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13.おれなんか、もう死んだっていい

 シズさんがいなくなってから三週間が過ぎた。おれは食欲もなく、夜もなかなか眠れない日々が続いていた。それでも何か食べなければと思い、コンビニまで買い物に行こうと部屋を出た。人通りも少なくなった夜の道を、ふらふらとおぼつかない足取りで歩きながら、おれはシズさんのことを考えた。


 つきあっていた彼女に別れを告げられて、惨めな気持ちで偶然立ち寄ったあの幻のペットショップで、はじめてシズさんの静かに微笑んでいる顔を見たとき、おれは何か深い心の安らぎのようなものを感じたのだった。永遠の女性というものがいるとするならば、それはまさにシズさんのような女だろうと思った。

 アダルトDVDが散乱する部屋を見ても静かに微笑んでいたシズさん、トイレの中では気を遣って目をつぶっていてくれたシズさん、風俗店へ遊びに行ったらと言ってくれたシズさん。合コンで知り合った女に会いに行こうとした時、必死で止めようとしてくれたシズさん。

 もしあのとき、あのまま会いに行っていたら、おれは包丁で刺されて死んでしまっていたかもしれない。シズさんは本当に命に代えてもおれを守ってくれたんだ。それなのにこのおれは、シズさんに向かって何てことを言ってしまったんだろう。どうしてシズさんの言葉を信じなかったんだろう。おれはとんでもないバカ野郎だ。


 そうだ、シズさんは命に代えてもおれを守ると言っていた。まさか、おれがシズさんを信じなかったから、シズさんは幽霊として死んでしまったのではないか。幽霊だから死ぬことはないと思っていたが、幽霊としての命を失って消滅するということはあるのかもしれない。ああ、シズさん、頼むから戻ってきてくれ。シズさんが消えて無くなるくらいなら、おれが死んでしまえばよかったんだ。

 もしおれが死んで、代わりにシズさんが人間として生まれ変わってくれるのなら、いや、幽霊としてでもまた復活してくれるのなら、こんなどうしようもないダメ野郎のおれなんか、もう死んだっていい。


 おれはそんなことを思いながら、空腹と睡眠不足のためふらつく足で夜の国道を歩いていた。そのうち次第に意識が朦朧としてきた。ああ、おれはこのまま死ぬんだな。足下がぐらつき、体が車道の方に傾いていくのがわかった。そのときだった。

「いけません!」

耳元で大きな声がした。シズさんの声だ。おれはハッとして、力いっぱい右足で地面を蹴って歩道の方へ跳んだ。その直後、後ろから大型トラックが急ブレーキをかけながら通り過ぎていった。おれは歩道に倒れ、荒々しく息をしながら、ああ、おれはまだ生きてるんだな、と思った。

「あなたは馬鹿です。大馬鹿です。どうして死んでもいいなんて言うんですか。死んでしまえばよかったなんで言うんですか。わたくしは死にたくなかった。あの方にも死んでほしくなかった。だから、だから、あなたにも死んでほしくない、生きていてほしいのです。生きて……いて……」

シズさんは泣き声だった。

「シズさん、帰ってきてくれたんだね。ありがとう、ありがとう……」

おれはそう呟きながら薄れゆく意識の中で、シズさんのおれを呼ぶ声を聞いていた。


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