうやら振動に耐えきれずリバースして、必死に口をおさえて耐えていたが、気管に入り詰まったようだ。


「マジかよ……」


 その五分後、ガナシャは皆に見守られ天に召されたのであった。


 *


「皆さん、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げて謝るガナシャ。


 カリンの行動は素早かった。


 ガナシャを降ろしてから吐物を()き出し、口の周りを拭いて心臓マッサージ

 それでも息を引き取ってしまったが、強引に心臓マッサージを繰り返し、人工呼吸で気道が確保されたのを確認すると、蘇生薬を使い生き返らせた。


 咳き込むガナシャに祝福(ヒール)をかけると、陽二に正座をさせ説教を始めた。


「アンタ馬鹿なの、気づかなかったの?」


 腕を組み、鋭い目つきで陽二を見おろす


「はい。すみません……でした」


「陽二さんは悪くないです。陽二さんにかけてしまったら悪いと思って、我慢していた私が悪いのです」


 カリンの祝福(ヒール)ですっかり元気になったガナシャが(かば)ってくれた。


 さすが、妹! 


「そうよ、ガナシャも悪いわよ。前ばかりを見ていた私も同罪だけど――今度からは我慢せずにぶちまけなさい! 陽二にとってはご褒美だから、大丈夫よ!」


「え~お兄ちゃんってそんな趣味があるの?」


「そ、そうだったんですか……」


 妹’Sが思いっきりひいている


「んなわけがあるか! 嘘を教えるな!」


 *


「それで? レベルは上がったのかしら?」


 市場で買った飲み物を全員のコップに注いで渡す。

 お茶請けとして、花林糖(かりんとう)みたいなお菓子を全員の手の届く位置に広げる。


 ナーナはグローブ系が大好きみたいなので、グリーングローブひと房を餌に自分の上に誘導する。


「ナーナちゃん、ほら、おいしいよ」


「ナーナ!」


 ナーナを捕まえ、鱗の状態をチェックしながら頭を()でる。


 陽二みたいにブーツを履いているわけでもなく、地肌で滑走しているので、チェックは欠かせない。


「見習いは取れたのですが……覚えませんでした」


 と言う声が聞こえてきた。残念だ、駄目だったか……


「そう、それは残念……」


「残念だね……」


 ガナシャに気を使い、次の言葉が浮かんで来ない


「でもですね、もう少しだと思うんです! 陽二さんにおんぶされている間、ずっと感じていたんです。

 お尻に何かが流れているって……あれって魔法か魔力ですよね? 私、分かったんです! 

 レベルを上げるだけじゃなくて、魔力を感じるって言うんですかね……待っているだけじゃ得ることはできないって! 

 自分から魔法に歩み寄って(つか)まないと駄目だって!

 だ、だからですね、魔法を教えてください。もっと感じさせてください! 掴められるように手助けをしてください。お願いします」


「シアはどう思う? 桜に教わったハンバーグでいいのかな?」


「ん~。それよりもシアがやってもらった方法が良いかなぁ。桜ちゃんってやっぱりすごいんだね」


「ハンバーグ? 何の話? 桜ちゃんってサラリーちゃんのことでしょ? 私にも詳しく聞かせなさいよね」


「えっ? サラリーちゃんって……ゼラレッドですよね? なぜ姫の名前が?」


「違う違う。カリンの勘違いだよ!」


 ごまかす言葉がうまく見付からない。


 カリンの横に移動して『ごまかせ』の意味を込めて、ガナシャから見えないように後からお尻を(つま)んだ


「キャッ! ちょっと、なに触ってんのよ! エロ陽二」


 カリンのワンパンチで陽二は吹っ飛ぶと、そのまま転がりながら階段を落ちて行った。

 ナーナは陽二から素早く脱出して難を逃れた


「ナーナ?」


「カリン、お兄ちゃんに何をするの?」


「陽二が、私のお尻を触ったのよ!?」


 そう言いながら、急いで階段を降りていくパトリシアとカリン


「え? え? 私の事はスルー?」


「ナーナ?」


 階段に広げてある荷物を片付けながら、少しだけ寂しい気持ちになったガナシャ。

 綺麗に片付けると、ナーナと階段を降りていった。


 その頃階段の下では


「桜の事は内緒にしなきゃ駄目だって」


「ごめんなさい、つい…」


 陽二に怒られているカリンがいた


「でもカリンも上手だよね。わざとお兄ちゃんを落としてガナシャちゃんに聞かれないようにしたんだから」


「で、でしょ?」


 何もない空間を見つめたと思ったら、陽二に『ね』とかわいくほほ笑む


「嘘つけや! 死ぬかと思ったわ!」


「急にお尻なんて触るからいけないんでしょ? これで貸し、いちね」


「はぁー? レベル上げにその他諸々、俺の方が山盛りで貸してるだろうがぁ!」


「あ、ガナシャちゃん」


 ナーナと一緒に降りてくるガナシャが目に入り、カリンに小さい声で(ささや)


「ヒーローが正体を隠すのは基本なんだから、注意してよ?」


「分かってるわよ……」



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