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第42話 ばーべきゅー

 


「桜ちゃん、唯。焼けましたよ」


 バーベキューの準備をしていたアスモデウスの声が聞こえた。


「陽二君も食べませんか? おいしいですよ」


 豊の作った料理など初めからなかったのだ! ランス以外、誰も見向きもしないどころか、存在すら認めていない。

 まあ、どこの誰が作ったのか分らない料理を、おいそれと口にいれる訳にはいかないのだろう


 おなかが空いている訳ではないが、アスモさんの手料理をいただくとしよう。


 隣で眠っているランスロットの見事な山脈が、寝息によって微妙に揺れている。


 ピン! と軽くポッチを弾く


「う、ううん」


 ほう、感度は上々の様だ。さすがは黄金指(ゴールドフィンガー)といったところか


 ランスロットは直立不動の姿で眠っている、見ててなぜか笑える。

 陽二は、そっとタオルをおなかに被せるとバーベキュー会場に向かった


 *


「時を止めるのは厄介じゃ正直、何が起こったのかも分からんのじゃ……モグ」


「時間を止める前にどうにかできれば良いのですが……モグ」


「時間を操る魔法、というわけぢゃな……モグモグ」


「何か、手の打ちようがあれば良いのじゃが……モグモグ」


 陽二が会場に近づくと、にく野菜、にく野菜と交互に差してある串を片手に、豊の対策を話あっていた。

 陽二は、おともだち感覚で豊と接していたので、ちょっと受け入れ(がた)い内容だ。


 このお3方はやる気だ!


「豊君とは完全に敵対関係なんですね……」


 と陽二が言いながら輪の中に入ろうとすると、誰よりも早く唯が口を開く


「あたり前じゃ。そもそも口火を切ったのは、(あやつ)なのじゃ! 司の事を根掘り葉掘り聞かねばならぬ!」


 そこへアスモデウスが言葉を続ける


「司君の事もそうなんですが、聖霊を(けが)し唯にも手をかけたのです。事情は分かりませんが……仲良くはできないですね」 


「ママに手を出した豊は死刑ぢゃ! サインなど書いてやるんじゃなかったのぢゃ」


 ちょっと変わった面はあったけど……そんな事をするような感じではなかったんだよなぁ……


 それから、豊の時間を止める話から、ただの悪口に変わっていった


 *


 さて、1つ実験をしてみようと思う。唯さんが、俺の命令に服従するかどうかだ。

 軽いジャブからやってみる。

 おおっぴらにやってしまうと、桜に気づかれて箪笥(スキル)を奪われかねないからだ。


 悪口は終わったらしい。

 唯さんは500年も閉じ込められていたので、今現在の世間の事情に(うと)い。なので、変わった点をアスモさんや桜にレクチャーを受けている


 さすがは魔王、といったところか、情報収集を(おこた)ることはしない


 まずは……


「唯姉様!」


「ん? なんじゃ?」


「そこにある、調味料を取っていただけませんか?」


 唯の近くにコショウの瓶が置いてある、それに気付いた唯は


「モブのくせに、この(わらわ)を使うのか? 自分で……まあ良い。ホレ」


 唯は瓶を拾い上げると陽二に投げ渡そうとする、すぐさま肉の付いた串を唯の前に差し出す


「あ、ついでに唯姉様の加減で振りかけてもらっても良いですか?」


「なぜ(わらわ)連れ添い(夫婦)みたいなマネを……まあ良い。こんなものか?」


 唯は少し怒気を(はら)んだ困惑した表情を見せたが、振りかけた後は満足した様な表情になる


「んん?」


 唯は奇妙な感覚に(おちい)っていた。


 今までの唯は、司やアスモデウスなどの親しい人以外の些細(ささい)なお願いすら聞いたことは皆無。

 むしろ、使う立場の存在だからだ。


 だが、最初こそ『なぜおぬしの(ねが)いを聞かねばならぬ、自分でやれ!』と思っていたが『陽二の願いを(かな)えてあげたい!』と思ってしまい、願いを聞いてしまった。

 それだけだったらいいのだが、陽二のいうことを聞いてしまったら、体の奥底から形容しがたい高揚感が生まれたのだ


「ママどうしたの?」


「いや、何でもないのじゃ」


 よし、なんとかジャブは成功したみたいだ。もう少しやってみるか?


「あ、唯姉様」


「なんじゃ?」


 少し言葉のトゲが取れて、優しくなった気がする


「唯姉様は呼びにくので、親しみを込めて『唯さん』って呼んでもいいですか?」


 唯は頭の中で葛藤(かっとう)でもあるのか、怒りと喜びの表情が交差する。


 ─なぜじゃ、名前を呼ばれるのじゃぞ? 許せるわけなかろう。じゃがなぜじゃ、こやつ……いや、陽二になら呼ばれてもいい気がする……


 唯は名前で呼ばれたい、と感じた気持ちにふたをして奥底に隠した


「うむ、呼びにくのであれば仕方がないのじゃ、許す!」


「唯さん、ありがとう」


 唯はうれしくなって照れた……だがコンマ1秒でその気持を隠した


 アスモデウスは普段から周りの人に『アスモ』と呼ぶようにいっているので、今のやり取りを特に気にはしていない。


 桜は少し怪訝(けげん)に思ったが、母様は心が広い! と解釈した。ここでもう少し疑っていれば、少しの間とはいえ唯が陽二のいいなりになることはなかっただろう。

 まあ、のちの事を考えれば、陽二のおもわくは阻止され結果オーライになるのだが…


 陽二は、うまくいったのを感じると管理者項目(ゆい)を開く


 強制収容 □


 おそらく、これを『(チェック)』にすると、あの扉の中に送ることができるはず


 命令服従 □


 あとの楽しみを想像しながら、命令のチェックを外し項目を閉じた


 *


 陽二は、時間(スキル)で現時刻を確認しながら、疑問に思っていることを質問する


「唯さん、質問しても良いですか?」


「名前で呼ぶ……きょ、許可したのじゃったな……なんじゃ?」


 言葉にトゲが戻ってきている。

 最後の言葉はぶっきらぼうだったけど、項目チェックは効果があったみたいだ。

 もうちょっと確認してみよう


「あ、その前にコップに水を注いでもらえませんか? 」


 いたっ!


「モブごときが…調子に乗るな」


 唯は指鉄砲を陽二に向けながら、鋭い視線で陽二のハートを打ち抜く。

 これは、指先から風魔法を飛ばしているのである


「す、済みませんでした」


 痛かったが、確認OKだ。


「あの、ギフトって魔法があるじゃないですか。あれって勇者が作ったんですよね?」


「そんなものもあったの、素案は司じゃ。実際に作ったのは、そこにおるアスモじゃがな」


「えっ、そうだったんですか?」


 え? アスモさんって年齢はいくつなん? ガラスの十代かと思っていたのに……そう言えば、勇者の事を知ってて唯さんと知り合いって時点で想像がつくか……


「唯!……一応、私が作りました」


 アスモデウスはちょっと困ったような表情で肯定する。あまり知られたくないらしい


「それじゃあ、アスモさんは魔法が作れるって事なんですか?」


「まあ、ありていに言えば……秘密ですよ?」


 アスモさんとは思えないウインクをバチコーンとかましてくる


 ものすごい威力だ!


「かしこま! 墓場まで金庫にしまって持っていきます!」


 アスモデウスは、コホンと1つ咳払いをして


「私には母親から受け継いだ『創造魔法』があります。字のごとく魔法を作るための魔法です……」



 ●創造魔法

 魔法を作るためにはポイントが必要。

 アスモデウスは、母親から受け継いだポイントで魔法を作っている。ポイントを増やす方法は分かっていない。


 綿密な打ち合わせをして『細部まで細かく指定』する事と『魔法の概念を理解』する事でポイントの消費をおさえる事が可能。

 どんな弊害(へいがい)があるのか分らないので、簡単には作れない。


 例えば、


 時間を止める魔法を作るとすると、時間の概念が理解できないので作れない。

 仮にできたとしても、魔法を使った瞬間に細かな指定をしていないと、術者もろとも全てが止まる可能性もあるし、元に戻せないかもしれない。

 あるいは、空気の流れも止まってしまい全ての人が死ぬかもしれない等々、考えの及ばない事態が発生するかもしれないのだ


 桜に箪笥(スキル)を移すために作った魔法は、行使だけで創造には失敗している。それでもペナルティーとして多大のポイントを失った


「そういう意味もありまして、乱発はできないのです」


「ギフトは何の目的で作ったのですか?」


「あれはじゃなぁ……」


 唯が説明してくれた

 簡単に説明すると、復興支援のために作られた魔法。


 火:生活に欠かせない火を簡単に起こせるように

 水:生きるためには必須。遠出するときでも安心!

 風:乾燥、時間確認、翻訳(ここは最後まで難航した)

 ():土壌開発、消毒

 光:暗い場所は見えたらいいよね

 闇:箪笥がモデルの簡易収納スペース


 が本来の意味らしい。


 さらに驚くことに、ギフトの各属性を使えるということは、基本4属性の魔法も使うことができる、と唯は言う。

 これは本来、人族に備わっている能力。

 しかし深層心理で『できない』と思っているので使えないのだと説明した


 ギフトの補足として唯が説明する


 生き物は魔力を少しずつ体外に放出している。

 回復量より少ないので分からないだけ、その魔力は周囲に漂っていて、いずれ魔素に変化する。


 ギフトは、その魔力を使っている。

 なので、魔力を使っていないように見えるだけで、実際は魔力を消費しているのだ。

 さらに、ギフトは掛け合わせる事ができる

 例えば火風(ギフト)でドライヤー、火水(ギフト)で温水を出すこともできる。


 可能性は無限大! それがギフトなのだそうだ


「すごいですね!」


「ぢゃが、この考えはとうの昔に忘れられておる。スノームのダンジョンに住んでいる者の中には、多少なりとも理解しておる者もおるのぢゃが…」


 と桜が割り込んでくる。

 何度かゼラニオンの映画の中で説明したらしいが、受け入れてもらえなかったので諦めたらしい


「『スノーム』って話によく出て来るけど、魔王がいる町だよな?」


「そうぢゃ、(わらわ)下僕(げぼく)ぢゃ!」


「ウソつけ、それは言い過ぎだろ」


「タツヤの事か? (わらわ)の下僕じゃ!」 

「でわ、(しもべ)ぢゃ!」 

「でわ、兄で!」


「仮にも魔王に言いたい放題とか……悪ノリしていないで、町と魔王のことを教えてくれない?」


「スノームは鉱山の近くにあって、人口500万はくだらない。王都ほどではないのぢゃが、栄えている町ぢゃ

 中心部に土のダンジョン、西部に魔王の管理するダンジョンがあって、地下19階までが冒険者などの育成階、その下に(わらわ)たちが住む階があるのぢゃ」


「500万!? ウソだろ?」


「本当ぢゃ。まあ地上部分(スノーム)は7~8万人程度ぢゃ」


「ほとんどダンジョンに住んでんじゃん」


「そうぢゃ。昔、亜人と呼ばれていた者が多種多様に住んでおる……正直いうと、(わらわ)にも正確な数は分からん」


「そうですね、今現在は誰も把握できていないと思います。だいいち、魔王のダンジョン1フロアの広さは、結界路の中と同程度の広さがありますし、生活も独自に行っていますので……」


「すごく広いんですね」


「この程度の広さのダンジョンなら、いくらでもありますよ」


「そういえば、この国の名前って何ですか?」


「名前はないですね。王都とかスノームとかで通用しますので……()いていうなら、人族の国? 連合国(とりかご)みたいなものですからね」


 とりかご?


「言われてみれば、国の名前はないのお。今度、魔王に決めさせればよいのぢゃ」


「桜帝国でどうじゃ?」


「ママ、それは、さすがに恥ずかしい……」


 桜なら意気揚々と『桜帝国、最高ぢゃー!』と言うと思ったが、意外と恥じらいという物を持っていたらしい


「魔王の事も教えてほしいな」


「魔王は魔王ぢゃ」 


「甘ちゃんじゃな」


「ステキな人ですよ!」


「もういい……」


 てか、唯さんも知っている……あたり前か


 他にも聞きたいことがあった気がするけど……なんだったかなぁ……


 陽二が思いふけっていると、視界の中に時間(スキル)で出していた時間の下に、もう1つ時計が現れていた。

 ただし、数字は0:00:00で止まっている。


 これは、いったい……?


 なにげなく、そのままの状態で時間(スキル)を使ってみた。

 すると下の数字が動き出し、もう1度使うと止まる。

 さらに使うと止まった時点から動き出す。


 もしかして……これが次のステップか? 今までは適当に時間を見ながら計っていたが、時間(ストップウォッチ)で計れる様になったという訳か……正直、役に立つ能力とはいえないが、この短期間で次のステップに進めたということは……近いうちに時間を操れる様になるかも!


 陽二は何度も動かしたり止めたりを繰り返す。

 そしてリセットと思えば、0に戻せる事も発見した。


 (ギフト)は10秒程で消えてしまうが、時計(スキル)は1度使えば長い時間表示されている。


 陽二はこの頃から、気になる事があれば時間を計るクセを身につけた。


 *


 バーベキューの片付けも済んで現在15時過ぎ、唯さんと桜はお互いの距離を埋めるように話に夢中だ。

 少し遠目でも髪の色や瞳もそうだが、なにげないしぐさ(・・・)も似ていて、つくづく親子なんだなぁと感じてしまう


 アスモさんは時間がもったいない、との事で魔方陣を使いランスロットを連れてトパンへ向かった。

 桜の指示で、トパンにいる子供たちに寄生虫がいないかを確認した後、宿場町まで連れていくためだ。


 アスモさんも保護した女性が気がかりだったみたいで、すぐに出発した。

 ランスはお手伝いだ。起きてすぐは


「いやだ、私は行きたくない! 陽二と話をするんだ!」


 と息巻いて俺の足にまとわりついていたのだが、唯さんと桜に


「うるさい。親子の甘々トークの邪魔じゃ! 早く行け!」


「行くのぢゃ!」


 と言われて、アスモさんに引きずられていった……


 だがランスロットも黙って行ったのではない。

 桜から『ノーパンティ・ノンノンライフ』半月への短縮

 唯からは『唯さん』呼びを勝ち取った。


 ちなみに、帰ってきてからのマッサージも獲得した。

 あの行為の呼びかたに困った陽二が、マッサージと名付けたのだ


「ランスのやつ、変なのに目覚めてしまったのかな……」



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