14.命に代えてもあなたをお守りします
気がつくと、おれは自分のアパートの万年床で寝ていた。おれはまだ生きているのだな。あれは夢だったのだろうか。それにしては肩や腰が痛い。体を起こして鏡を見ると、服はひどく汚れ、ところどころ擦り切れている。夢ではなかった。どうやらおれは自分の足で歩いて戻ってきたらしい。だがまてよ、もしあれが夢でないとするなら……
おれは目を凝らして、もう一度鏡を見た。おれの左肩の上で、シズさんが静かに微笑んでいた。シズさんが本当に帰ってきてくれたんだ。おれは涙が溢れて止まらなかった。
「シズさんがおれを守ってくれたんだね。シズさんの言葉を信じなくて、すまなかった。許してくれ」
「もういいのですよ。それに、前にも申し上げたじゃありませんか。命に代えてもあなたをお守りしますって」
「ありがとう。シズさんがまた戻ってきてくれて、本当にうれしいよ。もうどこへも行かないでくれるよね」
するとシズさんはこう答えた。
「あら、わたくしは戻ってきたのではありませんわ。どこへも行かず、ずっとあなたの背後にいたのですよ」
「へ?」
おれには意味がわからなかった。どこへも行かず、ずっとおれの背後にいただって? いったいどういうことなんだ。
「ただ、あなたに姿が見えないように、ずっと背中の後ろに隠れていて、一言も口をきかないでいただけですわ」
おれはしばらくの間、言葉が出なかった。
「そ、そんな。おれがあんなに後悔して謝っていたのに、ずっと隠れたままでいたなんて……」
「あなたがわたくしの言葉を信じてくださらなかったから、ちょっとだけ意地悪してみたくなりましたの」
「わかったよ。おれの方が悪かった。だからもう、おれを見捨てないでくれ」
「わかりました。ですからもう二度と死んでもいいなどとおっしゃらないでくださいね」
こうしておれとシズさんは仲直りした。
おれはシズさんが幽霊ではなくて、生きた人間だったらよかったのに、と思うことがある。もしかして幽霊もまた人間に生まれ変わるということはあるのだろうか。おれはシズさんに訊いてみた。するとシズさんは答えた。
「それはもちろんでございますよ。わたくしも何度も生まれ変わりました。次にいつ生まれ変わるかは、まだわかりませんが」
だがシズさんが今からすぐに生まれ変わったとしても、その人が大人になる頃には、おれは何歳になっているだろう。おれは自分の馬鹿な考えを改めた。
「たとえ幽霊のままでも、シズさんがずっといっしょにいてくれれば、おれはそれで十分だよ。もう人間のガールフレンドなんか欲しいとは思わないさ」
するとシズさんは優しい声で、おれをたしなめた。
「いいえ、それはいけませんわ。いつまでもお布団の中でシコシコしていらっしゃるだけでは、幸福な人生とは言えませんわ」
おれは座卓の上に額をぶつけた。やはりおれの情けない行為を知っていたのか。
「あなたに本当にふさわしい方が、この世界のどこかに必ずいらっしゃいます。その方はいつかきっと、あなたの前に現れますよ」
シズさんはそう言ってなぐさめた。




