11話 対話と懇願
風邪をまだ引きずっております。
でも頑張る!
目が覚めると、知らない場所に私は居た。
近くで火を焚いているのだろう、パチパチと音がする。
ムクリと起き上がり、何気なく上を向いてみると、焚火の炎に照らされた私の影がゆらゆらと揺れていた。
どうやらここは洞窟のようだ。
確か私は、フェンリルとグレイウルフの群れに襲われて・・・熊の毛皮を着た妙な男に助けられた。
「よう、起きたか。」
洞窟の奥のほうから男が現れる。どうやら私を助けてくれた男のようだ。
「あなたは?」
私は疑問を口にする。
「あー俺、記憶喪失で自分の名前の記憶がないんだわ。すまん」
男は少し悲しそうな顔をすると答えた。
「一か月前ここの近くで記憶喪失になってこの森で暮らしている。お前の名前を教えてもらってもいいか?」
男に名前を尋ねられ、少し警戒する。
下手に本当の名前を教えたりすると、元王家という立場上、かどわかされて交渉材料に使われたりすることもあるからだ。
しかし、この男には教えてもいいだろう、先ほどステータスをチェックしてみたが本当に記憶喪失のようだ。この男が私を何かに利用する理由がない。
それにこの男には命を助けてもらった。
ここで本当の名を名乗らずにいるのは失礼だろう。
「私は、アリアン・レパージ・エスメラルダという。アリアと呼んでくれ。」
男は、先ほど来ていたような熊の毛皮ではなく、金と黒を基調とした装束に青色のマントを羽織っており、どことなく高貴な雰囲気をまとっている。
こんな魔境で記憶喪失とはいったい何があったのだろうか。
「じゃあアリア、聞くがお前は何の目的でこの森にいるんだ?それとここら辺に人里、というか人間の住んでいるような集落はあるのか?」
その問いを聞いて、なぜ自分がこんなところにいるのかを思い出す。
「・・ッつ!おい私はいったい何時間寝ていた?!今はいったい何時だ?」
急に怒鳴ったせいで少し驚いたような顔をしながら男が答える。
「え?時間は正確にはわからないが、2時間ぐらい寝ていたと思うぞ?」
その答えを聞いて胸をなでおろす。
大丈夫だ、おそらくまだガーゴイルの軍勢は村へは到達していないだろう。
時間はないが今からならばまだ間に合う。
「この先に私の村がある。あと数刻もすれば村がガーゴイルに襲われるのだ。先ほどの腕とそのステータスを見こんで頼みたい。私の村を救ってはくれないだろうか?」
自分で言っていてなんて身勝手なんだろうと思う。
助けてもらった恩人に十分な礼もせず、あまつさえ自分の村まで救ってくれなどと。
しかし、先ほど見たこの男のステータスは尋常ではなかった。
勇者には一歩及ばないにしても、ガーゴイルの軍団を倒すことができるかもしれない。
しかし、下手をすると、この頼みは助けてくれた相手に対して死んでくれと言っているようなものだ。
失礼極まりない。私が断られても仕方がないと心の中で思っていると、
「そのガーゴイルって何体くらいなんだ?」
「目測でおそらく百体と、群れの長であるメタルガーゴイルが一体だ。」
「なんだそんなもんか。いいよ。引き受ける」
「へっ?」
あまりにも軽い物言いと、予想外の了承に変な声が出てしまった。
「引き受けるから、その村に案内してもらえるか?」
何やらとてもうれしそうに男が立ち上がる。
「まさかそのままの恰好で行くのか?武器は?」
「そんなものないぞ?基本素手。ああでもそういえばさっき手に入れてこいつがあったな。」
男が、取り出したもの。
フェンリルの魔石だった。
神々しい光を放っており、鑑定したところ「稲妻」のスキルが入っているようだ。
男は魔石をちらりと見ると、
シュウウ・・
魔石を吸収し始めた。
そのあまりにも非常識な光景に私はしばし呆然としてしまう。
しかしすぐに我に返り叫んだ。
「おい!何をやっているんだ!そんなことをすれば、魔石に体が侵食されて魔物になってしまうぞ!」
そう、確かに魔石をそのまま吸収すれば、スキルを手に入れることができるが、そんなことをすれば、魔石の中にたまっている魔物の瘴気のせいで、数日のうちに体が侵食され、やがてはその魔石を落とした魔物になってしまうのだ。
そのため、魔石の使い方としては武器に埋め込んでその魔石に入っているスキルの恩恵を得たりといった使用の仕方が一般的である。
間違ってもそのまま吸収して使用しようなどと思うものは居ない。
私が止めようとしたときには、魔石の吸収は終わっていた。
「そうなのか?でも俺ここでこいつを何十個も吸収してるけどそんなこと起こってないぞ?」
「へっ?」
あまりの言葉に再び、間抜けな声が出てしまった。
「あ、ありえない。そんなことがあり得るのか?」
確かに男からは魔石を吸収したものが放ち始める瘴気も感じないし、魔石による浸食も起こっていない。
こんなことは本来あり得ない。
しかし、当人の顔を見るに彼もわかっていないので、そのことについては記憶の隅に追いやる。
今は何より時間が惜しい、早く村に戻らなければならない。
そう考えた私は、男を連れて村へ戻ったのであった。
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