第5話 謁見 勇者か愚者か
現在、会議室の中で数名の厳つい兵士に見守られた重い空気の中、王様が到着するのを待っている。
風で確認した時間は17時。
なぜ空気が重いのかと言うと、カリンが俺の世話係だからだと思う。
厳つい兵士たちからしきりに
「おい、近いぞ離れろ!」
「俺なんて話したこともないのに……おまえ、離れろ」
「カリン様……おまえ、離れろ」
「今日もお美しい……おまえ、死ね」
「別に世話係なんてメイドでいいだろう……おまえ、離れろ」
と物騒な声が聞こえてくるので、超コワイ!
「あの……カリンさん、もしかしてモテモテじゃない?」
小声で聞いてみた
「ふふ、今頃気が付いたのかしら?」
これだけ美しい女の子なのだ当然だろう、まさにアイドル。嫉妬による身の危険を感じるが、優越感がたまらないのもまた事実。
なるべく1人で行動するのは避けよう……
するとガチャっと扉が開いた
やっと来ましたか。生きた心地がしなかったよ。訴えますよ?
「待たせたの」
数名のオジサン軍団と胸に豪華なマークの付いた鎧を身につけた若い兵士が入ってきた。
正面に王様、左右に大臣、若い兵士、ヨーシン、残りは後ろに立っている。ヨーシンは座れるくらい偉い人だったみたいだ。
大臣が座っている人物の紹介を始めたので顔を確認する
王様も大臣も温和な表情をしており優しそうだ。
若い兵士は王様の息子。鍛えているのだろう、身長180以上でガタイがいい。さらにナイスイケメンだ! 思わず目があってしまい無意識にそらしてしまう
王様の名前はタグリオス=クルシュナイン
王子はパトリック
妹もいるらしく、名前はパトリシアと言うらしい。妹の名前だけ記憶した。
大臣が話を進める。
「陽二殿わが国にようこそ、貴殿の境遇は分かっています。安心して滞在するが良いでしょう。わが国の威信にかけて丁重にもてなしますよ」
「ありがとうございます」
「それでですが……陽二殿は、元の世界にすぐにでも帰りたい……と推察しますが、1つ頼みがあります。聞いてくれませんか?」
大臣の言葉に王様と特にパトリックが緊張している
「お世話になるのですから、僕に出来ることなら」
俺みたいな者に何を頼むのだろうか?
「実はですが、この世界にステータスと言う物があるのは知っていますか?」
「はい。王都に来る前、見る方法を教えてもらいました」
それを聞いた王様は、間髪いれず口を開いた
「見たか?」
「はい。見ましたけど、何かおかしな点でもありました?」
「実はな、今この国はやっかい事を抱えていてな……」
大臣と王様から聞いた話をまとめてみると
この王都がある島の中央には、高い山脈が北から南に連なっていて東と西を完全に分断している。
こちら側にも魔物は住んでいるのだが、山脈を挟んだ反対側はより強力な魔物の巣窟になっていると言われている。
だが山脈のおかげで強力な魔物がこちら側に来ることはできないけど、2カ所だけ強力な魔物が通って来られる場所がある。
それは山脈の低い北と南のはしっこ。
南側は山の間に砦が建設してあって道も狭く迎撃し易い、しかも強力な魔物もめったに現れないためそこまで問題ではない。
しかし北側は平野になっていて道も広くて迎撃しづらい。
しかも最近になって強力な魔物の数が増え始め、状況は非常に切迫しているらしい。
そこで、2カ月後にダンジョン攻略組の冒険者たちと協力して、討伐作戦を決行する事になったのだ。
なる程……読めたぞ? 俺の職業は勇者だ。決行日までに俺を鍛えて、定番の魔王を倒す勇者になれってことだな。
「それで? もしかして僕が勇者だから魔王と戦えと?」
陽二の言葉にカリンが驚き反応する
「えっ、陽二って勇者なの!? て言うか魔王様と戦うの?」
陽二の言葉に王様や大臣まで驚いた顔になっている
「陽二殿!」
大臣が少し怒っているような声を出す
ビクッ! な、なんすか? 何かまずい事でも言いましたか?
「は、はひぃ」
「魔王は人族の味方なのです……それも多大な恩がある。現在進行形でな。戦うなどあり得ん……」
「済みませんでした!」
机にデコをこすり付け、すぐに謝罪を入れる。
「陽二はこの世界の常識に疎いんだから気にしないで、まずは最後まで聞きましょう」
カリンが肩に手を置いてきた。ドンマイって事だろう
兵士の顔も怖い、しばくぞって事だろう。
今は弱っているので勘弁して欲しい、精神的な意味で。
「魔王の事は置いといてだな、陽二!」
次に王様が話し出す
魔王ですよ? 置いちゃうの?
「その前に……大臣、パトリック、陽二を残して他の者は退室するように」
「私もですか?」
カリンが言う
「もちろんだ、大事な話がある」
温和な表情は消え、気高き王の顔になっている
そして皆が部屋を出て行くと、王様がきりだした
「さて、そうだな……話をする前に聞きたいことがあるのだが」
「何でしょうか?」
「陽二は勇者だな」
「そうで……みたいです」
「陽二は……魔物と戦う気はあるか?」
「すみません、全くないです。恐いし……」
「……そうか」
「元の世界に戻りたいか?」
「いえ、それは全く」
「……ふむ」
「人払いの必要はなかったな……」
王様は考え込んでしまった。
――魔物と戦い帰る気があれば、事が済みしだい褒美を与えて騙してでも帰したが……戦いたくないのであれば、アレを試してみるか……
「……? あのぉー」
「陽二はこの国がどうなっても良いと言うのか? 勇者がおらねば、戦いは厳しいものになるだろう。へたをすれば人族は滅びる」
――滅ぶまではないが、北の砦は駄目だろうな。
「それでも残りたいのか? しかし、勇者はこの国に滞在する事は許されない」
「本当は残りたいですけど……ちなみに、魔物と戦わないで元の世界に戻るって言ったら?」
「そうだな……間に合えば人族が滅ぶ前に帰れるかもしれない。だが、有事が優先! 帰還転移門に魔力をそそぐ余裕はない!」
「ぐはっ」
な、なんだと……とどめをさされた。
王様、いやこのオッサンは……死にたくなければ、人族を救って帰れと言いたいのか?
しかし2カ月程度で強くなれるのだろうか? レベル0でへたすればワンパンで逝っちゃうし……せっかく第二の人生を楽しめると思ったら暗礁に乗り上げて沈んぢゃったよ。
クソ、仕方ない。サクセスストーリー決めて帰るか。
「王様、俺やります! 魔物と戦います!」
「いや、もうよい」
な、何ですと?
「おいコラ、ジジイ! ちょっと便所こいや!!」
*
現在、ろう屋の中で一人暮らしを満喫中です!
王様は陽二に怒鳴られても笑っていたが、罵声に驚いた大臣の一声で兵士が部屋に入ってきた。
普通なら取り押さえるだけで済みそうなものだが、兵士たちにボコボコに殴られ(主にカリンの件で)ろう屋に放り込まれていた。
その陽二は、ステータスを開いて見ていた。
――――
スキル
異世界人 愚者
――――
変なスキルが付いてしまった。この後どうなるのやら……
「水」
で喉を潤し
「風」
で時間を確認する。
20:15
暇だったので、いろいろ試していたら水や風でも魔法が発動するのを発見した。あれから2時間ちょっと、まだ体中が痛い。
すると兵士がやって来てガチャガチャと『外に出ろ』と言いながら牢屋の鍵を開けてくれた
「さっきは済まなかったな、頭は冷えたか? 王がお呼びだ、いくぞ」
「ちょっとは手加減してくださいよ、て言うか殴る必要ありました?」
さんざん殴ってくれた兵士に連れられ、王様の待つ部屋に案内される。
招かれた場所は簡素な8畳程の小さな部屋。
王様と王子ともう一人、10歳くらいの女の子がいる。中に通されると、兵士は部屋の外に出て行った。
「陽二、先程は面白かったな、久々に笑ったぞ」
「僕は死にそうでしたけど」
王様が女の子を紹介する
「娘のパトリシア=クルシュナインだ」
「愚者の陽二です。初めまして王女様。かわいいですね」
陽二は頭を下げつつ、つい余計なことを口走ってしまった。
パトリシアは黒髪を首上から2つに分けているツインテール。瞳は黒、まつげは長くちょっとだんごっ鼻、かわいく小さい唇の色白顔。
スカートはフリルのついたお嬢様っぽいのを着ているのに、上はTシャツにカーディガンみたいのを羽織っているだけ
しかしパトリシアは無表情のまま。陽二のことはガン無視だ
「……」
しまった、怒らせてしまったのか?
「陽二、シアは今ちょっと元気がなくてな……まあ気にしないでくれ」
「は、はい」
王様はパトリシアにほほえみ、口を開いた
「シア、陽二の治療を頼めるか?」
「………」
パトリシアは無言のまま小さくうなずくと、わずかに聞き取れる声で魔法を唱えた
「火の療法」
温かい光が陽二の体を包み込むと、体中から痛みが消え傷が癒えた
「あ、ありがとう、パトリシア様」
「……」
ロリコンではないが、小さい女の子は好きである。言葉のキャッチボールができれば、なお良いのだが……
パトリシアもそうですが、ほとんどの人は頭の中で詠唱しています。そして、最後の発動に関わる呪文は口に出すのが当然のようです。