13話 ガーゴイル
今回頑張った
「すごいぞ…このスキル白狼炎だ。」
「グレイウルフの中でも一部の上位種しか持ってないってやつじゃないか。」
「おい!こっち見てみろよ疾走だぞ!俺こんなの使える日が来るなんて夢にも思わなかったぜ!」
村の戦士たちが魔石を手に取り、思い思いの声を上げている。
ランクD相当の彼らにはランクC+のグレイウルフが落とす魔石はかなりの価値のものなのだろう。
「ホントにすごいですね。そこまでレベルが上がるまで魔物を狩まくっていたのならこの魔石の数もうなずけますが。」
アリアがありがた半分あきれ半分といった調子で俺に話しかけてくる。
今回俺が洞窟から持ってきたのは疾走の魔石30個と白狼炎の魔石が100個といったところである。
まだ洞窟には大量の魔石が残っているが、今回は持てるだけ持ってきたという感じである。
それに、魔石がそこまで価値のあるものだとは知らなかったので、換金用として取っといている分もある。
もしかしたら、「噛みつく」とか「胃酸逆流」とかのスキルも売れるかもしれないのだ。
何の魔石が役に立つかわからない。
「疾走」や「白狼炎」もある程度はストックとして洞窟に保管してある。
まあ今回持ってきた分で戦力的には足りるだろう。
もともと俺一人で何とかならないこともないが、やはり自分の村は自分の力で守ったという意識が大切だ。
それに、炎力はいくらあっても問題はない。
「アンタがこいつを持ってきてくれたのか。礼を言うぜ、俺の名はシエン。戦士団のリーダーをやっている。アンタその若さでそのステータスとはな、アリア様に聞いた時は信じられなかったが、自分の目で見たならもう疑うことはできんな。よろしく頼む。」
厳つい顔の見たところ30代ほどの赤い鎧を着た男が挨拶をしてきた。
ステータスを見るとレベルが70(C+相当)だった。リーダーというのは名ばかりではないようだ。
「ああ、俺は今ちょっとばかし記憶喪失で名前が思い出せないから名乗ることができないが、精一杯協力させてもらう。こちらこそよろしく頼む。」
俺が挨拶を返すと、シエンが魔石に夢中になっている戦士たちを振り返り、
「おい!お前らも挨拶しろ!」
怒鳴りつけた。
戦士たちは、びくっと肩をふるわせた後
「「「「「「よろしくお願いします!!!」」」」」」
一斉に挨拶をしてきた。
その後は、シエンや、アリアと作戦立案をしている間に日は暮れていったのだった。
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夜十時ごろ、ついに奴らが現れたと情報が入った。
高台から望んでみたところ確かに100体ほどのガーゴイルがこちらへ向かってくる。
まずは小手調べとして数を減らさせてもらおう。
「炎狼隊!敵ガーゴイルを確認した!白狼炎を使え!!」
俺が前線に立っている30人ほどの戦士たちにそう叫ぶと、戦士たちはスキルを使い始める。
いたるところで爆炎が上がり、白く輝くオオカミが生み出されていく。
今回、戦士たちには魔石によって疑似的に獲得した「白狼炎」に魔力のほとんどすべてを使用させるように指示してある。
一部の者がスキルによって魔力を消費した攻撃を行うらしいが、基本剣で切りまくるのが生業の者たちにとって魔力は無用の長物である。
Dランク相当の彼らでも魔力のほとんどを使用すれば、炎狼を最低でも十五分程度は維持することができる。
三十匹近い炎狼がガーゴイルたちに飛び掛かっていく。
ガーゴイルたちが強化されているとはいえ、一匹につき一体程度なら倒すことができるだろう。
さらに攻撃はそれだけではない。
「魔法隊!魔石は使いつぶして構わない!一人一発デカいのをお見舞いしろおっ!!」
俺が指示を出すと、後方ですでに詠唱を終えていた魔法使いたちが敵の空中に巨大な魔方陣を大量に出現させ、その中から現れた直径10メートルほどもある巨大な隕石にも見える火焔球が大量に出現し、ガーゴイルたちを焼き払う。
「「「「「「グォオオオオオオオオオオオッッッ」」」」」
ガーゴイルたちの断末魔が響き渡る。
今の大量の火焔球で四分の一ほどは蹴散らしたようだ。
倒れなかった奴らもかなりの傷を負っている。
本来これほどの大魔法は魔法使いたちだけの自力で使うことはできない。
しかしアリアに聞いたのだが、魔石は使いつぶすことで強大な魔法が使えるのだそうだ。
本来、高価な属性付きの魔石しかできないため、そんなことをする人はまずいないとのことだったが、あいにく俺には魔石が有り余っている。
白狼炎は火属性を持っているため、火属性の攻撃が可能なんだそうだ。
ちなみに、属性のない魔石、例えば「噛みつく」とかでは強力な魔法は使えないらしい。
閑話休題
勿論魔法の影響を受けていない炎狼たちは、次々と手負いのガーゴイルを仕留めている。
「魔法使いは詠唱の準備を!戦士たちは前に出て俺の倒し損ねたやつらの相手をしてほしい!!」
俺はスキルを打ち終わった戦士と魔法使いたちにそう指示をすると、
「これからの指揮は頼む。」
俺はシエンに戦士団、アリアに魔法使いたちの指揮を任せ
、ガーゴイルたちの群れに突っ込んでいった。
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メタルガーゴイルは混乱していた。
基本的に魔物の思考能力は低く、基本的に思考に浸れるような構造をしていない。
だが、この魔物は群れの長となり、メタルガーゴイルへとイレギュラーな進化をしたために、この魔物には思考能力が備わっていた。
メタルガーゴイルは思考する。
なぜだ?「あの方」からの情報では、この村は死にかけではなかったのか?
なぜだ?なぜ本来グレイウルフたちの持っているスキルが襲ってくる?
なぜだ?なぜあんな小さな村の魔法使いがここまでの極大魔法を使用できる?
メタルガーゴイルは天を見上げる。
そこには幾重にも重なった紫色の美しい巨大な魔方陣とそこから放たれている巨大な火焔の球により、夜であるはずの今の空は、思わず目を細めてしまうほどに眩しい。
火焔の球が落ちたその土煙から出てきた炎狼が近くにいるガーゴイルに食らいつく。
一通りもみ合った後、炎狼は消滅し、ガーゴイルは炭となりその体を魔石へと変える。
もうすでに、こちらの被害は半分を超えている。
なぜだ?なぜだ?なぜだ?なぜだ?
なぜこんなことになった?
メタルガーゴイルは思考する。
いや・・・・・そんなことよりも、「あの人間」はいったい何だ?
彼の数十メートル先では、一人の男が配下のガーゴイルたちを何でもないかのように次々と素手で両断している。
ありえない、そんなことがあってたまるか。
彼らは曲がりなりにもCランク、さらに私が強化しているのだ。
表皮が高質化したその防御力だけならばBランクにも匹敵する。
それを、素手で。
メタルガーゴイルは恐怖を感じていた。
彼の者の放つその威圧感が、メタルガーゴイルを震え上がらせる。
男はあっという間に目の前まで迫ってきた。
男は私の体を両断せんと手を振り下ろしてくる。
メタルガーゴイルは本能で理解する。
このままでは、殺されてしまう。
死の恐怖を目前にし、彼は思考する。
いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だまだ死にたくない!!
そう願っていると、突如絶望しかなかった天空から、私めがけて紫白の閃光が落ちてきた。
その光はとても暖かくて、心地よくて、力がみなぎってくる。私はその光にすべてを委ねたのだった。
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「くそっ」
俺は悪態をつく。
先ほどまで追い詰めていた奴らのボスであるメタルガーゴイルに紫色の閃光が走ったかと思ったら、突然強くなりやがった。
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種族:「メタルガーゴイル」
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力A スキルB
スキル:「物質硬化Lv8」「威圧Lv7」「武器精製Lv2」
称号:「群れの長」「魔将の眷属」
ランクA-
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さっきとは明らかに雰囲気が違うと思ったが、まさかランクまで上がっているとは。
しかもこのランクは今の俺と同じじゃないか。
俺はメタルガーゴイルの攻撃をかわしながらステータスを見る。
すると、奴の手のひらに魔力が集まり始め、メタルガーゴイルが手のひらで何かを形作り始める。
巨大な斧剣だった。
さっき見た時にあった武器精製という奴だろう。
メタルガーゴイルがそれをこちらに振り下ろしてくる。
俺はとっさに右によけてかわす。
ズドォォオン
俺がよけたところに斧剣がたたきつけられ、粉塵とともに巨大なクレーターがのように地面が沈む。
すさまじい威力だ。
だがスピードは大したことはない。
俺は後方へとび、スキルを使う。
《火焔球》
巨大な火の玉が形作られ、メタルガーゴイルのほうへ飛んでいく。
パァン
しかしその攻撃はメタルガーゴイルの表皮を一部焦がしただけにとどまり、決定打にはならない。
さすがにAランクの防御力は堅いな。
奴が、巨大な斧剣を振り回しながら突進してくるのをまたもやかわしながら考える。
あの防御力を突破する方法は、ある。
俺が森の中で獲得したスキルの実験をしていた時に好奇心で見つけた技だ。
俺は残りの魔力のすべてをこのスキルにかける。
《白狼炎》!!
俺がほぼすべての魔力を使用した白狼炎の巨大な炎があたり一面を燃やし尽くす。
そして、大気中の酸素を大量に取り込んだ炎は徐々に縮小し始め、炎狼の形になって行こうとするのだが…
「ウォォぉぉおおおおおおおっ」
俺は残りの魔力のすべてをかけて、炎狼の形を成そうとする炎をさらに圧縮していく。
無理やり圧縮した炎は拳大の大きさとなり、黒くその色を変える。
俺は、その黒い球体を思いっきり突進してくるメタルガーゴイルへとぶつけた。
俺の力により、無理やりに圧縮された炎は、奴の体を、その高熱でたやすく貫通し大穴を開け、さらに俺の圧縮拘束を離れたその瞬間、
ドゴォォォオオオオオオオン
大爆発を起こした。
「ゴギャアアァァァァァァッ」
アイツの周りにいたガーゴイルたちは断末魔もあげれぬうちに灰となったが、さすがというべきかメタルガーゴイルは断末魔を上げながら地面を転がっている。
しかしやがて、その声も収まり、奴はその体を魔石へと変えたのであった。
ちなみに俺は球体を発射した直後、身体強化と疾走で逃走済みである。
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