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第60話 スノーム2日目、漆黒の魔物を退治せよ! 3日目、高性能アンテナ

 

 スマホとセナドゥースと話をしていると、不意に視線を横切る何かに気付いた。


 外へ目を向けると漆黒の魔物(穢れソルジャー)がいた。


 体長二メートル、幅一メートル程。

 横を向いたときに見えた。厚さは五センチほどでペラペラだ。


「セナ、あれって……」


「あれ? 何で出ているんだろう……もしかして、レヴィと追いかけっこをしたから?」


「そんな事で?」


『レヴィアタンは陽二君と走り回って遊んだ事がとても楽しかったんじゃない? でも、外に出なければ認識されることはないから大丈夫だよ』


「そうなのか、なら良かった。レヴィの話だと俺よりも、かなり強いみたいだし」


 窓から外をのぞいてみる。

 手を振ってもユラユラとしているだけで、こちらには全く気が付いていない。


「笛マスター。戦ってみたら?」


 セナのむちゃぶりが炸裂(さくれつ)した! 

 だが、笛マスターを撤回させるチャンスとも言える


『あーしがサポートすれば倒せるっしょ!』


 あーしさんが復活!


『戦闘サポートはあーしの得意分野だし。ちょっと陽二、あれ、漆黒の魔物をカメラで撮ってみぃ』


 あーしさんには逆らえない。

 漆黒の魔物をスマホのカメラで撮影する。


『ん――おっ、強いし。ランクEの76か、変身すれば余裕っしょ』


 変身できることも知っているのか


「変身はもしもの時だけで止められているんだよ、あとさぁ76ってなに? 戦闘力?」


『大体だけどね、本当に強いやつは隠すのも上手だから正確じゃないっしょ』


「ちなみに、俺の強さはどれくらいなのかな?」


 数字で分かると思うと、ちょっとワクワクするな


『ん――12。変身すれば80を超えるんじゃね?』


「12? 俺ってクソ弱いじゃん」


 数字で分かると現実が見える。だめだこりゃ


『魔砲ってあるじゃんね? 二十発くらいぶち込めばいけるし!』


「むちゃ言うなよ。一発を準備するのに一分はかかるのに……二十発とか……」


黒玉(ダークボール)を投げれば? 目くらましだよ!」


 セナドゥースの言葉にあーしさんが反論する


『陽二の魔法は効かないっしょ。物理攻撃もだめ。通用するのは熟練度の高い魔法か、魔技だし』


「魔技って物理攻撃じゃないの?」


 気になったので聞いてみる。


『それが違うっしょ。物理に見えて物理じゃない魔法かと思えば魔法でもない、それが『魔王勇闘技』って聞いたし』


「誰に!?」


『ちょっくら戦ってみるし』


 スルーされた!?


「むちゃ言うなよ」


『大丈夫。あーしがフォローするし……たぶん』


「たぶんかよ!」


 *


 あーしさんが作戦を練って、陽二でも倒せる方法を発表する。


 まず、弱体化(ディチューン)を解除。

 次に両足に部分強化(ブースト)

 そして、魔技9級で新たに取得した全体強化(チューン)で身体能力を1.1まで強化。


 9級ではこれが限界なのだ。

 強化系は体に大きな負荷をかけ、得られるであろう経験値は激減する。

 倒すのが先決なので、経験値うんぬんと言っている場合ではないのだ。


 窓を開けて魔砲を撃てる準備が整ったら、あーしさんの号令で突撃してぶちかます&すばやく逃げる。


 この繰り返しだ。


 あーしさんが漆黒の魔物の動きを読み、ベストなタイミングで指示を出してくれる。

 体はキツいが、一方的に攻撃できるので安全。


 魔砲を受けた漆黒の魔物は吹っ飛とんで、元の位置に戻ってくると、キョロキョロと周囲を見回している。

 こちらの姿が見えないのだ! 

 まさに見えない攻撃インジビジル・アタック! 卑怯(ひきょう)ではない、戦法だ。


 十五発ぶちかましたところで、あーしさんが黙り込んだ


「どうしたん? あとちょっとで倒せるだろう」


『あの魔物……弱くなってね? 陽二、また撮ってみ』


 そう言われたので撮影する


『20になってるし。漆黒の魔物(あいつ)、攻撃を受けたら弱くなるし』


「そりゃあ……弱ってきたら数字も減るんじゃないの?」


 ゲームと同じに考えてはダメだが、怪我とかしたら動きも鈍るし当然だと思うけど……

 セナは同じ事の繰り返しなので、飽きたらしく口を挟まず静に見守っている。


『陽二は―――今17。ガチでいくし!』


「お! マスター頑張れ!」


 変化の兆しを感じとったセナが声をかけてきた。

 どうやら()は取れたらしい


「マジすか? このままで良くない?」


『あーしが面白くないし。指示を出すから、しっかり聞いてその通りにやれば大丈夫だし!』


 せっかく調子よく進んでいるのに……


 陽二は頭の中で単純に計算する。

 76がHPとして、76-20=56 56÷15=3.7

 一発のダメージが3.7。

 残りが20なので、20÷3.7=5.4 


 あと六発ぶち込めば、倒せる!


「よし、やってやろうじゃないか!」


 最初だけ魔砲の準備をして外に出る。

 漆黒の魔物は陽二を見つけると、コイツが犯人か(・・・)! と決めつけて襲いかかってきた。


『右ななめ前二歩、左足を前に踏み込んで、そのまま逆突きで魔砲をぶちかませ』


 あーしさんが唐突に指示を出してきた。


 指示ってこうゆう事か


 右ななめ前に魔技のステップで移動すると、漆黒の魔物の攻撃が今いた場所に襲いかかった。

 左足を前に踏み込むと、目の前に漆黒の魔物が偶然(・・)、回り込んできた。


「どっせーい!」


 腰の入った力強い魔砲が完璧なタイミングで炸裂(さくれつ)して、漆黒の魔物は、くの字に折れ曲がり吹っ飛んで行った。


「すげーよ! めっちゃきれいに入った!」


『あたりまえだしクラッカーだし。次の準備!』


 漆黒の魔物は吹っ飛び途中で踏ん張って勢いをころすと、カクカクとした動きで戻って来る。


『クリティカルっしょ。風前の灯火!』


 会心の一撃だったらしい。魔砲の準備をして構える。


『顔、右横、左上、顔、顔、顔』


 漆黒の魔物は、武器を使わず肉弾戦が得意みたいだ。

 黒い拳がブンブンと振り回される。

 蹴りは使わないので、両腕に注視するのとあーしさんの指示を聞いていれば、簡単によける事ができる。


『陽二、楽しそうだし。魔砲を解除して、両手に半分ずつ作ってみ』


 いったん魔砲を解除して両手に魔力を集める気持ちでやってみる。

 当然、その間も攻撃をよけている。


 面白い! 不謹慎だが、これはいい練習になる!


 ロウソクの火が消える前の最後っぺなのか、漆黒の魔物は気合を入れてスピードを上げてきた。


『全部受け流せしー!』


「やったるぜ!」


 魔砲の準備を終えた両腕で、攻撃を受け流す。


 上げ受け、内受け、外受け、下段払い。手刀で、前腕で受け流す。既にあーしさんからの指示はない。陽二が自分一人で頑張っているのだ。ランスロットとの朝練、並びに夜練が役に立っている。


「見える、見えるぜおやじー!」


『調子にのんなし。次は流したと同時に攻撃! でも当てんな? 軽く触れるだけだし。身体も使って体重もしっかり移動して――止まんなー! 常に動いて中心を意識しろ!』


「お、押忍!」


 あーしさんのスイッチが入ってしまった。

 鬼教官あーしさんの誕生である。が、これだけは言っておく。


 アスモさんの方が、もっと口がうるさくて厳しいのだ!


 今なら、桜やランスがアスモさんを恐れている理由が、手に取るように理解(わか)る。少しだけ鬼に見える時があるのだ。


 と、そんな事はどうでもいい。

 あーしさんは流しながら同時に攻撃しろと言った。

 それはつまり、防御に徹するのではなく

 間合いを詰めながら攻撃をかわす、または流すのを同時に行い

 かつ攻撃する事を意味している。


 攻防一体


 理想的な言葉だが、簡単にできる事ではない。


 一歩、踏み出す勇気。

 当然のことながら、危険度から何もかもが跳ね上がる。


 今の陽二には、ハイリスク・ハイリターン。

 決まれば、必然的にカウンターっぽくなり何倍ものダメージを与える事ができるだろう。


 だが、その逆もしかり。


 タイミングをはかる。躊躇(ちゅうちょ)していては絶対に決まらない。

 だが、無謀に我武者羅(がむしゃら)に突っ込むのとは、わけが違う。

 達人に至る道は経験しかない。

 幾度の経験をへて、その瞬間を感じとり体が勝手に反応するのだ!


 漆黒の魔物の攻撃を、踏み込みながら左前腕(ぜんわん)で横に流す。

 と同時に、正中線のど真ん中にありったけの気持ちをぶつける。


 ドン


 漆黒の魔物が霧散していく……

 最後の衝撃は、陽二の拳にも返ってくるほどのものだった。


「ありがとうございました!」


 勝手に口走っていた。

 敵に対してお礼を言ってしまう。いや、言わなければならないと思ったのだ!


『な・ん・で、倒すし!』


 *


 部屋に戻り、全体強化(チューン)部分強化(ブースト)を解除して弱体化(デチューン)で0.8に戻す。


 魔力の消費で考えれば、魔砲10×17回+魔力補助17の合計187

 一時間もすれば回復できる量だが、いかんせん両足の筋肉痛がひどい。


 陽二は、産まれたばかりの子鹿の様にプルプルと震える足で立とうとして転びを繰り返す。

 が、とうとう諦めて、寝転んでしまった。


 その姿にセナドゥースは一言!


「さすがはマスター! やるじゃん」


 黄金指(ゴールドフィンガー)で自分の体中をマッサージする。自分でやっても(変な意味での)気持ち良さはないが、筋肉痛や肩こりの原因ヵ所は余裕のよっちゃんだ。


 陽二は筋肉痛の原因は筋肉の断裂と思っていたが

 友達曰く


「炎症が起こることで、発痛物質が筋肉を刺激して脳に痛みの信号が送られる」


 と言われ、さらに


「つっかべは、つっかべで直せ!」

(筋肉痛になった原因と同じ動作をする事で筋肉痛を直せ)


 と言われたのを思い出していた。


 いま同じ事はやりたくないので、超回復とやらに期待してマッサージをする。

 回復魔法(ヒール)でも治せるのだが、いまいち回復魔法の効果が分からない。なので療法や恵み(ヒール)を使うときは、とりあえず四属性を全て唱えることにしている。


 カリンの火傷もそうだが、効果があったりなかったりする。ちなみに、火傷は状態異常扱いになりレベル4(祝福)以上の回復魔法じゃないと効果がない。

 この扱いも、曖昧なのだ。


 それと、基本四属性の『療法や恵み』などの回復魔法は、かすり傷やちょっとした怪我は治せるが、折れた、とかになるとレベル4(祝福)が必要になる。


 これが薬になると、火傷や毒など用途ごとの治療薬がある。

 ようするに、魔法よりも薬で治療するのが一般的で、回復魔法については良く分かっていない(・・・・・・・・)と言うことだ。


 豊君が『治癒魔法』を使おうとしていたが、その魔法が本当の意味での回復魔法になるのだろう。身体検査(メディカルチェック)を試したけど発動できなかった。


 やっぱりとゆうか『呼称発動』でも発動できない魔法は存在する。どうにかして治癒魔法を手に入れたい。

 豊君、教えてくれないだろうか……


 セナに部屋の時間を三倍にしてもらって、少し寝ることにした。初めて『全体強化と部分強化』を使ったので体に不安があるからだ。


『よくやったし、寝ろ………永遠に』


 あーしさんからねぎらい? の言葉を受け眠りにつく。


 そう言えば、弥生はどこに行ったの?


 *


「陽二、起きて」


 体に重さを感じて目を覚ます。


 レヴィが体に乗って口をふさいで鼻の穴に指を突っ込んでいる。おちゃめな魔王だ。少女にやられてもなんとも思わない。むしろご褒美だ。


「おはよう。起こしてくれて、ありがとうね」


 レヴィアタンの頭を()でながら時間を確認すると1時


 帰ってナーナと寝ようかなー


 と二人に告げようとして、思い出した


「レヴィって、おなか空かないの?」


 と聞いてみると


「外、草いっぱい」


 本当に草を食べているとは……


 本日ドロップした、オーブタの肉を全てレヴィに渡す


「食べて、いいの?」


 笑顔でうなずいたが、心が非常に痛かった。


 気付いてやれなくて、本当にごめん。


 食料を買い込んで持ち込もうと、元世界の母ちゃんに誓った。するとレヴィは、渡したお肉を持って喜びスキップで外に走って行った。


「なまで食べるのー?」


「焼いて、食べるよ? ありが、とう!」


 そこそこ大きな声だったようで、聞こえていたらしい。


 調理する道具も必要だな……


『陽二君、お願いがあるんだけどいいかなあ?』


 おっ! びっくりした。弥生に代わったのか


「なんですか?」


『セナさんとレヴィちゃん以外には、スマホと人格の事は内緒にしてて。来たるべき日には伝えるって言ってるから』


「はあ、分かりました」


『直接、陽二君とお話しができるといいんだけど、いまはスマホを通さないと聞くことはできるけど、話しかけることができないの……』


 スマホが話をすると不思議に思われるから、話しかける時は、人目を気にしてバレないように行動してくれって事かな? 桜たちなら大丈夫だと思うけどなぁ


「分かったよ。じゃあ戻るね」


 セナにも声をかけて部屋を出た。


 *


 重い……


 目を開くとナーナの尻尾が目の前にあった。口にベタってした物がくっついている。


 ぺっぺっ


「なんだ、これ?」


 蛇の模様で両面テープみたいな物が、顔の前に大量にある。


「陽二、目が醒めたのか? 面白い物が撮れたのぢゃ!」


 なぜおまえがここにいる? 

 それよりもマイシスター(義妹・桜)を返せ! 


 そんな陽二の視線をガン無視の桜は、興奮しながら話しかけてきた


「バリッとしてぢゃ! メリッときてウニウニとペリペリぺリぢゃ!」


 なるほど……


 状況を分析した結果、ナーナが脱皮をしたようだ。毛ほども意味が分からない説明だが、このような説明は好物だ!


 陽二は、自分の上で脱皮を敢行したであろうナーナを優しく抱き上げベッドに寝かせ、顔に張り付いている脱け殻を広げてみる。


 尻尾だけかと思ったら全身脱皮かよ! ありえない……


 ベタベタがなくなっているので、床に広げて平らにしておく。

 財布に入れておけば、金運アップ、まちがいなし!


 その脱け殻を興味深く観察している桜。


 好奇心旺盛な子だ。


 陽二はナーナを観察する。


「ふむふむ」


 少し大きくなっている。

 髪の毛は赤みが強くなって肩口まで伸びている。

 肌は、褐色だったのに真っ白くなっている。

 おっぱいさんも順調に成長している。


 ベッドの下に桜のシャツを発見した。

 自分で脱いでから脱皮したのか、桜が脱がしたのかは分からない


「で? どうして、ここに居るんだ?」


 どこから取り出したのか、小さい枝で脱け殻をツンツンとしている桜に問いただす。


 それ、うんこじゃないから


「ママ……母様と眠っておったのぢゃが、どうしてもしっくりこない場面があったのでな、編集をやり直そうかと思って抜け出したのぢゃが、ピーンとな(わらわ)のアンテナに引っかかったのぢゃ。来てみて正解ぢゃ! 面白い物が撮れたわ!」


 桜は唯さんと一緒に眠っている。親子だから当然だ。それにしてもいいアンテナを持ってやがる。

 それと、もうママって呼べよ! 誰も気にしないよ


「編集って、ゴブリンとの?」


「その前の魔物軍団vsゼラレッド前編ぢゃ」


「前編? 見学、してもいいか?」


 桜の案内で編集作業を行う部屋に向かう。

 陽二の手にはナーナの脱け殻。

 部屋に飾るから持って来いと言われた。


 部屋に入ると、十畳程の部屋中にわけの分からない機材。

 中央にモニターが二つ、その前に大企業の社長さんが座っていそうな立派な椅子が置いてある。


 脱け殻を棚の上に置くとその椅子に座らされ、膝の上に桜がちょこんと乗って作業が始まった。


 編集作業を見たことがない陽二は、興味深くアレコレと質問をしながら作業を見守っていたが、暇になったので桜印MP回復薬の調合素材を聞いてみた。

 可能ならば、自分で作ってみようと考えていたのだ。


「アレか、アレの作り方はな……」


 桜に聞いた調合素材をスマホのメモ帳に記録する。

 口頭で伝えると、スマホがメモしてくれるのだ。


 A

 魔茸を凍らせた物 一個

 ボッキンミミズの環帯を除いた部分 二匹

 アーリーレッドの皮 一個分

 サクラノアケビ 丸ごと一個

 を調合すると桜万能薬ができ上がる。


 B

 サクラノヒカリのもみ殻 二百グラム

 ダンジョンナマズの精巣か卵巣 二百グラム

 を調合するとバイ〇グラも真っ青で逃げ出す、桜精力剤ができ上がる。


 十リットルの水にAを溶かすと赤色の液体になる。

 Bを少しずつ投入。激しく反応するので注意。

 反応が収まると透明な液体になり、量も二リットルになる。

 これで桜印MP回復薬、十本分の完成だ。


「ありがとう。作ってみるよ」


「素材は全て、このフロアで取れる物ばかりぢゃ」


「ついでに、完全回復薬(エリクサー)の作り方って知ってる?」


 桜は不意に振り向くと笑いながら言った。


「そんな物はないのぢゃ」


 !?


「作った事はあるぞ? 完全万能薬(オールマサー)になったけど……」


「その完全回復薬と呼ばれる物は、蘇生薬に届かなかった紛い物。別名、変化薬と呼ばれる物。調合した者を喜ばせ落胆させる失敗作。なぜか、できあがった物には『完全』と付くが先のAとたいして効果は変わらんぢゃろう。

 (わらわ)も何十回と失敗しておるから分かるのぢゃ」


 そんなものを豊君は珍しがったのか? いや、そんなはずはない


「俺の作った完全万能薬は、アルツハイマーやハゲ、水虫にも効果ありと鑑定結果が出ていた。桜万能薬にもそんな効果があるのか?」


 一言『ある』と自信満々に言ったあとで


「実際に試したことはないがの」


 と付け足した。


 ないのかよ!


 あくまで桜印MP回復薬の素材としか見ていないのだ。当然、どこにも出していないし発表もしていない。


 ちなみに、名前は初めて作った人がつけることができる。未知の物は名前が『?』になっているのだ。

 ただ、成功の例が多くなると『回復薬(小)』みたいに、それなり(・・・・)の名前が定着する。


「蘇生薬はいくつか残っておるが、調合や錬金に成功した事例はない。失われた調合技術だと言われておる。生きておるなら、腕や足を回復できる復元薬は作れるがの……」


 三十分後


「ぐーすぴー」


 桜が作業を終えて振り向くと陽二は寝ていた。


 同じ画像を繰り返しチェックしているだけなので、飽きたのだ。

 友達の家に遊びに行って漫画を読みあさり、しまいにはベッドで眠ってしまい、何しに来たのか分からないのと同じである。


「たわけ者め……栗に目あり、サクラベニタケに耳ありぢゃ!」


 モニターに陽二とランスロットが栗拾いをしている場面が映し出されていた。

 昨日、桜のかげぐち(・・・・)を言っていた場面だ。


 展望台での待ち合わせ場所からファミレスでの会話。協会でのタイトルマッチにパトリシアの鉄壁ディフェンスetc.


 昨日の事だ。

 いったん屋敷へ戻り、本部に戻る途中でアンテナが何かをキャッチした。

 桜はタングリ拾いをしている二人を見かけたが、急いでいたので声をかけずに魔法(ヒーロータイム)をかけたのだ! 


 盗み見るためではない。

 面白い事があれば良いなぁ、ぐらいの軽い気持ちだったのだ。


 椅子のリクライニングをゆっくり倒すと、陽二の胸に耳を当てる。前回、恥ずかしい姿を(さら)してしまった。

 そのリベンジの意味もあるのだが、なぜ落ち着くのか? その正体を確かめなければならないのだ!


 十分後、ベッドに娘がいないことに気が付いた母親が探しに訪れる。

 口を大きく開けてイビキを響かせる陽二、その上でスヤスヤと天使の様に眠っている桜。


 唯の口角が上がる。

 自分の胸元でしか見せない幸せそうな寝顔。

 魔力切れの時とは、明らかに違う寝顔。


 司がいれば、穏やかな春風の中で父娘がこの様に眠りにつき、その横で幸せを感じながら二人の寝顔を見守る事ができるのに……


 それは唯の夢であり願いであり、幸せだ。


 親子三人で過ごした時間は、ほんのわずかだった。

 必ず取り戻す。止まっている家族の時間を再び動かすために


 椅子の隣に座り込むと、桜の手を握りしめ自分の頬に当てて目をつぶった。



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