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疑問と疑念

 魔法省にその身を置く市来は、他の一般の魔法師とは比べ者にならないほどの実力の持ち主である。


 それは彼女が若くして魔法省刑務部の長官にまで上り詰めたことが証明をしている。


 しかし――


「ほらほら! 早く魔法陣を展開しないとおいつかないよ!?」


 そんな魔法の才能にあふれる彼女が、たった一人の少年に魔法で押されている。


 しかもまだ、相手の方は余裕といった様子で。


「くっ、押されているか……!」


 市来は自身に追従する炎の剣で巧みに影を切り裂くが、影は全て復元され、再び市来に襲い掛かる。


「――暴発槍ブラストスティンガー!!」


 攻撃に縫い目を縫うように、市来もまた反撃に転ずる。


「うわっとぉ!?」


 炸裂する炎の槍が、九鬼原の頬をかすめてゆく。九鬼原のすぐ後ろで、火球が音を立てて破裂していく。


 教室はすでに半壊状態であった。そして誰もがこの二人の戦いに横やりをいれることができずにいる。


「千景!」


 不意にその名を市来から呼ばれ、担任の千景は呆けていた状態から目を覚ます。


「貴様の生徒が教室の外にいる! そいつらを引き連れて退避しろ!」


「えっ? あ、はいっ!」


 千景が外に出ると、確かにサラ達四人が先ほどの千景と同様に呆然とした状態で立っている、


「何をしているんだお前達は! 寮で待機と言われていただろうが!」


「っ、待てよ! あの死体はおかしいんだ!」


「おかしいも何もあるか! 九鬼原と長官との戦いを目の当たりにしただろ!」


 まだ何か言いたげなサラを引っ張りながら、千景はその場から退避を始める。


「おい、待てっつてんだろ! おい――」




「――どうやら、斑鳩さんも行ってしまったようだね」


 自らの影を纏わせ、九鬼原は残念そうにしながらも、笑っていた。


 邪魔者が居なくなったと言わんばかりに、笑っている。


「じゃあ、再開しようか」


「待て」


 市来は意外にも邪魔者がいなくなってからは戦闘を知る姿勢を見せずに、あろうことか九鬼原に話しかけ始めた。


「貴様、この死体に用があるといったな」


「そうだけど?」


「ということは、貴様がこの者を殺したということでもいいのか?」


 この殺人を犯した犯人の正体は九鬼原だということ市来は問うと、九鬼原は意外といった表情を浮かべたのちに、大声で笑い声を上げ始める。


「あはは、ははははははははは!!」


「っ、何が可笑しい?」


「だってさ、これ見てよ」


 九鬼原は指先の皮膚を噛み千切ると、血を滴らせて呪文を唱える。


「――血刀ブラッディメス


 指先から血でできたメスが現れ、死体となった志垣の身体を切り開いていく。


 すると――


「なっ――」


「これ、なんだか分かる?」


 腸の代わりに、綿が詰められている――


「馬鹿な――」


「これ禁呪。唯の人形に命を吹き込む魔法を使ったんだ。そしてその人となった形を、改めて殺した者がいる――」


「……捜査は振り出しに戻るな」


「戻る必要は無いよ」


 九鬼原は市来に気軽にそう話しかける。


「だって自分の死体を作る人って、それ相応に理由があるはずだからね」


「……何が言いたい」


「志垣って人が? 犯人? かもねー?」


「目的はなんだ……?」


「さあ? 本人に聞いてみたら分かるんじゃない?」




「――とにかく、お前達は職員室で説教だ!」


 千景は思わぬ出来事に対し苛立っていた。よりにもよって自分の生徒が外に出ていることに、危険に身をさらしていることに。


「それよりも聞いていただけませんか! サラさんが、あの事件について気がかりなことが――」


「魔法省が来た時点で、お前達生徒の出番は終わったんだ! 殺人犯が、この下層部をうろつきまわっているのかもしれないんだぞ!」


「それは分かって――」


「分かっているなら、大人しくついてきなさい!」


 千景は緊急に職員室のドアを開ける。


 千景の考えとして、職員室ならば実力のある教師陣いると殺人犯は考え、避けて行くと考えたからだ。


「……」


 誰もいない職員室の中に、千景は生徒を招き入れる。


 サラ達四人は千景の指示に従って教室内へと足を踏み入れる。


 全員が入った所で、千景は扉の鍵を閉める。


「ここの扉はカード式だ。早々に破られることは無い」


「その通りですよ千景先生」


「っ!? 誰だっ!? ……そんな、まさか――」


 オートマチックの職員室の扉は静かにスライドし、外との連絡を絶ち切った。

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