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「ふうん、大人はのんきでいいね」
鬼頭ヤヨイは今、一街区の14棟、十階建ての屋上にいる。むき出しのコンクリートが目にも冷たいここからは、駅前の繁華街に星のように儚く光が灯りはじめる様子がはっきりと見えるのだ。
空はすでに夕焼けというにはあまりにも暗い。西の空に追いやられた夕日の最後のひとかけらがわずかに茜色を滲ませてはいるが、東からは黒くて底知れぬほど深い闇が覆いかぶさるように広がって、この小輪谷団地を夜の底に沈めようとしているみたいだ。
ヤヨイはその闇を踏みしめるようなしっかりとした足取りでフェンスのそばまで歩み寄り、白い小石を高くに掲げた。
「ふふふふ、ユウちゃん、今夜も月が綺麗だね」
まるで自分の掌の中に友人がいるかのように、優しいまなざしを高く上げて。
「なあに、またおなかすいちゃったの? ユウちゃんは食いしん坊だね」
闇の中に広げられた小さな掌は白くて、どこか花を思わせた。だとすれば、底に乗った丸い石はさしずめ花弁に軽く足をかけた夜露であろうか。
ヤヨイがすうっと呼吸を吐くような静けさで囁いた。
「ユウちゃん……ずっと、ずっと一緒にいようね」
緑川ユウカがこの屋上からなぜ飛び降りたのか、誰もその理由を知らないのである。




