3.商品のご説明をさせていただきます
「それでは商品のご説明をさせていただきます。よろしいですか」
と店員は話しはじめた。
「今回ご購入いただきました背後霊ですが、名前の通りお客様の背後に取り憑く霊となっておりますので、姿をごらんになりたいときは鏡をお使いください」
そう言って店員は、おれの前に鏡を置いた。鏡を見ると、おれの左肩の上のところにさっきの背後霊の女の静かに微笑む顔が映っていた。それはまるで幻灯で映写したかのように、少し透明がかって見えた。
「写真には通常は写りませんが、ごくまれにうっすらと写ってしまうこともございます。それがいわゆる心霊写真というものです」
「あのう、おれの背後霊は他の人たちには見えたりしないんでしょうか」
おれは疑問に思ったことを尋ねてみた。
「はい。さきほどお客様の霊的波長とチューニングさせていただきましたので、原則としてはお客様にしかご自身の背後霊の姿は見えませんし、背後霊の声を聞くことができるのもお客様だけです。ただ、霊的波長が非常に近い方や霊感がとても強い方がいらっしゃれば、うっすらと姿が見えたり、かすかに声が聞こえたりすることもございますが、これは非常に稀なケースです」
おれはやっと、チューニングと言っていたさっきの奇妙な三分間の意味がわかった。店員はさらに説明を続けた。
「背後霊の声はお客様の耳元で聞こえます。話しかけたいときは普通にお話しください。ただ、他人からは独り言をつぶやいているように見えますので、その点ご注意願います。背後霊の方から話しかけることは、あまりございませんが、お客様に危険が迫っているような場合には、背後霊が警告することがございます。これが背後霊をお持ちになることの最大のメリットだと、私どもは考えております。今回ご購入いただきました背後霊が、お客様のお役に立てますことを、社員一同、心から願っております」
店員は説明を終えると、おれの方を見てにっこりと微笑んだ。相変わらず青白くて生気のない顔だったが、その笑顔が一瞬ものすごく魅力的に見え、おれは胸に不思議なときめきを感じた。するとその顔はなんとなく、おれが買った背後霊の女に似ているような気がした。おれは店員の胸のネームプレートに書かれた「猪飼」という名前を頭に入れた。だがそこで、おれは少し勇気を出して、思い切って訊いてみた。
「あっ、あのう、あなたは猪飼さんとおっしゃるんですね。もしよろしければ、下のお名前もお訊きしてよろしいでしょうか」
すると彼女はクスリと小さく笑って、答えてくれた。
「レイです。イカイ・レイ」
「猪飼レイさんですか。いいお名前ですね。また何か必要なものがあったら、買いに来ます」
そう言って、おれは店を出た。
「どうもありがとうございました」
猪飼レイは深々と頭を下げて、見送ってくれた。おれはついさっき彼女と別れてしまったばかりだということも忘れ、ちょっと幸福な気持ちで帰りの道を歩いていった。