第51話 王妃、王都に帰る
キャロラインイグナスの砲撃で、陽二とランスロットを送り出したゼラレッドこと、本条桜と仲間たち
ランスロットが陽二を捜索している間、ジェームスより得られた情報を元に、意見の交換やこれからの対策などを話し合っていた。
ジェームスより、もたらされた情報は
●ゴブリンのダンジョンがこの森の中にあること。その近くにハズキの母親が囚われているが、大切に扱われているので心配はない
●トパンの村には強力なゴブリンが、大勢住んでいる。作戦の鍵を握る前線基地
●大森林シノフィールと港町サラデインの中間にある開けた場所に戦力を集め準備していること。少なく見積もっても魔物の数5000体は下らない。
●大森林シノフィールにある『作造樹』へ侵入、エルフの誘拐作戦
●そして、おおよそ1カ月半後の大規模な襲撃作戦
おおもとをたどれば、ゴブリンエンペラーの元へハズキの母親を送るために、結界路の発生装置を破壊するのが目的であった。
そのついでに、町を襲い女性の確保と勢力の拡大を狙っていた
「ふむ、森の中で遭遇したやつらか……」
桜はなる程、と頷く
「ご存じで、ござるか?」
「蹴散らした。ついでに近くにおったゴブリンの集団も蹴散らしたのぢゃ。さらに言ってしまえば、トパンの村に住んでおったゴブリンもアスモが殲滅したのぢゃ」
一瞬、キョトンと信じられないような事を聞いた顔をするジェームス
「じょ、冗談でござろう?」
ジェームスは驚愕していた
「本当でござるか? トパンの隊も森の魔物を指揮していた隊もエリートの集団でござるよ?」
広範囲の魔物を集めることができるほどの実力を持っていた集団と一騎当千のゴブリンナイトを多く抱え込んで、何かしらの秘密を隠し持つ、恐るべき強さを誇る部隊だったらしい
「村は寝込みを襲って……ついでに全て燃やしました」
「確かに手ごわかったのぢゃが……ほれ」
アスモデウスが答えると、ジェームスに何かを投げ渡した桜
「へし折る約束をしておったのぢゃが……仮にも乙女戦闘服にキズを付けた剣ぢゃ、拾うて来たのぢゃ(ランスロットが拾ってきたのを奪った)」
ゴブリンナイトが使っていた『ゴブリン狩り』だった。
「この刀は序列1位の証……話は本当なのでござるな……」
その昔、大鬼の武人が得物として使い多くのゴブリンを屠って、島と島をつないでいた大地を海に沈めたと言われる名刀。
その名は『風一文字』
見た目は真っすぐな片刃の日本刀。己で主人を選ぶといわれ、使いこなせる事のできなかったゴブリンナイトですら、強大な力を手に入れたとされる刀
「僕は幸運でござるよ。桜殿に着いていけば、僕の願いは叶うでござる」
*
「では話した通り1週間後、ゴブリンのダンジョンへ攻め入る。それまでに鍛えてやるのじゃ!」
唯は2人に向かって言う
「よろしくお願いします」
とパトリック応えた
「承知した! 必ずこの『風一文字』モノにしてみせる」
とハズキも応えた
桜たちと別れ、パトリシア達が待つ野営地へ向かう道中、キャロラインイグナスの上で2人に向かい合う唯。
なぜ、唯1人だけ残ったのかと言うと……
桜はゼラニオンメンバーと唯だけで、ゴブリンのダンジョンに侵入する前提で計画を話し合っていた。
そこに、ハズキが同行したいと訴えパトリックも続いた。
そこで唯は、両名の実力を知るために模擬戦を行った。
が結果は不合格。
昇斬波は、いとも簡単に唯の指鉄砲から発射された魔法1発で相殺
パトリックは攻撃を防ぐことはできるのだが、その場を動けず亀状態で何もできない
その時、桜が何気なく『風一文字』をハズキに渡した。
風一文字で出した昇斬波は、唯の魔法を1発だが跳ね返し、2発目で相殺された。
その間に、パトリックの動くチャンスが生まれハズキと見事な連携を見せた
「まあ、良かろう。妾が面倒を見るのじゃ」
なんとか合格をもぎ取り同行が許された。
ただし、唯の特訓に1週間、耐えられたらの条件で……そういう訳で唯はこちらに付いていくことにした。
野営地でパトリシアや王妃と合流したパトリックは、積もる話もそこそこに、城の壁で森の上を一直線に横断する方法を使って、ライブスよりも早く王都にたどり着いた
町に入りしばらく進むと、見慣れた馬車が勢いよく近づいて来て中から王様が飛び出してくる
「マリア!」
町の人が王宮に知らせたのだ
「王様! 信じられないことですが王妃様が……」
と王妃の生還を。
いまだに信じられず、遠巻きに見ていた町の人たちもようやく思考が追いつき集まってきた。
あっと言う間に人であふれ、あちこちで喜びの声や泣き声をあげる者たちに包まれてしまった。
唯は、パトリックとハズキに目配せの合図を送り『町の入り口じゃ』と伝えると消えてしまった。
パトリックは帰路の道中、野営地で待っていた王妃を含む全員にこれからのことを説明していた。
なので、この場に事情を知っている王妃とジェームスを残していけば、自分たちが残る必要はないだろうと判断。
特訓を受けるために人混みをかき分け、入り口に待っていた唯と合流した
*
キャロラインイグナスの砲台から発射された2人を運んだ弾丸は、ジェームスの計算どおり『作造樹』にある『精霊の園』上空で縦に開いた。
ランスロットは、弾丸が町に落ちない様に遠くへ蹴り飛ばした。
作造樹
とても巨大な木で、根元こそ結界路内の町から生えているが、伸びた枝葉の両端の距離は余裕で1キロを超え、結界路外にせり出している部分も多い。
地上150メートル上空にある精霊の園も結界路外に伸びた枝先にあるが、150メートルも上空にあるため魔物に侵入される心配もなく安全な場所と思われていた。
広さは校庭のグラウンド程。
そこは、木の上とは思えない程の風景で花が色鮮やかに咲き誇っていて、地面の上と何ら遜色がない。
そこにいるのはエルフの子供達10人前後と世話係りの若いエルフが数人。
その、ちょうど真下に魔の手が忍び寄って来ていた。
名前は不明だが、植物に寄生して地面に向けて伸ばしながら、淡い光を醸し出す果実を付ける頑丈なツタがある。
そのツタが精霊の園の下から大量に伸びている。
ゴブリン達がひそかに種を撃ち付けた植物だ。
長い間、安息の地として存在していたことに油断していた。常に上から見下ろしている者達は、下であがいている者達の存在など己の足の裏程にも気にしていなかった。
そこに目を付けたゴブリンはツタを登り、精霊の園の裏側に到達しようとしていた。
ジェームスが使う鷹目でも裏面は見えないが、いまか、いまかと、周囲の森で待ちわびるゴブリンの姿を発見したジェームスは桜に進言した
*
キャッキャッ、ウフフと走り回る子供たちを見守る若いエルフ、その場に樹面からボコボコと這い出てくるゴブリン。
初めて間近で見る醜いゴブリンに逃げ惑う子供たち。あと少し遅ければ、この場にいた全てのエルフが攫われていただろう
「土壁! 土壁!」
ランスロットが空中から舞い下りてくる。
小脇に抱えられた、ゼラブラックに変身した陽二がゴブリンとエルフの間に、高さ3メートルの壁を作り出し、お互いが接触するのを防ぐ。
さらにエルフを囲むように土壁を唱えると、ランスロットは壁の上に降り立ち陽二をおろして指示を出す
「陽二は、近づくゴブリンを魔法で倒すのだ! 恐れるな!」
「わ、分かった。任せておけ。1体も近づけさせはしない!」
「乙女大剣!」
ゴブリン側に飛び降りたランスロットは、着地と同時に駆け出し次々とゴブリンを屠っていく。
下っ端のゴブリンしかいなかったのも幸いして、あっという間に決着が付く。陽二は壁の上から土塊の攻撃で援護射撃をしていた。
「裏側に行ってツタを落とす。陽二はこの場を頼む!」
神槍を取り出すと、風魔法をまとわせ高々とジャンプをして、空中で大きくした神槍を樹面に投げつけた
「行け!」
神槍はギュルギュルと回転しながら樹面に突き刺さり、ドリルの様に1人分の穴を開け樹面に潜っていくと、その穴にランスロットは飛び込んだ
その間も樹面がボコボコとせり上がりゴブリンが這い出てくる。陽二は土壁の後ろ側を解除して叫んだ
「走れ、逃げるんだ!」
若い世話係りのエルフが、子供たちを引き連れて逃げていく
「ありがとうごさいます。すぐに、応援を呼んで参ります」
その時、1人のエルフが陽二の横に飛び乗った
「私も闘います! エフィです」
緑色の髪の毛をなびかせたお姉さんエルフ。
20歳前後に見えるが、エルフと言えば長寿の種族。だが女性に年を聞くのは禁句だ!
想像通りの姿をしており耳もエルフって感じで先が尖っている
「ありがとう。正直、助かります。陽……陽子です!」
変身しているので見た目は女の子の陽二、とりあえず女性として自己紹介
「いえ、私たちこそ危ないところを助けて頂いてありがとうごさいます。風矢!」
エフィが弓を引くように手を広げながら風矢と唱えると、両手の間に風の矢が生成され発射される。
「クギャ! グギャギャギャ!」
ゴブリンの体や手足に突き刺さると風矢は消える、そのキズ穴から血をダラダラと垂らしながらのたうち回る。
エフィは頭部を貫きとどめを刺す。
見た感じ風の攻撃に似ている。魔力操作であの様な形になるのだろうと陽二は推測する
陽二が体や足元を狙い転倒、または動きを止めると、エフィの風矢が的確に頭を射抜く
「すごい命中率だね! 100発100中じゃない? 土の攻撃!」
チラッとエフィを見て話しかける
「エルフですから! 風矢!」
が、少し苦笑いをしながら語る
「魔力が持たないかもです……数が多いのです!」
普通はそうなのだ。
多いと言われるエルフでも、魔力がなくなるだけの風矢を撃っている。さすがに魔力だけは多い陽二。さらにゼラガイオーを呼び出すために使った鉱石も腕輪に付いたままなので、MPは20000も残っている
「土壁! 土壁! 土壁!」
足止めになるように複数の土壁を作り出し、素早く瓶を取り出すと、レッドグローブ、魔茸、タングリ、ついでに緑草を入れ調合する。
急いでいた事もあり、吐物が付着していたことには気付いていない
「鑑定!」
オリジナルMP回復薬 MP回復500~
を作り出すと、まだ使ったことはないが使える確信を持って唱える
「複製ダブル! 鑑定!」
少し性能の落ちたMP回復薬350~が2つできる。
「エフィ、半分ずつ飲んでみて! 全快しなかったら全部飲めばいいから」
エフィにコピーしたMP回復薬2つを手渡す。オリジナル版は手元に残しておく
「調合!? 陽子さんすごいです、ありがとうございます!」
エフィは半分飲み込むと、もう半分も一気に飲み干す。エフィのMPは350より多いみたいだ
土壁を消すと30体以上のゴブリンが集まっているが、打ち止めっぽい。
ランスが裏側でうまく処理したのか?
「陽子さん! 広範囲の強い魔法撃てますか?」
「バッチコイ!」
「合図をしたら魔物の上空にお願いします!」
「任せろ!」
エフィが、長い詠唱を始めると太い風矢ができあがる
「撃ってください!」
「土塊の大攻撃!!」
「陽子さんお借りしますね、風土塊降矢!!」
ゴブリンの上空で、陽二とエフィの魔法が融合して細長い岩に風がまとっている矢が無数に現れて降り注いだ。
「ズドドドドドドドドド!」
全てのゴブリンが何もできず貫かれたり串刺しにされたりで、見るのも躊躇うほどのバラバラでぐちょぐちょのエグい死にざまだ。
風土塊降矢が消えた後の樹面には、大量の残骸にひどいにおい
「ヒデェ……おぇ」
思わず陽二はリバース! 3メートルからのリバースはキラキラと輝き、滝の様であった。
「陽子さん大丈夫ですか?」
陽二を心配して、懸命に背中をさするエフィ
そこに全てのツタを切り落として、裏側にいたゴブリンを全て叩き落としたランスロットが帰ってきた。
周囲を見回し脅威が去ったことを確信する。
エフィに陽二を任せると、魔石を回収しながら踏み荒らされた精霊の園から残骸を蹴落とし、アクアストームで洗い流した。




