迅雷の操作
■迅雷の操作
続けて、人の持つ衝動の一つである自己拡散の衝動(向上心)、すなわち『雷』属性の基本について本章で学びましょう。
最終的には宙から強大な雷光を喚び出すことが雷属性習得の目標となりますが、まずは、空に走る稲妻を操作することが最初のステップになります。
嵐の日を待ちましょう。その日が来たら、きちんと防水防寒の準備をして、空の見えるところに立ってください。
稲妻が見えたら、魔力でそれを操作します。まずは、物体の移動と同じやり方で稲妻を自分から遠ざかるように走らせてみましょう。稲妻が一瞬の出来事なのでこれまでよりも格段に難しい操作になりますが、ここが第一歩ですから、根気よくやってみてください。
これができたら、雷属性魔力による雷光の操作に挑戦してみましょう。
このためには、魔力にあなたの自己拡散衝動を乗せる必要があります。魔力を呼び出すイメージに、自身の成功や名誉のイメージを重ね合わせましょう。もし上手くイメージができないのであれば、本で成功者の体験を読むなどしてのイメージを学ぶといいかもしれません。
そうやって生み出した魔力を天空に放出し稲妻を待つと、稲妻が引き寄せられるか避けるようになるはずです。本来ニュートラルな自己拡散衝動というものがあり、それに対してより強いイメージを作れた人は引き寄せ、控えめなイメージを持った人は遠ざかっていきます。イメージがニュートラルからどのくらいずれているか、稲妻の形を見ながら何度も確かめてみましょう。最終的に魔力を当てることで稲妻がまっすぐ飛ぶようになるイメージが作れたら、それがニュートラルの自己拡散イメージです。そのイメージを忘れないように心に刻みましょう。
ここまですべてができたら、迅雷の操作は完了です。
それでは学習メモにお進みください。
●学習メモ(雷属性の理解、雷鳴の記憶)
自己拡散、と聞くと、前の章でやった水の操作を思い出すけれど、違うのかな。自分が世界に広がっていくイメージに似ているような気がするけれど。
そんなことを考えながら雷雨の日を待ち続けて、二月もたってしまった。
雷を伴う嵐なんて、そうそう頻繁にあるものじゃない。この本がベストセラーなのに学校の教本に取り上げられないのは、この辺に問題があるのかも知れない、なんて僕はひっそりとほくそ笑んだ。
嵐が吹き荒れ雷鳴がひっきりなしに聞こえていることを確かめた僕は、レインコートをしっかりと羽織って出かけた。けれど、余りの風の強さに一度は引き返した。
くじけそうになった。でも、こんな嵐の日が次にいつあるかなんて分からないし。
彼女の病気は、良くも悪くもなっていないんだけど、もっと急がなくちゃと心が焦ることもあったし。
親友は、この二月の間に、本当に仕官を決めてしまって、在学のまま、前線の小隊長補佐を務め始めてるのだという。彼が彼女を頻繁に見舞わなくなったのはちょっとほっとするけれど、きっと次に帰ってくるときは大きな手柄を持ち帰ってて、それを見た彼の両親も、そろそろいい相手を用意しなきゃなあ、なんて言って、家柄も同格で仲のいい彼女を……。
とにかく、僕は急がなくちゃならない。だから、この嵐を逃しちゃならないんだ。
吹きすさぶ風に負けまいとがんばるけれど、僕の力なんて自然の猛威の前には全く無力で、仕方なく、這い蹲りながら、近くの丘に登った。
叩きつける雨音に雷公の咆哮が混じる中、僕は、空をにらむ。
雨粒が僕の目を叩き、そのたびに顔をそらして目元をぬぐった。
僕の思い描くべき名誉。それはどんなものだろう。
彼女を救いたい、という小さな願いでは到底足りないだろう。
彼女を僕のものにしたい。そのためには、彼女の家柄に見合った手柄だの勲章だの、あるいは爵位だのを手に入れなくちゃならない。
本当だろうか?
稲妻のひらめきは、同時に僕の脳内に疑問のひらめきをもたらす。
ごろごろごろ、という轟きとともに、僕の心の中にも違う回答が去来する。
たとえば、僕が魔法の力で圧倒的な力を得て、この領内を支配するほどになれば、あるいはこの国内を支配するほどになれば、彼女の家を僕の命に従わせるなんてたやすいではないか。
あるいは、この世界を手中に?
余りに馬鹿げた考えに、笑みが漏れる。わずかに開いた口元から、雨水がどっと流れ込んでくる。
と同時に、再び雷光があった。
それは、僕の右手から走って――僕の真上に来ると、僕に向けて落ちてきた。いや、一瞬のことだから本当にそうだったか、自信がない。でも、そのときは確かにそうだと思った。
直後、稲光は渦を巻き、八方に散っていった。
自己拡散欲求が強すぎたのか。
それにしては、その後僕から遠ざかって散っていったのだから、教本の通りだとすれば、抑制しすぎたということも有りうる。
いや、ありえないな。
こんな大それた考えが、謙虚に過ぎる、なんて。笑うしかない。
そんなことを思いながら、僕の支配の及ぶ範囲をいろいろと試し、時には魔界にまで支配の手を伸ばしながら、雷の行方を観察し続けた。それは相変わらず落ちかかってきたり散って行ったり渦を巻いたり何十もの枝に分かれたかと思うと一本に収束したり。ちっとも安定しなかった。
これ以上は、無理だ。ギブアップ。これを書いた後、次のページが開かなかったら、あきらめよう。
あれから二日間、ひどい熱を出して寝込んだことは、余談になる。これを書いているのは、実はその練習から一週間後だ。