表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

14.命に代えてもあなたをお守りします

 気がつくと、おれは自分のアパートの万年床で寝ていた。おれはまだ生きているのだな。あれは夢だったのだろうか。それにしては肩や腰が痛い。体を起こして鏡を見ると、服はひどく汚れ、ところどころ擦り切れている。夢ではなかった。どうやらおれは自分の足で歩いて戻ってきたらしい。だがまてよ、もしあれが夢でないとするなら……

 おれは目を凝らして、もう一度鏡を見た。おれの左肩の上で、シズさんが静かに微笑んでいた。シズさんが本当に帰ってきてくれたんだ。おれは涙が溢れて止まらなかった。

「シズさんがおれを守ってくれたんだね。シズさんの言葉を信じなくて、すまなかった。許してくれ」

「もういいのですよ。それに、前にも申し上げたじゃありませんか。命に代えてもあなたをお守りしますって」

「ありがとう。シズさんがまた戻ってきてくれて、本当にうれしいよ。もうどこへも行かないでくれるよね」

するとシズさんはこう答えた。

「あら、わたくしは戻ってきたのではありませんわ。どこへも行かず、ずっとあなたの背後にいたのですよ」

「へ?」

おれには意味がわからなかった。どこへも行かず、ずっとおれの背後にいただって? いったいどういうことなんだ。

「ただ、あなたに姿が見えないように、ずっと背中の後ろに隠れていて、一言も口をきかないでいただけですわ」

おれはしばらくの間、言葉が出なかった。

「そ、そんな。おれがあんなに後悔して謝っていたのに、ずっと隠れたままでいたなんて……」

「あなたがわたくしの言葉を信じてくださらなかったから、ちょっとだけ意地悪してみたくなりましたの」

「わかったよ。おれの方が悪かった。だからもう、おれを見捨てないでくれ」

「わかりました。ですからもう二度と死んでもいいなどとおっしゃらないでくださいね」

こうしておれとシズさんは仲直りした。


 おれはシズさんが幽霊ではなくて、生きた人間だったらよかったのに、と思うことがある。もしかして幽霊もまた人間に生まれ変わるということはあるのだろうか。おれはシズさんに訊いてみた。するとシズさんは答えた。

「それはもちろんでございますよ。わたくしも何度も生まれ変わりました。次にいつ生まれ変わるかは、まだわかりませんが」

だがシズさんが今からすぐに生まれ変わったとしても、その人が大人になる頃には、おれは何歳になっているだろう。おれは自分の馬鹿な考えを改めた。

「たとえ幽霊のままでも、シズさんがずっといっしょにいてくれれば、おれはそれで十分だよ。もう人間のガールフレンドなんか欲しいとは思わないさ」

するとシズさんは優しい声で、おれをたしなめた。

「いいえ、それはいけませんわ。いつまでもお布団の中でシコシコしていらっしゃるだけでは、幸福な人生とは言えませんわ」

おれは座卓の上に額をぶつけた。やはりおれの情けない行為を知っていたのか。

「あなたに本当にふさわしい方が、この世界のどこかに必ずいらっしゃいます。その方はいつかきっと、あなたの前に現れますよ」

シズさんはそう言ってなぐさめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ