③
「琴音!琴音!琴音ーーーー!!」
「うるさい。」
竜也が人の名前を連呼して近づいてきた。
犬猫じゃないんだからそんなに呼ばなくても分かる。
「あ、ご、ごめん。あのさ聞きたいことがあって……。」
「何?お兄ちゃん。」
「うっ、だからお兄ちゃんは……いや、まあ今はいいや。それよりこの間の話だけど本当にお見合いするの?琴音は基本面倒くさいの嫌いだからしないよね?ね!」
「……もうしたよ。」
「は、はあーーーー?う、嘘だろう?な、何で!」
「何でって……約束してたし。だいたいこの間するって言ってたじゃない。」
「そ、それはそうだけど。うっ、ううっ、俺がいるのに……。」
また泣き出した。
だ〜か〜ら〜、そのレッド顔で泣くな!
私はいつもの習慣で乱暴に涙を拭いてやった。
「う、い、痛いけど琴音に拭いてもらえるのは嬉しい。」
……ふう、いつもながら前向きだ。
ただ少しは落ち着いてほしい。
外ではこれでもかと言うぐらい猫被っているのに家ではこのザマだ。
気を抜き過ぎじゃないか?
「ねえ、お兄ちゃん。そんな感じで会社では大丈夫なの?」
「え、琴音心配してくれるの?うわー、嬉しいな〜。でも、会社では大丈夫だよ。これでも信頼されているんだから。……そうだ!本当は琴音を見せたくなかったけど、今度の日曜日うちの会社でバーベキュー大会するんだけど琴音も来てよ。そうしたら会社での俺の感じも分かるでしょ。」
……おい。
私のことを会社の人に見せたくないってなんだ?
ええ、そりゃ私の顔は普通ですよ。
ムカつく。
「面倒くさいから行かない。」
「何で!だって見合いはしたのに何でバーベキュー大会は駄目なの?楽しいよ!美味しいよ!」
竜也が何やら必死になっている。
もう、うるさいよ。
「……思い出した。今度の日曜日うちの会社も珍しく休みでバーベキュー大会するって言ってた。うん、だから無理だね。」
私の言葉にガクッと膝をついて落ち込んでいる。
いちいち行動が面白いな。
レッドからブルーが似合う男になっちゃうよ。
でも、顔面は変わらずレッドだからズルいよね〜。
「じゃあさ、どこでバーベキューするの?」
「うん?えーっと確か森林公園だったような……。」
私の言葉に竜也の目がキラキラしだした。
「琴音!これは運命だよ!俺達も森林公園でバーベキュー大会するんだ!きっと現地で会えるよ。俺、琴音の会社の皆さんにきちんと挨拶しなきゃだね。大丈夫!俺頑張るから。」
「……挨拶すんな。てか、他人のフリしろ。」
「何で!俺琴音の家族だよ!琴音がお世話になっている人達に挨拶したいよ。」
「じゃあ、きちんとお兄ちゃんとして紹介してあげる。それでいいでしょう?」
「うっ、それは……。出来れば将来を共にする相手としてがいいな〜。」
アホか。
そんなの信じられるわけないだろう。
こんなカッコいいレッドが私の相手なわけあるかい!
なんだかんだ揉めたが一応お互いに干渉しない方向で話しはまとまった。
兄としてしか紹介しないと言ったら諦めたのだ。
ーー日曜日
「琴音さん!久しぶりですね。」
「あれ?彰人さん?うん、お久しぶりです。」
我が社のバーベキュー大会には柴田さんの息子の彰人さんも参加していた。
確かにみんな家庭がある人は家族を連れて来ている。
いつもは仏頂面の部長も家族の前ではデレデレ……いや、ニコニコしている。
やっぱり会社と家では違うのね。
「琴音ちゃん、何難しい顔して考えているの?ほら、この野菜切ってちょうだい。」
ぼーっとしてたら柴田さんに話しかけられた。
「あ、すいません!ほいほいっと、切って切って切りまくりますよ〜〜。」
そう言って私は近くの野菜を連続切りし始めた。
「あら、意外と上手ね琴音ちゃん。これなら今すぐお嫁に行けるわね〜。ススっとうちに来ちゃって良いわよ〜〜。」
柴田さんがいつものノリでお嫁に誘ってくれている。
いやいや、グリーンのところにもお嫁になんて行けないですよ。
私はもっと普通のところへ行きますから。
「琴音さん、僕も手伝いますよ。さあ、どんどんおっしゃって下さい。」
グリーン……じゃなくて彰人さんが手伝いをしてくれると言ってくれているが、さてなんかあったかな?
私が迷っていると会社の綺麗どころが今の会話を聞いていたらしく近づいてきた。
「あの〜、柴田さんの息子さんですよね?こっちも手伝ってもらって良いですか?ちょっと男手がいるもので。草薙さん、柴田さんの息子さんお借りしますね?」
おやおやグリーンをロックオンしましたか。
それはお目が高い。
元からこちらには拒否権などない。
しかしグリーンにも人権はある。
「私は良いですけど、聞くなら私ではなく柴田さんに聞いてくださいね。」
私の言葉にグリーンがちょっと落ち込んでいる。
あれ?綺麗なお姉さんは嫌でしたか?
もしかしてうちのレッドと同じく人見知りするとか……。
ちなみに柴田さんに聞いてくださいの柴田さんはお母様の方である。
「うん?彰人を?あら、でもあなた達の方には近藤さんと今田さんがいるでしょう?こっちは男手が彰人だけだからごめんなさいね〜。」
ふむ、確かに。
綺麗どころのチームには近藤さんと今田さんという二大マッチョがいる。
しかもお二人とも独身ですぞ。
柴田さんの的確な指摘に綺麗どころは不機嫌そうに陣地に引き返していった。
おお〜、さすが柴田さんだ。
笑顔であしらうあの秘術、私もマスターしたいものですな。