表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/94

第52話 桜の家に泊まる

 


「陽二君。起きてください」


 とろける様な甘い声が陽二にささやきかける


「ん? 誰? 天使!?」


 天使ではなく、アスモデウスだ


「ご気分はどうですか?」


「はい。だいぶ、マシになりました」


 現在、陽二がいる場所は鉱山都市スノームにある魔王のダンジョン地下200階。


 その階にあるのが桜の家。

 このフロアの全てが桜の土地で、許可がなければ入れないエリアになっている。


 昨日、ゴブリンとの戦闘のあと気分が悪くなった陽二。遅れて到着した桜とアスモデウスが


「あとは任せておくのぢゃ!」


「任せてください」


 と言ってくれたので、エフィや他のエルフとの接触もそこそこに済ませ、ランスロットに連れられてゼラニオンの本部に転移して休んでいた。


 しばらくすると桜だけが戻ってきて自宅に招かれた


「当分の間、泊まっていくとよい」


 気づかってくれたのだろう。


 お言葉に甘えて、与えられた部屋のベッドでゴロゴロしていると、疲れが重なっていたのか眠ってしまったのだ


 *


 陽二は窓から外を眺める。


 眼下には切りそろえてある植木が等間隔で並び、外玄関であろう場所まで続いている。さらに緑の芝生に色とりどりの花壇に噴水とお金持ちのお屋敷に招かれたような気分になる。


「きれいな場所ですね」


 思ったことをそのまま口に出した


「桜ちゃんの趣味ですね」


 と、アスモデウスの返答


「花を愛でるのが?」 


「いろいろですよ。植物を育てたり整えたり……あの噴水のデザインも、桜ちゃんなんですよ」


 クスッと笑みを浮かべながら楽しそうに話している


「センスが素晴らしい。有能すぎるだろう……しかし、普段の桜からは想像できない」


「桜ちゃんは照れ屋で、自分のことはあまり話さないですからね」


「照れ屋、ね……」


 *


 食堂に移動して朝食をいただく。


 アスモさんの手料理だ。パンにスープにスクランブルエッグ。

 パンは焼きたてで外がサクサク中がモチモチ

 スープは細かく刻まれた野菜が奏でるハーモニーが素晴らしい。パンを付けて食べてもおいしい。

 スクランブルエッグをパンに挟んで食べる、ひかえめな塩味と甘さが交わり、これまたうまい!


 ここぞとばかりにアスモデウスを褒めちぎっていると


「おーい! アスモ~ 陽二~」


 とランスロットの声がする。


「あれ? そう言えば忘れていた。ランスも泊まったのですか?」


「いえ、ランスちゃんもここに住んでいるのです! 気付いてなかったのですか?」


 そうなのか……初めて知った。


 住んでいるが、ゼラニオン本部にもランスロットの部屋は用意されている。


 その様な話をしていると運動でもしていたのか、汗だくになった黄色ジャージ(ランスロット)が入ってきた


「陽二、気分はどうだ?」


 隣の席に座りながら聞いてくる


「すっかり元気だよ。もう大丈夫」


 力こぶを作って元気をアピールする


「ランスちゃんが、ずっと手を握っていたんですよ。ね!」


 いたずらっ子みたいに、クスッとアスモデウスがほほ笑む


「ゆ、言うな!」


 相当心配をかけたみたいだ。


 なぜ、そこまで心配してくれるのか分からないが、ランスロットに向き合い素直に感謝の言葉を告げる陽二


「気にするな!」


 男前である。

 ランスロットは、ぷいっと反対を向いて顔を隠してしまった


「それと、陽二君は魔力の管理を怠っては駄目ですよ? 桜ちゃんが気付いてすぐに戻ったので、大事に至りませんでしたが……箪笥(スキル)に魔力を吸われていることを忘れないでください! 慣れない場面に遭遇したのもそうですが、1番の原因は魔力切れなんですから」


「そうだ、飲ませるのに苦労したんだぞ?」


 桜の指示で、眠っている陽二の口にMP回復薬を突っ込み、少しずつ飲ませていたのだ。


 さすがは桜、経験者は違う


「睡眠の前など、ある程度は必ず回復させてからにしてください」


 アスモデウスは、ぷんぷんといった感じて怒っている


「面目ないです。これからは肝に命じておきます……あれ? でも腕輪のMPは20000も残っていたのにおかしくないですか?」


 納得顔のアスモデウス


「勘違いしたんですね。腕輪のMPは、あくまでゼラニオンスーツなどの維持用なんです。桜ちゃんの2つの腕輪だけは……そうですね! 陽二君の、いえ全員の腕輪でも珠の魔力を使えるように依頼してみましょう」


 というわけで、腕輪を預ける。


 ちなみに町の中で腕輪はめていると、いろいろな問題があるらしいので、外すか認識できない様にする機能を使わないと駄目、というのを教わった。



「では、ランスちゃんに着いて、行ってください!」


 アスモデウスに言われたので


「どこに行くんだ?」


 ランスロットに問いかけると『何を言っているんだ?』というような感じで


「練習に決まっているだろう!」


 アスモデウスが後片付けを始めると、ランスロットは陽二を引っ張り部屋に連れていく。

 そこには『ようじ』と書かれた黒いジャージが置いてあった


 ジャージに着替えて外に出る。


 振り返って桜の家を見る……屋敷だ! テレビとかで見たことのある、三角の屋根がたくさん付いた洋風の屋敷がある。

 庭もすごいし別世界……間違いなく王都の宮殿より大きい。


 やつは()何者だよ……ゼラニオンって儲かるの?


「このジャージ、何か意味があるのか?」


 なぜか、『着替えろ』の催促が強かったので気になった


「自動で弱い部分に負荷を与えてくれるのだ!」


 なに! 素晴らしい…のか?


「取りあえず走るぞ! ついてこい!」


 外玄関の門を飛び出し、フロアの中を走り回った。


 山あり谷あり、地面はデコボコや砂浜みたいに力が入らない場所や、森の木々の間をジグザグに走り抜けたり、遊具の雲梯(うんてい)みたいに手でぶら下がって谷を越えたり……3時間かけて戻ってきた


「ゼェゼェー、ゼェゼェー」


「だいたい、これでいつもの半分だ! 時間は3倍かかったがな!」


 ランスロットが毒を吐いた。おそらく本人にその気はない。


 息を整えながらストレッチに移りあり得ない程曲げられた……回復魔法があるので、かなりむちゃが効くようだ。

 ただし、痛みと苦しみは避けられない


「少しの辛抱だ陽二、なぁに死にはしない! 身体を柔らかくするのは基本中の基本だ!」


 ランスが背中をグイグイと押してくる。足を開いて地面に胸を着けるストレッチだ


「いてぇー! この苦しみから逃げられるのなら死にたい! ギャーー」


 横に足を広げられる股割もひどかった……


「ギエーーー!」


 痛みに我慢したぶん楽に曲がるようになり、足が真横に開くようになった……


 ウソです! 前屈は確かに曲がるようになったのだが、股割はまだまだだ! 痛みを知ったぶんだけ怖くなった。


「毎日続けるのが大事なんですよ」


 ジャージ姿になったアスモデウスも合流する。腕輪の調整を頼んできたらしい


「そういえば、桜はどこに行ったのですか?」


「桜ちゃんはゼラガイオーの実験をしていました。とても楽しそうでしたね」


 いいなぁ、ぶっちゃけ合流したい。この場から逃げ出したい


「唯さんは?」


「王都でパトリック様とハズキさんを特訓しているはずです」


「ランスロットに聞いたのですけど、リックとハズキさんも一緒に行くんですよね? そのための特訓ですか?」


 ランスロットと背中を合わせて、腕を引っ張ってもらい背中で背筋を伸ばす


「その様ですね」


「桜は陽二を外す(・・)と言っていたのだ。特訓して見返すぞ! そして一緒に行くのだ! 行くだろう?」


 次はランスロットの背筋を伸ばすため、腕を引っ張りながら背中にのせる


「俺は邪魔になりそう……間違いなく足手まといか、留守番をしとくよ」


 さすがに魔物のダンジョンへ踏み込む、それも本物の戦闘のため、ランスロットもそれ以上は陽二を誘えない


「そうか……陽二が決めたのならば仕方がない。だが、無駄にはならないはずだ。出発するまで、ここで特訓は続けるぞ、死なないためにだ!」


 それは分かっている。死なないために強くなるのだ!


「ああ! 承知の助だ!」



 それから魔技の基本練習に入る。


 素早く動いたり、逆に1つの動作を5秒以上かけて動いたりする。とにかく、同じ事を繰り返し続けて午前の練習が終了する。


 昼食のあと(かた)を習う。


 形とは、仮想の敵を想像しながら動く決められた動きの事。

 一流の選手が行う形は、目が離せなくなるほど素晴らしい。


 司も空手を習っていたらしく、先人の教えを借りて改良したのが元になっている。

 アスモデウスは、形の動きを1つ1つ丁寧に教え、その動きの意味を理解させてくれる。

 どれだけ理解したかで、体が覚えた動きが状況に合わせて発揮されるのだ。


「次は形どおりに動くのではなく、いろいろな場面を想定しながら頭で考えてください。陽二君の形が必ず生まれますから」


 次は剣を持った状態で形を行ってみる


「なるほど! 剣を持っても動きが生きている。桜が言いたかったことが分かる!」


「そうです魔技をベースに考えてください。全てに通じています」


 ランスロットは陽二の動きを見て口を開く


「あと足りないのは力と、やはりスピードだな。アスモ、勇闘者のレベルを9まで上げてもいいのではないか?」


「そうですね……レベル9まで上げて様子を見ましょうか?」


「ちなみに、どうしてレベル9なんですか?」


「レベルを10以上にすると、極端に熟練度の上がりが悪くなります」


「レベル9以下が肝心だってことですか?」


「その通りです。ランスちゃんも桜ちゃんも、勇闘者のレベルは9で止めてあります。熟練度というのは非常に大事なのです。熟練度1がレベル10、段を超えるとレベル100以上に匹敵するといっても過言ではありません。

 正直に言ってしまえばレベルだけ上げて、熟練度を(ないがし)ろにしている方々は間違いです」


 言っている意味はなんとなく理解できるが、結局のところステータスが低いと、いくら熟練度が高くても意味がないような気もするが……


 *


 というわけで、ダンジョンへ入る前に協会で見習いになるための依頼を受ける。


 せっかくなので冒険者になりたかったのだ


「初めまして、見習い試験を受けるんですね」


「はい! お願いします」


 王都と違ってスノームの受付はお姉さんだった


「それでは、これをどうぞ。期限はありません」


 お姉さんから依頼の内容を書いた紙をもらう


「陽二、内容はなんと描いてあるのだ?」


「えっと……緑草を10株納品って書いてある。アスモさん、緑草の生えている場所って知っていますか?」


「なぜ、私に聞かない!」


 ランスロットが突っかかって来たので聞いてみた


「どこに生えてるんだ? 緑草」


「この前まで覚えていたんだかなぁ……どこだったかなぁ…」


 チラッチラッとアスモさんに視線を送っている


  思ったとおり、聞くだけ無駄だった!?


「ランスちゃんは、妙な強がりや意地を張らなければ可愛いのに……陽二君、ちょっと」


 アスモデウスは陽二に手招きをする。


 耳を貸してって事かな?


「ゴニョゴニョ」


「それでいいのですか?」


「紙には何と書いてありますか?」


 陽二は別の受付に並ぶと


「緑草10株ください」


 緑草を受け取ると、依頼を受けた受付に緑草と依頼の紙を渡す


「はい、確かに受け取りました。それでは冒険者について詳しい話を……」


「いえ、もういいです……」


 とんちかよ! なんか醒めた……


 受付の説明も聞かずに外へ出る。


 こんなのでいいのか? 冒険者!


「陽二君。機転ですよ」


 ステータスを確認すると冒険者(見習い)になっていた。裏の職業は勇闘者だ。アホらしいので表の職業を日本人に変える。


「取りあえずレベル上げだ、いくぞ!」


 ランスロットに引っ張られて魔王のダンジョンにトンボ帰りをする。見習い冒険者は土のダンジョンに入る事はできないので、魔王のダンジョンでレベル上げをするのだ


 *


 魔王のダンジョン地下31階


 あっけなく調整の済んだ腕輪を受け取り変身する。

 アスモデウスとランスロットが見守る中、結界路の外で見かけた、熊みたいな魔物と戦っている。乙女戦闘服(ゼラスーツ)のおかげでダメージはほぼ0だが、陽二の攻撃もほとんど通用していない


「やはり、力が足りないのではないか?」


「おかしいですね?」


 アスモデウスとランスロットは、戦っている陽二の後ろで見学しながらアレコレと意見を交わしている。

 手助けをする気はゼロだが、1対1になるように邪魔な魔物は瞬殺している


「その前にさぁ、相手がおかしいよね? 最初はスライムとかじゃないの?」


 熊の攻撃を必死に盾で防ぎながらチクチクと剣で刺す陽二。


 乙女戦闘服のおかげで身体能力が上がっているので、何とか受けたりかわしたりしている。

 熊は2メートル超で威圧感たっぷり。恐怖心はあるがゴブリン程ではない。おそらく人型じゃないのが幸いしている


 熊の打ち下ろしチョップを盾で防ぐ。巨大な岩でも振ってきたような衝撃がある。だが、不思議と耐えることができる


「陽二君、基礎を思い出しながら(かわ)してください」


「よく見るのだ! そいつらは初動が分かりやすい。半身で構えるんだ!」


 熊に対して半身になり間合いを意識する。


 盾があるから受けてしまうんだ! しまおう


 剣と盾を腕輪に収納して無手で構える。


「いっその事、変身も()いてしまえばどうだ?」


 ランスロットが馬鹿なむちゃぶりを言っている


「一撃受けたら死ぬよね? 死なないための特訓してるのに特攻かませってか?」


「ふふ、余裕が出て来ましたね。隙があったら攻撃も考えてくださいね」


 アスモさんは勘違いをしている。そんな余裕は全くない。

 ただ目が慣れてきたのか、そこまで恐怖心はない。

 だが、リーチの差で本体に攻撃まではできない。なので、(かわ)した瞬間に熊の手を触る事を心掛ける


 必死に(かわ)しながチャンスがあったら触って、即、下がるを繰り返す。


 何気なく思ってしまった。


 左手のひらに桜から教わった方法で魔力を集めて(かわ)した瞬間、熊の手を触る。イメージはカマイタチ


  ブシュ、ブシュブシュ


 熊の手がヤスリに削られた様にずるむけ、血が飛び散る。消費MPはたったの5。攻撃魔法(ニードル)系の半分以下


「あれは……魔力操作?」


「すごいぞ陽二! 教えてもいないのに使えるようになっているとは」


「陽二君。次はそのまま剣をイメージして伸ばしてください」


 先程と同じようにカマイタチをイメージして、30センチほど伸ばす。手の中に短剣っぽいのができあがる。

 (かわ)した熊の手に下から触れるように当てる


 バキバキ!


 熊の爪が2本折れた。MP消費は変わらずたったの5


「すご!」


 剣で攻撃したときよりもダメージを与えている。


 魔法は強いな。


 次は多めに魔力を集めて明確に剣をイメージする。70センチほどのぼわっとしたライトセイバーみたいな剣ができあがった。

 (かわ)しながら斬りつけるが、全くダメージがない


 なるほど、ただ単に剣をイメージしただけでは何かが足りないらしい。


 次はカマイタチをイメージして30センチほど伸ばす。


 (かわ)したと同時に、熊の心臓を目がけて手のひらから飛び出す感じで撃ってみた。

 熊の体に当たり『ブシュブシュ』と斬り裂きなから半分ほど突き刺さった


「グオー」


 熊は戦意を喪失した様で、ボタボタと血を落としながら後退(あとずさ)る。それを追いかけさらに攻撃を仕掛けようとすると、口を大きく開き威嚇する様に声をあげ、片手を傷口に当てながらもう片方の手を振り上げた。


 陽二はその形相におじけづき(・・・・・)躊躇(ちゅうちょ)する。それを見たランスロットは走り出して、熊を牽制(けんせい)した


「陽二! しっかりしろ」


「ああ……」


 おっかなびっくりしながら火塊の攻撃(ファイボール)を唱える。見事、熊に命中して瞬く間に熊の全身は炎に包まれた。


 ステータスを確認すると日本人(異世界人)のレベルが2に上がっていたが、特に何かが上がったとかのお知らせはなかった。


「アスモさん。力とか素早さとかってステータスで分からないのですか?」


「ステータスは、その時の体調で変わりますので、自分で把握するしかないですね」


 ステータスって意外と使えないんだな……


「数値化したら、いろいろと面倒だろ?」


 と、ランスロットが言っていた。


「まあ、常に一定なのもおかしな話だし確かにそうかも……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ