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ヤヨイは小石からそっと目を離し、大樹をぎゅうっとにらみ上げた。
「邪魔しないで、新人先生、私たちはユウちゃんを生き返らせなくちゃならないの」
大樹はそんなヤヨイを睨み下ろして、ぐっと腕を組む。
「死んだ者は生き返らない、そのぐらいの理屈はキミくらいの年になればわかるだろ」
「新人先生こそ、そんなに大人なのに死者の生き返らせ方も知らないの?」
「ああ、知らないね」
「変なの」
「変じゃない。そもそもキミがやっているその呪いは俺が考えたモノだ。全部嘘っぱちだと、俺がいちばん良く知っている」
「へえ、この反魂ごっこ、新人先生が作ったんだ? じゃあ、お礼を言わなくちゃね」
ヤヨイが軽く顎をしゃくると、それが合図だったかのか子供たちが大樹に駆け寄り、その体へと手を伸ばした。
「ありがとう、ありがとう」
「ぼくたちの友達を返してくれてありがとう」
「反魂ごっこをありがとう」
両手で子供たちの手を軽く押し返しながら、大樹は戸惑っていた。
「なんだ、これは」
どの子も両目に精気がない。瞳孔は黒い瞳の奥に沈み込み、ぽっかりと暗い洞の入り口のようだ。そこからこぼれだした闇がねっとりと体中にまとわりついてくる。
(ちがう、これは闇なんかじゃない。ただの子供だ)
心ではそう思っていても、脇の下を伝う冷たい汗はとめることができない。
暗い目を向ける子供たちの向こうで、ヤヨイが微笑んでいた。
「ね、新人先生、ユウちゃんを生き返らせる邪魔しないでくれる?」
「そんなことはできない!」
「八重樫先生だって、ユウちゃんが生き返ったら嬉しいでしょう?」
「だめだ、八重樫先生、教師としての威厳を持って!」
しかし、体を震わせながらうなづいた淳子を誰が責めることができよう。あまりにおびえきったその表情からは、かつてヤヨイから恐怖に値するだけのものを与え他のだろうということがうかがい知れた。
だから大樹は両手を下ろし、唇を噛むようにして言い捨てる。
「わかった、キミたちの邪魔はしない」
とりあえず淳子をこの場から離れさせてやらなくてはならない。両肩を抱くようにして膝を震わせている彼女をこの場においておくのはあまりに残酷だ。
そう思ってのその場しのぎの言葉だったが、ヤヨイは白い小石を大樹に突きつけてさらにせまった。
「ちゃんとユウちゃんにも誓って。ユウちゃんが生き返るまで邪魔はしないって」
「わかったよ、邪魔はしない」
「ふふ、約束ね」
ヤヨイが再び顎をしゃくると、子供たちがざあっと手を引いた。あまりにも統率が取れすぎていて、まるで操られているようだと大樹は感じた。
「約束、約束」
ヤヨイは楽しそうに飛び跳ねながら去ってゆくが、その後ろにつき従う子供たちは力なく肩が落ちるほど両手を下げて足を引きずっている。まるで小鬼が幽霊を従えて歩いているみたいだ。
ぞおっと体中に這う寒気を追い払おうと、大樹は妙に明るい声で振り向いた。
「もう大丈夫ですよ、八重樫先生!」
彼女は震える膝を支えきれず、ついに地面に崩れ落ちようとしているところだった。
「ごめんなさい、植草先生、ごめんなさい……」
誰かへの謝罪を、何度も何度もつぶやきながら……