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第26話 結界路を目指して

 

 ハズキが小さな声で驚く


「勇者!? おまえが?」


「まあ、譲ってもらった職業なのだが……一応勇者だ」


 最後の方は大きな声で言えない、なりゆきで勇者になった? なってしまった? やっぱりちょっと恥ずかしい気持ちもある


 洞窟の出口に着いて休んでいたら暗くなってきた。

 危険と判断して明るくなってから出発する事に決めて、地下1階の奥まで戻ってきた。


 先ほど得たばかりのスキル


 城の壁(キャッスルウォール)で天井まで届く高さの壁を出して、周りを囲んで安全に休める場所を作った。


 広さで言えば10×10メートル位だ、上半身は少し肌寒いがナーガの鱗皮(りんぴ)のおかげなのか下半身は暑くも寒くもない


 みんなで火を囲みながら、収納スペースに入れていた塩で味付けをした蛇の魔物を食べている。ハズキも調味料を持っていたので使わせてもらった。


 スパイシーでとてもおいしく堪能できた。


 母親たちは疲れていたのだろう、食べると寝ってしまった。

 そこでハズキ、ライブスと城の壁(キャッスルウォール)で作った部屋の外へ出てスキルの確認をしている。


 いろいろと面白い事が分かった。


 ⚫城の盾(キャッスルシールド)

 任意の対象を透明な幕が覆い、対物・魔法・状態異常防御up

(パトリックが守ると認識すれば良い。生き物、無機物関係なし)


 対物防御はパトリックが剣で攻撃しても膜に阻まれ

 魔法はライブスの土塊の攻撃(アースボール)を吸収

 ハズキの昇斬波では2発受けて消滅。昇斬波は風の魔法だが物理攻撃と混同しているようだ

 どうやら土属性の膜で風属性に弱い


 ⚫城の壁(キャッスルウォール)


 任意の壁を自由に出せる。

 地面から伸びて出てくる感覚に近いが空中に塊を出して組み合わせることもできる。

 そしてこの壁、なんと外側から中は見えないが、内側からは外が透けて見える、内側から魔法を使うとすり抜けて外側に出て行く

 剣でも試したらすり抜けて外側に届く、しかし人は通れない


 この壁はかなり自由に設置できるので、有効な利用方法がありそうだ。王都へ戻ったら要検証だ。

 城の盾(キャッスルシールド)より防御力が高い


 ⚫壁落(シューティングスター)


 空中に出した城の壁(キャッスルウォール)を相手に飛ばして攻撃する技。工夫次第で恐ろしい攻撃になりそうだ


 レベルもいつの間にか10になっていた。

 そして素晴らしい事に(キャッスル)シリーズと壁落(シューティングスター)はどれだけ使ってもMPが減らない


 しかし制限がある


 城の盾(キャッスルシールド)は同時に5カ所までしか出せない

 城の壁(キャッスルウォール)壁落(シューティングスター)は同時に使えない。壁落(シューティングスター)を使うとそれまで出していた壁も一緒に飛んでいってしまうのだ



 *



 翌朝、出口の近くに集合して脱出ルートの説明を行う。ハズキの案で森を北に抜けて結界路に向かうルートである


 まず洞窟の出口から城の壁(キャッスルウォール)で囲った通路を作る

 道端1メートル左右の壁は5メートル、上から進入されないように天井も作った。それを北に向かって50メートル作る。


 パトリックを中心に50メートル以上は作れないようだ。

 城の壁(キャッスルウォール)を作りながら北に進む。

 50メートル以上離れた壁は順番に消えていくので、殿(しんがり)の後ろと作り出している前方には入ってこられないように壁を作っている。


 魔物を発見したら止まって様子を見る。こちらからは見えているが魔物には気づかれていないと思う。


 森の中に壁が現れても魔物は気にしている様子はない。勘が良く壁の近くまで来て気配を探っている魔物は、ハズキが内側から瞬殺する。


 子ども達も頑張って声を押し殺して静かにしているので順調に進み30分程で森を抜けた。

 思っていたより魔物が少なかったのが幸いした。


 草原に入る。

 草原は高さ2メートル以上の草が生い茂り視界が非常に悪い。ハズキが言うには今は成長の季節でまだまだ伸びるらしい。


 草原の中には体長30センチ程のメッサーバッタという魔物がたくさんいた。

 草食で臆病なのか近づくと逃げていくので襲われる心配はない。


 魔物達の食べ物にもなっている食物連鎖の最下層の魔物。特にメッサーバッタの足は肉も多く非常においしい。


 見た目は王都近くに生息するオウトバッタに似ている。オウトバッタは細長く緑色でピョンピョン跳ねる体長10センチ程の虫


 メッサーバッタはオウトバッタの体長をそのまま大きくした感じで、違いは太股の筋肉が異常に発達していること、羽はなく飛ぶことはできない。


 そのメッサーバッタを主食にしている草原の覇者が居る。その名はトウロウ

 トウロウは三角の頭をしていて、両角に大きな眼と口には鋭い大(あご)


 体長1メートル前後で細長い体、両腕にはノコギリの様なギザギザのある大鎌、脚はほっそりとしていて飛んだり跳ねたりはしない。

 体の色は決まっておらず、背景に溶け込む色に変化させる。


 狩猟方法は背景に溶け込み、獲物が近づいて来るまでひたすら気配を消して待つ。

 獲物が自分のテリトリーに入ると一瞬で捕まえる。大鎌は瞬時に伸縮できて、その距離は2メートル。二つの大鎌でガッチリと捕まえ、獲物が暴れればギザギザが体に食い込み逃がさない。


 獲物が逃げようと暴れているその瞬間から捕食を開始する。大(あご)()みつき少しずつ食べていく。

 獲物を食べているトウロウは他のことに気が向かない。脚を千切られようが腹を裂かれようが、頭だけになっても食べ続ける。

 己が死んだのにも気づかずに……それだけ食べる行為に懸けている。


 トウロウは生まれた瞬間から捕食を開始する。隣に居る兄弟を食べるのだ。

 トウロウの卵は30㎝程、中には300を超えるトウロウの子どもが居る。最初は芋虫の様な形をしていて脚も大鎌も無い。


 いち早く覚醒したトウロウは脅威となりうる兄弟を片っ端から食べていく、ある程度食べたトウロウは脱皮して大(あご)、大鎌を獲得する。そして最後の1匹になるまで共食いを繰り返し卵の外に出てくる。


 トウロウが人族の住む地域に現れでもしたら被害は甚大になるだろう。でもその心配は無い。

 トウロウが自ら動く範囲は死ぬまでに10メートルもない。獲物が来るまでひたすら待ち続ける、それがトウロウである。


「待ってくれ、少し素材を調達する」


 とハズキが言うので目を凝らしてよく見てみると、草の影にメッサーバッタを食べているトウロウがいた。

 トウロウの大鎌は加工もし易く良い武器の素材になると言う。だがハズキの狙いは大(あご)だ。


 大(あご)は大鎌すらも()み砕く、高熱を加えないと加工は難しいが、そのままでも砥石(といし)として重宝する。


 このトウロウの素材を使って武器を作れば、魔鉄不足を補えるのかもしれないな……


 ハズキは兵士を地面に寝かせると、風の刃を飛ばしトウロウの頭を落とした。(ひも)の付いた矢をボウガンで頭目掛けて発射。この矢も魔物の素材で作られた物


 見事に突き刺さり、(ひも)を引いてたぐり寄せる。

 まだ頭がカチカチと大(あご)を動かしている。トウロウは食事をしているつもりなのだろう。


 しかしトウロウの頭は壁を通り抜けることはできない。


 ここで生き物が通過できないと理解したのでハズキに伝える。ハズキは脳天に矢を放ちとどめを刺す。動かなくなった頭をたぐり寄せ、頭を解体し大(あご)を取り外した。


「頭だけになっても生きているとは、恐ろしいなぁ魔物と言う生き物は」


 ハズキは矢を回収して、大(あご)をナーガの革で包むと自分の腰巾着の中に仕舞う


「一つ教えてやろう。メッセーバッタは魔物だがトウロウは魔物ではない。私の母親に昆虫だと教わった」


 そう言うと首のないトウロウとメッサーバッタをボウガンで撃ち引き寄せる。死んでいるので壁を通り抜ける。


 厳密には壁が脅威の有無を確認している


「見ていろ」


 ハズキはそう(つぶや)くと、取り出したナイフを器用に使ってトウロウを解体していく。骨がなく柔らかい部位だけで構成されていた。


 食べられる部位と食べられない部位に分けると、食べられない部位を細かく刻んでどこにも魔石が無いことを説明する。


「ハズキ殿、そちらの部位に入っているのではないですか?」


 ライブスが食べられる部位を指差してハズキに聞く


「そう言うと思ってな、幸いここは動かなければ安全地帯、食べて確かめてみるか?」


「食べるー!」


 子ども達が喜んだのでご飯にする事にした。遅い朝ごはんだ


「パトリック様……二度とこの様な場所で食事などできないでしょうね」


「そうだな…結界路の外。それも周囲には魔物……昆虫か。囲まれて食事など王都に居た時は想像すらしなかったな。ハズキ殿は本当にいろいろと逞しいし勉強になる。ハズキ殿が居なければあのゴブリンに殺されていただろう……」


 パトリックとライブスが感慨深く話していると


「おまえの城の壁(キャッスルウォール)も素晴らしいと思うぞ? 

 これがなければ森の中で子どもを連れて歩くなどと、それに、この草原で食事なんて私でも考えつかない。

 最初は風の剣で草を切り開いて進もうと思っていたのだが、トウロウの生命力を見ただろう? 切り開いた道にトウロウが居たら無事では済まない。

 運良く風の剣でトウロウを斬り裂いていたとしてもだ」


 確かにあの生命力なら()まれて大ごとになっていただろう。1番厄介なのが草と見分けがつかない所だ。


 しかし城の壁(キャッスルウォール)の中なら安心して移動できる


「さすがは勇者様って事だな。そう言えば勇者と聞いて忘れていたが頼みがある」


 メッサーバッタのモモ肉にかじりつきハズキは言う


 パトリックもモモ肉にかじりつく


「こ、これはうまい! あ、すまない。ハズキ殿には恩がある何でも言って欲しい」


「勇者、それも王宮騎士ならば王に(つて)があると思うのだが……確実に伝えて欲しい事がある」


「それなら大丈夫です。パトリック様は王子ですから」


 ライブスもモモ肉にかじり付いた


「え?」


 パトリックに指を差して口をパクパクしている。口の中ではモモ肉がもんどりうっている


 通訳すると「コレがアレで? 勇者で王子?」だそうだ



 *



 落ち着いたハズキ


「パトリック様申し訳ない。数々の非礼をわびよう」


「様付けは止めてほしい。ハズキ殿は私たちの恩人、気安くリックと呼んでくれるとうれしい」


「そうか、ならば私も呼び捨てで頼む」


「ライブスもリックで構わないのだが?」


「私は遠慮しておきます」


「ライブスだけは首を縦に振ってくれないな」


 食事も終わり、どうせなら先へ進みながら話そうとハズキが言うのでそれに同意した


「それで話と言うのは? 確実に父へ伝えると約束しよう」


「そうだな、どこから話せば良いのか……昨日のゴブリンを覚えているだろう?」


 まずこの森には昨日の様なゴブリンの巣が無数にある。ハズキはその巣を1つ1つ調べ、つぶせる様ならつぶしていた。目的はゴブリンに(さら)われた自分の母親を探している。


 ある巣で情報を入手した


 ハズキの母親は今も無事で大切に扱われていること

 母親が近いうちに別の森に送られること

 港町サラデインを襲い結界路を破壊する計画があること


 ライブスは(あご)に手を当て考えてから聞く


「襲うも何も王都周辺の各町は、結界路で囲んでいます。侵入などできないと思いますが……」


「コブリン達は人族を操る寄生虫を見つけた。その寄生虫は結界路でも死なない。

 操られた人族を使って、町にある結界路発生装置を破壊するつもりだろう。

 それに……ゴブリン達は結界路を越える(すべ)を持っている」


「まさか……それは本当なのですか?」


「本当だ。越えられるゴブリンの大きさは限定されるが……それに『トパン』と言う村を知っているか?」


「ええ、知っています。5年前に事件があった村です」


 ライブスが答える、パトリックは何を考えているのかずっと黙っている


「私は聞いただけなのでその村の事は知らないのだが、トパンにはゴブリンがおおぜい住んでいて攻める準備をしている。寄生虫もトパンで飼育されているようだ」


「トパンと言えば結界路の中…それに港町サラデインまで結界路を通らずに移動できる

 寄生された人族を使い結界路を破壊、さらに外に待機しているゴブリンが町になだれ込む……その襲撃とやらは何時なのですか?」


「なんでも王都周辺の兵士や冒険者が近々離れる日があるらしい、そのスキを突くと言っていたな」


「北の砦の撃退作戦か……」


「結界路に入ったらライブスは子ども達を連れてセナドゥースに向かってくれ、転移門を使って王都に行くのだ。子ども達は王宮で保護、父にはトパンへ向けて兵を要請するのだ。」


「分かりました。パトリック様は?」


「私はハズキと野営地に向かい、そのままトパンの調査に向かう。ハズキ頼めるか?」


「無論だ、任せておけ」


 パトリックは子ども達に向かって言う


「ライブスに付いていってくれ、王宮に着いたら好きなことをして遊んでいいぞ」


「本当に?」


「ああ、だから今からちょっと走ろうか? 急ぎの用ができてしまったのでな」


「うん。頑張るよ」


「お母様方も、王宮に到着したら父を頼ってください。必ず力になってくれます」


「はい、分かりました」


「じゃあヨーイドンだ!」


 城の壁(キャッスルウォール)で道を作りながら、子どもに合わせて走る。

 草原を抜け、荒野の中を走る。

 ハズキは魔物を発見すると風の剣で退治する

 ライブスは付いていくので精一杯


 1時間程で結界路が遠くに見える位置まで到着した。子ども達は身体能力が高いのか元気いっぱいだ。


「何とかここまで来れたな」


 相当キツかったのかライブスはゼーゼー言っている。

 この距離なら歩いてもすぐ到着するだろう。ライブスと打ち合わせをしながら進む


「リック下がれ!」


 ハズキに腕を(つか)まれ、パトリックとライブスは後方に投げられる


「ハズキ、急に何を……」


 バジューン


 城の壁(キャッスルウォール)に何かが飛んできた。


 バジューン、バジューン


 ジュー、ジョボ、ジョボと音を立て何かが当たった壁が溶け出した。


 結界路の前に何かが現れて攻撃してきたのだ。

 だが距離で言えば500メートル以上はある


 子どもと母親たちは声を上げてしゃがみ込み、ガタガタ震えている

 ライブスは投げられた拍子に頭を打ったのか、頭を振っている


 ハズキは目を凝らして見る、明らかに大きな魔物が10体以上、おそらくゴブリンだと思われる魔物が数十匹こちらを見て身構えている


「あれは何だ? 城の壁(キャッスルウォール)が溶けただと……」


 もう少しだというのに……ゴブリンに先回りされたのか?


 しかし、こんなに距離があるのに攻撃して来たのは何なのだ? 通常、魔法の射程は上級者でも50~100メートル程度。考えられん


「あー、あー テステス、テステス」


 ゴブリン集団から声が聞こえる、ここまで聞こえると言うことは相当大きな声で叫んでいるのだろう


 パトリックは警戒しながら城の壁(キャッスルウォール)を自分たちの周りに1メートル程の厚さで作り上げる。

 ハズキの指示で前方に50センチ程の(のぞ)き穴を作る。こちら側からは透けて見えるのだが、音が聞こえにくいようだ


 ハズキはパトリックの隣で攻撃に備えて身構え、ゴブリン達を凝視し耳をかたむけている


 ライブスは子どもと母親を1カ所に集め土塊の防壁(アースバリアー)を唱え攻撃にそなえる


「もう少しだったのに…」


 パトリックが悔しそうに言葉を漏らすが


「リック少し黙っていろ、やつらが何かを言っている」


 ハズキはゴブリンの言葉に耳をかたむける


「おーい! 聞こえているでござるか? このすっとこどっこいが。聞こえていたら返事するでござるよ! って返事されても聞こえないですなー」


「ござる? すっとこどっこい?」


 ハズキが妙なことを口走る。ハズキが何を聞いているのか分からないが、どうやら言葉が通じないみたいだ


「今からそちらに行くでござるよ、小鳥さん達はおとなしく待っているでござるよー!」


 ござるゴブリンは1番大きな魔物に乗り込み、周囲のゴブリン達もごさるゴブリンが乗った魔物より2回り程小さい魔物に乗り込んだ。それでも5体くらいは余裕で乗れる。


 ごさるゴブリンが乗っている魔物を中心にして、前方に魔物が5体守るように並ぶ、左右に2体ずつ、後方に1体。


 ハズキはパトリックに「魔物がこちらに来る様だ」と伝えると魔物の数を数え始めた。


「あれは? ファイヤーイグナス!? 10頭も…」


 前方の群れは強力な魔物ファイヤーイグナスが10頭、その上にゴブリンが5匹は乗っている

 さらにファイヤーイグナスより2回りも大きい魔物が1頭、背中には大きな筒を4本のせている。


 敵の戦力は

 大きい魔物1頭

 ファイヤーイグナス10頭

 ゴブリンが最低でも50体、明らかに特殊(・・)なゴブリンが混ざっている


 ハズキの顔色が悪い。


 パトリックはものすごい速さで土埃(つちぼこり)をあげながら近づいてくる魔物が、途轍(とてつ)もない避けることのできない脅威だと悟った。


「リック……ござるがこっちに来るでざるよ」


 な、何? ござる? ハズキは何を言っているのだ?


 猛スピードで土埃(つちぼこり)を巻き上げ近づいて来る魔物がハズキ以外にも目視できる距離までやって来た。


「あれは、ファイヤーイグナス!」


 ライブスはソラマン近くに現れたファイヤーイグナスのことを思い返していた。


 ファイヤーイグナスは前後の動きは素早いが、左右に動くのは余り得意ではない

 だが、強靭な体に左右もカバーする尻尾や遠距離からの攻撃は脅威


 あの時はワナに()めて兵士100人がかりでやっと倒したが、たった1匹にかけた時間と受けた被害は大きかった。


 100メートル程手前で魔物の軍団が停止して大型の魔物が前に出て来る、その上には詰め襟の黒い学生服を着た160センチ位のゴブリン、肌は深緑で目をギョロギョロとこちらを見ている。

 普通のゴブリンは1メートル前後なので大きい個体と言える


「あーあー聞こえるでござるか? 僕の名前はジェームス、ゴブリン軍団の頭脳! いや頭脳! まさに頭脳! スッカスカミソっカスのゴブリンとは、ひと味もふた味も違うでござるよ!

 さて、人族の皆様方聞こえているのなら盛大な拍手と尊敬のまなざしで応えるでござる!」


 ジェームスとか言うゴブリンの周囲で部下と思わしきゴブリン達が面倒くさそうにペチペチと拍手をする。


 パトリック達は呆気(あっけ)にとられている。もっと好戦的で、いきなり攻撃を仕掛けてくるのかと待ち構えていたので、ジェームスがちょっと何を言っているのか分からない。


 子ども達はジェームスのおかしな言動を聞き素直に拍手をしているが尊敬のまなざしはしていない。


 ハズキも尊敬のまなざしではなく、用心深く魔物達を注視しながら拍手している。


 拍手しなければならないのか?


 パトリックもライブスも疑問に思いながら拍手をした。


 パトリック達の拍手を見たジェームスは得意げな顔になる。よく見ると普通のゴブリンとは違い、少し人族っぽい顔をしている


「多少は強者(つわもの)に対する接し方というものが分かっているでござる、では」


 ジェームスは軍団に合図を送る。

 魔物の軍団は城の壁(キャッスルウォール)のすぐ近くまで前進した。お互いの声が届く距離、攻撃が届く間合いでもある


 ジェームスは身長180程で、ガタイの良いマッチョなゴブリンを2体引き連れて近付いて来た。

 マッチョゴブリンは亀の甲羅を盾代わりに持ち、片手には槍が握られている


 話しがあるのだろう。そうでなければ、わざわざこんな風に接してきたりはしない


「さて、人族の皆様方。貴方がたは何をしているのですか?」


 どうやらパトリック達がゴブリンの巣を壊滅させて、その子どもや母親を保護した事がバレて追ってきた訳ではなさそうだ


 どう返事をすれば良いか……


「なぁに、気ままなハイキングだ」


 ハズキがノータイムで返答した。


 いくら何でもそれは通じないだろう


「おお! ハイキングですか。今日はお日柄もよろしくハイキング日和。レッツハイキングでござるな」


 通じただと?


「ふむ、それでわれわれはもう帰るところなのだが、ジェームス殿だったか? 貴殿は話が分かるようだ。できれば通してもらえないだろうか? こちらは子ども連れ故に争う気など毛頭ないのだが」


 ハズキは、警戒を解いて争う意思がないのを見せる


「なんと素晴らしい! 私たちを魔物と侮蔑(ぶべつ)せず、丁寧に接して(うやま)う広い心をお持ちでごさるか」


 ジェームスは少し考えている


「良いでしょう、家に帰るまでがハイキングでござる。結界路の前までお送りするでござるよ」


「いや、ありがたい申し出だが貴殿も忙しかろう。それに自分の足で(あゆ)んでこそのハイキングだ」


「そうでござるか……送る際に少しお話でもと思ったのですが」


 ハズキが小声でパトリックに城の壁(キャッスルウォール)を解除して下がっていてくれと告げる


 パトリックは城の壁(キャッスルウォール)を解除して、ライブスの隣に下がる


「ほう、こちらを信用していただいたでござるか? ますます好感が持てるでござる」


「1つ尋ねたい」


 ハズキはジェームスの前に歩み出る。


 マッチョゴブリンが槍を構え警戒するがハズキは気にせず足を進める


 パトリックはすぐにでも城の壁(キャッスルウォール)をハズキの周囲に発動できるように集中する


「パトリック大丈夫だ。このジェームスとか言うゴブリンは今までのゴブリンと全く違う。それに彼らが本気ならば私たちは既に死んでいる」


 ジェームスはマッチョゴブリン(ゴブリンナイトと言うらしい)を下がらせる


「さすが、われわれの同士達を(ほふ)り続けている狩人、肝っ玉が座ってるでござるな」


「やはり分かっていたか……で? 本当の目的は何だ? なぜ私たちがここを通ると知っていた?」


「知っていたも何も僕たちはここで兵器の実験をしていただけでござる。まあ、『森の中を奇妙な壁が北に向かって進行中』との報告は受けていましたでござるが」


 ジェームスはポンと手を打つと


「そうそう、子どもと苗床(なえどこ)(さら)われたとも言ってたでごさるなぁ、あの中にいるのでござろう?」


 ライブスのかけた土塊の防壁(アースバリアー)を指で差す


「目的は子どもとその母親か?」


「イエイエ違うでこざる。僕の研究成果を見てもらって人族に伝えて欲しいでござるよ。子どもや苗床など僕は興味ないでござる」


「本当にそれだけなのか? こちらに危害は加えないと?」


「少し語弊がありました。あなたは別。生きたまま捕らえ、将軍に引渡し僕の功績をキングに伝えてもらえば、僕の評価はウナギ登りでござる!!」


「ふむ、確かに貴殿の仲間達を屠り回った私の価値は高いのだろう。しかし()せんな、なぜ直接キングに引き渡さない?」


「僕ではキングに、お目通りはできないのでござるよ」


 しばし思案するハズキ


「貴殿はなかなか話も分かるし私以外に危害も加えないと言う。そこは感謝する、だからこそ勿体(もったい)ない! あー勿体(もったい)ない」


「ぬぬ、何が勿体(もったい)ないでござるか?」


聡明(そうめい)な貴殿のことだ気が付かぬか? 私を将軍とやらに引き渡したとしよう、貴殿ならどうする?」


 ジェームスは「僕ならどうする?」と(つぶや)きながら腕を組みクルクル回り始める


 パトリック達はジェームスがクルクル回っているのを怪訝(けげん)に思い


「何を話しているのでしょうか?」


「分からんが悪い雰囲気ではなさそうだ、ここはハズキに任せよう」


 ジェームスはしばらく考えると、ポンと手を打ち


「分かったでごさる!」


 ハズキは思った。コイツは本当に魔物なのかと、どこか人臭い言動や行動に魔物とは思えなかった。


「ほう! 答を聞こう」


 ジェームスは真っすぐ右手を上げる


「ズバリ! 横取りでごさる!」


 ハズキはしてやったり顔で大袈裟(おおげさ)に拍手をしてジェームスを褒めたたえる


「お見事! では貴殿ならどうする? 貴殿のような素晴らしい大物、いやゴブリン魔王と呼んでも遜色(そんしょく)ないだろう。羽虫の1匹や2匹見逃しても良いのではないか?」


「ござるよ! ござるよ! 僕もそう思っていたでごさるよ! 見逃す。ゴブリン大魔王の恩赦(おんしゃ)でござるよ!」


 チョロい、ゴブリンならぬチョロリン。


 ジェームスの部下達は何も見ていない、聞いていないし話さない。


 これから始まる作戦で得るであろう褒美に比べれば些細(ささい)なこと。ジェームスに付いていけば、苗床(なえどこ)も住み家も欲しい物を好きなだけ選べるのが分かっているのだから



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