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第20話 ナーナ

 


 オオカミに襲われた陽二たち。パトリシアを救ったのは、ゆらゆらするナニカ。


 果たして敵か味方か? あるいは通りすがりの吟遊詩人か?


 陽二はゆらゆらと、うごめく者を無視してシアに駆け寄る


「シア! 大丈夫か? シア!」


 パトリシアの体を隅々まで確認するがケガらしきものはない。


「う、うん…お兄ちゃん?」


「俺が分かるか? 大丈夫か?」


「うん大丈夫。どこも痛くないし…あれ? さっきの魔物は? ヒッ」


 オオカミの首からドス黒い血がドクドクと流れ落ちている。切り離された顔の目が見開きパトリシアを見ている。


 目が合っちゃったか……嫌な臭いで吐きそうだ


「何かは分からないけど、そこのナニカがオオカミをやっつけてくれたんだ」


 陽二が指差しながら言うと、パトリシアはゆらゆらしたナニカを見て(つぶや)いた。


「ナーガだ! 火の精霊ナーガだよ」


「ナーガ? なんだそれ、このゆらゆらしたのが精霊なのか?」


「なに言ってるのお兄ちゃん? 私の名前はパトリシア。助けてくれてありがとうね、かわいい精霊さん!」


 陽二の目には、空間がゆらゆらしているのしか見えない

 パトリシアの目にはかわいい精霊が見えているらしい


「お兄ちゃん。この精霊さん弱っているみたい」


「会話ができるのか?」


「お話はできないけど何となく分かるよ、ものすごく疲れた顔をしているし…ちょっと待ってね」


 パトリシアは精霊に向かって魔法を唱えた


火の療法(ファイヒール)! あれ? 余り変わらないかも…」


 陽二は収納スペースから、回復薬とレッドグローブを1粒取り出してパトリシアに渡した


「これ、効くか分からないけど…回復薬とMP回復の実」


「お兄ちゃんありがとう!」


 パトリシアは回復薬とレッドグローブを受け取り精霊に食べさせようとすると


「キャッ!」


 パトリシアは尻餅をつく


「どうしたシア、大丈夫か?」


「精霊さんが…レッドグローブ目掛けて飛び込んで来たからびっくりしちゃった。

 おいしそうに食べてる! あ、喜んでいるよ。良かったぁ元気になったみたい」


 お気にめして何よりだ。

 元気の元・元気ハツラツ・レッドグローブ! 


 その時ゆらゆらが陽二に近付いて来た


「精霊がこっちに来てるみたいだけど、俺に何か用なのかな?」


「お手て出してるよ、もっと欲しいんじゃない?」


稀少(レア)品で高いんだぞ? もう一つやるから何かくれ」


「ぷっ、言葉が分かるみたい! キラキラした目でうなずいてるよ」


「言葉が分かるのかよ…ほら」


 収納スペースからレッドグローブを取り出し、ゆらゆらに差し出す


 なにかが手に触れた気がした瞬間、レッドグローブが空中に舞って消えた。


 ☆火の恩義を付与されました。


 レッドグローブの代わりに『火の恩義』をもらった


 ⚫火の恩義

 ありがとう。この恩はいつか必ず返します!

 精霊認識、意思疎通、ステータスには表記されない


 突然目の前に60㎝位の女の子が現れた。


 ボサボサの薄赤色の髪で褐色の肌。くりくりのお目々で上半身裸だが胸の部分に蛇柄の布を巻いている。


 上半身は人間そのものだが、へその辺りから下は蛇だ。胸の布と同じ柄をしている。


 器用に尻尾の部分で立っているが、足払いしたら簡単に転ぶのだろうか? 


 そんなにアホなことを考えていると


「ナーナ! ナーナ!」


 多分あいさつしているのだろう。


「初めまして精霊さん。俺はそこに居るシア、パトリシアの兄代わりで異世界より神のお告げを授けに来た、ヨージ、ナ・カ・ヤ・マ!」


 ビシッとポーズを決める。ゼラニオンと接触したせいでテンションがおかしい


「ナーナ! ナーナ! ナーナ!」


「え? お兄ちゃんって神様の使いだったの?」


 パトリシアと精霊がキラキラした目で興奮しているのが分かる。2人の周囲には期待に満ちた☆マークがキラキラしているのが見える位だ!


 これは訂正しておかないと、後々ドツボにはまるパターンだ


「ごめん、ウソです。ちょっと格好つけたかったんだ」


 キラキラが見るみるうちに消えていくのが分かる。


「痛! ちょっ、ちょっとした冗談だろ? 逆に『そんな訳あるか!』って突っ込てんでよ! って、痛いからやめて!」


 精霊が米粒程の小さな火の玉を飛ばしてくる。一瞬だが熱くてちょびっとだけ痛い


「精霊さん、やってしまいなさい!」


「ナーナ!」


 精霊はパトリシアに向かって敬礼をして、陽二に向かって千本ノック


「ごめんって、おい! 精霊、やめてー!」


 走り回って逃げる陽二を見て、キャッキャッウフフのパトリシアと精霊


「おまえら仲が良いな! 何時からそんなに仲良くなったんだよ!」


 *


「えーあらためて、中山 陽二と申します。現在、異世界生活満喫中です」


「妹なりたてパトリシア=クルシュナイン、シアって呼んでね!」


「ナーナ、ナーナ!」


『ナーナ』しか言わないが名前はナーナ。何となくだが言っている事が分かる気がする。言葉に思考を乗せて相手に届ける感じかも。


 ナーナの話によると、この辺りはブラックウルフの縄張り。

 不意を突いて倒せたが真面に戦えば素早くて危険な魔物だそうだ。

 ブラックウルフに姿を見られる事はないが、気配を感じとられると危ないらしい。


 ブラックウルフは木の上を根城とし、縄張り内の枝から枝へ移動する。攻撃も上方死角から来るため気付きにくい。


 幸いな事に縄張りには雄1頭しかおらず当面の安全は確保できている様だ。


「ナーナはここで何をやっているんだ? ここは精霊の森なのか?」


 ナーナがやって来たのはここから、さらに南下して結界路の近くにある洞窟。


 そこにはケガをして何年も眠り続ける人がいて、状態がひどく治癒結界(リカバリーゾーン)も進行を抑える程度にしか効かない。

 いずれ人が訪れるのを期待していたが一向に訪れない。


 状態悪化によりナーナの魔力消費が増えて回復量を上回ってきた。そこで治癒結界に魔力を込め助けを探しに出たのだ。


 しかし、ここで思いもよらない事実が発覚した。ナーナの姿を認識できる人族がいなかったのだ。

 姿を隠している訳ではないけど認識できる人族が一人もおらず途方に暮れていた。


 諦めて戻ろうとした時、精霊の加護(・・・・・)を持つ人族を感じた。急いで探していたらブラックウルフに襲われている場面に出くわした。


「なる程、なけなしの魔力で助けてくれたって事か…本当に助かったよありがとう。レッドグローブは気にするな! 助けてくれたお礼だ」


 ナーナの頭を()でる。ナーナはキリッとした顔で


「ナーナ! ナーナ!」


「うん、そうだよね。お兄ちゃん、ケガしている人を助けに行こうよ」


 パトリシアとナーナは期待をこめたキラキラした瞳で陽二を見つめる


 そんな目で見られたら答は一つしかないじゃないか!


「シアの助けたい気持ちは良く分かった。だがしかし、却下だ!」


 俺とシアの二人で助けに行ける訳がない。辿(たど)り着けるのかも分からないのに誰が行くねん。死にに行く様なものだ


「ナーナ! ナーナ!」


「お兄ちゃん。そんな……」


「まあ話を聞いてくれ。俺とシアで行っても危ないだけだ。さっきもブラックウルフ1匹で天手古舞(てんてこま)いだったのに行ける訳がないだろう? 

 もっと危険な魔物だって居るかもしれないし」


「そ、そうだけど…」


 ショボーンとなっているが仕方がない、二次災害は避けなければならないのだ!


「そこで代案だ! 宿場町まで戻って、兵士さんにお願いして一緒に行ってもらおう。それなら助けに行くことを許可しよう」


「お兄ちゃん天才!?」


「ナーナ! ナーナ!」


「いや、普通に考えることだから…」


 *


 宿場町まで戻って来た。パトリシアにナーナの食事と休憩をお願いして、陽二は兵士を探しに出た。


 町の人に話を聞くと


「まだ帰って来ていません。もうすぐ日も落ちますので、そろそろ帰って来る頃だと思いますけど」


 まだ帰って来ていないらしい。

 仕方がないので、乗ってきた馬車の荷物あさりでもしようと思い馬車に向かう。

 馬車には魔弾砲や魔法を込めた魔弾、剣が置いたままになっていた。


 持って行かなかったのだろうか?


 1時間くらい経過した。日もすっかり落ちてしまい真っ暗だ。


 都会の生活では、まずお目にかかれない光景だ。宿灯りから離れると30センチも前が見えない、平衡感覚は狂いどこに立っているのかも分からない本当の暗闇。怖くなったので宿まで戻る


「これじゃあ森とか無理ゲーだろう。即、魔物の餌だ」


 と思っていると声が聞こえた。兵士が帰ってきたらしい。


「お客さん。兵士様が帰ってきました」


 何やら騒がしい。もしかして魔物に出くわしてケガでもしたのだろうか? 


 騒ぎの方に駆け寄ってみると兵士達は全員、疲れた顔をしていて装備がボロボロになっている。 


 ケガをしている人はいないようだ


「どうしたんですか?」 


 兵士に訪ねてみると


「いやー落とし穴に落ちてしまって、抜け出すのに時間がかかってしまいました」


「そうそう! しかもくせーの、たまげたぜ! 気づいたら装備もボロボロになってるしよ」


 兵士達は笑いながら自慢話の様に語っている


「宿場町を出てしばらくしたら魔物が出て来たんですよ。

 倒しながら進んでいたら、いつの間にか大群に囲まれてしまいまして。

 まぁここら辺の魔物は魔石なしですから大した脅威ではないのですが、さすがに数が多すぎて…」


 マジで? 兵士さんたち頼もしい!


「それで、迎撃しながら後退していたら落とし穴に落ちてしまって……」


「出るのに苦労したぜ。幸い魔物は跡形もなく消えてたけどな。そう言えば戻る途中1匹も出なかったな!」


「行きは結構な数が出たのになぁ」


 兵士達はワイワイガヤガヤと楽しそうに話している。心配する程でもないみたいなので話をきり出す


「あの突然なんですけど、ここから南下したところにケガをした人族が居るそうなんです。

 危ない状態らしくて、大至急助けが必要なんです。今から一緒に行ってもらえませんか?」


 騎士らしき兵士がこたえる


「なに、本当か? それなら行かなければならないが…におうからサッと風呂に入ってくる。

 隊の皆も疲れているからな…食事と体力回復を考えて…よし2時間後に出発しよう」


 不測の事態に慣れているのかテキパキと決められていく。


 今すぐ出発して欲しいが、そんな無責任な事は言えない。


「陽二君も手伝ってくれ。

 われわれの装備はボロボロだ。馬車から武器や防具を出してもらえないか? 

 後から詳しい場所や状況を聞く、宿の主人は食事と携帯食の準備を頼む。よし動け」


「了解!」


 光源(ギフト)を作って馬車に走り武器や防具を手当たり次第に引っ張り出す。


 軽装備だけかと思ったが、騎士の(よろい)や兵士達の頑丈な(よろい)もあった。


 陽二も自分の装備を整え、宿主に地図を借りてパトリシアの元へ行きナーナに事情を説明して詳しい場所を聞く。


「この辺が結界路なんだろ? そして洞窟がこの辺り……?」


 結界路の外じゃねーか! くそデンジャー、デンでジャラスだ!


 これは非常にまずい状況だ。いかに兵士達が強かろうが本物の魔物(・・・・・)が出るんじゃないのか? 


 陽二はない頭を必死に働かせ考える。


 一つだけ方法があった。他力本願だが仕方がない


「ナーナ、この辺りは魔物が出るんじゃないのか?」


「ナーナ! ナーナ!」


 ナーナは洞窟の周りを指差しす


「ナーナ! ナーナ! (この辺りは魔物の巣)

 ナーナ! ナーナ! (ここも、ここら辺も)

 ナーナ! ナーナ! (でも見つからなければ問題ない)」


 めっちゃおるやんけ! 

 そりゃナーナは問題ないのだろうけど! 俺たちには問題ありだ!


「け、結界路の外…」


 さすがにパトリシアも事の重大さに気づいたようだ。


 あのまま2人で行っていたら間違いなく魔物の餌だ。陽二で晩餐会(ばんさんかい)だ! これはSOS、光の早さで助けを呼ばねばならない。


 外に出て教わった通りボタンを押して通信する


「あーテステスこちら堕天使ルシファー聞こえてますか? 応答願います」


「はいテステス、こちら鉱山ピザボットぢゃ、ご注文伺いますぢゃ」


「あ、いいですか? じゃあミックス2つと飲み物はコーラで……ってふざけんなよ!」


「…」


「おい! 何か言えよ」


「つまらぬ(わっぱ)じゃ! (うぬ)には余裕がないのぢゃ、このモブリンめ」


「んだとーコラ! そのモブリンに抱きついて、(よだれ)垂らしながら『もっと()でて』と寝言を言っていた絶壁はどいつだ?」


戯言(ざれごと)を! (わらわ)はそんなこと言わんのぢゃ!」


 まあ、ひととおりのお約束だ。陽二はドイツと言ったのに、桜はオランダと言わなかった。


「桜、頼みがある。俺の手に負えない助けてくれ」


「モブリンの頼みなぞ聞けぬなぁ、(わらわ)は便利屋ぢゃないのでな」


「大ケガしている人が結界路の外に取り残されている。近くには魔物の巣がたくさんあって、俺たちだけでは無理なんだ!」


(わらわ)は知らんのぢゃ! モブはモブ同士でやれば良い」


「そこを頼むよ、麗しいナイスバディな桜様なら可能だろう?」


(わらわ)にケンカを売っておるのか?」


「分かった。とっておきの歌を聞かせよう」


「死んだ方が良いのぢゃ」


 ここで通信は切られた。その後、何度通信を試みても応答はなかった。


 くそ、全く聞いてくれなかった。最初のつかみ(・・・)が悪かったのか? 

 このままでは本当にまずい。死への片道キップになりかねない…


 そうだ。このままバックレてしまおうか? しかし行く当てもなければシアを置いてもいけない…


 この様な状況では人間の本性が出ると言っても過言ではない。

 陽二は基本優しい人間だ。だが優しいだけで、力もなければ金もコネもない。


 元世界では都合の悪い事があれば、全て人の責任にして面倒事は避けてきた。


 人間のゴミ オブ ゴミ。キングゴミである。


 パトリシアは本当の妹ではない。が本当の家族だとしても自分が一番かわいいのだ。陽二はそんな代表的な人間、助かるためなら当然逃げただろう。


 異世界に来るまでの陽二ならば


 今は少しだけど魔法が使える。調合もできる。側にいると誓った妹もいる。


 ここで立たねば本当のゴミ、ゴミリンになってしまう。


 ならばやれることは全てやろう、モブの底力を見せてやろうじゃないか!


 職業を異世界人にチェンジする。調合してもなぜかMPが減らないからだ。MP回復薬を優先して作る。

 ここで初めて愚者が仕事をする。


 陽二は気づいていないが愚者が天才(ヒラメキ)になり新たな調合方法が生まれる


 無意識に調合(プレパレ)ダブルが発動。

 効果は約7割程に落ちるが数は倍できる。約4割も得だ。素材と数が合わない? 魔法なのだ気にしたら負けだ!


 回復薬を調合したあと乾燥前のタングリも混ぜ合わせ、さらに効果の高い回復薬(上)を作り上げる。

 これもダブルで大量生産。

 これは出回っている回復薬の中で最も上位の物。


 さらにそれら全てを素材に使い、余ったタンドリ、レッドグローブ10粒で回復薬(上)のもっと上、最上位の完全回復薬(オリジナルエリクサー)を2つ作り上げた。


 陽二とパトリシアの分で、もしもの時の保険だ。


 当然、正規の作り方ではない。調合方法どころか現在作れる者は皆無の完全回復薬。まさに奇跡的快挙!


 残りのレッドグローブは10粒以上もある。魔力も大丈夫だ。


 ここまでの作業で約1時間。兵士達も風呂と食事を終え休息に入っている事だろう。

 職業を魔法術師に変えてパトリシアとナーナの居場所に戻ろうとしたとき、不意に視線を感じた。


「そこにいるのは誰だ!」


「にゃ~ご」


「何だ猫か…びっくりさせるなよ」


 陽二は手のひらに水針の攻撃(アクアニードル)の応用で氷のボールを作る。

 実はこの操作すごい事なのだが、天才(ヒラメキ)のおかげだという事に陽二は気付いていない。

 魔力の操作と水と火を一人で同時に行っているのだ。


 そして……


 9回裏ツーアウト満塁。

 1打出れば逆転のこの場面どうするピッチャーの陽二君。

 キャッチャーのサインにうなずく、いや首を振ったぞ?


「さあゲストの中胃さん、この場面はどう攻めてきますかね」


「そうですね、後ろにはそらしたくありませんし、1打で逆転ですからね」


 さあ、ピッチャー振りかぶって投げた!


 陽二は猫の声がした方へ思いっきり氷球を投げ込んだ

 渾身のストレート、真っ向勝負! 三振でゲームセットだ

 優勝するのは俺たちだ!


 だ!



 だ!



 だ!


「カキーン!」


「あーと、ピッチャーの陽二。この回に捕まってしまったぁ、打球は伸びる、伸びる! 入った!! 満塁ホームラン! 逆転サヨナラだー!」


 陽二は膝から崩れ落ちマウンドの上で頭を垂れる


「ワーハッハ! ワーハッハ!! ワーハッハ!!! しょせんアマチュア! アマアマアメージングよ。貴様の球など止まって見えるのぢゃ」


「桜なのか? 来てくれて本当にありがとう」


 陽二は頭を下げる。期待をしていなかったと言えばウソになる。

 桜ならば悪態をついても来てくれるのではないか? と思っていた。


 本当に来てくれるとは…


「桜…おまえら最高だ! さすがゼラニオン」


「陽二!」


「陽二君!」


「アスモさんにランスもありがとう」


 桜はバットを振り回しながら、陽二に近付く


「たまたまぢゃ、たまたま撮影と重なってのついでぢゃ、2本取りぢゃ」


 桜はそっぽを向きたまたま(・・・・)だと強調する。アスモデウスとランスロットが歩み寄って来る


「それでは陽二君。状況を詳しく聞かせてくれますか?」


「はい。実は…かくかくしかじかで…」


 それを聞いたランスロット、首をコテンとして


「かくかくしかじか?」


 こいつ…かわいいって言われたからって調子に乗ってやがる。来てくれた手前むげにはできないけど…


「こんな時は『かくかくしかじか』で話が通じるんだよ。空気読め! いや読んでください」


 ランスはコテンコテンと左右に首を振りながら


「そうか分かった」


 と(つぶや)く。頭の上には『?』マークがウヨウヨ浮いていそうだ


 すると桜はブオンブオンと大リーガー以上の素振(すぶ)りを披露しながら


「ふむ、なる程なのぢゃ。しかし、兵士は邪魔ぢゃ」


「そうですね。大人数で行っても魔物に見つかる可能性が増えるだけですし」


「桜たちなら魔物が出て来ても平気じゃないのか?」


 桜はサマになったバントの構えのまま、あきれ顔で言う


(わらわ)らとて多勢に無勢、邪魔は少ないに限る。魔物の巣が多数あるのぢゃろう? あっという間に囲まれてしまうのぢゃ。それも『おいしい』かもぢゃがな」


 次にハテナランスが


「どんな魔物がいるのか分からない場所で無闇矢鱈(むやみやたら)に魔物を呼び寄せる必要はない! と言うことだ。無論、遅れを取るつもりはないが」


 と、ハテナランスのクセに生意気な事を言いやがるので


「それなら俺も邪魔だな。よし! ここの守りは任せろ!」


 陽二はホッとしながら胸をドンと(たた)く、それを見た桜はバント職人の構えで


「はっ? 何を言うておる? 陽二が一緒に来ないと物語が進まぬではないか」


「そうだぞ私が守ってやるから一緒に行くぞ」


「陽二君。一緒に行きましょう。専用の腕輪も準備してありますよ」


 アスモデウスはそう言いながら腕輪を差し出す。陽二は不思議に思いながらも、手首につけている腕輪と交換する


「なぜ俺の腕輪があるのか意味が分からないですが…ありがとうございます」


 桜は陽二が腕輪を手首に着ける様子をじっと見ていた


「フッフッフ陽二! ゼラニオン入隊おめでとうなのぢゃ! 今日からブラックと名乗るが良い! ワーハッハ、ワーハッハ、ワーハッハ!!!」


 とバットを投げ渡してきた


「ちょっと待て、俺は入るなんて言ってないぞ? 腕輪だけに俺をハメたのか? あとバットの意味が分からん」


「なぜ(わらわ)達はここにおると思うのぢゃ? 別に帰ってもよいのぢゃがなぁ」


 桜はニヤリと勝ち(ほこ)った顔をしている。ドヤ!


 くそ! 痛い所をつかれた。まあ仕方がない。

 別に入るのがイヤと言うわけでもないが、言いなりになるのはやっぱり(しゃく)だ! だが、今は桜達の手助けが必要な時、ならば


「( ̄ー+ ̄)フッ、俺がブラックだと? レッドの間違いじゃないのか?」


「陽二、こっちに来い」


 何だ?


 桜は何かが映っている小さな玉を取り出し陽二に見せる


「こ、これは……」


 桜は笑みを浮かべながら言う


「ゼラブラックにはこれを進呈するのぢゃ、陽二はレッドが良いのぢゃったな。ならこれは処分するしかないのお」


 (あぜ)って桜に待ったをかける


「桜しゃん! 俺は昔からブラックに憧れていたんだ。さっきのは余りのうれしさで動揺しておかしな事を口走ってしまった。


 訂正させてくれぇ!」


 桜はニヤリとする


「お(ぬし)もワルぢゃのお」


「お代官様、それはお互いさまではないですか」


「「ワーハッハッ! ワーハッハッ! ワーハッハッ!」」


「よし、それではアスモ! 作戦会議を開くのぢゃ」


 ランスロットは何が起こっているのかサッパリだったが、陽二が入隊すると聞いてどうでも良くなった。


 その時パトリシアの(あせ)る大声が響き渡った


「お兄ちゃん大変だよ! 兵士さん達が……」


 *


 1時間程前。


 ここはスノームにあるゼラニオン本部。


 数台のモニターにヒーロー戦隊の基地に置いてあるような機械や装飾品を描いたポスター。

 部屋の中心には直径1メートルの水晶玉。


 この水晶には結界路の中にある腕輪の正確な位置が表示されている。

 桜達は表示されている場所ならば、5分以内で行く事が可能なのだ。


 秘密は腕輪をつなぐ魔法陣にある。

 そのおかげで腕輪の半径10メートル以内に転移できる。


 王都などにある転移門にも転移できる優れもの。

 スノームの研究チームが本条司の作成した転移門を改良して作った物。

 桜でも仕組みまでは理解していない。要は桜のおもちゃなのだ。その腕輪の数は6つ。


 1レッド(桜)

 2ブルー(アスモデウス)

 3イェロー(ランスロット)

 4ブラック(陽二、桜の中では決定事項)

 5ピンク(未定)

 6シルバー(未定)


 1と5は桜が所持、2と4はアスモ、3がランスロット、6は本部に置いてある。ちなみにスノームにも転移門がある。


「桜ちゃん。陽二君用に設定してもらいました」


「ご苦労なのぢゃ、後はどうやって引き込むか、なのぢゃが…」


 その時、通信を知らせる振動。


「あーテステス、こちら堕天使ルシファー、聞こえてますか? 応答願います」


 テステス? 堕天使ルシファー? 陽二か?


「はいテステス、こちら鉱山ピザボットぢゃ、ご注文伺いますぢゃ」


「あ、いいですか? じゃあミックス2つと飲み物はコーラで……ってふざけんなよ!」


 もう終わりなのか…つまらん男ぢゃ。だが少しばかりの(あせ)りを感じる


「死んだ方が良いのぢゃ」


 ワザと冷たく接して(わらわ)参上! 格好良いではないか!

 ドキがムネムネぢゃ、これはチャンスなのぢゃ! 恩を山積みで押しつけてやるのぢゃ


「ワーハッハッ! ワーハッハッ! アスモ! 陽二の場所はどこぢゃ?」


「王都南の分岐点、宿場町です」


「ランスを呼べ! ゼラニオン出撃ぢゃ!」


 




火の恩義 その人に与える付与みたいな形にしました

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