黒煙と問題児
「――続きまして、月陽学院生徒会会長柳生清利による祝辞です」
「来たできたで、この学園トップの生徒会長様のお出ましや」
エドワードはその言葉を聞いて壇上に注目した。学校のトップとなる者であれば魔法の実力もかなりのものだろう。
皆が注目する中、壇上に光の柱が現れる。
「えぇ!?」
先崎が驚きの声を挙げていると、中から満面の笑みを浮かべた青年が現れる。
「あっ、この現れ方面白いですね。次から正式採用しましょう」
青年はマイクがオンのままなのに気がつかずに独り言を呟く。するとこの会長のことを知っている二階の面々から笑い声がぽつぽつ始める。
「えー、僕のミスはどうでもいいですけど、とりあえず祝辞いいです?」
のんきな声で柳生は言葉を続ける。
「えーはい、僕がこの学校の生徒会をさせていただいています、柳生清利といいます。皆さんのご入学を心よりお祝いいたしますと共に、この学校の一員となる誇りを持っていただきたいと思っています。皆さんの知っての通りこの学校は質実剛健、文武両道、あらゆるものの模範となっていただけるような人を育て上げる学校となっています。皆さんの努力と、努力によって培われた実力がこの先の魔法界を担っていける事を切に願っています。生徒代表及び『狡猾な猫』寮長及び生徒会会長、柳生清利」
柳生が話を終えると同時に大きな拍手が辺りから贈られる。そして女子生徒からはその物腰の柔らかさや爽やかさを見て黄色い声援があちこちと出てくる。
「へっ! あんな透かした男の何がええんやろな!? なあエド君?」
「……あぁ、そうだな」
自分でも結構すかしているとの自覚があるエドワードにとって、先崎の言葉は地味に突き刺さった。
「次は新入生代表九鬼原惣治郎さん、お願いします」
「さあ来たでー、首席の人物が」
エドワードは先ほど以上に集中して壇上を見つめた。しかし誰も壇上に上がる様子が無い。暫くしてようやく壇上の端の方からだらだらと登り歩く黒髪の少年が現れた。
「えぇー、あれがトップかいな。信じられへん」
見た目で決めつけるのはあまり得策ではないと思っていたが、エドワードもまた先崎と同じ考えを持っていた。
「あーぁ、何で僕がここに居るんだろうね」
少年もまたマイクのスイッチがいれっぱなしだという事に気がつかず、愚痴を垂れ流していた。
「何やあいつ。嫌味かいな」
先崎以外にも、彼のようなやる気のない輩が何故壇上にいるのか疑問でならなかった。
少年はポケットから大きな紙を取り出すと、その内容を読み上げ始める。
「えー何々、我々新入生一同はこの高校に入学するにあたって自ら学業を修めんとするためのたゆまぬ努力と学校の限りない繁栄を繋ぐ意思をここに誓いたいと思います。だって」
何とも台本読みというか、棒読みというか。一切の感情がこもっておらず、相手を侮辱しているかのようにも感じ取れる。
「あれアカンわ。替え玉受験かなんかか、裏口入学の類やないんか?」
「そ、そうだな」
お前のすぐ隣に裏口入学の奴がいるぞと、エドワードは思っていた。
すると――
「あぁーもう、面倒なんだよこんなの! こんなの僕にはできない、できる訳が無いんだぁ!!」
九鬼原はいきなり発狂したかのように紙を破り捨て、教壇を両手で叩いた。
するとドス黒い炎がその場に立ちあがり、教壇は完全に焼け落ちることとなる。
辺り一面に黒い灰が舞い、その場にいた人々は動揺する。
「アハッ、アハハハハハハッ! もういいやこんなの! 僕は好きにするからきみたちはきみたちで好きにしなよ、バイバーイ!」
九鬼原はその場に高笑いを残し、粉塵とともに消え去っていった。
辺りはその事態に静まり返り、しばらくすると一人の悲鳴が響き渡る。
「キャアアアアアア!!」
その声と同時に会堂はパニックとなった。エドワードの周りでもざわめきが広がり始め、先崎も困惑していた。
「何なんやあいつは!? 完璧にイカレとるやないけ! それに黒い炎とか見たことあらへんし、もしかしてあいつ禁呪使いおったんか!?」
「それは無いだろう」
あったとすれば左目が知らせてくれる。エドワードはそう知っているからだ。
「だが、面倒なことになってきたぞ」
エドワードがそう呟いた直後、壇上に再び学長の姿が現れる。
「諸君、騒いではいけない!」
厳粛な声が響き、その場が静まり返る。
「今のが彼なりの挨拶だったのだろう、彼は自分で恥ずかしいと言ってその場を立ち去ったのだ! 確かに彼にも非があるかもしれない。だがキミたちがきちんと話を聞いてあげなかったことにも責任があるのだ!」
「ほんまにそうかいな」
「諸君らにこれ以上彼をとぼそうとする輩がいるというのなら即刻立ち去りたまえ! この学校には要らない!」
学長の言葉を前に一同は絶句した。学長は静まり返った会堂内で、穏やかな声で言葉を続ける。
「柳生会長が言うように、この学校は魔法界の未来を担っていく若者を育成する学校だ。そして世のなかには彼のような問題児がいることは多々ある。だが諸君にはそんな人も見捨てる事無く救えるような人間にもなってほしいと私は思っている。私は……彼の今回の行動を不問とする。が、これからも問題行動尾を起こすのであれば、私も考えねばならなくなってくる。九鬼原君もこれをどこかで聞いていると思うが、それを頭に入れてこの学校生活を湯異議なものとしてくれ」




