第28話 M字開脚、その中心へ
「「「「 前回のゼラニオン! 」」」」
シア達は、ケガをして助けを必要としている人がいる事を火の精霊ナーナに知らされて、助けに向かう事になりました。
その前に寄生虫の問題があったりお風呂場の中が燃えちゃったりしたけど、なんとか結界路までやって来ました。
結界路の前で、なんと! 陽二お兄ちゃんが、陽子お姉ちゃんになっちゃった!?
変身の時に指の間からチラチラ見ていたけど、結局、最前列をキープしちゃったよ! 推しメン決定だね!
今度からお兄ちゃんと呼ぶか、お姉ちゃんと呼ぶか、究極の選択があったりなかったり
お兄ちゃんは息子? が若返って、ケーホーのムキムキが何とか言ってたけど……剥いちゃえばいいんだって! シア、子供だから分からないよ!
結界路に入ったらとても高い木があったから、みんなで木登りしたよ!
頂上までたどりつくと、そこは木の葉の草原だった。
すごいよね、木の上だよ? 誰かがきれいに木を刈っているのかな? 広さは王都がすっぽり入るよ!
その草原を駆け抜けたチームゼラニオン、終わりに待ち受けていたのは……
な、なんと魔物の大軍! 3000~4000頭? 匹? は余裕でいるんだって
どうする? おに……お姉ちゃん!
このピンチを切り抜けるために、どうするゼラニオン!?
*
「シアさん? 何をぶつくさと言っているのですか?」
パトリシアはランスロットの背中で、握り拳をマイクにみたて何かを呟いていた。
下を見ると地面を埋め尽くす程の魔物。
ぱっと見でも余裕で1000体はいそうだ。距離は分からないが広範囲に魔物が集まっているのが分かる
「ふむ、5000はくだらぬぢゃろうな、見ろ陽二。魔物がアリの様ではないか! ワーハッハッハ!」
桜は魔物を指差しネタをぶっこんできた。
余裕だなコイツ。そのネタ、誰が教えたんだ? ていうか、アリ、いるんだな……
「随分と余裕だなぁ。正直言うと俺は帰りたいよ。ちなみに、この程度の高さではアリには見えん!」
「確かにこの数は正直きついな桜、どうする気だ?」
と、ランスロットも陽二の隣で下を見おろしている
それを聞いた桜は、ランスロットにしがみついているナーナに向かって
「おまえは巨神の末裔であるのぢゃろう? なぎ払え!」
ペシと桜の頭をたたく陽二
「いい加減にしろよ? おまえ、怒られるぞ」
「ほう、陽子ちゃん腕を上げたな!」
「どこから出て来たんだ? その陽子ちゃん設定!」
*
森の草原から下を見ると、むき出しの大地が広がっている。そこには魔物の大軍。
桜の見たてでは5000はくだらないそうだ
魔物たちの遥か後方にはM字型に凹んだ山が見える。その凹んだ場所に低い山があり、ナーナがいた洞窟がある
山の周りには湖があって魔物の進入を防ぐ役割をしているのか分からないが、不思議と近くには寄ってこないらしい。
魔物の右側も遥か遠くまで剥き出しの大地が続いている。
左側は今いる森ほどではないが、低い林がまばらに広がっていて地面の見える場所も多い
「で、どうするんだ?」
桜は辺りを見回す
「うむ、タイトルは『ゼラレッドvs魔物軍団』にするのぢゃ」
「そんな話はしてねーよ」
「妾が魔物の相手をするのぢゃ」
桜は腕組みをして、偉そうに魔物たちを見おろしている
魔物たちは明らかに陽二たちを見上げてロックでオンしている。ぼちぼち痺れを切らして石でも投げてきそうだ、届くかは分からないが
これって……ここからなら一方的に攻撃できるんじゃないの?
そんな事を考えていると、桜から救出作戦の発表があった。
作戦名は『Z作戦』ゼットではない、ゼーラ作戦だ
まず桜が下の魔物に向かって広範囲の魔法を使う。中心から半径100メートルの魔物は一網打尽されるという、つまり魔物の注意を引く囮役を買って出たのだ。
それを合図に、離れた場所で待機している俺たちはランスロットに乗って洞窟まで1直線。
ランスロットは翔駆族と人間のハーフだ。
翔駆族とは馬人族の一種。
翔駆族の女性の見た目は人とほとんど同じで、特殊能力を使いケンタウロスみたいに、人と馬が合体した様な姿になる事ができる。
これを『変体』と言う。
変体すると天馬みたいに翼が出て大空を飛べる者もいた。
その姿は翔騎士と呼ばれ、単騎で魔王と互角に戦った逸話もある
ランスロットは純粋な翔駆族ではないが、たゆみない努力で変体できるようになった。その変体したランスロットの背中に俺たちを乗せて洞窟まで走るのだ
桜が頷きランスロットに合図を送る
「わかった。翔騎士変体」
かけ声と共にランスロットの胸から下が光り輝く、ランスロットは目を閉じて両手を広げている。
変体ポーズなのだろう
ランスロットの履いていたブーツが消えて足が馬の足に変化する。次にスカートの中から馬の胴体部分と尻尾が現れ、続けて後ろ足が胴体部分から伸びてくる。
光が収束すると栗色の毛並みをした美しい馬体が現れた。
うん、本で見たケンタウロスそのままだ
最後に槍を呼び出し装備する。この槍は神槍と言うらしい
「さあ、1番に乗ってくれ。誰も乗せた事がないこの体、初めては陽二に捧げたい」
「なんか言い方が重いなぁ、背中に乗るだけだろ?」
鐙も鞍もなく手を置く場所もないので、ランスロットの手のひらを足場にして登る
な、なんという感触。ほんのりと暖かくて栗毛はフワフワとしているのに弾力があり手触りも最高。
とにかく気持ちがいいのだ
「すっごい気持ちがいいよ、おまえ最高だ!」
「そ、そうだろう? よ、陽二、落ちると危ないからな……う、後ろから、しっかりと抱きしめるのだ!」
「そ、そうだな。うん危ないな」
馬体の背中をズイズイと前に進み、後ろからランスロットの体を抱きしめる。回した腕がちょうど胸の下で交差する
とてもいい香りがする。女の子って何でこんなにおいがするんだろう……
クンカクンカしていると
「お姉ちゃん?」
ドスの効いた低い声が聞こえた。パトリシアのコメカミがピクピクと動いている。
駄目ですよ? かわいい少女がそんなに怖い顔したら、駄目!
手を伸ばしパトリシアを引っぱり上げると、そそくさと陽二とランスロットの間に入り込んでしまった。
そりゃないゼ! いや、むしろこれが正解なのか!
そのパトリシアは
「うわ! 何これ……すごく気持ちがいい」
「ふふん! そうだろ!」
ランスロットは豊満な胸を主張するかの様に胸を張る。
ナーナはピョンと跳び乗り陽二の背中にしがみついた
陽二はパトリシアを包み込む様な姿勢でランスロットに抱きつく。
男の背格好だったらベストポジションに手を回せたのに……
パトリシアもランスロットに抱きつき、ナーナは陽二の背中に抱きつく
陽二が準備完了の合図を視線で送ると、桜は頷いた。
「30秒後に戦闘開始ぢゃ。ナーナは道案内を頼む。ランス、こっちは気にせず洞窟まで1直線に進むのぢゃ」
「了解した!」
ランスロットは、陽二たちを乗せたまま左側の林近くで待機する。林の中を走って行くみたいだ
*
ドゴーン!
と爆発音が聞こえ爆風が吹き荒れる。
爆風がおさまると、魔物は爆音の中心に襲いかかるべく一斉に走り出した。
魔法の力で500体以上の魔物が倒れている。まだ生きている魔物もいるが、あちこち欠損していて虫の息だ。
その中心に1人の少女が立っている。
薄赤いショートヘアーの黒目で背の低い女の子
「まだまだ幼い小さな蕾! 花弁になるのはちょっとまってね! ゼラレッド、参上!」
赤を基調とした乙女戦闘服に身を包んだゼラニオンのリーダー、サラリーこと本条 桜
ゼラレッドvs魔物軍団。
桜の一方的な蹂躙劇が始まろうとしていた
*
爆発を合図にランスロットは飛び出した。陽二たちは振り落とされない様にしがみついている。
ひとっ飛びで林の中に身を隠す、幸い林の中には魔物が1匹もいない。ランスロットは風の魔法を駆使して着地の衝撃をおさえていた。
行き先はM字の形をした山。
ランスロットは木を避け、枝や草などの障害物は神槍に纏わせている風壁で左右に吹き飛ばしている。
桜の居る方向から、けたたましいうねり声や叫び声が聞こえたが、ランスロットの足が止まることはない。
桜を信じているからだ
少しずつ目的地の山が大きくなっていく、5分程走ると凹んだ場所への入り口に到着した。
「さて、ゆっくりもしていられない。ナーナよ場所はどこだ?」
ナーナは陽二の背中から飛び降りて入り口を指差した。
入り口をくだって行くと湖があって、渡った先に洞窟がある。
陽二も背中からおりると、パトリシアが両手を広げて待っていた
なる程、受け止めろって事だね。むしろご褒美!
陽二は両手を広げると、パトリシアにバッチコイと合図をする。パァと笑顔になるとパトリシアは陽二の胸に飛び込んでいった。
胸がクッションとなり、少し痛みを覚えた陽二。抱き止めたパトリシアを下におろすと胸を確認する
変身したときに女物のパンティーが装着されたのは覚えているが、ブラジャーが装着された覚えはない
「ランスってさぁ、ブラジャー着けてる?」
元の姿に戻ったランスロットに聞いてみる
「ブラジャー? なんだそれは?」
「胸に着ける下着のこと。服にすれて乳首が痛いんだよ」
「そんなときはな、乳首に薬草を貼り付けて保護するといいぞ。布を巻くのもいいな、胸用の長い布が売っている。サラシという物だ。まあ、私は鍛えてあるから何も着けてないがな!」
ランスロットは胸を張り自慢気にしている。
ノーパン・ノーブラか、けしからんやつめ! ずっとそのままでいてくれ
「おっきいと痛いんだ……」
パトリシアの呟く声がしたので振り返ると、明らかに落ち込んだ顔をして自分の胸を触っていた
「そうだぞ! よかったなチッパイで」
「よくないよ! 痛くてもいいからおっきい方がいいよ! 何でお姉ちゃん達はそんなに大きいの? シアも大きいのがいい」
もう涙目だ
「シアはこれからだよ、成長期は目の前だ! それに俺はチッパイも好物だ!」
「ホントに?」
「ああ、本当だ!」
「な、なんだと! 私の様に大きいのは嫌いなのか?」
こちらを立てれば何とやら、適当にランスロットを宥め先に進む。
シアに聞いたのだが、ブラジャーは売っている。
他にもヌーブラやサラシ、乳首だけをカバーするシールもあるらしい。
ちなみに形を整えるのと、崩れるのを防ぐために着用する下着らしい。
保護の効果もありそうなので、痛いのが快感に変わる前に手に入れなければ!
*
高い壁に挟まれた坂道をくだって行く、入り口は幅5メートル程、すこし目先に目的地の小高い山が見える
くだっていくと少しずつ横幅が広がって、湖の前に到着する頃には横幅が500メートル以上になっていた
両側の壁は垂直に切られた様な岩肌の絶壁。
その絶壁は先が見えないほど高い。その高さのまま奥にずっと続いている
そして絶壁に挟まれた間に湖があって、その中心には小高い山、中腹に洞窟がある
木が生い茂っているので、目視で洞窟を確認することはできない
湖も絶壁と同じ様に奥へと続いている。
水面にはお盆の様な形をした2メートルほどの植物が浮いている
この上を渡って向こう岸に行くらしい
「そう言えばナーナとそのケガをしている人族は、どうやってここまで来たんだ? てか、その人族は何者? 何でこんな辺鄙な場所にいるんだ?」
ここの雰囲気は明らかに違う。元世界の教会や厳格な図書館にいるような……空気が澄んでいて魔力に満ちあふれている様で、ふざけては駄目な場所の感じがする
陽二がナーナと話をしている時、湖の中から耳を傾けている者がいたが、誰も気付かなかった
「ナーナ! ナーナ!」
「ふむふむ、直訳すると…
ナーナが目を覚ますと隣にはケガをした人族がいたと…
なぜ洞窟にいたのかは分からないと……
なにも分からないじゃないか!」
「陽二、そんな事よりもまずは洞窟に向うべきだ、その人族ならば何かしらの事情を知っているのだろう」
ランスロットは湖の前まで行って腕を組み山を見ている、陽二もパトリシアの手を引きその横に並ぶ
その時ナーナがピヨーンと跳ねて植物の上に乗った。
案外しっかりしているみたいで微動だにしなかった。
「俺が先に乗ってみるよ」
そう言って近くの植物の上に乗ろうとすると
「待て陽二、面倒だ私が向こう岸まで送ろう」
送る? 空でも飛べるのか? 向こう岸まで200メートルはありそうだぞ?
「乙女大剣」
ランスロットは自分の大剣を取り出した。
たしか桜が、仲間の腕輪の中に装備品が格納されている、と言っていた。俺にも出せるかもしれない
「エシャロット!」
何もおきない……
「私の乙女大剣がどうかしたのか?」
ランスロットは不思議そうな顔をしている
「いや、武器が出ないかなって思ってさ……」
「なる程な、乙女大剣は私の専用武器だ。桜の魔法の力でこの様な姿で出せるのだが……
魔技の6級になれば、専用武器の具現化が可能だぞ。それと標準装備はゼラソードとゼラシールドだ」
「そ、そうか魔技の6級ね…」
魔技? 武道の事かな?
「教えてやると言っただろ? 師匠はアスモだ。私と桜も魔技を習っているのだ」
ほほう、アスモさんに教わるのは良いかもしれない。まあ考えておこう
「で? その乙女大剣でどうするんだ? 船にでも変わるのか?」
「ふふん! 実際にやった方が早いだろう。陽二、乙女大剣の上に乗ってみろ」
ランスロットは乙女大剣を地面に置いて、その上に乗るように指示をする
陽二は訝しみながらも上に乗った
「で? どうするんだ?」
ランスロットは乙女大剣を地面と水平に持ち上げると、ゆっくり回転を始めた。
陽二の体が遠心力で落ちないように、角度を調整しながらスピードを上げる。
そして湖の向こう岸にむけて力をとき放ったのだ!
「ちょ、タンマ、タンマ! あーーー」
*
ランスロットさんは、植物の上に乗ろうとしたお姉ちゃんを呼び止めて、自分の剣の上に立たせました。
そして両腕を伸ばしたまま、クルクルと回り始め、一歩を踏み出すと山に向かって振りました。
すると、お姉ちゃんがきれいな放物線を描いて飛んで行きました……
「あーー目が回るーーーゲフ」
向こう岸には渡れたんだけど、勢いが止まらず草木の中に突っ込んで行って見えなくなりました。
ランスロットさんを見ると『やってしまった』って顔をしていました。
お姉ちゃんの事が心配だったので、シアはナーナと植物の上を渡って行きます。
お姉ちゃんと同じ事をやらされでもしたら……絶対に嫌です!
ランスロットさんは、お姉ちゃんの名前を叫びながら植物の上をあっという間に渡って行きました。
湖の中
「い、今のは何? 何だったの? 人ってあんなに野蛮なの? 怖いの!」
意を決して話しかけようか迷っていたところ、ランスロットの行動にビビって結局、声をかけることができなかった少女? がいた




