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反魂ごっこ  作者: アザとー
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 ところがこのチャラチャラした友人は、そんな同情さえも飛び越えてひどく冷静な声付きで淳子に語りかける。

「別にあなたの精神状態云々もそんなに重要じゃない。怪異がそこにあった、その事実さえ確認できればいい」

「事実です、事実ですとも! その証拠に……」

「お嬢さん、ボクやコイツが学んだ学問はね、お化けの実在を証明するようなもんじゃないんですよ。むしろその怪異がそこに存在することによって人の生活にどのような影響を及ぼすのか、またその怪異がどのような形で発生し、どのように推移していったのかに重きをおくものなんですよ、だからね、その怪異が事実かどうかなんてどうでもいい。ボクが知りたいのは『真実』ですからね」

「ええと、なんだかよくわからないんですけど」

「つまりね、お嬢さん、あなたが体験した怪異は実在する、それは間違いない。しかし、それが『鬼』とどうつながるのかという『真実』はいまだ不確定なものであるのですよ、いま聞いたのはあなたの『体験』に過ぎませんからね」

「私の話を疑っているわけでは……」

「ないです、もちろんないです。むしろ怪異の中に『鬼』という明確なモチーフが存在するあたり、めっちゃ興味深いと思って聞いていましたよ」

 敷島は腕組みを解き、姿勢を正して続けた。

「さて、と、学問的にお化けの実在を証明する必要がないからこそ、ボクとコイツはいつも対立してたんですけどね。つまり、実在を証明できないなら不在であるというコイツと、実在が証明できないなら居てもいいんじゃねという俺と。実際に怪異譚というのはお化けの実在を前提としないと読み解けないものも多いのでね、ボクはハナっから怪異は実在するというスタンスでこの調査を行っているんですよ」

「そうなんですか」

「ところがコイツは……どうせ今回も鬼なんてハナっから否定してるんでしょ? 目の前にある怪異を精神学だの物理学の枠に当てはめようとして、トンチンカンなことにしてしまっているに決まっている」

 この言葉にカチンと来たか、大樹は低い声をだした。

「おい、俺にケンカ売ってる?」

「いや、ケンカにもならないだろ。昔から僕に勝てたことなんか一度もないじゃないか、君は」

「今回は勝つ。正々堂々と正面から論破してやるよ」

「それは楽しみだ。ならばまず、キミと同じ土俵に立てるように、ボクにも『事実』を教えてくれ。キミの見解を一切ふくまない、混じりっけなしの事実をね」

「わかった」

 ため息を吐きながらソファに深く座りなおす大樹をみて、淳子はこの男の人あつかいのうまさに感心した。大樹のように直情的な人間に思考をさせるには、その反抗心をうまく煽って思考を一度クリアにするのが確かに効果的だ。

 現に大樹はすっかり落ち着いた様子で、自ら会話の糸口となる言葉を投げた。

「で、何が聞きたいんだ?」

「まずはキミが作ったという反魂ごっこのルール。もちろん、鬼がどうとか死人がどうとかいう話は抜きにして、単なるルールが聞きたい」

「まず必要になるのは術式を行う『鬼』だ。これを決めるための儀式として『鬼呼び歌』がある」

「なるほどねえ、やっぱり、普通のカゴメ遊びのように『後ろの正面』になった子を鬼にするのかい?」

「俺たちのころはそうだったんだが、いまは違うらしい。これは見解ではなく、観察の結果なのだが、ほかの子供たちと違って、とある子供たちだけは、同じ子を毎回オニとして中央に置いている。後ろの正面になった子供はそのオニに首からさげたほおずきを奪われ、二順目もオニを替えずに回りはじめるんだ」

「キミが前に言っていた『代え魂』だね」

「鬼になった子供は、月のない晩に川原に降りて骨になる石を拾わなくちゃならない。もちろん暗い中で小石を探すのは困難だから、昼のうちにほおずきで道しるべを作って、夜になったらそれをたどっていくんだ」

「なるほど、それが『カガチをたどり』か。カガチっていうのはほおずきの別名だからね」「その後は、『つるべの下に隠れた』と続くんだが、俺は子供だったんでこの意味が読み解けなかった。だから学校の校庭の隅にある古井戸の横で一晩を明かしてから家に帰ったんだが……あの子達はなにか違うやり方をしているかもしれないな」

「ああ、なるほど。『植草先生』か」

 二人がチラリと淳子を見やったのは、若い女性の前であまりにもショッキングな想像話などすることがはばかられたからである。しかし当の淳子は、まったく意味が分からないといった様子で首をかしげているだけだった。

 敷島が唐突に明るい声を出す。

「わかった、話題を変えよう! ボクがもうひとつ気になっているのは、キミの初恋の人と鬼頭ヤヨイの関係性だ」

 この言葉に淳子が「あ」と声をあげる。

「高坂先生、該当児童の名前を漏らしちゃったんですか!」

「あ、いや、ええと……電話で何度かやり取りしているうちに、ついポロっと」

「つい、じゃないでしょ!」

 敷島がこれを宥めに入る。

「まあまあ、お嬢さん、コイツの昔の女の名前を出されてジェラシーなのも分かるけどね」

「そんなんじゃありません!」

「じゃあなおのこと、ちょっと大人しくしててくれるかな。ボクの推論が正しければ、全てをつなぐ鍵はここにある」

 そう言われては仕方ない、淳子も深くソファに座りなおす。

 人心操作に長けたこの男に丸めこまれたのだと思うと癪で、テーブルの下で彼の脛を思い切り蹴り上げてやろうかとも思った。そんな気持ちを宥めるために特に深く座りなおしたのだ。

 敷島の方はそんなことさえ気にしない様子で、テーブルに身を乗り出すようにして大樹に顔を寄せる。


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