異常な衝動
「――それで、九鬼原君がまた問題を起こしたというワケかい?」
「そ、てかあれが人形じゃなかったら人殺しっしょ」
「うん、分かっていたんだよ。あれが人形だって」
外はすでに日が暮れており、学長が出張から帰ってくるまでエドワード達二人は学長室にて軟禁状態であった。
そして現在学長室にて出張から帰ってきたばかりでくたくたの学長を相手に得意げに話す九鬼原だが、周りにいた生徒会二人とエドワードは疑惑の目でしか見ておらず、学長もその反省のない姿を見てため息をついていた。
「全く、信じられないね。人形とはいえ擂輪縛撃で真っ二つにするとは、どうも今年の一年生は色々と目立った行動が多いようだね」
学長はエドワードの方に向いても言っている様であり、実際エドワードも調子づいて詠唱破棄の魔法をバンバン使っていたことに反省の色を見せていた。
「キミ達は実力があるのを鼻にかけて、弱い者いじめをしている様にしか思えないのだよ。言っておくけどこれ以上問題行動を起こすのであれば、退学処分も考えてあるからね」
「ちょっと待ってくださいよ! 僕のお父さんとっても怖いんだ、退学なんてなったらどんなお仕置きが来るか分からないよ!」
九鬼原は怯えるようにして頭を抑えるが、それが演技だと分かっているのか、学長はそんなこと関係ないと冷たく言い放つ。
「生徒会二人はご苦労だった。この後例の人形の制作ルートの特定を急いでくれ……それにしても、ドロイドを送り込むとは、一体誰の差し金だ……?」
ドロイドは元々人間側の技術でできたものであり、金属パーツを組み合わせて外見を人間そっくりにもしている代物だ。月陽学院に補助の魔導具を使った人間の生徒はいるものの、いずれも技術や科学と縁のない生徒ばかりである。
「――おいおい、生徒会は帰ってもいいといったが、キミ達二人はまだ帰ってはいけないよ」
生徒会に紛れるようにして、エドワードと九鬼原はきびすを返していたが既に学長にはばれていた。
「キミたち二人には大事な話がある」
「何さー? これから僕たちは女子寮侵入という大事な用事が――」
「ねぇだろうが」
エドワードは九鬼原の袖を引っ張って学長の前で立つと、学長は二人にソファに座るように言って、自分は二人分のコーヒーを注ぎに席を立つ。
「そこにかけていてくれ。コーヒーは嫌いかな?」
「あんな苦いものを飲める人の気がしれないよ」
「馬鹿! 学長が今から飲み物持ってきてくれるのにそんなこと言うなよ!」
「……ごめんね、ボクコーヒー好きなんだ」
明らかにこめかみに青筋が立っているが、学長は笑みを消さずにポットに手を伸ばす。
「……はい、どうぞ」
「すいません、こいつひねくれ者で――」
「使えないなあ、角砂糖を用意してくれよ」
「こっちにあるから好きなだけ入れるといいよ……」
学長が二人の前に腰かけると、コーヒーを手に取り話を始める。
「……二人とも」
「ん?」
「はい」
「衝動は抑えきれているかい?」
エドワードはやはりそれかという表情をするのに対し、九鬼原は砂糖ビンに伸ばしていた手が止まっており顔の表情も固まっている。
「……まあエドワード君の方は大丈夫なようだけど、九鬼原君、キミは――」
「うぜぇ。少しは黙れよクソアマ」
九鬼原は先ほどまでのひょうひょうとした雰囲気を消して、殺気全開でまるで別人の雰囲気を醸し出している。
「それがキミ本来の性格かい?」
「ちったぁ口を慎めよアバズレ。俺のドコが制御できていねぇんだ言ってみろよ、アァ? 言い切れねぇよなあだって僕はなんにもおかしくないもの。ねえ?」
殺気は最後まで維持されずに、最期の方はいつものひょうひょうとした九鬼原に戻っている。
「全然制御できていないじゃん。そんなボロボロの人格でよく今まで生きて行けたね」
学長は九鬼原の殺意に一切怯むことも無く、制御できていない様子を見て想定内といった表情を浮かべている。
「キミ達二人の共通点は魔導書を読んだことによる衝動を抱えているということ。そして今から話すことは、その衝動についてのお話なんだ」
九鬼原はまたも浮かべる表情をおかしくするもすぐにまた飄々とした顔つきへと戻り、学長の話をニコニコとした表情になって耳を傾けた。
「今から話すことは他言してはいけないよ。そもそも衝動に駆られている時点で、本来なら魔法省の管轄下で一生を過ごさないといけないレベルだからね」
「ちょっと話をする前に質問いいですか?」
エドワードは右手を小さくあげて質問の許可を得る。
「そもそも俺達はどうしてこの学校に入学させられたんだ。俺は学長の言う通り魔法省の管轄下で過ごしてきた。九鬼原がどうかは知らねぇが少なくとも俺はそれで不便も無く過ごしてきた。なのにどうして今回、高校側としてはお荷物になりかねない俺達を入学させたんだ?」
学長はそれを聞いてすぐに答えを返すようなことはしなかった。九鬼原もそれを茶化すことも無く黙ったままである。しばらくして学長が何か決め事をしたかのように息を吐いて、二人の目を見て話しを始める。
「九鬼原君は確かとある施設で過ごしていたよね?」
「ああ、あの豚小屋ね。マジで毎日が苦痛でしかなくて、あの生活が恋しいよ」
「衝動のせいでだいぶ歪んだ思考回路になっているようだけど、その豚小屋では毎日が苦痛だったんだろう? そしてエドワード君、キミの話も聞いているが魔法省の使いっ走りとは可哀そうなことだ」
「……それは訂正してもらいましょうか」
エドワードの左目が疼き始める。それは間違いだと否定を始める。
「違わないね。実質キミは仕事以外で外に自由に出られたかい? 外で自由に同年代の子と話ができたかい? 僕はそんなキミの気持ちが分かるんだよ」
確かにできていない。同年代の人など遠目に見るだけで接したことも、ましてや半日一緒に過ごしたことも無い。
家でもそうだった。衝動が出てきた時から部屋に軟禁され、常に部屋にて一人魔法札で遊んでいるだけ。
それでも苦痛とは感じなかった。それが普通だと、衝動を持ってしまったものにとっての普通と感じていたからだ。
「あんたに何が分かるんだよ……俺の何を分かっているんだよ、衝動の何を知っているんだよ!!」
エドワードの左目は開き、魔法陣でできた瞳が学長を捉えている。
「衝動は収まらねえ。敵対者は殺す! それの何がおかしいんだよ!」
「衝動は抑えられるよ。それはもう、無いもの同然に」
学長が放った言葉は、九鬼原の耳にもエドワードの耳にも心地の良いものとなって届いた。
「えっ!? 衝動が抑えられるの!? どういうことなの、早く教えてよ! 僕もう頭がおかしくなってしまうよ!!」
「……ハッタリだそんなもの。衝動の制御は封印術式によるものでしか成り立たねえ。それに封印術式を使ってしまえば、解除したときの反動は凄まじいものだ」
「それは一般の封印術式。僕の考えるものとは違う」
学長はにっこりと笑って二人にある提案をする。
「どうだい? 普通の高校生に、戻りたくはないかい?」




