火炎の暴嵐
■火炎の暴嵐
前章までで物理魔法と各属性魔法を攻撃・防御に転用できるレベルまで成長してきました。ここからの章では、それぞれの属性の最上位魔法を呼び起こす訓練をします。
火炎を呼び起こしても、同レベルの火炎の魔法で簡単に防がれてしまうことはもう述べました。また、緩衝、反射の魔法であればレベルに関係なく火炎魔法を防ぐことも確かめましたね。
最高位の火炎魔法は、緩衝の力場、反射の力場、いずれも突破できる最強の火属性の魔法となります。
火属性の魔法の根底にあるのは、破壊衝動だと述べました。これまでは、その破壊衝動を際限なく高めていくための訓練をしてきましたが、最強の魔法は、その衝動の質を変えなければなりません。
前の章で学んだことを思い出してください。緩衝と反射は、密告と他罰のイメージだと述べましたが、その対象は、世界を裏から支配している精霊であると説明しました。結局のところ、この精霊たちをどうにかしなければ、魔法の理の真髄は得られません。
つまり、それらを破壊しなければなりません。
世界を影から統べる彼らを破壊するのです。
当然ながら、世界そのものと同一である彼らを破壊できるにしても一時的なことです。すぐに世界はその綻びを癒してしまうでしょう。それでも、あなたは莫大な魔力をつぎ込み続け、世界のほころびのその隙間から火炎を呼び起こし、精霊もろとも周囲のすべてを焼き尽くすのです。
魔力の強さは、あなたがイメージする魔界のあなた(の分身)の濃さです。残念なことに、この魔界の分身の濃さは、ある程度生まれつきで限界が決まっています。努力に努力を重ねてこのページまでたどり着いた方でも、この章で挫折してしまうかもしれません。しかし、恥ずべきことではありません。この章をクリアできないことは、当たり前のことなのです。ここをクリアできる人でなければ、この後に続く水・雷・土の最高位魔法を会得できないばかりか、さらにその先の生命を操る魔法では自らの命を捧げて奇跡を呼ばなければならない羽目になってしまいます。神(=精霊)に魂のすべてを捧げる誓いをたてた神官・僧侶でないあなたが莫大な魔力を寿命と引き換えに引き出すことは出来ませんし、無理に行えば、たちどころに命を落とします。あなたの命を守るための一番大切なステップとしてこの章をこの位置に配してあるのですから、これ以上進めないことに、どうか気を落とさないでください。
それでは学習メモにお進みください。
●学習メモ
このページは難なく開いてしまった。
開くと分かりきっていた。
だから驚きはなかった。
あの時、反射の力場で何者が世界からの反撃を受けたのか、僕は確認しようとも思わなかった。欲望と力を統べる精霊に逆らうことが、彼らの誤りなのだ。誤りを罰せられるべきものが罰せられただけで、それは、城の裏庭で日々行われている罪人の処刑となんら変わるものではない。おとなしく平穏に暮らしているだけの一般市民が、処刑される罪人のことを日々心にかける理由があるだろうか?
独り言はもういい。早速学習に進もう。
この魔法は、破壊衝動の極致、破壊衝動を律する精霊さえをも破壊の対象とするのだと言う。
なんだか予想していたとおりで、少し拍子抜けした。
結局のところ、僕は何者でもなく、ただ個人が振るえる力をこうして高めているだけだ。もし、本当に魔法を極めつくすのであれば、いつかは『個人が振るえる力』の枷を引きちぎらなければならない。精霊への密告という段階を経たところで、僕はそのことにおのずから気付いた。その力を得るときがいつなのか、時間だけの問題だった。
思ったより早かった、という気はする。このページをめくっただけでもう僕はそこにいるのか、という驚きはある。けれど、それだけだ。僕はいつかここにたどり着くはずで、そして、誰もがそれを破れずにあきらめてきたのと同じ壁に突き当たるだけだ。そう、もう十分なのだ。何者でもない僕にとって、ここは終着点だ。
けれど、僕にはもう一つ、妙な確信がある。
『僕はありとあらゆるものを破壊できる』
精霊も例外じゃない。
破壊できる。破壊したい。
あいつの屋敷の前に立ち、特大の火炎弾を叩き込み、何もかもが灰も残さず燃え尽き、巨大なきのこ雲となって空へ消えて行く様が、まざまざと想像できる。
彼女の屋敷に押し込んで、使用人も両親兄弟も殺しつくし、彼女の衣服を残らず剥ぎ取って蹂躙の限りを尽くし、その内臓を食らい尽くす様が、吐き気も伴わずに脳裏に描ける。
僕の、僕にとっての狭い狭い世界は、それで終わりだ。そうだ、忘れていた、ついでに、僕の冴えない両親と役立たずの使用人たちも、狭い世界の一員としておいてやろう。たったそれだけの世界を破壊しつくすのに、一晩とかからない。
さあ、僕は世界を焼き尽くすぞ。出て来い、破壊の精霊よ。
お前も焼き尽くしてやる。
そう思った刹那、僕の背筋に何かがストンと落ちてきた感覚があった。
そして、確信する。それに僕の魔力を流し込めば、世界を焼き尽くす炎が生まれることを。
僕はそれに魔力を流し込んだ。同時に視界が白一色になる。赤を、橙を、黄を、青を、はるかに超えた灼熱の白色。
……参ったな。終わってみたら、見渡す限りの地面が真っ赤に煮え立っている。いくら郊外の川原だったとはいえ、これじゃあ明日は大騒動だ。