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第12話 パトリシア

 

 テーブルを挟んだ目の前で2人の少女がパフェを食べている。


 左側の女の子はカリン=レットイル 

 王子の婚約者候補で魔法師見習(まほうつかい)

 レベル2の水魔法を使いこなすソラマン領主の娘

 間違いなくエリートだ。


 右側の女の子はパトリシア=クルシュナイン 

 この国の王女さまで魔法師見習(まほうつかい)

 最低でも火魔法のLV.2まで使いこなす黒髪ツインテールの12歳。身長135センチで小柄。

 小さいお口で食べる姿が小動物みたいで、とてもかわいい。 


 カリンと同じく生まれながらに魔法(スキル)を所持している才能のある女の子。


 そのパトリシア、なぜか涙を流しながら食べている。


 訳を聞いてもどこかうわの空で口を開かない。



 *


 陽二とカリンは騒ぎが落ち着いたあと、ご飯を食べに行くお店の話をしていた。


 その話を聞いていたパトリシアは陽二の服を引っ張った。


 ん? なんだ?


「異世界人、おまえ何でも言えって……。シ、わ、私も連れていけ!」


「ん、いいよ。一緒に行こうか」


「え、いいの? シアも…私も言っていいの?」


「いいに決まってるじゃないか! あ、今度から俺の事を異世界人じゃなくて陽二って呼ぶならいいよ。お兄ちゃんも可な」


「わ、わかったよ。陽二…お、お兄ちゃん」


 うおーこりゃ破壊力が抜群だ! よし、もう一歩踏み込んでみるか?


「俺もシアって呼ぶけどいいか? パトリシアは長い!」


 だめか? 鳩尾(みぞおち)パンチか?


「ま、まあ長くて呼びにくいのであれば仕方ないわ! 特別よ。今日はしっかりエスコートすること! わかった?……お、お兄ちゃん?」


「ご褒美か!? い、いや何でもない、分かってるよ。王様にシアも連れて行くって話をして来るから、待っててよ」


 と言うわけで昼食を食べたファミレスに来た訳だが……


 *


 パトリシアとご飯を食べに行く事を伝えに部屋を訪れると、王様は泣いていた。


「どうしたんですか? タンスの角に小指でもぶつけました?」


「いや、何でもない。シアとカリンが演習を行ったと聞いたが……本当か?」


 陽二の肩を(つか)み体を前後に揺さぶってくる。


 王様には本当の事を話すべきだな


 と思い全てを話した。それを聞いた王様は驚きに喜びをプラスした表情で


「そうか……シアには済まないことをしたな…陽二も済まなかった。」


 パトリックがレベルを上げに出た事をシアに伝えていなかったらしい


「シアが自ら王宮の外に出て、感情をあらわにして言葉を発するとは……陽二! 頼まれてくれんか?」


ひと呼吸おく王様


「シアをパトリシアを……少しの間で良い。娘のそばに居てやってくれ」


 陽二の体を揺すりまくる


「わ、分かったからやめて!」


「頼んだぞ!」


 王様の表情は真剣そのものだ


「訳が分からないけど……シアはかわいい妹になったし、逆にご褒美だ!」


「シアだと!? 許さんぞ、娘はやらんぞ!」


「ダグ、勘違いだ! 妹だと言っただろう? なるべくそばに居るから書館に入る許可をくれ」


「書館に入る許可など、初めからいらんわ!」


 王宮の書館は誰でも入れる場所。


「陽二、娘を頼むぞ。困ったことがあったら何でも言え」


「分かりました」


 王様にシアの事を頼まれた後、昔の話を聞いた。


 シアが7歳の頃、セナドゥースとサラデインの間にある森で大量の魔物が発生して結界路の近くでも目撃されるようになった。

 森は結界路と海に挟まれていて数を減らさないと、隣接するセナドゥースとサラデインの町に押し寄せる事になってしまう。


 結界路がある、とは言え何かが起こる前に対処しなければならない。幸いにも当時の森は広かったが、森に住む魔物の多くはそこまで脅威ではなかった。


 対魔物の武器を多く持っている冒険者たちは、南北から森に近づき誘い出して魔物を討伐する。 


 近接武器の少ない王国兵士は東の結界路の中から、近づく魔物を魔弾砲(パレット)で討伐していた。


 数を減らすのが目的なので、無理に森の中まで入る必要はなく、少しでも危険を減らすため慎重に魔物討伐は行われていた。


 作戦は順調に進んでいる。


 誰もがそう思っていた。


 最初の異変は悲鳴(ひめい)にも()た魔物の(さけ)び声だった。その次は大地を揺らす程の地響き


「な、なんだ?」


 どんどん地響きも強くなり、森の木々がバサバサと木の葉をまき散らしながら王国兵士のいる森の東に向かって近づくいてくる。 


「ギヒャー」や「ピギュー」


 などの声と共に、まるで何かから逃げるように大量の魔物が飛び出してきた。


 その流れが魔物大行進(カオス・マーチ)を引き起こした。

 この状態になった魔物は止まる事なく気が狂った様に走り回る。


 その魔物の群れが体を引き裂かれても、焼かれてもお構いなしに結界路に突っ込んで来た。


 一部の結界が飛びこんだ魔物の処理に追いつかず魔力切れを起こしてしまった。

 結果、魔物たちの進入を許してしまった。


 王国兵士や冒険者たちは、すぐさま結界路内の魔物を討伐し鎮圧(ちんあつ)すべく力を尽くした。


 *


 結界路も修復され一応の終息を見たかに思えた…冒険者や兵士たちが近くの村で発見したのは応戦(むな)しく殺されてしまった村人や女兵士。


 村人を守るために逃げずに戦ったのだろう。無残な姿で発見され誰が誰だか判別すらできなかった。


 その正体は(よろい)の王妃親衛隊の紋章から、視察に訪れる予定であった王妃(・・)たちであると判別された。


 その後、結界路を維持していた鉱山都市スノームの技術者に非難が集中した。技術者は異世界人だった。


 技術者に責任がある訳ではないが、幼かったパトリシアの中では異世界人(・・・・)のせいで母親が奪われたと思ったのだ。


 王妃は普通の人だった。特別に美しいとか武術や魔法に()けていた訳でもない町中にいる普通の人。

 それでも国中の誰もが王妃を愛し、また王妃も国中の全てを愛した。

 その中でも特に溺愛(できあい)(ささ)げたのが、ひとり娘のパトリシア。


 パトリシアも当然のごとく王妃を愛し、誰から見ても理想の母娘(おやこ)だった。


 パトリシアがとても大好きで楽しみにしていたのは、王妃と2人でする王宮花壇の手入れ。

 季節ごとに種をまき、花を育てる。

 誰にも邪魔をさせない。たとえ王様やパトリックでもだ。


 2人だけの特別な時間。忙しい王妃を独占できる至福の時間。

 パトリシアを見つめる笑顔が(たま)らなく大好きだった


 パトリシアはとても明るく誰とでも良く話す、母親似の笑顔のたえない子供だった。


 あの日、パトリシアは泣けなかった……


 感情を見せなくなったパトリシアは、食事の量も減り、母親の面影がある兄にべったりとくっつき離れなくなった。

 自分から話しかける事もなくなり王宮から一歩も外に出なくなった。


 *


 感情を見せなくなったパトリシアは、鬼の様な顔をしながら何かを探してさまよい歩く。


 か細く(つぶや)きながら


「また奪うのか? 異世界人……殺す!」


 外から声がする。見つけた! 


 パトリシアはその声がする方に走った。


 パトリシアは気付いていないが、走るのも外に出るのも5年ぶりだ。


 グラウンドの向こうに花壇が(・・・)見えた……パトリシアは(さけ)んだ


「見つけた! おまえのせいで…おまえのせいだ! 死ね異世界人!」


 パトリシアは5年ぶりに大声を発したのだ


 *


「なあ、シア…本当にどうしたんだ? 泣く程においしいの?」


「お兄ちゃん…おいしいの……おいしいから涙が…」


 もう声にもならない


 あの日失ったのは母親だけではなかった。ショックのあまり味覚さえも失っていたのだ…


 パトリシアは泣いた。あの日、泣けなかった分まで……母親の死を受け入れ始めた瞬間だった。


 その後、泣き疲れて眠ってしまったパトリシアを抱っこして、カリンと2人で王宮に帰った。

 今から宿を探すのもアレなので、そのまま王宮に泊めてもらう事になった。


 右側の建物が主に男性用、左側が女性や地位の高い人用になる。

 この国には貴族とかはおらず、王族や大臣なども威張っている訳でもない。あくまで国民主体のフレンドリーな王政を敷いている。


 書館は右側の建物の1階にあり誰でも入れる。中の物は建物(・・)から持ち出すことはできない。


 陽二はパトリシアを部屋まで送ると王様にあいさつをして、カリンと共に書館に移動した。

 カリンは魔法の本を見ている。陽二は調合と錬金の本を探し始めて気がついた。


「字が読めねぇ……」


 

味覚を失う

サラッと書きましたが、とても辛いことだそうです。





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