第30話 寄生虫バスター
アスモデウスは、兵士に聞いた情報を元に、寄生虫の発生源を探すべく、すぐに行動を開始した。
森に入り、襲い来る魔物を無力化して捜索すること30分、アスモデウスは少し困惑していた。
聞いた情報の場所はすぐに発見できた。
念のため周辺を見回ったところ、寄生虫がいるであろう穴が20カ所以上もあるのだ。それだけの数を30分足らずで見つけられた理由は、穴の中が薄青く光っていたから。
1、2匹では気づかない程の光だが、数が集まれば一目瞭然。
幻想的な光を放っているのが寄生虫だと、誰も思わないだろう
アスモデウスは穴の上で魔法を唱える。
兵士の体温とランスの話から36~40℃程の範囲で増え、火魔法で殺せて水魔法で活動がおさまる事も分かっている。
おおよそ10~50℃までが活動範囲だとあたりをつけた。
アスモデウスは火壁で直径1メートルの穴をふさぐ。これで、発生した毒の煙も燃やし尽くす作戦だ。
魔力を注入して、さらに火壁の温度を上げる。
火壁で熱せられた穴の中は、例えるなら灼熱の窯。ものの数分で中にいた寄生虫は燃え尽きた。
おそらく、ランスロットが使った灼熱烈風世界にも勝るとも劣らない。
次々と同じ要領で寄生虫を駆除していく
最後に残したのは3メートルをこえる大きな穴
小さい穴が寄生虫の飼育場所で、本当の発生源はここ! と始めから疑っていた。ここだけ、光の強さが明らかに違ったからだ。
先ほどと同じ要領でふたをして魔力を注入する。
しかし、いくら待てども青い光が消えることはなかった。
寄生虫は間違いなく燃えている。穴の中に蒼い珠がいくつも見え隠れしているのが証拠といえるだろう。
考えられる要因は、燃える数よりも増殖しているか供給されているか。
アスモデウスは躊躇なく、寄生虫のあふれる穴に飛び込んだ。深さは5メートル程なので何の問題もない。
穴の底で、アスモデウスは横穴を発見した。
その穴からは、寄生虫がとめどなくあふれてくる。しばらく観察していると、一定の高さまでたまると止まる。
その高さは2メートル強、アスモデウスは寄生虫ですっぽり埋まっていたが、体の表面を魔力で作ったバリアで守っていたので何も問題もない。
横穴の大きさは50センチ程と狭いが、中に入れそうだ。
『うん』と声を出すと、四つんばいになって全ての壁が青くなっている横穴に入って行くと中は、なだらかな上り坂になっていた。アスモデウスはハイハイしながら進み坂上に出た。
そこは、向こう側が見えないほどの広い場所で全体が青く光っている。
足元も同じように青く光を放っている。足元は蒼い鉱石。
おそらく壁全体が、この鉱石でできているのだろう。
目の前には、どこまで続いているのか見当も付かないほど大きい湖。湖も青く光っている。その正体は寄生虫。
そして足元にある登ってきた穴の中に、あふれた寄生虫が流れる様に落ちている。
おそらく意図的な事ではなく
偶然この様な形になったのでしょう
とアスモデウスは考えた。それは人の入った形跡が全くないから。
だが、この大きな穴の回りにあった小さい穴は、意図的に誰かが作った物だろう。この穴を偶然見つけて、寄生虫を飼育していたのだ。
この寄生虫が何で、何の目的で産み出されているのかは分からないが、人に害することは分かっている。
そして産み出す元凶も
アスモデウスは、湖の中に巨大な魔物を発見した
見た目は巨大なイソギンチャクで軟体生物なのはわかる。
全貌は湖に隠れていて分からないが、10本の触角らしき細い物とグネグネと動く丸い大きな口が付いた太くて倍の長さの触手が3本。3つの口で寄生虫を吸い込んで食べている。
10本の管からは、液状の排泄物? を辺り一面に降らしていて、排泄物? のおかげで寄生虫が増えているのが見える
つまり、食べながら飼育していて、供給多寡の状態だと言える
アスモデウスは状況分析だけ済ますと魔法を唱える
「煉獄!」
天井まで届きそうな黒い炎柱が目の前に6本現れる。
その高さ10メートル。さらに炎は蜷局を巻いて1本の太さは2メートル強。圧倒的な熱量で天井や足元も溶け始め、半径20メートル以内の寄生虫は瞬く間に蒸発し始めた。
その様子を見て『やり過ぎですかね?』と思い炎を消す
先程までは『討伐の証』と言うわけではないが蒼い珠が残っていたのに、今回は珠すら存在を許さない
その様子に気づいた巨大な魔物は命の危険を感じた様子で、10本の触覚をアスモデウスに向けると、一斉に液状の排泄物を飛ばしてきた。
だが、既にアスモデウスの姿はない。
アスモデウスは魔物の背後に回り込み攻撃を仕掛けようとした、そこに魔物の口が襲いかかる。フワッと後方にかわし、寄生虫の湖の上に立つ。
「うん」
この魔物の目は退化している様だが、その代わり気配察知が優れている。結局、早さに対応できなければ宝の持ち腐れだが……
その証拠に、かわす時に放った火塊の大攻撃によって魔物は業火に包まれていた。
必死に炎を消そうと10本の触覚を消防ホースの様に使うが、触覚も炎に包まれていて、その行動は実ることもなく魔物は業火の前に沈黙してしまった。
火塊の大攻撃の余波で、湖にも炎が広がっていく
アスモデウスは横穴を抜けて外に脱出、穴を火壁でふたをして待つこと30分
その間に腕輪で連絡するが、桜からの応答はない。
「陽二君と遊んでいるのかも、ふふ」
アスモデウスは、桜の笑顔を頭に思い浮かべながらほほ笑む
*
穴の中をのぞくと、寄生虫は全て駆除できている様なので、穴に飛び込み蒼い珠を回収する
横穴をのぞくと天井の光が見える、横穴を登りながら残っている寄生虫を燃やしていく、数が少ないなので毒ガスの発生もほとんどない。
先程と同じ場所に立つ。
湖を見渡すと一面が天井と同じ鉱石で覆われていた。湖の深さは30センチ程しかなかったようだ。毒ガスがたまっているのかと思ったが、どこかに風の抜け道でもあるのだろう、そんな考えは杞憂におわる
巨大な魔物がいた場所に行ってみると、その部分だけぽっかりと深さ3メートル、広さで言うとテニスコート程の大きな穴が空いている
穴の中に入ってみると、縦の部分の鉱石の中には魔物の体の部分と思わしき物が全ての面にある。
これを見ると、あの巨大な魔物は、見た目以上に巨大な魔物だったのだとわかった。
さらに推測として、あの魔物は鉱石に取り込まれて動けなくなっていた可能性もある
「この鉱石は一体何なのでしょうか?」
アスモデウスは底の蒼くない部分や、魔物が取り込まれていた部分の鉱石をサンプルとして回収。ついでに天井や湖のも回収する。
もちろん魔石の回収も忘れない。
穴の底に転がっていた魔石。
余りの大きさに
岩?
と見間違える程大きかった
調査をしながら奥に進み、寄生虫の残りを3時間程かけて駆除していくと湖の全体が見えてきた。
単純に3×3キロの正方形に近い湖だと分かった。
しかし天井の高さを考えると腑に落ちない部分もある。
地上から5メートルの穴を飛び降り、緩い坂道を最低でも3メートルは登った。
つまり、天井までの距離が約2メートルしかないはずなのに、この場所は天井まで10メートルはある
この現象を説明する最も近い答えは、この場所がダンジョンだと言うことだ。ダンジョンの中は広大なフロアがあったり、火山や氷山など考えの及ばない場所や現象がいくらでもある。
湖のとある場所に1メートル程度の穴が空いていた。その穴はアスモデウスが入ってきた横穴と同じ様に、寄生虫が流れ落ちた跡があって、8割は青い鉱石が付着して狭くなっている
アスモデウスは考えをまとめる
あの魔物は寄生虫を食べながら増やしていた。食べる速度よりも増える速度の方が勝っていた。
つまり、寄生虫は食料? なら食べる以上に増やしていた訳は?
アスモデウスは穴を見る
ここは食料を供給するための穴? そして下には寄生虫を食べる魔物がいるってことですか?
ちなみにアスモデウスのいる空間は、とあるダンジョンの70階層にあるボス部屋になる。
ボスは先程の巨大なイソギンチャクみたいな魔物、名前をビッグアネモネハートと言う
キラッ❤とした名前だが、獰猛で俊敏。再生力も高く倒すのは至難の業
数千もの触手を器用に操り水中に神経毒をばらまく。そして捕まえ、体の中心にある大きな口で獲物を喰らう
目がない代わりに、触手で相手の位置や状態を正確に割り出すことができる
さらに、クマノンハートと呼ばれる魚型の取り巻きを囲っている。
クマノンハートは俊敏な泳ぎで、仲間との連携攻撃は凄まじく、強力な魔物ですら真っ青で逃げていくレベルである
ビックアネモネハートとクマノンハートのパーティーをランクで言うなら間違いなくランクS
さすがのアスモデウスでも、専属メイドの状態で勝てる相手ではない、ではなぜ? 答えは寄生虫のおかげと言える
数百年前、このボス部屋70階層から下の階は水で満たされていた。
ちなみに天井部分にボス部屋に入る扉がある。地面にある69階の扉を開けると、中は一面水。
考えて見て欲しい、意気揚々とボス部屋まで来て扉を開けると水面。怖すぎる、普通の人ならまず入らない。危険すぎるし嫌な予感しかしない。
まさに難攻不落『もう、ここで終わりでいんじゃね?』と思うレベル
が、そんなことを考える者など当然いない。
扉を開けて水に飛び込む者達、そこに待ち構える数千の触手とクマノンハート
ある者は触手に捕まり、ある者はクマノンハートに追いやられ、ある者は神経毒にやられ意識のあるまま口内に運ばれる
そもそも水中の不利の前に魔物が強力過ぎる
破られたことのない70階、既に沈んでいるが不沈艦!
そこに現れた寄生虫! たかが虫の1匹2匹問題にもならない。普通はそうだろう。
寄生虫がどうやって侵入したのかは定かではない。有力なのは入ってきた者が感染していたか、武具に付着していたか……
とにかく、69階層まではカラッカラのダンジョンだったのに70階層は水にあふれた桃源郷
寄生虫は少しの水分と適温さえあれば細胞分裂で増える事ができる。70階層はまさに理想的な環境だった
爆発的に増えた寄生虫は水分を消費してさらに数を増やす、その過程で天井から扉、至る所の鉱石と結合して姿を変える。
ただ、寿命も短く死んでしまった寄生虫は、湖にたまり数年で鉱石に変わってしまった。
ビッグアネモネハートもクマノンハートもその鉱石に巻き込まれた
クマノンハートはアッサリ鉱石に閉じこめられ死んでしまった。鉱石を発掘すれば保存状態のよいクマノンハートが見つかるかもしれない
ビッグアネモネハートは、さすがはつわもの! 所定の位置に留まらずに寄生虫の駆除に乗り出した
ちなみに所定の位置には下に行く扉があった。
アスモデウスが見つけた鉱石が付着していた穴だ
触手、神経毒、丸のみなど、あらゆる手を使ったが数の暴力の前には結局勝てず、ビッグアネモネハートは体を浸食されてしまった。(水がほとんどなくなっていたのが大きい)
最後の抵抗で進化した。と言うより触手がまとまり口ができただけなのだが……喰らって喰らって、放出! 放出! 喰らって喰らって、放出!
そして今の状態になった。アスモデウスに倒されたビッグアネモネハートは、長い戦いを終え安らかに眠ったのだった。
そしてこの寄生虫。事もあろうかダンジョンの壁に穴を開けた! これはあってはならないことだ。
偶然と奇跡と少しのアネモネハートで50センチ程ではあるが穴が空いたのは事実。
その罰としてではないが、アスモデウスを呼び寄せる結果になり、絶滅に追いやられたのだから自業自得だ。
寄生虫のいなくなった今、ダンジョンの壁は自然に修復されるが何年かかるのか分からない。
*
アスモデウスは調査を切り上げて帰ろうか迷ったが、寄生虫が下の階層にもいるのは確実なので、駆除するため穴に飛び込む
10秒程落ちていくと次の階層に着いた
71階層は見える全ての面が青く光っていて、左右を確認すると曲がりくねった道が続いているのがわかる。The、ダンジョン! て感じだ
足元にたまっている寄生虫を火魔法で駆除する。足元以外に寄生虫は確認できない。この穴からはほとんど落ちるのは止まっていたようだ
念のため、下から穴の上に向かって火壁を使い加熱駆除を行う。
穴の中に寄生虫がいないのを確認すると、71階層の探索を始める。スミからスミまで丹念に調べていく、少しでも残せばまた増えてしまうからだ
通路に罠を発見したが、寄生虫にやられて壊れてしまったのか、作動することはなかった。
アスモデウスはふと、桜だったらこの罠を見て何て言うのか想像すると笑ってしまった。
次に発見したのは宝箱。
部屋の中央に『これでもか!』と主張するように置いてある。当然罠付きだが、形だけで作動することはなかった。
一応開くかどうか、ふたに手をかけると簡単に開いた。中には折れた、銀色に輝く短剣
「ぷっ!」
不意に言葉が浮かぶ
「なんぢゃこれは? 壊れておるではないか! ランス! 責任者を呼んで来るのぢゃ!!」
あたふたするランスも目に浮かぶ
「ぷぷ!」
「なんぢゃ? この罠は…貧弱者が! 妾が鍛え直してやるのぢゃ!」
魔改造された罠にランスがはまっているのが浮かぶ
「ぶっ! あー駄目です。桜ちゃん成分がなくなってきたのかもしれないです……」
徹夜で作業をやっていると些細な事で大笑いする事が稀にある。決してアスモデウスが壊れ始めた訳ではない。
続いて
72階:71階層と変わりなし
73階:以下同文、寄生虫なし
74階:以下同文、宝箱1、寄生虫なし
75~78:以下同文、寄生虫なし
78階をくまなく調べ79階に降りる。75階辺りから、壁の青い光の高さが徐々に下がってきているのを確認している。
そして現在80階に行く道は真っ暗闇である。
今までの次の階へ行く道は垂直の穴だったが、ここの道は斜め上に向かっている。
上に向かっているのに、80階におりると言って良いのか分からないが、道がここしか残っていないので間違っていないと思う。
青い光。
つまり、寄生虫はここまで到達していないのを考えると
駆除完了と言うことで、もう帰りましょうか?
と思いながら坂道を進んで行くと、水色に輝く細かなデザインがびっしりと描かれた縦横3メートル以上ある扉が現れたのだった。




