第56話 スノーム2日目、魔王のダンジョンでレベル上げ
昼食をごちそうになって協会を出た二人は、すぐ近くの洋服屋に入った。
あのイザコザで陽二の服が血で汚れてしまったからだ。
収納スペースに替えの上着くらい入っているので、気にするなと言っても
「私のために戦ってくれたのだ、服をプレゼントさせて欲しい」
と言うので、ランスロットの見立てで1着だけ買ってもらった。襟が大きく、胸元をはだけて着込むオシャレな青いシャツだ。
元世界にいるときの陽二は、茶色や黒など、無地のシャツやTシャツばかりを着ていた。
正直、服のセンスはなく嫁と出かける前には、必ずといっていいほどダメ出しをくらい着替えさせられていたのだ。
なので、ランスロットからプレゼントされた服はうれしかったが、派手な気がして少し恥ずかしかった。
プレゼントとは別に自分でTシャツや薄いズボン、特に無地の白いTシャツが安かったので大量に購入した。
「ありがとう。大切にするよ」
ランスロットにプレゼントされた服に着替えて外に出る
そのままの流れで、陽二とランスロットはスノームの町を散策していた。
魔王のダンジョンを案内してくれるはずだったのに、まるでデートみたいではないか……
急にランスロットが立ち止まり、雑貨屋に飾られているショーウインドウを見つめているので、陽二も並んで見る。
それは銅像だろうか? 素材は良く分からないが、ランスロットが変体したときの姿に似ている。
ただ、おでこの部分には角が付いていて、背中の部分には翼が生えている。
「私はこの像が欲しくてな、まえからお金をためていたのだが、先日、物を壊して弁償するハメになってしまってな……」
遠くを見つめるランスロット
「こんな物が欲しいのか?」
ランスロットが語りだす
「この像……もともとは私の家にあった物だ。
幼い頃、私の不注意で他人の物を壊してしまった事があってな、その弁償のために母親はこの像を売ったのだ。
銀貨5枚だったそうだ。
その後、買い戻そうとしたときに金貨3枚と言われてな」
「それで、ランスロットが買い戻そうとお金をためていたと」
「そうだ予約までしてな。聞いた話によると全く売れないらしくてな、店を転々としていた様だ。偶然ここで見付けた時、店に予約したんだ……そしたらな、金貨4枚になっていたのだ…」
そりゃ欲しいって、予約までするやつがいるんだ。値をつり上げてくるだろうに…全く要領の悪いやつだ。
アスモさんにでも言えば、お金くらい貸してくれただろうに
「桜かアスモさんに言えば、金くらい貸してくれるだろう?」
「私が自分の力で取り返さないと意味がないんだ」
まったく……
「分かった。力を貸そう」
「いや、だからな、私が一人の力で取り戻さないと駄目なのだ」
「俺が手伝いたいんだよ。それに儲けを折半にすれば、同じ事じゃないのか?」
「陽二……分かった。力を貸してくれ」
ランスロットは陽二の手を両手でつかみ、うれしそうにほほ笑んだ。
*
手っ取り早くダンジョンで稼ごうと思った二人は土のダンジョンに赴いたが、二人とも見習いがとれていなかったので門前払いを食らってしまった。
冒険者レベル 陽二0 ランスロット5
「魔王の練習ダンジョンでレベルを上げるぞ」
ということで、トコトコと魔王のダンジョンに向かう。
とその時、唯から通信が入る
「すぐに来るのじゃ!」
有無も言わせぬ命令に、渋々と唯の元に転移する。
町の外だろうか? 川沿いにある大きな広場だった。
日頃は家族連れが集まり川で遊んだり、バーベキューなどを楽しむ憩いの場所だが、現在は貸し切りで唯がパトリックとハズキの特訓に使っている
「呼び出してすまぬの」
あいも変わらぬ深紅の瞳に出迎えられる
「唯さん。どうかしたんですか?」
隣にはパトリックとハズキが倒れている。まるで屍のようだ…。
生きてるのか? 生きてるよな……
「実はのう、ナーナの事じゃ。
パトリシアが王妃に甘えっぱなしになってしもうての
ナーナの姿は小娘と王妃にしか見えぬから退屈だと抜かしおって、妾の周囲をチョロチョロとするのじゃ。
相手をしてやりたいのはやまやまじゃが、パトリックとハズキの面倒も見なければならぬ
陽二、己がしばらくの間ナーナを預かるのじゃ」
なるほど、そういう訳か。そういえば、最初の出会い以降ナーナとは触れ合っていないな……
「ナーナ、ダンジョンに行くけど一緒に行くか?」
ナーナはうれしいのかピョンピョンと尻尾で跳ねている。
出会った頃にも思ったが、足払いで簡単にこけそうだ。
「ナーナ! ナーナ!」
「くっ! 仕方なかろう、せっかくのデートの邪魔をするのだ、しっかりと働くのだぞ?」
少し不満はあるが、ランスも了承してくれるようだ
「じゃあスノームに戻ろうか、ナーナはどうやって連れていく?」
仲間の腕輪がないと転移できないのだ。
桜と連絡を取り合っているらしく、唯さんが持っているゼラピンクの腕輪は借りることはできない。
走って行くか?
あのランニングコースを2時間で走り抜ける事ができる体力の付いた今なら、スノームまでならすぐだろう
そう言えば、と思い出した事があったので唯に聞いてみる
「セナが穢れ退治を進めて欲しいって、言っていましたけど」
「ゴブリンの事が片づいてからじゃ、セナには済まぬと伝えておくのじゃ」
唯は申し訳なさそうにつげた
「いま中に入ればいいじゃないですか」
「入れば、なにかと時間を取られてしまう。いいから早く行くのじゃ」
そういえば、あれからセナに呼ばれていない。今日の夜にでも行ってみるか
「では、行きます」
唯と倒れている二人にも声をかけてスノームに走り出した。
人目の少ない場所に移動してゼラニオンに変身する。
腕輪を調整したことによって、桜に頼らなくても変身できるようになったのである。
ただし魔力を大量に消費するため、乱発は控えないと桜に怒られる
「ちょっとだけシアの様子を見ていってもいいかな?」
王妃の事もあるし、少しだけ遠回りになるが様子を見に行くことにした。
一応、ナーナを連れて行く事も伝えておかないと
なるべく人目をさけるように王宮へ向かった。
この格好はゼラニオンなので目立つのだ
「陽二、いたぞ」
王宮の入口近くに生えていた木の枝の上で、隠れて変身を解こうかとしている時に、ランスロットがパトリシアを見つけた。
王妃と二人で花壇の前に座っていた。
つい先日、パトリシアと二人で苗と種を植えたのを思い出す。
パトリシアは、見たこともない笑顔で身ぶり手ぶりを交えながら王妃に話しかけていた。
そこに王様がやって来る、どうやら仲間に入りたい様だ。
パトリシアは両手を広げて王様を通さない。
王様が右に動いても左に動いても、ことごとくパトリシアにブロックされる。
鉄壁のディフェンスだ!
しまいには、パトリシアに何かを言われながら両手で後ろに押されていく
王妃は、その姿をほほ笑みながら見ている
「邪魔しちゃ悪いよね? 唯さんに、あとから伝えてもらおうか」
ナーナの頭を撫でながらランスロットに話す。
ナーナの顔をチラッと見ると、王妃とシアをうれしそうに見ていた。
多分だけど、ナーナは気を使ってシアのそばを離れ、唯さんにまとわり付いていたのではないのか? と思った。
撫でる手に力が入る、ナーナの髪の毛はボザボサだ
「よし、スノームへ出発だ!」
「ナーナ!」
人目をさけ街道を外れた森を駆け抜けた。
その道中、鹿やウサギなどの動物も確認できた。
ただ、こちらの世界に来てから空を飛ぶ鳥を一度も見ていない。
ランスロットに聞いたところ、地を駆ける鳥は存在するが、空を飛ぶ鳥は見たことがないらしい。
*
スノームは鉱山都市と呼ばれるだけあって、周囲を鉱山に囲まれ、鉱石の採掘と武器や道具の製造がおもな産業の町だ。
たどり着くまでの道も起伏が激しく険しい。
町に入る前に変身を解く。もう、おパンティー姿にはならない! 私服を設定済みだ。
だが、今から行くのはダンジョンなので、戦闘の装備を呼び出し換装する。
新たに支給された魔物の素材で作られた軽くて丈夫な装備だ。
ジェットヘルっぽい頭の防具
胸や背中など体の胴体にあてがう防具
肘、膝当てにグローブと脛当てにブーツだ
ランスロットとナーナはそのままの格好で入るらしい。
大丈夫なのか?
魔王のダンジョンの入口は町の外れにある。
ダンジョンの前では店が立ち並び、新人と思わしき冒険者がワイワイと騒いでいる。
魔王のダンジョン1~19階は練習用ダンジョンになっている。
王都の協会で教わった覚えがあるが、各町から見習いさんが集まってくるのだ。
初心者/練習用ダンジョンと謳っているが、お金さえ払えば誰でも入れる
初めてなので受付にて説明を受ける。
―――――
●入場料 銅貨5枚(見えない者は無料)
中で死亡すると、ある程度の時間で外の強制排出場に出される。
本当に死ぬ事はないが痛みはある、再度入るには、もう一度入場料が必要になる。
排出されるまでの時間なら、仲間に専用蘇生薬を使ってもらう事で復活が可能。
本人が持っている場合には自動で使用される。
ダンジョン専用回復薬が銅貨1~5枚
専用MP回復薬が3~10枚
脱出用アイテム20枚
専用蘇生薬25枚
金額で回復する効果が違う
1~5階の広さは結界路内の面積の半分ほど、迷路ではなく、だだっ広い空間になる。
魔物は魔石を持たず、倒すとアイテムをドロップする。
(無…なし N…ノーマル R…レア SR…Sレア)
地下1階のドロップ率は 無70 N30 R0 SR0%
2階 無60 N35 R4 SR1% 魔物強化+20 数+1
3階 無50 N45 R4 SR1% 魔物強化+25 数+1
4階 無40 N55 R4 SR1% 魔物強化+30 数+1
5階 無30 N40 R25 SR5% 魔物強化+50 数+1
それ以降は地下5階の設定が適用される
Nは|緑草 Rは緑茸 SRは銀貨1枚か魔茸
その他にも肉やアイテムなどを落とす場合もある
出てくる魔物は、無属性のスライムと各属性の魔法を使うスライムとオーブタ。オーブタは50センチ程の小さい個体しか出てこない。6~10階は各町にあるダンジョンの魔物が出てくる。
―――――
ナーナの姿は、受付の人には見えていないので二人分の入場料と脱出用アイテムと蘇生薬二つ分のお金を支払う。
ランスロットとパーティーを組んでダンジョンに入った。
「ドロップは期待しなくていいから、ガンガン倒してレベルを上げよう、そして土のダンジョンでオーブタ狩りだ!」
「分かった!」
「ナーナ!」
1階はドロップ率も悪いので、サッサと次の階に降りる場所を探しながら魔物を倒していく。
なにせ広いので効率重視だ。
ナーナの攻撃方法は、火の玉を飛ばすだけかと思いきやブラックウルフの首を一撃で跳ねた技『ファイヤーテイル』や火属性魔法のレベル2も完璧に使いこなせた。
ファイヤーテイルはその名のとおり、火の力を尻尾に集める事により、尻尾が紅くなり焼き切る技だ。
魔力をほぼ回復したナーナにとって、非常にコストパフォーマンスのいい技らしい。
水属性以外のスライムはファイヤーテイルでほぼ真っ二つだ。
水以外をナーナに任せ経験値を稼がせる。
(経験値はパーティー全員に入るが、陽二は理解していない)
それ以外はランスロットが乙女大剣もどきで一刀両断。
(ヒーロータイムの力がないので、見た目は普通の両手剣)
オーブタは小型しか出てこないので3人で速攻、フルボッコにする
以前セナに言われていた。
ナーナは進化する可能性があるので、精霊契約を結んだ方がいいと、なので契約を交わした。
精霊の進化には経験+信頼関係が必要不可欠なのだそうだ。
オーブタのドロップ品は
銅貨1枚相当のバラ肉
銅貨5枚相当のブロック肉
銅貨10枚相当の骨付き肉
買取に出すよりも、ここでの食料に充てた方が良いだろう。
1階は低い草しか障害はない。ほどなくして2階に降りる階段を発見できたのですぐに移動する。
1階の成果は 緑草20、緑茸5
二人ともレベルは上がっていない。ナーナにも聞いてみると、火の精霊レベル7らしい。
2階は2メートルほどの木も現れ視界が若干悪く、魔物も強くなり同時に出現する数も2体になる。
種類もドロップ品も同じだが、ドロップ率が上がりSRの銀貨1枚をドロップするようになる。
ちなみにドロップ率Rが4% SRが1%だ。
ナーナもランスロットもまだ一撃で倒せるが、陽二がスライムの魔法で被弾する確率が増えてきた。
ここでも降りる場所を探しながら倒していく。
ここでランスロットがレベル6、陽二が2、ナーナが8に上がる。
成果は緑草30 緑茸5
3階は足元の草木が少なくなり、その代わりに高い木々が生い茂る様になった。視界は良い。
魔物が若干強くなり同時に3体出現するようになった。
見習いパーティーだと全滅する可能性も高く、隠れた位置からの魔法攻撃も増えるため注意が必要だ。
また、天然の罠も設置される。
さすがにナーナに任せっぱなしもできなくなる。
「この辺りでレベル上げをしよう。楽になってきたら下に行く感じで」
「私はまだまだ余裕だぞ?」
「ナーナ!」
「俺があしでまといなんだよ!」
といっても当たりが良ければ、一撃で倒せる事もある。
ステータスを確認すると魔技が9級に上がっていた。
勇闘者はアスモさんの指示でレベル9で止めてある。
この職業は任意のレベルで止めることができるのだ。
熟練度の兼ね合いがあって、ポンポンと上げるのは良くないそうだ。
ドロップ品は回復薬とMP回復薬に調合しておく、使ってもいいし買い取りに出してもいい。
うまく立ち回れるのなら、ソコソコの稼ぎは叩き出せそうだ。
階段を見つけたので、相談してから降りてみる。
成果、緑草70 緑茸33 魔茸3 銀貨1
レベル、ランスロット7 陽二5 ナーナ9
4階に降りて戦ってみる。ランスロットかナーナが素早く対応してくれるので、そこまで苦労はしない。
相変わらず一撃で倒してくれる。
3階の途中から戦闘方法を変えてみた。
ナーナとランスロットが速攻で倒し、陽二の実戦経験を積むべく手を出さない。オーブタは突進を繰り返し直線的なので、かわす際に足を攻撃して動きが鈍ったらとどめを刺す。
スライムは動きが遅く体当たりがメイン攻撃なので、さほど問題にはならない。
各属性のスライムはニードル系の魔法を使ってくる。
魔法を使う前に体が光り、かわせるスピードなので魔法をよけて接近すれば、普通のスライムより簡単に倒せるようになった
そしてランスロットのレベルが10に到達して見習いが取れた。
陽二は7、ナーナは9
「経験値が表示されれば、もっと楽な気がするんだけどね」
「それは仕方がないだろう」
作ったMP回復薬をナーナに渡すと首を振られる。
? と思って大丈夫なの? と聞くと、回復量が増えてほとんど減っていないそうだ。
レベルも上がった事により、魔法の消費量も抑えられているみたいだ。
セナが言っていた。精霊は周囲の微精霊や精霊の力を借りることができるのだと
ナーナは、気付かぬうちに力を借り受けているのかもしれない
陽二のレベルが10になるまで4階で狩り続けた。ランスロットは11、ナーナも10になった。
脱出用アイテムで外に出ると日は落ちていた。
このアイテムで外に出ると、次回は同じ場所から始めることができる
「19時じゃん……いつの間にか長く入っていたんだな」
「取りあえず屋敷に戻るぞ」
ナーナがいるので、秘密の通路からダンジョンに入る。
初めて来たときは本部に転移したので分からなかったが、めったに使われることはない住人用のエレベーターみたいな物らしい。複雑すぎて場所は覚えられなかった。
本部に移動して、200階へ直通の転移陣に乗って屋敷に戻る
「あかりが付いてるね」
「アスモも戻っているみたいだな」
屋敷に入るとアスモさんと唯さん、それに肩まで髪が伸びて、少しだけ成長した桜が待っていた。
(表)
中山 陽二
冒険者 レベル10
HP 100
MP 50
スキル
冒険術
(裏)
勇闘者 レベル9
魔技9級
HP 118
MP 2770
時属性
スキル
箪笥 時間 黄金指




