第41話 箪笥
棚ぼたで、スキルと中に入っている娘を手に入れた陽二。
気分は最高潮! 息子も最高峰!
何て素晴らしいんだ!
ちなみに、まだまだ大事な話をしている最中、嬉々として『早速、スキルを試してみるべー』と言っている場合ではない。
陽二は紳士! 後で、こっそりねっとり使うのがベスト!
というわけで、うわの空で話に参加することにしたのだが、MPがピコ、ピコと減っている。
おおよそ10秒に1。1分で6、1時間だと360も減る計算だ。
魔法術士のMP回復量は1時間で約200なので、差し引き160ずつ減っていく事になる
陽二は躊躇せず職業を異世界人に変更。
お! MPが20に増えている
前回と変わった点はスキルが増えたことなので、もしかしたらスキルが増えればMPも増えていくのかもしれない
職業を変えたとき、職業やスキルの名前を変更できる項目が増えていた。
あまり意味はないと思うが日本人に変更してみた。
俺はジャパニーズ!
さて、一人でくだらない事をしている場合ではないので、話に耳を傾けることにする
「寄生虫は全て駆除しました。トパンの跡地はゴブリンが巣くっていましたので駆除。念のため村ごと焼却しました」
なんちゅーおそろしい事を……アスモさんって、見た目によらずこえー
「ゴブリンか、妾は初めて見たが、こっちにも魔物どもを退治した後、わらわらと出おったのぢゃ」
「びっくりしたぞ桜、急に変身が解けたから焦ったぞ? 連絡もつかなかったし…」
「おかしいのぢゃ、MP4000は残っておったはずなのぢゃが……急になくなったのぢゃ! ランスが何かしたのではないか?」
「うっ、そういえばパトリシアの母親に『水聖の奇跡』を使っている最中に変身が解けたな……」
「うむ、多分それぢゃな。まあ良い。タイミングは悪かったが、人助けに使ったランスは正しいのぢゃ」
「さすが、わが娘! 桜は偉いのじゃ! この戯けランス! うちの娘を殺す気か!」
唯は桜をもみくちゃに撫で回し、ランスロットに刺すような視線を向ける。ランスは平謝りだ。
しかしゴブリンか、序盤に現れるテンプレモンスター、やっぱりこの世界にもいるのね
「妾が扉を破れなければどうなっていた事か!」
「ママが助けてくれたんでしょ?」
「そうですよ、あんなモブ共はケチョンケチョンにしてあげましたからね」
「うん! ありがとう! ママ!」
うおぉぉぉ! 鳥肌が体中に這いずり回る、キモいぞ! 親子でキモいぞ!
「それと、発生源も特定して駆除しておきました。その発生源であるダンジョンのリヴァイアサン様に頼まれたのですが……」
リヴァイアサンだと? 超大物ではないですか!
「なる程な、その鉱石は持ってきておるのか?」
「これです。スノームにも伝えておきましたので、すぐにでも調査に向かうと思います」
そう言いつつ、蒼い玉や鉱石を桜に渡す。
あれって……風呂場で見つけた物に似てるなぁ…
「かなりの魔力を吸収しておるようじゃの」
桜が持っている玉を見て唯が答える
「代わりに使えるかもしれないのぢゃ」
桜は魔力のなくなった腕輪の珠を外すと、代わりに蒼い玉をはめた。
不思議なことに、外した玉は10円玉程の大きさだったのにソフトボール位の大きさになった。そしてソフトボール位だった蒼い玉を腕輪に近づけると10円玉程の大きさになって腕輪にはまった。
どうやら腕輪にはめようとすると、自動で腕輪にある穴の大きさに変化する仕組みらしい
「これはすごい、1つでMP50000もあるのぢゃ!」
「それはすごいな! 大発見じゃないか!」
ランスロットも若干、興奮気味だ
今までの珠は、MPを充填しても10000が限界だったらしい。それがいきなり5倍に増えたのだ。そりゃあ興奮もするか……
「これは良い物が手に入ったのぢゃ、もう少し調べてからぢゃがの」
*
「次は妾ぢゃな。さっき話したが魔物は全て倒して、ゴブリンは母様が退治してくれたのぢゃ。やつらが何者か調べなければならないのぢゃが……まずはシアの母親ぢゃ」
おいおい、パネェなぁ。あの数を全て倒しただと?
「それでは、お母様が目を覚まされてから容体をうかがって、大丈夫な様でしたらトパンへ向かいましょう。ちょうど、その洞窟の中に転移陣があります。
それと、宿場町に預けた女性たちも気になりますし……あ、そう言えば……トパンの地下にゴブリンと人の子供がいたのですが……」
「ハーフか。魔物化もある、かもぢゃ……まぁ、判断は王か魔王に任せるしかないのぢゃ」
「あとはスノームに帰って、塔の修理とダンジョンの調査、もしくは報告ですね」
「宿場町とトパンの再建も頼むのぢゃ」
「分かりました」
なんか、トントン拍子に話が決まっていくなぁ。俺の場違い感っていったい……
「次は腕輪の件ですね。通信と転移ができないのは、おそらく遠征の時と同じかと」
「そうか! 結界路の外だからか!」
ランスロットは納得がいった様に相づちを打つ
「魔力の消費量も同じ原因かと思います」
「考えてみればそうぢゃな」
「俺にも理解できるように頼むよ、あと遠征って何?」
唯が桜を撫で繰り回しているので、桜は答えることができない。
ランスロットは、分かっている様で分かっていないのか答えないので、アスモデウスが口を開く
「そうですね……遠征とはゼラニオンのもう1つのお仕事です。マツサという町はご存じでしょうか?」
「はい、俺はその近くで見つけてもらったんです」
「そうでしたか。そのマツサをずーっとずーっと、約10000キロほど大陸沿いに南下すると、ハイパーリールと呼ばれる巨体な集合都市があるのですが…そこに奴隷の買い付けに行きます。
順調にいけば、往復2カ月程です。その移動中にスノームとの連絡や腕輪間の通信・転移をするのに水晶が必要なんです。簡単にいえば増幅装置ですね」
「なる程、結界路の外は水晶がないと、通信や転移が阻害されるのですね」
「阻害というよりも、パワー不足の方が近いのぢゃ! ちなみに水晶があっても腕輪の転移で帰ってくる事はできないのぢゃ」
意外な弱点なのか? そんなことないか
「常に持ち運んでおればいいだけぢゃ、日頃は格好いいから本部にオブジェとして置いてあるだけぢゃしな」
「なんだそりゃ、桜らしいわ」
そこでいったん話が途切れる。
「他に報告すべきことは……陽二君は何かありますか?」
「俺ですか? んーとぉ、うーん。特にないですかね」
「それでは、お母様がお目覚めになるまで休みましょうか」
*
アスモさんは料理をする場所を作ると、食材や調理道具を取り出し始める。どうやらバーベキューをするらしい。せっかく豊君が作った料理には、誰も手をつけないようだ。いやランスが食べていた。
桜と唯さんは積もる話でもあるのだろう、おしゃべりに夢中だ。たまに『ママ』と聞こえる。最初は違和感がハンパなかったが、慣れてくると睦まじき仲にほっこりとする
ランスは豊君の料理をつまみながら、武道の型なのか確かめるように同じ動作を繰り返している
陽二も今のうちにできることを確認することにした。時間を常に意識しつつ手に入ったばかりの箪笥を使ってみる。意識すると頭の中に箪笥が現れる。
8段あって、下から4段は鍵マークが付いていて引き出せない。
5段目を引き出すと、頭の中に大きな扉が現れる。
扉にはセナドゥースと唯の名前が書いた表札が貼り付けてある。表札を意識すると、いろいろな項目が出て来て項目ごとにチェックする欄がある
管理者 セナドゥース
外出許可 ■
魔力補助 ■
魔力分与 ■
自主攻撃 ■
命令服従 □
属性行使 ■
主人呼出 ■
部屋拡張 ■
物品補助 ■
強制収容 □
こんな感じだ。
住人は管理者と呼ばれ『□がOFF』『■がON』になる。
項目は他にもたくさんあるけど、管理者に不利な項目は全て□になっている。
どうやら司君は、聖霊の好きな様にやらせて縛ったりしていなかったようだ。
逆に考えると、こちらの意のままに縛れるということになる。
陽二は唯の項目を開く……こちらも不利になりそうな部分以外は■になっている。
管理者 本条 キャロル 唯
外出許可 ■
魔力補助 ■
魔力分与 ■
自主攻撃 ■
命令服従 □
属性行使 ■
主人呼出 ■
部屋拡張 ■
物品補助 ■
強制収容 □
心の声がする。分かってるさ! ここだろ?
命令服従に『■』を迷わずチェッキング。
ゾクゾクするぜ! これはビッグチャンス到来! 俺の時代が来た!
あとは……6~8段目をあさくる。植物のたぐいは全て枯れて原型を留めていない。武器や鎧も入っていない。
おっ! 中学校社会科地図と書かれた本が入っていた。いたみも少なく問題なく見られそうだ
他にめぼしい物はない。
というか全容を把握しきれない。良く分からないが管理者がいないと全容を把握するのは難しそうだ。
箪笥の引き出しなのに、まるで四次元ポケットみたいなのだ。
取りあえず地図帳だけ取り出す
もう一度、5段目を引き出し扉を出現させ、扉に手をかけるイメージで開く。
意識を中に向けると部屋に入れる、精神だけ入っていく感じだ
「陽二」
ビクッ! びっくりしたぁ
陽二が意識を戻し顔を上げると、ランスロットが隣に座って顔をのぞき込んでいる。
「どうした? 疲れたのか? 少し休んだらどうだ?」
と心配するそぶりを見せる。少しうれしい
「お、おう! ありがとう。でも俺は大丈夫。それより、おまえも疲れた顔をしているぞ? 少しでも横になればどうだ?」
「はっ! まさか。私が横になって無防備になっている間に、あんな事や、こんな事をしようと思っているのか? む、それもまたいいかもしれないが、どうせなら私が起きているときに……そ、それとだな…陽二を送った日のことを覚えているか? つい先日のあれだ! わ、私のむ、胸を苛めたアレだ!」
「ああ、あの事なら謝っただろ? 帰ったらパフェをごちそうするよ」
ランスロットはモジモジしている。
どうした? お花摘みか?
「パ、パフェよりもだな、あ、アレだ! 陽二にされた事を思いだしたらだな…なぜかジンジンするのだ。だ、だからだな! その……もう一度やって欲しい……」
ランスは頬を赤く染め、青い瞳のうわ目づかいを陽二に向ける。
最後の言葉『もう一度やって欲しい』は消え入りそうで、とても小さく尻すぼみの言葉だったが、陽二のデビルイヤーにはハッキリと聞こえた! さらに脳内変換で『めちゃくちゃにして!』と付け足された
「おまえ……ぶっ込んでくるな……しかし、いいのか?……」
今の俺には黄金指がある。どうなっても知らないぞ?
「今すぐ、というわけではない。もし良かったらだ」
「わかった。まぁ、そのうちな」
「約束だぞ?」
「分かった。でも、少しくらいは休んだ方がいいぞ? 俺たちを乗せたりして疲れているんじゃないのか?」
ランスロットは意を決した様に口に出す
「と、隣で眠ってもいいか?」
「構わないけど?」
そういうと、隣でタオルを枕にしてあお向けになり目をつぶった。
ちらっとランスロットをのぞき見る。目をつぶっていても本当にかわいい美人さんだ。このまま見ていると、山脈に目を奪われ思わずのぼってしまいそうになるので、地図帳を広げて中を確かめる。
普通の地図帳だ。前半に世界地図、後半に日本地図が載っていた。富士山周辺の地図を確認すると印が付けてある。
王都やその周辺の町があるのは神奈川県みたいだ。青森にも印がある。他には宮城。
マツサはやっぱり鹿児島みたいだ。でも印の規模が他の印と比べるとかなり大きい。桜島にも印があった。
そして、鹿児島の下の方に目をやると、開聞岳付近から沖縄まで茶色い線が引っ張ってある。
どういう事何だろうか? もしかしてつながっているのか? まさかねぇ…
地図帳を収納スペースにしまった




