光と闇
――諸君らは自分の使用している魔法がどの属性に属しているか知っているだろうか。
魔法は大きく分けて六つの属性に分けられる。それぞれ火・水・風・地・光・闇の六つに分けられる。(東洋には五行という考えがあってまた別の分け方が存在するが、ここでは読者の混乱を防ぐため六属性のみを取り扱うことにする)
六属性はそれぞれ特徴がある。火は主に高熱と炎を扱う属性であり、その高熱呪文は家庭の火をたくことから敵を灰まで焼きつくす超高熱なものまで多種多様である。水は極低温と文字通り水を扱う属性であり、火とは対照的に物を超低温で保存したり、敵を氷漬けにして足止めに使ったりと、こちらも応用が利くものである。
風は大気を操る属性であり、そして魔法を最初に学ぶ際に最も手が付けやすく、初心者向けの属性とも言えるであろう。(しかし風属性を極めることができれば、雷すら操ることが可能となるとても強力な属性でることを忘れてはいけない。基本であろうと極めれば強力なものへと昇華させることは可能なのである)地属性は地面に関する属性を取扱うと共に、最も応用が利く属性とも言える。例として木々を自由に成長させ自然でできた城壁や、高度なものでは人々を惑わす迷いの森を作りだすことすら可能である。
光はその名の通り浄化の属性であり、全てを照らし人々を正しい場所へと導くものであり、相反する闇の属性を持つ呪文に特に効果的ともいえる特別な呪文である。逆に闇は光以外の全ての属性を取り込み喰らうすさまじい属性であり、その暴虐な特性からある意味最も強力な属性と言えよう。
このうち取扱いに注意すべきはやはり闇の属性を持つ呪文であろう。闇の呪文はいずれも一撃必殺の威力を持つものばかりであり、禁呪と制定されているものが最も多いのも闇属性の呪文である。
――筆者個人の意見として、読者諸君が闇属性を学ぶことはおすすめしない。が、しかし光属性の呪文について、ほんの少しでもかじっておくことをすすめる。なぜなら闇は、いつ諸君に襲いかかるかは分からないのだから。(法石書房「基礎魔法属性学?」より内容を一部抜粋)
教室内にあるのは大量の魔導具、そしてぽつんと置かれた机の上には水晶玉があった。
「これか……」
触れた者の得意属性をその身に表す水晶玉は、昔から適性検査としてよく使われてきた。
触れたのちに水晶玉に魔力を込めると様々な反応をし、それによって自分の得意属性が分かるという代物だ。
たとえば炎が得意だとすれば水晶玉は熱を持ち始め、水であるなら水晶玉は凍りつく。地属性であるならば水晶玉から青々とした草木が生え、風属性なら水晶玉は浮かび上がる。光属性が得意であるのならば水晶玉は神々しく輝き、闇属性であるならば水晶玉は禍々しい黒色で濁り始める。
「キミたちはそれぞれ水晶玉を持ってもらい、魔力を込めてもらうよ」
「えぇー、こんなガラス玉で僕の属性が分かるんですかー?」
九鬼原は水晶玉をまじまじと見つめて毒づいたが、学長はそれを気にすることも無く話を続ける。
「まあ水晶玉が一番スタンダードな検査法だからね。適性も一発で判断できるし。さて、それはさておき、その水晶玉にはもう一つ検査ができる項目がある」
エドワードと九鬼原は首を傾げ、学長の話に耳を傾ける。
「それは特別に持っている人の魔力容量まで図ってくれるんだよ」
学長は両手に水晶玉を持ち、その内右手にある方を二人の目の前にまで差し出す。
「これが普通の水晶玉。普通の魔法容量の人にとって、素手で自分の魔力を引き出すというのは大変なことなんだ。だから普通の水晶玉は微量の魔力でも反応するよう調整してある。しかし魔力容量が大きい人がこうして魔力を込めると――」
水晶玉は宙へと浮かび上がり、そのまま震え始める。震えはだんだんと大きくなり、対に耐え切れなくなったのか空中で粉々に砕け散った。
「このように、膨大な魔力に耐え切れなくなり崩壊してしまう。キミたち二人は他の人に比べて特に魔力容量が大きいと予想される人だから、こうして特注のを用意してあるってこと」
学長の左手にある水晶玉は壊れる事無く宙へと浮かび上がり、自由に飛び回っている。
「キミたちの魔力容量にはボクも興味があってね。個人的に知りたくなったという訳さ」
「てことは俺達がここに来るのは予定調和だったってことか」
「そゆこと」
「えぇー! 僕やだなぁ、こんなすかした人と一緒だなんて」
「俺だってお前のような奴と一緒だなんて御免だ」
九鬼原に対するエドワードの評価は既に地に落ちていた。
このような負の塊と一緒にいるだけでこっちの精神がおかしくなりそうである。
「ちっ、さっさと終わらせるか」
エドワードは右手に持っている水晶玉を見つめ、静かに息を吐く。
――魔力を込めるコツは、何かを生み出すイメージを持つこと。
「――ふっ!」
エドワードが魔力をこめ始めると水晶玉に光がともされ始める。
「おお! やはりキミは光属性か!」
輝きはどんどん増してゆき、部屋一面を真っ白にする。
「眩しい!」
「うるせえな。目をつぶっとけ」
九鬼原は両手で前を覆ったが、それでも指の隙間を縫うようにして光が入ってくる。
「う、うあぁぁ!!」
九鬼原はその眩さに耐えられなくなったのか、エドワードの水晶に光を覆うようにして手を乗せ、魔力をこめ始める。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
眩い光は一変、ドス黒い闇が水晶内で渦巻く。
「ッ!? マジかよ……!」
「あは、これで眩しくなくなったね」
九鬼原は眩しさから解放されさぞご満悦といった様子だったが、学長とエドワードの表情は驚きの表情で固まったままである。
「まさか他人の光属性を塗り潰すなんて――」
「おいおい、光属性は闇に強いんじゃなかったのかよ……」
「んー、さっきのを見る限り僕はやっぱり闇属性かなー?」
常にマイペースかつ腹の底では何を考えているのか分からない少年を前にして、二人は警戒の念を強めていた。
「……」
あの九つの魔法家を脅かさせるのはこの男だと、エドワードは確信していた。まだ全力を出し切っていないとはいえ、光を塗り潰す闇など脅威以外の何ものでもないからだ。
学長は目の前の生徒が『闇の一派』に流れることを恐れた。あの闇のカルト教団ならばこのような逸材をみすみす見逃す訳が無い。
「……とりあえず、適性は見れたから良しとしよう」
エドワードも学長の言葉に同意し、これ以上の詮索をしないようにした。
「次はクラス編成だ。広間にある大きな本の所へ行ってごらん。そこでクラスが分かるから」
「へぇ。じゃあそこに行こうっと」
九鬼原が先に教室を出て、続けてエドワードも出ようとしたが学長にいきなり呼び止められてしまいその場に立ち止まった。
「何ですか?」
「キミに勧誘したのは私だということは知っているね?」
学長は真面目な口調でエドワードに話しかける。
「はぁ、知っていますけど」
「キミがこの学校に来るのには一つ依頼があってのことだ」
エドワードはまた魔法省のバイトの関連かと思って少し気を抜いて耳を傾けたが、学長はいたって真面目に話を続ける。
「それは他でもない九鬼原惣治郎のことについてだ」
「……なんとなく予想はできます」
エドワードは嫌な予感がしていた。学長が、三賢人が次にいう言葉が読心術無しでも手に取る様に分かる。
「あの少年を見張っていてほしい」
エドワードは強烈なめまいに襲われた。
「何で俺が……」




