欺瞞と高慢
結局その日の昼まで、新一年生は安全確認の為、全員が寮内で待機となった。
しかし寮に帰ってもエドワードと九鬼原の姿は無く、氷坂達四人はそれを不審に思っていた。
「おかしいですね、あのお二方が見当たりません」
「確かにそうだな……」
「大方首でも突っ込んでんだろうよ……」
サラはそう言って寮の玄関扉に手を掛ける。
「どちらへ行くつもりですか?」
寮に待機だというのに出て行こうとするサラに対し、氷坂が声を掛ける。
「どこへいこうがてめぇには関係ねぇだろうが」
「関係あります。今私達は寮にて待機という指示を受けています。それを破る事が――」
「指示に黙って従うのがヴァレンタインのやり方か、情けねぇ」
「それはどういう意味ですか!」
氷坂は侮辱とも取れる言葉に対して、言葉を荒げて応待する。
「逆に聞かせていただきますが、貴方はどうして規則を守れないのですか!」
サラは規則という言葉に対して顔をしかめ、異常な反応を見せ始める。
「あぁ? 規則を守った結果、その規則から裏切られた存在がいるって事も、知っておくべきだぜ?」
ナイフを片手に、燃えさかる魔力をまとわりつかせる。氷坂にとってそれが威嚇行動とも、警告とも取れた。
「……どうやら、そこまでする理由があるようですね」
「ああ、そういうこった」
サラはそう言って一人で出て行こうとするが――
「待ってください。私もついて行きます」
「はぁ?」
「貴方がそこまでして出ていく理由を私も知りたいのです」
氷坂も出て行こうとすると、残った二人もまたそれについて行こうとする。
「正直、ココにいるのも退屈だ! わたしも連れて行け!」
「私も、ちょーっとだけ気になる事がありますのでー」
斑鳩もロザリィまでもがついて来る姿勢を見せると、サラは大きくため息をついて愚痴を言う。
「…好きにしろ。但しアタシは責任取らねぇからな」
サラ達が最初に向かったのは例の殺人現場と化した教室であった。サラが言うには、ひと月になる事があるらしい。
教室の近くの廊下まで来ると、四人は物陰に隠れて教室前の様子をうかがう。
「……やっぱり魔法省の奴らが大勢いるな」
「一体どうしたというのです?」
「……あの死体、変なところが多すぎる」
サラが言うには、あの死体からはあるものと似ているのだという。
そのあるものとは――
「――あれはおそらく人形だ」
「ええ!?」
氷坂が思わず驚きの声を挙げてしまい、あわててサラがその口を覆う。
「馬鹿! でけぇ声出すな!」
「……む?」
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない。解析を続けてくれ」
魔法省の中でも一人――市来だけが声のする方を素早く振り向く。
サラは息を殺して市来の目がこちらから移るのを待った。やはりあの女は他とは違う、別格の存在だとサラは考えた。
「……それにしても、あの女がいる限り死体には近づけないようだな……」
「ま、まさかあの死体をまたみなければいけないのか?」
ロザリィが気分を悪そうにしてサラに問うが、何を今更と言わんばかりにサラはその質問を無視した。
「ちっ、誰か囮でも来れば――」
「――そこにいるのは分かっているぞ!!」
市来の叫び声が、教室を過ぎて廊下にまで響き渡る。
「ちっ、やっぱあの女ただ者じゃなねぇな……」
サラは観念したかのように物陰から出て、教室の方へと向かおうとしたが、そこでどうやら市来が指す人物が自分たちではないことを知る。
「――どうしてばれちゃったかなー?」
誰もいないはずの影。その影が人の形を模して顕現される。
「九鬼原惣治郎だな」
サラは自分と市来との間に現れた少年の姿に驚きを隠せずにいた。
「て、てめぇは――」
「惣ちゃん!」
斑鳩はあわてた様子で九鬼原のすぐ近くまで駆け寄る。九鬼原はその様子を見てニコニコとしながらも残酷な言葉を投げつける。
「――誰? お前」
「えっ――」
――九鬼原が右手を振り上げるより前に、市来の魔法が九鬼原を襲う。
「――炎刃葬射!!」
「なっ――!?」
サラお得意の魔法が、市来によって扱われる。そしてそれは、サラが扱うものより連弩を高くしたもの。
「ぎゃああああぁ!?」
「……」
残酷にも九鬼原の右腕を切断し、炎の剣は市来の元へと戻りゆく。
「立て。今のが効いたとは言わせんぞ」
その冷たい声に、九鬼原は人形の様にケタケタと笑いだす。
「……そっかぁ、きみがエドワードの監視者って事かー」
九鬼原はすでに何かを察したようで、改めて戦闘態勢を取る。
「――僕はその死体に用があるだけなんだ、邪魔するのなら殺すよ」




