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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編闇鍋

もぐもぐさん

作者: トカゲ

夏のホラー前の準備運動のつもり

 最近、僕達の周りで流行っている怪談がある。

 それはもぐもぐさんという怪談だ。

 もぐもぐさんは赤ん坊くらいの大きさの卵に人の口が付いた妖怪で、いつの間にか傍に転がっているらしい。

 神出鬼没のもぐもぐさんを狙って見つけるのは難しいみたいだ。


 もし、もぐもぐさんを見つける事ができたら「もぐもぐさん、私を食べてください」と言いながら右手を前に出す。そうするともぐもぐさんがその人の悪い所を食べてくれるらしい。

 それはその人のコンプレックスだったり持病の病気だったり、もぐもぐさんはそういう所を消してくれる良い妖怪なんだそうだ。


 殆どの人達はこんなの信じてないと思う。

 だけど、もぐもぐさんに会ったおかげでニキビやソバカスが無くなった人や、ひどかった喘息が無くなったと言う人がいるから他の怪談や噂話よりは本当の話として僕達に受け入れられていた。


 「太郎君はまだもぐもぐさんに会った事ないんだよね?」


 隣の席の園原さんがいつの間にか僕の前に立って話しかけてきていた。

 園原さんは最近までソバカスに悩んでいたけれど、それをもぐもぐさんに食べてもらったらしい。

 そのおかげか性格も明るくなって彼女のクラスでの人気は急上昇、今ではみんなのアイドルみたいになっている。


 「うん。でも僕は体に悪い所もないし別に会わなくても良いかな」

 「そうなの? でも、もぐもぐさんは自分では気付けないような悪い箇所も食べてくれるみたいだし、私は会った方が良いと思うけどなー」


 園原さんはそう言いながら僕の顔を覗き込むようにしゃがむ。

 フワリと甘い香りがしてドキドキする。僕は自分の顔が赤くなるのが分った。


 「へ、へぇ。じゃあ、もぐもぐさんを見つけたら僕も食べて貰おうかな」

 「それがいいよ! そうだ、今日みんなでもぐもぐさんを探すんだけど、良かったら一緒に探しに行かない?」


 園原さんは今日の放課後にもぐもぐさんに会った事が無い人達を集めてもぐもぐさんを探しに行くらしい。


 「誘ってもらえて嬉しいけど、僕今日は塾があるんだ」

 「そうなんだ、残念」


 園原さんはしばらく残念そうに俯いていたけど、ニッコリと笑って「じゃあまた今度誘うね」とだけ言って、今日の放課後に一緒にもぐもぐさんを探すだろうグループの方に走って行ってしまった。多分だけど今から作戦会議みたいな事をするんだろう。

 それはとても楽しそうで、僕も塾がなかったらあの中に入れたのかなと思うと少し寂しくなった。


・・・


 塾が終わったのは夜の7時だった。

 辺りはもう暗くなっていて、所々にある街灯の灯りと家の灯りだけが道を照らしている。

 この辺りは夜になると人通りも少なくて本当に静かになる。僕は何となく怖くなってきて足早にバス停に向かった。


 グチャ、グチャ………


 そんな時、近くから変な音が聞こえてきた。

 公園の方から聞こえてきているその音は、野生動物が生肉をそのまま食べている時みたいな感じの音だ。僕はその音が何なのか気になってコッソリと音の正体を確かめてみる事にした。

 音がする方に行ってみると、そこには大きな卵があった。

 大きな卵がユラユラと揺れると何処からかグチャグチャと音を聞こえてくる。

 その横には何故か笑顔の園原さんが立っていた。

 僕はそれがどうにも不気味に見えて、とっさにトイレの壁に隠れて様子をみる事にした。

 しばらくして卵がゴロンと大きくバランスを崩して転がった。


 「―――あっ!」


 その卵には口があった。大きな口だ。

 それを見た時、僕は卵の正体がもぐもぐさんだと分かった。

 最近みんなが噂しているもぐもぐさんそのままだったからだ。

 もぐもぐさんの大きな口からは人の腕の様な物が見えている。


 (人を食べてる?)


 その腕には見覚えがあった。正確には服に見覚えがあった。

 確か同じクラスの柳田君が今日着ていた服と同じだったと思う。

 しばらくしてその腕も全部食べられてしまった。


 怖くて、いつの間にか僕はへたりこんで蹲っていた。

 体の震えが止まらない。見つかったら僕も食べられちゃうんじゃないかと思うと怖くて仕方が無かった。


 そういえばもぐもぐさんの近くにいた園原さんは大丈夫なんだろうか?

 そう思って覗いてみると、園原さんはもぐもぐさんのすぐ傍で笑顔のまま立っている。

 僕はそんな園原さんの事がもぐもぐさんと同じくらい怖く見えた。


 園原さんともぐもぐさんがいるせいで公園から出られないまま蹲っていると、もぐもぐさんがカタカタと動きはじめた。

 もぐもぐさんの口が大きく開く。そこからドロドロの粘液に塗れたナニカが這い出てきた。それは時間が経つにつれて人の形に変化して行って、最期には柳田君になった。

 いや、よく見ると柳田君じゃない。柳田君の面影はあるけれど違う。

 柳田君は160㎝の身長に対して体重は75㎏というポッチャリ君だった。だけど今の柳田君はその余分な脂肪が一切ない引き締まった体をしている。

 あれは本当に柳田君なのか? もしかしたら、本当の柳田君はもぐもぐさんに食べられて消化されちゃったんじゃ………


 (もしかして、もぐもぐさんに食べられた人は本当は死んでいて、あれは別のナニカなんじゃ———)


 そんな事を考えていたら何時の間にか園原さんも柳田君も居なくなっていた。

 公園にはもぐもぐさんだけが転がっている。

 もぐもぐさんはこちらを見て笑っているように見えた。


・・・


 翌日、僕はみんなに昨日の事を話そうと考えた。

 だけどこんな事を信じてくれる人はいないだろう。


 「おはよっ、太郎君。今日も放課後にもぐもぐさんを探しに行くんだけど一緒に行かない?」

 「俺なんて昨日もぐもぐさんに脂肪を食べて貰ったんだぜ。おかげで体の調子も絶好調だ! 太郎も早くもぐもぐさんを見つけて食べて貰えよ」


 後ろから声をかけられる。

 園原さんと柳田君だ。昨日までは普通に接していられたけれど、今は彼らが怖くて仕方がない。


 彼らは本当に園原さんと柳田君なんだろうか?

 僕にはもう、何が何なのか分らなくなっていた。

 クラスのみんなは本当に僕の知っている人達なんだろうか。

 僕は何時まで僕のままでいられるんだろう?

 そんな風に考えると、怖くて仕方が無かった。


頑張って書くほど怖いっていうのが分らなくなります。

最初は怖い話だと思って書いてても、最期には全然怖いと思えなくなってくる。

書き直すと更に怖くなくなる。


このループが一番怖いと思う今日この頃

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が分かりやすいです。 [気になる点] 女の子が誘って来た瞬間にオチが分かった事です。 [一言] これが、もぐもぐさんですか、確かに裏野ハイツの設定とは絡めにくいかも知れませんね。 オ…
[一言] 話を終わらせるタイミングが早かったように思えます。例えば、何人かクラスメートが入れ替わっていく様とかが描写されていたら、もう少し恐怖が倍増するのでは無いかと思います。次は自分かもしれない、い…
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