第19話 トパンへ向けて
昨夜、カリンから調査隊に加わらないかと打診された陽二、だが面倒な事は嫌いなので断った。
それを聞いていたパトリシアに
「お兄ちゃん、お願いだから一緒に行って! じゃないとお父様に裸を見られたって言っちゃうもん!」
と言われたので、一緒に行く事になった。
ちなみにカリンは一緒ではない
「誘ってきた癖に、一緒に行かないとはどう言う了見だ!」
と聞いたところ
「私たちの班は、パトリック様に物資を届けてからトパンに向かうのよ!」
とカリンは言った。
トパンとは5年前の事件で魔物に滅ぼされた村で、慰霊碑を建てようと案が出ている場所。そこが合流地点になる。
パトリックがレベル上げに出てから1週間以上が過ぎている。
そこで進捗報告と食料品や消耗品の補給をするための班と、真っすぐトパンへ向かう班の2組に分かれて行動する事になった。
当初は物資を届けてからトパンへ向かう予定だったらしいが、急遽パトリシアもついて行く事になり班を2つに分けたのだ。
「別に一緒に行けばいいんじゃないの?」
「陽二は知らないだろうけど、パトリシア様を危険な場所に連れて行けないでしょ!」
と、言われた。ついでに
「そっちの道だって魔物は出なくても危険な魔獣は出るのよ」
との警告を受けたのだ。
魔獣とは熊やオオカミなどもそうだが、魔石を持っていない魔物も含まれる。魔獣や魔物と呼ばれたりもするが人によって言い方が違う。
王都では魔獣と呼ばれている。だが、一般的には魔物であり、混乱を避けるため魔物と統一する。
*
陽二たちの班は騎馬隊5名とパトリシアの7名。王都を南下してトパンへ向かう。荷馬車1台と騎馬4で行くルート
カリンたちは騎馬隊5名と荷馬車にカリンと兵士2名の合計8名。王都からセナドゥースへ向かい、セナドゥース手前の街道から森に入り結界路沿いを進むルート。
直線距離では馬も荷馬車も通れないので遠回りして行く事になる。カリンたちの班は見たからに重装備だ。結界路沿いには魔物が出没するのかもしれない。
変わってこちらの騎馬隊と兵士は革の軽装備だった。陽二には服の上から付ける胴当てと、肘当て、膝当て、上甲部に鉄をあてがった靴と帽子に短剣が支給された。
軽量化スキルのおかげなのか、重さを感じる事もなく普通に動けた。
「じゃあね陽二。私たちは先に出発するわ。お互い無事にトパンで会いましょう」
「ああ、気をつけて。トパンで待ってるよ」
出発するカリンたちに手を振りながら見送る。陽二たちの班も騎馬隊の準備が終われば出発だ。
「お兄ちゃん、カリンが心配?」
自分の荷物を持って出てきたパトリシア。格好は動きやすそうな探検家っぽい服装だ。だが上質な魔物の革で作られているので防御力は高い。
ズボンはひざ下くらいまでしかなく肌の露出している部分もあるが、戦闘に出るわけではないので良いらしい。
普段のツインテールを三つ編みにして、邪魔にならないようにしている。
「そりゃあ心配だよ、魔物を見た事はないけど強いんだろ? カリンも自分の事を強いって言ってたけど…大丈夫かな?」
「カリンは魔法も使えるし兵士さん達だっているんだし、大丈夫だよ!」
「そっか、なら安心かな? それよりも行きたい場所があるって言ってなかったっけ? 行かなくてもいいの」
「うん、いい。帰ってきてから行く」
「どこに行くつもりだったの?」
「お母様のお墓」
そう言うと、パトリシアは腕を掴んで引っぱってくる。
「お兄ちゃん、出発するんだって」
騎馬隊の準備が終わったらしい。
「パトリシア様、出発します。王都を南下して分かれ道まで行きます。道中でいったん休憩になるかと思います」
「わかりました。皆様、よろしくお願いします」
「よーし出るぞ!」
*
休憩場所まで何事もなく到着した。
王都を出て1時間くらいは田んぼ・畑・ビニールハウスみたいな物まであった。とにかく農業が盛んな印象だ。小さな村もいくつもあるらしい。
農業地帯を抜けると森や林の中を進む。
馬車が通れる道は整備されているので問題はない。森林公園、そんな感じだ。
森を抜けると開けた場所に、シルフィールとサラデインへの分かれ道と小さな宿場町があった。
ここまでの道は整備されていたが、目的地の宿場町まで5時間くらいかかった。
道中は全て土を固めて整備されていた。道路整備も立派な仕事で、土で穴や沈んだ部分を補填して固めて回る人たちがいるのだ。
それにしても思っていたより馬車の速度は遅かった。時速10㎞も出ていなかったと思う。たまに走れば歩いてもついて行けそうなくらいだった。
*
今日はこの宿場町で一泊する予定だ。
一人の兵士は疲れた馬を馬小屋に連れて行き休ませる、残りの兵士達は宿場町に荷物を降ろし始めた。
ある程度の運搬も頼まれていたのだろう。手伝いながら兵士に話を聞く
「トパンまで、後どれ位かかるのですか?」
「そうですね…ここからは道も険しくなりますし、魔物も出ると思います」
パトリシアが居るため、これから兵士達だけでトパンの村まで行って、ある程度の魔物退治と道や村の跡の安全確認をしてくるらしい。
なにせ5年前の事件以来、まともに足を踏み入れた者はいないのだから。
「パトリシア様と陽二君。今日はこの場に留まりお休みください。われわれはトパン迄の道を調査しに行ってきます。
問題なければ明日の朝、出発しますので準備の方よろしくお願いします。」
「わかりました、どうか気をつけて行って来てください」
荷物を降ろし終わりパトリシアの所に戻ろうとすると、別の場所から装備品を出していた。
軽装備だけかと思っていたけど、ここで装備し直すみたいだ。
あれは?
拳銃みたいな物を見つけた
「すみません、それが魔弾砲ですか?」
「そうです。私たちの隊には魔法を使える者がおりませんので」
「見せてもらっても良いですか?」
「どうぞ、弾は入っていないので大丈夫です」
これが魔弾砲か…大きさはハンドガン程で銃口から銃身後部まで太くなっている。
通常なら撃鉄がある部分、そこが開くようになっていて直径2㎝程の穴が2つあいている猟銃みたいな感じだ。
弾は2発まで入る。引き金を引くと魔法が飛び出し2発撃つと弾を入れ換える仕組みだ
弾も見せてもらう。
直径2㎝長さが20㎝くらいある円柱の棒? この中に魔法がこめられている。
円柱の両端を手のひらで挟み魔法を唱えると中に魔法をこめられる仕組みになっている。空の弾を貸してもらい試してみる
水針の攻撃
念のため弾に入る様にイメージして使ってみた。
魔法が発動した瞬間吸い込まれた…と思う。
弾の側面が水色に変わりアクアニードルと文字が浮き出る。
「陽二君は魔法が使えるのですか?」
「はい、この程度でしたら」
空の弾を渡された。
「支給品ですが買うと高いのです。よければ魔法を入れてくれないですか?」
「練習にもなりますし、全然オッケーです。」
計20発。練習にちょうど良い。使えるかいろいろ試してみた
水針の攻撃、水塊の攻撃、水壁
火針の攻撃、火塊の攻撃、火壁
風針の攻撃、火の療法、水の療法
ここまではこめる事ができた。
大攻撃は弾が2つ合体した大きな弾にしかこめる事ができなかった。
大きな弾にはボール+ダブルをこめると連射撃ちができる。
療法や壁もこめる事ができた。今まで誰も試した事がなかったみたいで
「考えてみれば、こめられるはずですよね!」
と言っていた。ちょっとした発見だ。
兵士達は食堂に行くと言うので、一緒について行こうとしたらパトリシアが走ってきた
「お兄ちゃん、お昼ご飯もらってきたからお外で食べようよ」
「ありがとうシア。そうだね、せっかくだし外で食べようか」
ここら辺は安全だと言うので、少し森に入り気持ちの良い風の吹く木陰で食べることにした。
この一帯の木は広葉樹みたいだ。
枯れ葉の落ち具合や緑色の葉っぱが物語っている。クヌギやアベマキに近い種らしく地面にはドングリが落ちている
「これ何か知ってる?」
「タングリじゃないの?」
「タングリって言うんだ…」
「何か調合に使えるの?」
「分からないけど…なる程、調合か! ご飯を食べたら集めようか」
「うん! タングリ拾いの競争だね!」
お昼ご飯は野菜がたっぷりのサンドウィッチだった。
トマトにキュウリ、レタス……見た事のある野菜がかなりある。
異世界に来ても、元世界と同じ様な食材しか目にしていないので、そこまで違いはないのかもしれない。
パトリシアを見るとキュウリを中から取り除いていた
「あれ? キュウリ嫌いなの?」
「き、嫌いじゃないけど…今日は食べる気分じゃない。かな?」
「まあ、俺もアレルギー持ってて食べられない物が多いし、無理に食べろとは言えないけど…キュウリおいしいよ?」
パトリシアのキュウリをつまみ上げ口に運ぶ
「おお~! お兄ちゃんこれもあげる。はい! あ~ん」
「あ~ん」
陽二にキュウリを食べさせたパトリシア、そのまま陽二の足に座りもたれかかる。
爽やかな風に包まれ、会話をしながら昼食を食べた。
*
2人でタングリを拾い集めて、返却し忘れていた調合の本でタングリを調べる。
⚫名前:タングリ
種類が豊富で主に滋養強壮の効果がある。弱毒性。調合する際には中身を取り出してつぶす。
十分に日光を当てて乾燥させると毒性がなくなる。
「素材になりそうだから中身を出して乾燥させよう」
「シアも手伝う!」
短剣で半分にしてパトリシアに渡すと器用に中身を取り出す。
「うまいね、職人さんみたいだよ」
「簡単だよ! この中の白い部分と黒い部分の境目にね…見てて」
このタングリはクリみたいな構造になっている。つまり実の部分と渋皮の境目と言うことだろう。
普通のドングリなら空洞になっていて割ると中に実がある。
見てると一瞬だが赤く光った。
もしかして…魔法?
「魔法? 何したの」
「境目にね、一瞬だけ火壁を使うと……ほらね、すぽって取れるでしょ! すごい?」
この子、天才か? 発想もすごいけど、こんな小さな場所に一瞬だけ魔法を使うとか……こんな風に発想次第でいくらでも応用できるんだなぁ…
「すごいよ! 俺にも教えて」
パトリシアの頭をグリグリと撫でながらお願いする。
「うん! えとね、ここに集中して…」
教えてもらいながら、どこでこんな方法を習ったのか聞いてみる。
自己流だそうだ。
とにかく魔力を使って倒れるために、いろいろな方法を試していたらできる様になったらしい。
多分これは魔力操作なんだと思う。覚えて損はない!
タングリが燃えカスになったりしたけど、少しずつできるようになった。
*
タングリがなくなったので2人で拾い集める。
「お兄ちゃん、あそこにたくさんあるよ!」
「本当だ、よし競争だ!」
2人は気づいていなかった。森の奥に入っていた事に…
タングリを拾っていると変な音がした。
「ブルルルーブルルルーブシャー」
その音の方を振り返って見るとイノシシがいた。
まだ50メートルは離れている。やたら鼻息が荒く陽二たちをロックオンしているようだ。
「シア! イノシシがいる、逃げるぞ!」
「あ、お兄ちゃんあれは……野生のオーブタだ、怒っているよ!」
怖くないのだろうか? 全然怖がったり焦ったりする様子はない
「オーブタは火が苦手だから私に任せて!」
「ブルルルーブシャー!!」
オーブタは突進の構えで今にも襲いかかろうとしている
その時
「ガヴォー ギャブァ」
1匹のオオカミがオーブタに襲いかかった。
オオカミはオーブタの首に噛み付き体をドリルの様に回転する
「ブルルルーブシャー! ブシャー! ブシャー!!」
オーブタは悲鳴を上げ、血しぶきが舞う
「うわわわ! 逃げよう」
パトリシアはガタガタと震えだした
「お、お兄ちゃん、早く逃げないと」
陽二はパトリシアの手を握りしめ走りだした
「うおー急げ急げ! 何だありゃ? ヤバイヨヤバイヨ!」
とにかく来た方向に走る。
途中でパトリシアを抱き上げ猛ダッシュ! その時、足が絡まり転んでしまった!
後ろを確認する。
来ていない大丈夫だ! オーブタを食べているのだろう
立ち上がって進もうとすると
「グギァー」
どこだ? 辺りを見回そうとしたとき
「お兄ちゃん! あっ」
パトリシアの言葉の途中で背中に衝撃が走る
「いでぇ! ぐわー」
陽二はオオカミに体当たりを受けて跳ね飛ばされ少し下の段差に転げ落ちた
「ゲホ!」
ぐっ、何だ? どこから来た? シア? シアは?
「カヴァー! ガヴァー」
「キャー!」
パトリシアの悲鳴が聞こえた
「シア!?」
陽二は斜面をもたつきながらも何とか登りきり、パトリシアの元へ急いだ。
そこには気絶したパトリシアと首のないオオカミ、そして小さいナニカがいた
まだちょっと整理し切れて居ませんがぼちぼち投稿します。




